忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
とうとう100話なのですが、何でもない通常回です。。
本来ならそろそろ終わってるはずなのですが、なかなか上手くいかずです。
ただそれほど遠くなく終わる予定ですので、最後までお付き合い頂けますと幸甚です♡
翌朝、ラウとフォーレ、マグを見送った。
久しぶりの別行動でさみしい。
加護はこれでもかとかけたわ。
みんな怪我なく帰ってきて欲しい。
私の方は、王太后さまとの特訓は、今週は旅の疲れもあるだろうからってお休みになったの。
来週からは通常通り午前中に行う予定。
記憶を思い出したのだから王太后さまから教えてもらわなくてもいいのでは? とリーから言われたのだけど、自堕落な生活になりそうだったし。
予定がないとテラニード王国で過ごしたみたいに午後起床になってしまうわ。
みんな私に甘いんだもの。
さて、今日の午後はリーを伴ってシェラとの面会よ。
いつも茶屋で会っていたのに、リーに事情を話したら「狼の住まいに乗り込みましょう」と言い出した。
「フェリ様を見下さないのは当然ですが、ラウラは精霊人ですよ? それも生粋のロンダルディア人ならまだしも、テラニード人ですよ? 婿入りしたカイエルに随伴入国したロネスティ家のぼんぼんが気が付かないなど、許し難いですね」
だそう。
イルヴァングさまの生家はロネスティ家か。家名までは確認しなかったような? 聞いたような?
たぶん、薄々気がついていたと思うわよ? 確証が持てなかっただけで。だから早々に陛下に拝謁したのだし。
「ラウラにはしっかりしてもらわないと困ります。フェリ様の伴侶なのですからね」
「…うん」
だいぶ慣れたはずだし自分でもそう思ってるけど、他の人からいわれるのは、まだ少し恥ずかしいわね///////
そして向かったイルヴァング邸。
「精霊人のリーです。フェリシア様の守護をしております。これまでは外交はマグに任せていましたが、これからは私も表に立ちますので、見知りおくように」
玄関ホールで執事のスペイタスさん相手に口火を切った。
スペイタスさんを筆頭に、隣に立つ孫のサティーヌさんも表情に変わるところもない。事前に知ってたみたいね。
「本日は主人が不在にしており申し訳ございません。リー様のことはテラニード王国の本家からの通達もございまして承知しておりました。主様が見つかりましたこと、心よりお慶び申し上げます」
「ありがとう。シェラロッテはどちらに?」
ぱっと孫のサティーヌが一歩踏み出してきた。
「お嬢様は本日体調を崩しておりまして、自室にてお休み中でございます」
そうよね。最初1ヶ月の旅程だったのに2ヶ月だし、シェラとは同化が済んでなかったし。
「症状は?」
私の質問にもかしこまって答えてくる。
「発熱が少しございます」
「案内してもらえますか?」
「こちらでございます」
シェラの部屋は2階で、案内されたのは寝室。流石の調度品で天蓋付きのベッド。
「フェリシア!」
入室してすぐに寝台に体を起こしたシェラが歓喜の声を上げた。
サティーヌが微熱と言っていたとおり、それほど具合は悪くなさそう。
「ごめんね、帰ってくるのが遅くなって」
「待ってた〜。フェリシア! はやく、ここ!」
ベッド脇をぽんぽんと指定してくる。
手を繋いであげて、指定された場所に腰掛けた。
「うう、これこれ〜。血も飲みたい!」
シェラの顔がゆるんで溶けそうになってる。
「紅茶でいい?」
カップに垂らしてでいいか聞いたのだけれど、ぷくっと頬を膨らませてしまった。
「どうして意地悪言うの? リー様の所為?」
シェラにもリーのことは事前に知らせていたみたい。ラウラの時のような轍は踏まない、ということね。
私たちから少し距離をおいて控えているリーに確認するように視線を向けてるけど、違うわ。
「リーの所為じゃないわ。私がそうしたかったの」
「抱きついてるわけじゃないし、いいじゃない。ずっと我慢してたんだよ?!」
そう言われると…。
遠征前はそうやってあげてたしね。
「えーと、他人の指舐めるのイヤじゃないの?」
改めて確認してみたけど「嫌なわけない!!」と力一杯否定されたわ…。
……嫌じゃない、かぁ。
以前と何も変わったことはしていない。
隠しナイフで人差し指を傷つけて、シェラの口にいれるだけなのに、抵抗感があるのはどうしてかしら?
指にねっとりと舌が絡みつき、他人の唾液が付着すると、それはますます増した。
以前は子猫や子犬に指先をぺろぺろされたみたいにしか感じなかったのに?
自分でも感覚の違いに戸惑って、それが何に起因しているかわからないまま、嫌悪感が背中を這い上ってくる。
わからないけど、他人の…シェラの粘液が気持ち悪い。
口内に含まれてるのが嫌だ。
ちゅぱちゅぱ吸われて、もうちょっとの辛抱だと我慢していると、突然上の奥歯と下の奥歯に挟まれて、指を噛まれた。
光景がフラッシュバックする。
オーウェルの口元がにんまりと歪んだのが。
噛み砕かれたのに、あまりにも軽い音が耳を打つ。
食い千切られて、嚥下される。
心臓がきゅ、と縮み、きたる痛みに身構える。
咄嗟に神力も発現した。薄緑色が体を覆う。
「申し訳ありませんが。フェリ様が許しても、私がこれ以上許せません」
気がつくと、リーが私の手を取り、指を引き抜いていた。
シェラは呆然としてるけど、私もびっくりしてる。
だから嫌だったのね…。
「急になに? フェリシアがいいって言ったのよ? まだ飲み足りないから、そっちで待っててよ」
目線で壁際を指すシェラにリーは一歩も引かない。
「ですから先ほども申し上げた通り、フェリ様が許可したのだとしても、私が見るに耐えないと言っています」
「はぁ? フェリシアが主なんでしょう? 主の意向に従うのが下の務めじゃないの?」
「残念ながら人間の主従関係とは違います。フェリ様は精霊人の主なのですから、一挙手一投足に気をつけていただかねばかなりません。フェリ様も宜しいですね?」
「うん」
「ええー!!」
シェラが不満を漏らしているけれど、私は心から安堵した。
《ごめんね、泥を被せちゃって》
許可した私からでは断り辛いだろうと、リーの一存ということにしてくれた。
《こんなもの泥とも言えませんよ。なんとも思っておりません。それよりも初動が遅れてしまって申し訳ございません》
《ううん、こっちこそごめんなさい》
自分で自分が分かってなかった。
心話って便利ね。
こうして内緒話もできちゃうわ。
《このまま退席しますか? 心拍が上昇しています》
脇汗かいて、どきどきしているけど、これはシェラの所為じゃない。
《ううん。もう少しいるわ》
「ごめんね、シェラ。カップに垂らすから」
「フェリシアがそういうなら仕方ないなぁ。手は繋いでてくれる?」
「ええ」
遠征時の話をしながら、私はシェラの魂を見つめた。
帰宅後、リーと夕食を作ってみんなの帰りを待つことにした。
ベッドで横になっていては? と進言されたけど、何かしていた方が気が紛れるから。
皮さえ剥いてくれたら、小さく切ることはできるのよ。
野菜を洗って竈に火を入れながら、なんでもないようにリーが尋ねてくれた。
「シェラロッテの魂はどうでしたか? ジーン様と融合されていましたか?」
青狼が私の近くに転生してしまう事象について、考察した一つの案。
ジーンの死に際に魂が少し混ざってしまったのではないか?と考えたの。
「残念ながら混ざってはいなかったわ。魂と火炎の精霊術で融合はさすがに飛躍しすぎてたかも。また考え直しね」
「急ぐ必要もございませんし、ゆっくり参りましょう」
「ええ」
何も分からないことも想定のひとつ。神力の使い方を試してるうちに解決策が見つかるかもしれないし。
カットしたにんじんをボールに入れていると、ラウとマグが王都に戻ってきたのを感じた。
嬉しくても心話で急に話しかけるのはなしにしてる。何か集中してる時だとびっくりしちゃうからね。
今は作戦実行中で、愛し子も連れ帰ってきてるだろうし。
自重しているとラウから連絡が入った。
《フェリ、王都ついたよ。今家でしょ? こっちはカトレア隊に愛し子預けたら帰るから待ってて》
《うん。シチュー作って待ってる》
《シェラロッテのこと、あとで聞かせてね》
《私の方も愛し子のこと聞きたい。あとでね》
近くにいなくても会話できるの、すごい!
少しラウを感じ取れるだけで、ざわついた心が穏やかになる。
ラウが心配してるようなことは当分起こらないと思うわ。