「え、えへへぇ……先輩、来てくれたんですね」
そりゃあまあ、とあなたは返します。
だいたい春の前ごろ、夏とは言えない季節帯。ふたりが付き合い始めて9か月くらい──世の中では倦怠期とかなんとか言われてるときでも、もとから友達付き合いの延長線みたいな恋人関係のあなたたちは、喧嘩やいわゆる”冷め”みたいな、たいした障害もなしにここまで来れました。
……いえ、おたがい「こいつ逃したら他に恋人になるようなもの好きいねー」みたいな、ちょっとダメな気持ちがなかったわけではありませんが。えてして結果は過程に先行するものですから、ここで重要なのはあなたがたが一年間恋人だったことです。どうだったと聞いてみれば、目の前の女の子は「けっこう楽しかったです。えへへぇ……」と返すことでしょう。
そう、あなたがたはお互い根暗の極みなのです。陰キャです。教室の後ろから二番真ん中から左に一列ズレたみたいなところにいる、誰とも喋らないガチの陰キャなのです。
それで、とあなたはさっきの返答に続けました。それで、なんで呼んだの? と。
時間はゆうに11時を超えています。しかも、これが互いの家だったならドラマティックな逢瀬になっていたでしょう。外のコンビニだったならふいに駄弁りたくなったとだけいえるでしょう。ところが、
「ごめんなさい、わざわざ学校まで来てもらってぇ……」
──ところが、彼女が呼んだのは学校だったのです。しかも教室まで指定してきました。……ここはあなたが普段座っている席です。
結構めんどくさかったぞとあなたは思いますが、それは向こうも同じでしょう。互いに学校の距離は徒歩15分ていどかかります。通る信号の数も同じくらいなものですから、かかった気苦労も、また。
「ええっと、えっとえっと、……わたしたちって、キスくらいまではしたじゃないですかあ」
見えてこない話に、あなたは首をひねります。
まあ、その通りです。
付き合って二か月くらいで手をつなぎ、+一週間で腕を組み、+三週間で抱きしめあってみて、そこから四か月と二週間後、初めての膝枕といっしょにファーストキスを拝領しました。その先はどう、と言われてみれば、もちろんあなた方はクソ童貞と処女なものですから、しているわけもありません。
「このままだと、先輩が私に手を出すころにはもう受験期だなあ、って……関係進めたいなーって……」
確かにそうだけどとあなたは思いました。
もう時期はすでに高校三年生の六月。そろそろ部活も終えて(そもそもあなたと後輩ちゃんの部活は外から見れば本当に活動しているかあやしい文芸部ですので、別にいつ終わっても構わないのですが)志望大学を固め、将来に向けて進まなければいけないとき。初めての彼女にかける時間はもちろん短くなりますし、『手を出す』──なんて、夢のまた夢でしょう。
やはり、話は見えてきません。
手を出してほしいと言うのなら、次の土曜日か日曜日にでも予定を入れ、なんやかんやと家に連れ込んで無理やり誘うほうが説明がつきます。あなたも満更ではないでしょう。
「違いますっ! 私が誘うんじゃなくて先輩から手を出すのが肝……っじゃなくて。いやそうなんですけどぉ」
後輩ちゃんは言いにくそうにもじもじし始めます。
そこであなたはようやく、後輩ちゃんの格好に気が付きました。
ふだんの彼女はもちろん制服を着ています。デートの時は縦セタ(黒)、ズボン(黒)、メガネ(黒)。一回だけビデオ通話してみたころには、恥ずかしがりながらピンク生地にくまちゃんがたくさん書かれたパジャマ姿を披露してくれました。
ところが、今日はどうでしょう。
厚手のトレンチコートです。
もちろん外は寒くありません。超暑がりな人たちによれば涼しいくらいなんでしょうが、それでも寒いというわけではない。厚くないんでしょうか。
あと、やけにぶかっとしています。首元から膝くらいまですっぽり覆うサイズになっていて、いえそこそのものはおかしくないのですが、やけに袖が長い。あなたの記憶によるところでは、彼女は萌え袖とかしないタイプです。
あと、どうやらそのほかも怪しい。
まず靴下をはいていないように思えます。膝から下、靴まで、彼女の肌がまるまる露出している。丸見えのくるぶしがちょっと寒そうです。
いえ、風呂上がりに靴下を履かない一派がいることはとうぜん知見の内でした(しあなたもそうです)が、一応は外に出ているのだから履いたほうがいいんじゃないかと思うのはあなたの老婆心ではないはず。
そして何より、彼女の双丘に問題がありました。
「気づきました? あ、やっぱ……見ちゃいますよね、ココ……」
彼女はぶかぶかの袖からなんとか人差し指だけ取り出して、自分の胸元をつんとたたきます。
そりゃあまあ、と思わざるを得ません。口に出すのは気恥ずかしくて無言で視線を逸らすと、彼女は「わかってますよぉ。でっかい顔してみてもいいのにぃ」と柔らかく目を細めました。
もともと彼女の胸は規格外のサイズを誇ります。制服→うおでっか、体操服→うおでっか、もちろん私服→うおでっか。水着? 言うまでもありません。すべてにおいて息を呑むサイズです。毎日隣にいたあなたもそうやって息を呑んでいた一人ですし、息を呑んでいる一人です。もちろんその視線には彼女も気づいていて、むしろ積極的にアピールしていたフシさえありました。
それが、後輩ちゃん胸マイスターのあなたの目には、どうやら今日の様子はおかしいと映った。
まず柔らかみがあります。いえ、そのふくらみは普段から「柔らかみがある」と形容するに十分ですが、今日のそれは違います。見たことのない柔らかみ。普段がかりんという饅頭というかいちご大福というか──要するに
「じっじじ、実は今日ですね、……えっと」
あなたが真実にたどり着く直前、後輩ちゃんはボタンに指をかけました。どうしてか、その動き一つ一つが艶めかしくて、目を奪われてしまいます。
まず彼女は、一番上のボタンをはずしました。その谷間が現れます──このとき、あなたは谷間とは思ったよりも谷間ではないことを知りました。あばらというか、胸の間にある「胸でない部分」がはっきり見えています。普段は中にスイカでも詰めてるんじゃないかと思う彼女ですから、世の女性はたいがいそうなのでしょう。
「あっ……せんぱい、すっかり釘付け……っですね……」
つぎに、彼女は一番下のボタンをはずしました。
素晴らしい。ここまでまだ、彼女がコートの下に何か来ているかもしれないという可能性を残しています。はずれたコートの裾に浮かんだ影が、彼女の持つこれまた男受けしそうなぶっとい太ももにかかりました。内また気味なせいかぴっちりとしまった一本筋が、ぎりぎり局部にはかかっていません。
「そんなにみられると、恥ずかしいなあ、って……」
さいごに彼女は、まんなかのボタンに指をかけました。
世界がスローになっていきます。布が外れる一瞬の出来事であるはずが、どうしてか永遠に思えて仕方ありません。もはや視線を外すという選択肢はなく、彼女の丸く整えられた爪がやけにはっきりと見えました。
そして、はらりと落ちた。
「
あなたの心は、なんでそんなことを、と不思議に思う気持ちと、えっちだ、という気持ちの二つに割れました。
最低限の白さをした肌には、やはりスイカやメロンと比べたくなるふくらみが二つ乗っています。その先端には桜色の突起がふたつ浮かんでおり、やはり、恐ろしくなまめかしい。彼女は大慌てで隠そうとしますが、腕でつぶされたおっぱいがぎゅむ♡と音を立てているようで、隠してるほうがえっちだという感想にしかなりません。
そしてその、股ぐらのほうも、似たようなありさまでした。
いわゆるパイパンというものでしょうか。男のそれとはまったく違う方向のふくらみ、ひいてはその鼠径部に、あなたの心は高鳴ります。
あなたは昔、性行為を知らない動物はどうやって繁殖したんだろうと考えていました。
男性器に女性器を突っ込むなんて、人生ゲームのバグ技です。ハナから知識として取り入れておかないと、こんな技見つけようもないでしょう。動物は親の行為を盗み見たりして受け継がれていくのでしょうが、じゃあその親はどうしたのでしょう。その親は? 結局最初の動物はどうやって性行為の存在を知ったのでしょうか? と。
しかし、今のあなたに言わせればそんな話なんて一蹴できます。
術理や理詰めでなく、──そう、『心』で理解したあなたなら。
あなたの男性器は痛いほど張りつめています。目の前のあのふくらみに突っ込めと、本能がささやいている──いえ、ささやくなど生易しい言葉ではありません。もはや叫んでいます。デスメタルもかくやとばかりに。
しかしまあ、これだけでは彼女の魅力を八分ほどしか言えていないといっても過言ではないでしょう。
あなたが目を引いたのは、これら二種だけではありませんでした。そう、彼女が手で隠せなかったのこり一つ。胸と股と、その間にあるひとつ──そう、へその部分です。
もちろんあなた方は運動なんて好き好んでしませんから、線などひかれているわけもありません。なぜかぽっこり♡としたおなかの真ん中には、乳首を逆方向にねじ込んだようなシンボルが浮かんでいます。なぜでしょうか。男にもある部分なのに、いやに引き込まれてしまう。これがなければ彼女とは言えないだろうほどに。
「えっと……先輩が手を出しづらいのって、やっぱり、……『おたがいの裸を見慣れていないから』だと思うんです」
「だからこうして、裸くらいは見慣れておけばとっとと手を出してくれるかな、って……♡」
だからといって野外でするのはリスクでしかなくないかと、あなたは暗に言いました。「……その、いっかいやってみたかったんです。露出……♡♡」なんと。あなたは隣にいながら、彼女の異常性についてまるで気が付きませんでした。
「だだっ、だから、これからこの格好で家に帰りますっ。定期的にやって、先輩が私の裸を見慣れたなって思うまでやりますから、覚悟しといてくださいねぇ……♡」
なんと。あなたはとんでもない遊びに付き合わされることになってしまいました。「あっやばい、これこれ、先輩にこれ渡さなくちゃ」──あなたはコートから二つのものを渡されました。
ひとつは首輪とリードです。レザー製で、両方真っ黒。
まさか、つけろというんでしょうか。ちょっとハードルが高いと丁重にお断りしたあなたは、返す気にもなれなくて自分のポケットにしまい込みます。
もうひとつ、後輩に「この遊び中はぜ~~~~ったいしまわないでください」と念押しされたもの。ピンク色で、先端にはダイアルがついています。
18歳にはなっていませんが、その方向には大人顔負けの知識を持っているあなた。これはいわゆるローターのリモコンである、と一目でわかりました。どこに入っているのかは、いまさら語るべくもないでしょうが。
「え? 見られるかもしれないのはイヤって? まあ、確かにそうですけど」
まあ、そのために──後輩ちゃんはひとさし指立てて、口に当てました。
「そのために、『帰り道』に設定したんですから。ここまで来るの恥ずかしかったです」
えへへぇといつもの笑い声をあげながら、あなたの足元にすそそそそと近寄ります。ふわりと胸が揺れました。
なるほど、とあなたは思いました。
この状態で散歩に行こうと誘えば、良識のあるあなたは間違いなく断るに違いありません。ところがそれがもし『帰り道』オンリーだったのならどうでしょう。一人より二人。もし野ばらのオッサンに見つかったとして、あなたがいればぐちゃぐちゃれーぷになる確率もぐんと下がります。あなたはこの遊びに付き合わねばいけなくなる。
つまり、恋人の連絡を受けて学校に来た時点で死。恋人の連絡を受けずに家にいっぱなしだったなら、彼女が自分のあずかり知らないところでレイプされて死。
こんな秘策を思いついた彼女のひとりがちです。
仕方がありません。あなたはその遊びに付き合うことにしました。
「やったぁ」
きみのせいなんだけどね。あなたはちょっと腹が立ちました。
「じゃ、じゃ、帰りましょ、せんぱあい」
さて。
そう決まれば、とっとと家に帰らなければいけません。彼女はもう裸になって、コートを着なおさせようとすれば「やですっ」と突き返してくる始末。あなたは困り果ててしまいました──いくら夜とはいえ、ここから帰ろうとすれば人目の一つくらいはあるでしょう。できるだけ人目のつかないルートを選ぶ必要があります。
「んふふ」
そんなあなたの気苦労を知ってか知らずか、彼女は元気そうにぴょんと飛び跳ねる始末。自由になった双丘がともに揺れるものですから、目の合わせようもありません。
行こ~~とあなたよりもはるかに気楽な様子で、彼女は通学路を引き返し始めました。
危機です。
これは危機。
あなたと彼女の通学路はほぼ同じですから、ルートがわからないというわけではありません。むしろルートが痛いほどよくわかります。ここから進めば、ここから進んでしまえば──
「せんぱいっ! コンビニコンビニ!」
建物がいっぱいあるのです。
通学路とは当然、社会の異常分子からあなたがた未来ある若者を守る道にあるもの。主要な幹線を中心に、誰もが知るメジャーな施設が立ち並んでいます。ですがこの場合の異常分子とは他ならないあなたがた。普段通りに守ってもらえるはずもありません。あなたは運動不足気味な足を無理やりにでも動かし、彼女の横に並んでその動きを制します。
「……え? でもぉ、道はこっちですよお」
わかっていないのでしょうか? 無言のまま固まるあなたに何かまずいことをしたのかと感じ取った後輩ちゃんは、
「喉乾いてきちゃったなあ。コンビニいきましょーよせんぱい~」
前言撤回。何も感じ取っていなかった様子です。
なぜか断れそうになかったあなた。近づいて街頭の光が体を照らしていくほどに、「これマズイよな」という気持ちが膨れ上がってきました。こうなっては仕方ありません。無理やりトレンチコートを彼女に着せたところで「せんぱーい、ドリンク買ってきてくださいよ」とかなんとか言われました。
もちろん、言い返します。この状態がいかに異質であるのか、危険であるのか、自分のブレーキを外す方法ならもうちょっとあるから。あなたにとって大事な彼女ですから、説得にかける労力もゼロに等しいというもの。まだ未成年なのに、履歴書に公共わいせつ物陳列罪とでかでか書かせるわけにはいきません。
「んー……でも喉乾いたしなー……」
そうだ! ちょっとだけ考えたあと、彼女はトレンチコートを自ら羽織ってボタンまで閉めました。ほぉと驚くあなたをよそに、彼女は懐からスマホを取り出します。
「わたしはこの格好で待ってるので、せんぱい、飲み物買ってきてくださいよお」
あとでお代は払いますし、どちらにせよトレンチコート姿じゃ買いに行かせられないでしょ。至極まっとうな意見だとあなたは思いかけましたが、よく考えてみれば元凶はすべて彼女です。まあこうなってしまった以上は仕方ありませんから、あなたはほどなくして買いに行くことに決めたのでした。
「……くひひ♡」
意味深に笑っていたような気がしたことには、まるきり気が付かないまま。
終わりそうになかったから連載で出します。四話くらいで終わると思う。……終わって?
長すぎてダレがひどいことになってないか心配なので、そこどうなんだろうか。聞きたい。R18創作友がほしい。