※この作品はR-18です。

忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん!   作:さとう_2701

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第101話 カトレア隊本部

 翌日。

 

 私はダルディッシャム王太后陛下の三女であらせられるベアトリーゼ殿下に召喚されて、カトレア隊本部に足を運んだ。

 どうしてカトレア隊なのって?

 ベアトリーゼ殿下がカトレア隊隊長だからよ。

 

 ご結婚されてなくて、ほとんど本部に詰めてるってマグが教えてくれたわ。

 仕事熱心な人なのかしら。

 

 本部まではそう遠くないのに、レイハスさんが馬車を手配してくれた。

 

 昨日マグは姿を晒して愛し子を受け渡してきたそうなので、今日もヒト型のまま。リーは猫になってるわ。

 

 正面から見た感じ、カトレア隊本部は軍部施設というよりは邸宅ね。

 壁には漆喰が塗ってあって、真っ白で瀟洒な造り。どこの貴族に招待されたかなと思ってしまうのだけれど、裏手には庭園を潰した訓練場があるのですって。

 

 隊のために新造したわけじゃなくて、余ってた邸宅を転用したのかな。王太后さまならやりそうだし。

 

 

 案内されたのは一階の応接室。

 座って待っていると、ベアトリーゼ殿下が入室された。

 護衛は男女半々ね。ローブを纏った精霊術士もいる。

 

 ベアトリーゼ殿下は王太后さまのご息女なだけあって、お顔立ちもはっきりした意志の強そうな美人。

 

 護衛の中の一人がベアトリーゼ殿下の背後にぴたりと付き従った。

 距離からいってただの護衛とも思えない。

 王太后さまと司教のジーナさまみたいな距離感なのよね。

 とくに追求する理由もないし、そういう人がいるのね、と思うのみだけど。なお、女性。

 

 

 立ち上がって、ベアトリーゼ殿下を迎え入れると、頭を下げてきた。

「この度はご足労いただき、感謝致します」

 

「礼には及ばん」

 こういう場の対応はマグに任せてる。

「座らせてもらうぞ。…フェリシア様」

 マグが合図してくれたので着席する。

 

 視線を上げると、ベアトリーゼ殿下と視線があった。

 ん? 初対面よね?

 眼差しが既知を見るような…?

 

「昨日の愛し子の様子は?」

 マグから昨日聞いたところ、保護したのは十代の男の子と4歳の幼女とのこと。

 フォーレとは仲良くしてくれたみたいだけど、マグとラウラは警戒されてしまったそう。精霊術士どころか、誰も他人を信用していないのでしょう。

 

 ベアトリーゼ殿下は我々の正面に着席すると、丁寧にお話ししてくれたわ。

「隊の愛し子と会わせたところ、打ち解けてくれました。今日にも離宮に移動します。他にも仲間がいるところの方がいいでしょうからね。救出いただきありがとうございました」

 

「こちらのできることをしたまで。健やかに過ごせるよう手を尽くしていただきたい。また、奪取してきた貴族への対応について、任せているが問題ないか?」

 

「問題ございません。陛下の勅命もありますので、適宜処罰いたします」

 

「そうか。ならばよい。して、昨日のフェリシア様への要望だが、そちらから今一度説明してもらえるか?」

 

 私が今日ベアトリーゼ殿下に召喚されたのは、このため。

 

 ベアトリーゼ殿下の、王太后さま譲りの青灰の瞳が再び私を捉える。

 

「フェリシア、以前王太后陛下の屋敷で行った祝福を第二部隊の前で行ってもらうことは可能だろうか」

 

 第二部隊は国王軍の精霊術士部隊になる。

 この話をされる意味はわかるわ。愛し子の示威行為をさせたいということなのでしょうけど。

 

「命令ではなく、ご依頼でお間違いないですか? どうして殿下からご依頼されるのでしょうか? 面識のある王太后さまからご依頼いただくのが筋かと存じますが」

 

 今日はこれを確認したかったのよね。

 わさわざ初対面のベアトリーゼ殿下が申し出てくる理由が全然わからなかったの。

 

「母、ダルディッシャム王太后陛下には依頼したが、一蹴されたよ。頼みたいことがあるなら自分で依頼せよ、と。貴族ではないから行動を縛ることもできない。何か依頼するなら対価が必要だとも」

 

 王太后さまはこの行為に対しては、対価を払う意味を見出していないのね。

 

 祝福を見せるのは簡単よ? でも、今まで見下してきた対象が、自身よりも精霊に好かれていると知ったら?

 自らの優位性を侵害されたと思って攻撃的になる人もいるのよね。

 

 素直に愛し子の価値を認めてくれる人と、攻撃的になる人。どちらが多いかしら?

 

 

 テラニード王国においても、祝福をわざわざ術士に見せることはしていない。

 貴族位においては公然の秘密だけど、愛し子の家系と精霊術士の家系に二分されていて、それぞれ契約する家が決まっている。

 愛し子が産まれた場合、すぐに精霊術士の家から契約者が選定されて厳重に保護される。

 

 イレギュラーなのは王家。

 王家はそのときに実力のある精霊術士を契約者として迎える。

 王家の一員として迎え入れられる機会のうち、最も名誉があるとされてるから、その栄誉をかけて切磋琢磨してるわ。

 私が知らないだけで、ロンダルディア王国でもそうなのかも知れないけど。

 

 王家のことはさておいて、貴族のことだけど、ロンダルディア王国では愛し子は保護されていないし、契約者もつかない。なんなら愛し子でも精霊術士でもない、ただの人が貴族位になってるみたい。

 

 私の中では断る一択。

 

 でも念のため、殿下に聞いておきましょうか。

「今回の要請の利点について、殿下からお聞かせいただけますか?」

 

「フェリシアも分かっていると思うが、術士たちの意識改革だ。術士は貴族位が多い。昨今の聖女の名声もあって、契約者になりたいと申し出てくる者がいる一方で、懐疑的な者もいる。祝福を目にしたことがなければ、実際に信じることは難しい。貴族たちが愛し子の恩寵を知れば、保護率も高まると考える」

 

 恩寵…。

 確かにそうかも。愛し子は女神アートリアによってこの世界のために創造されたし。

 

 もうひとつ確認しておきましょう。

 

「もし私が受けるとなれば、殿下は対価として何を差し出されるおつもりでしょうか?」

 

 これにはベアトリーゼ殿下は眉根を寄せ、憮然とされた。・・いえ、困ってる?

 

「そちらから提示してもらえないだろうか? 私が提供できる財や地位を欲するとも思えない。武では叶わない。財もマグ様が蓄えておられるだろう? フェリシアが欲する何かを私が持ち得ているとも思えない。あなた方に生涯の献身と忠誠を誓うことくらいしかできない」

 

 腹芸が苦手。まっすぐな方なのでしょう。

 

 ここまで聞いておいて申し訳ないけど、私の意見は変わらない。

 

「申し訳ございませんが、お断りいたします」

 

 ベアトリーゼ殿下に落胆は見えない。王太后さまから断られた時点で察していたのかも。ただ真っ直ぐに見つめられた。

 

「理由を教えてもらえるだろうか」

 

「テラニード王国と違って愛し子の保護が確立されていません。もし忌み子と取り扱われている子がいれば、血術も知らないのに強要されるかもしれません。それに血があればと考える輩もいるでしょう。私の血を付け狙われるのは面倒です。どうしても、と仰られるならご自身が祝福を与えては如何ですか?」

 

「それは…」

 

 ロンダルディア王家も愛し子の系譜であることを明かしていない。

 自分たちは精霊術士と契約を結びぬくぬくと過ごしていたというわけ。

 

 ロンダルディア王国内の精霊力が下がったのは、数代前の国王による。

 領主たちの発言権が強く、統一した国政の運営が難しかった王家が教会と結託して、愛し子を忌み子と認定した。

 そこから愛し子の苦難は始まっているから、目の前の殿下に責はない。また、当時の過ちを取り戻そうと手を尽くしている王太后さまも。

 

 昔の話はマグ談ね。

 

 

 さて、当時の王家の過失を私が代わる必要もない。

 身に危険もありそうだし。

 

「申し訳ございませんが、この要請はお断りさせていただきます。ただし、愛し子の捜索は続けるつもりです。今回は王都近郊でしたが、国境まで捜索範囲を広げます」

 

 ベアトリーゼ殿下の目の色が変わった。何かいいたげにされたけど、一気にこちらの要望を述べた。

 

「見返りは不要です。保護した場合、そちらに引き渡しますので、後続の対応をお願いいたします」

 

「それはもちろん」

 

「あとは忌み子についてですが、なにかあれば我々に状況提供いただけませんか?瘴気の発生についても同様です。できるだけ協力するとお約束いたします」

 

 ベアトリーゼ殿下は二重のぱっちりお目めを、ぱちぱちさせた。

 

「それはフェリシアと精霊人も、忌み子対策と浄化に協力してくれると言うことか?」

 

「そう受け取っていただいて構いません」

 

「先ほど伝えたように、私にはフェリシアが望むものを用意できないのだが…」

 

 私はベアトリーゼ殿下を安心させるよう、努めて笑顔を浮かべた。

「なにも。ただ我々の邪魔をしないでください。あとは、瘴気によって困窮した民の生活の保障をお願いします」

 

「それはもちろん! 王家として当然の責務だ」

 

「良かったです。当然の責務を全ういただければそれだけで結構です」

 

 何もいらないと言ったのに、殿下の表情は晴れない。

「失礼だが、まだ14歳だろう? 財貨が欲しい、生家よりも高位の爵位が欲しい、家を用意して欲しい、欲しいものはたくさんあると思うのだが…。よければ学校はどうだろう? フェリシアの学力が足りないと感じたわけではなく、知識はいくらあってもいいと思うし、同世代との語らいも大事な財になると思うのだが」

 

 これは私がテラニード王国で暇つぶしに書籍を求めたことも知っての提案かしら?

 語らいは不要だけど、国立図書館に出入りできたら嬉しいかも。

 そのことを伝えると、ベアトリーゼ殿下は今日一番の笑顔を見せてくれた。

 

「そうか!私にもできることがあって良かった。何かあればすぐ言って欲しい。なるべく叶えるようにする」

 

「はい。ご厚情ありがとうございます」

 

「ではこれ以降の詳しい話は我の方で聞こう。フェリシア様、あとは我にお任せください」

 

「ええ。マグ頼んだわ」

 

 私は今日もシェラと約束をしているのよね。

 昼食をとったら出かけなきゃ。

 

 昨夜寝るの遅かったから、出る前に仮眠したいな。

 

 もう次の予定で頭を埋めながら立ち上がり部屋を辞そうとすると、ベアトリーゼ殿下も席を立って歩み寄ってきた。

 

 なんだか悄然とされてるわね。

 

「フェリシア、実は…昔ダインガルド殿に救われたことがある。フェリシアのことは聞いていたのに、調べもせず、助けにも行かず…済まなかった」

 

 最初の視線はそういうことね。

 

 殿下の「救われた」の一言がひどく重く響いた。

 もしかしたら殿下を救っておじい様は命を落としたのかもしれない。

 臣下としては当然の役目でしょうし、誉れでしょう。

 

 おじい様の訃報を伝えてくれたのは、下男のギムニだった。

「遠征中に亡くなったそうです。ダインガルド様の荷物は本館へ移動するよう命じられております。お嬢様、何か必要なものがあればお隠しください」

 

 そう言ってくれて、私が選んだのは獲物を捌くときに使っていたナイフ。あとはリュートと釣具。

 

 本はあったら楽しいけど必須ではないし、おじい様の衣類なんかはあっても困るし。

 

 ギムニのことを思い出したのは、本当に久しぶり。おじい様の葬儀は遺骸が回収できず、空の棺桶でなされたときいた。

 乳母のアンナと下男のギムニ、そしておじい様のお墓参りをしたいと思っていたわね。

 墓石が風化する前にいきたいな。

 今行っても、忌み子が呪いに来たっていわれちゃうだろうから。

 

「殿下が今まで私のことを気にかけてくださっていた、ということだけで過分に存じます。お心遣いありがとうございます。本日はベアトリーゼ殿下に拝謁が叶い光栄でした。何かございましたらマグにお申し付けください」

 

 一礼して辞した。

 

 

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