忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
難航した結婚式の打ち合わせの他、オーウェルに関する論功行賞を終え、ようやくロンダルディア王国へと戻ってきた。
ガガーヤカム・ダンジョンで浄化を行ってから2ヶ月くらいかしら。
いい加減に帰る!と強く言って今回の運びになったわ。
シェラは大丈夫かしら?
「フェリシア様! 遅れてますよ。スピード落としますか?」
先頭を走るレイハスさんが振り返ってる。
「ううん! 大丈夫!」
グラハスの森は精霊守りたちとお話しながらのんびり歩いてきたけど、そのあとは落ちた体力を戻すためにもランニングを続けているわ。
テラニード国内の移動は全て馬車だったしね。
風が気持ちいい。
出国したときはまだ冬だったのに、もう初夏。
冬小麦の収穫であたりは少しいがらっぽいけれど、金色の穂が揺れて美しい時期でもある。
農家たちのほがらかな表情から豊作でもあるみたい。喜ばしいことね。
王都の外門で身分証を確認してもらい、ダルディッシャム王太后さまのお屋敷へ。
事前に風精を遣わせていたから、滞りなく2階の応接室に案内されたわ。
応接室には王太后さまとジーナさまのみで、案内してくれた侍女さんも部屋には入ってこなかった。
「よく戻りました。ラウラ様、フォーレ様、それにフェリシア、レイハス、セリスもご苦労だった。…それでマグ様とリー様はどのような待遇をお望みでしょう?」
ラウラへ敬称をつけたのに、私には付けなかったから、足下の二人に青筋が立ったのが感じられた。
リーとマグを連れてきてるって分かってるのに、敢えてケンカ吹っかけてきたわね・・・。王太后さまはどういうつもりなの?
私の足元にいるのは、ぱっと見は2匹の動物で、1匹は白猫のリー。そしてもう1匹は白黒の牧羊犬に扮しているマグよ。なおヤーグはシスティナから要望があって置いてきたわ。鍛えるとかなんとか。
レイハスさんの定期報告の内容には、ペットが増えて連れて帰る旨の連絡しかしてないと聞いたのだけれど、バレているなら話は早いわ。
マグやリーが検問でいちいち引っかかるのが面倒だっただけで、どうせ顔合わせするつもりだったから、二人はすぐに人型を取った。
マグが仕切るという話だったのに、リーが王太后さまに食ってかかっちゃったわ。
「ダルディッシャム、フェリ様を呼び捨てにせず尊称を付けなさい」
「リー、いいって」
リーの服の裾をくいくいと引っ張る。
「しかしフェリ様・・・」
私たちのやりとりを見て、にんまりと笑む王太后さま。
「どうぞ皆さんおかけください。フェリシアがあなた様の主、ということですね?」
隠すつもりはなかったというか、帰路の間、セリスが言ったのよね。
動物の姿を取ってても精霊人だって分かるからねって。
会ったことがある王太后陛下なら一目で看破するって。
王太后さまにバレないように二人に言わなかったのに、道化もいいところじゃない?
「どうせいつかバレるでしょうし、最初からでいいのではありませんか?」
テラニード王国の守護者マグの主であることは、同行されている時点で隠しようがないものね。
「その通りです。フェリ様への侮辱は我々への侮辱と受け取ります」
リー!
リーってば!
侮辱されてないから!
普通だから!
「どうぞおかけください」
レイハスさんがリーの椅子を引いてくれて、これ幸いと座らせた。
なお私の椅子はラウラが引いてくれたわ。
セリスは壁際に用意されてるお茶の準備に取りかかってる。
フォーレはこの微妙な空気を読みもせず、「ジーナ!」と嬉しげに駆け寄って行ってしまったわ。
全然構わないけれどね。
「フォーレさま!お待ちしておりました!お帰りなさいませ」
ジーナさま、本当にフォーレが好きよね。好きが溢れる笑顔で抱き止めてくださった。
「フォーレさま、どうぞわたくしのお膝に」
「うん♡」
にこにこ顔で膝抱っこされてるわ。
ふたりを見てるとほわほわするわね。
「リー、本当にいいからね? 私は平民なのだから。ここにいること自体が本当はおかしいのよ」
「フェリシアの認識の通りです。あなた様方の主だとしても、私からすれば我が臣民の一人に過ぎません。それとも尊称をつけなければならないようなことがあったのでしょうか?」
王太后さま、勘が鋭い。
開示するのは主のみ。神の一柱になったことは伏せようと打ち合わせている。
リーも気炎を納めて「もう結構です」と口を閉ざしてしまった。
テラニード王国では、マグとリーに倣って私を様付けして話しかけてくる貴族がほとんどだったからね。
常駐してないロンダルディア王国で彼らの威光が弱まるのは当然のことだし、私は様付けされる方が座りが悪いわ。
マグ早く仕切ってくれないかしら。ちら、と視線を送ると、マグが話を切り出してくれた。
「ダルディッシャム、ジーナ、久しいな。このたびはフェリシア様をテラニード王国に遣わせてくれたこと感謝申し上げる。我々はしばらく貴国に滞在する予定だ」
「承知しました。よければ宿泊施設はこちらで手配致しますが?」
セリスがお茶を配ってくれ、マグは片手で香りを楽しみながら、にんまりと笑った。
「不要だ。フェリシア様の宅で過ごす故な」
王太后さまもジーナさまも目を瞠ってる。
どうかしたかな?
マグに釣られたように王太后さまも破顔された。畏まってない、いつも私に対するような明け透けな笑顔。
「マグ様もそのようなお顔をされるのですね。まるで十代の若者のようです」
「無論だ。我も常に仏頂面をしているわけではない」
このセリフすら頬が緩んでいて、私からすればこっちの方が平常だけれど。
「滞在の手配は不要だが、いくつか話を通しておきたい事がある。我々が今回貴国に来たのは忌み子の捕獲と、愛し子の保護のためだ。カイエルが婿入りしたが効果はまだ限定的だ。これを一気に解決する。保護した愛し子はそちらに任せよう。ただし忌み子の処置については一旦こちらに任せてもらいたい」
「こちらとしても断る理由はありません。我々としても専門の部隊を用意していますし、協力も惜しみません。ただ…」
王太后さまはワントーン声を落として難しい顔をした。
「忌み子を捕獲と仰られましたがお間違いないございませんか?」
視線もマグから私へと向けてくる。
気持ちはわかるわ。
愛し子は一度忌み子に落ちると、二度と戻れないのが通例だから。長年テラニード王国を守護していたマグをもってしてもそう。
何かイレギュラーなことがあり得るとすれば、私と考えるでしょうね。
でも私にもまだわからないの。
前世において、私も愛し子へと戻せた試しはない。瘴気を振り撒かないように一生監視するしかなかった。それを変えることができるのか。
どう回答しようかと逡巡していると、マグが答えてくれた。
「捕獲で間違いない。今までは殺すしか術がなかったが、今後は別の手段が取れないか調査、検証したい。その結果やはり殺すしかないことになるやもしれんがな」
「承知しました。調査の結果は我々にも開示していただけるのでしょうか?」
「今のところはまだなんとも言えんな。然るべきときに、然るべき対応をする。貴国に損害を与えることはない、とだけ約束しよう」
「わかりました。それで手を打ちましょう」
その他の細々したことを打ち合わせて、今日は終了。疲れたわ…。
みんな、お家に帰りましょう!
ダルが頬をなでなでしてくれても、気分は上向かない。
「分かっていたであろう? 別邸を用意したとしても、彼の方たちが同居を許すわけがないと」
フェリシアが彼の方々の主人なのは、こっそり護衛につけた者たちからの報告や、テラニード王国の貴族たちからの情報からも判じられた。
今日もラウラ様とリー様に挟まれ、外交はマグ様。直接会話することもほぼ叶わなかった。フォーレ様との再会は至高のひとときでしたが。
「フェリシアは印象が変わりましたね。レイハスの報告で誘拐されたとあり、たまに取り乱すことはあるとありましたが、落ち着いた印象でした」
「そうだな。だが、女になった。出立前までは子どもだったのに、男児でなくとも刮目しなければならんようだ。我が国の滞在は事案が解決するまでとのことだが、終わればフェリシアもテラニードに連れ戻るとはな。このまま我が国に常駐してくれると考えていたのに当てが外れたな」
「まあ。フェリシアもラウラ様も手には入らならないと仰っておいででしたでしょう?」
「そうだが、早ければ数ヶ月で出て行ってしまうぞ? 精霊人3人がかりとはな…」
ダルが眼鏡を外し目頭をもみほぐし始めた。
「肩をお揉みしますわ」
ダルの背後に回って肩に手を置く。
ダルは剣を取って戦う女王だけあって、肩幅はひろく骨もがっしりしている。
剣の稽古でもすればこの凝り固まった肩の肉も柔らぎそうなものだけれど、事務仕事が多くてそれどころではない。
「わざと忌み子を用意できるわけもございませんし…」
貴族派によって冷遇されている愛し子を早急に保護できるのは素晴らしいことですが、フォーレ様との逢瀬が減ってしまうのは心から哀しい。
「テラニード王国に拠点に加えて、こちらにも構えてくださればいいのに」
「なるほど。二拠点生活。悪くない案だ。王領の一角を与えてもよいしな。カイエルも賛成するだろう」
こうしてフェリシアは王都近郊の土地を下賜されることになる。