忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
ユスフさんも感知したようで、あら、と嬉しそうな声をあげた。
「シュリーナウゼ様ですね。王太后陛下の姪御さまです。ベアトリーゼ様と仲が良いのですよ。侯爵家へ嫁がれた方です」
へーと思っている間に、街道に二頭立ての馬車の姿が見えた。
周囲には護衛騎士8人と術士16人が囲むように位置取り、それぞれ馬に乗っている。
なかなかに物々しい。
「もしかして走ってくるのは非常識でした?」
ユスフさんに訊ねると苦笑された。
「一概には言えませんね。フェリシア様は馬車には乗り慣れていらっしゃらないようですし。ただ、そろそろ慣れてもいいかもしれませんね」
最後の方はくすくすと笑われながら言われた。
「だって馬車、お尻痛いのですもの。走った方が早いし痛くないですし」
「わかる! お尻痛い。ラウラ様のウォーターマット敷いてくれたらいいと思う」
「確かに! 今度そうしてみよう!」
「我に水の性質がないのが残念です」
マグがこっそりしゅん、としてる。
ぜんぶがぜんぶ同じことをできなくていいと思う。
得手不得手あって当然なのだし。
「マグのことは今だって頼りにしてるわ」
「はい!」
シュリーナウゼ様一行が近づいてくるにつれて、マグとセリス、ユスフが私を守るように前に出た。
セリスとユスフが膝をついたので、私も倣おうとしたけれど、マグに止められた。
確かにマグは精霊人だからシュリーナウゼ様よりも高位かもしれない。でも私は平民なのだけれど?
「我は人如きに垂れる首はこざいません。何か言われるようなことがあれば、我が仲裁いたします故、そのままでお願いします」
私が膝をつくとマグの権威が陰るというわけね。
「セリス、本当に大丈夫かな?」
念の為セリスに確認すると、頭を下げたまま大丈夫よ、と言ってくれた。
私は居た堪れない気持ちのままシュリーナウゼ様が到着するのを待つ。
どきどきして待っていたのだけれど、馬車を守る騎士も精霊術士もどこか浮き足立ってる?
こちらに到着すると、馬車を降りたシュリーナウゼ様が即座に膝を折った。
護衛たちもそれに続く。
「マグ様、お久しぶりでございます。バンドラガルの聖女フェリシア様にはお初にお目にかかります。シュリーナウゼ・ドルッテンと申します。ベアトリーゼ殿下の要請により馳せ参じました。どのようなことでもお申し付けください」
王家の方もそうだけど、すぐ頭をさげるわよね。
『マグ、頭を上げてもらって。膝をつくのも。一緒に作戦にあたるんだから、対等にしたいの』
『御意に』
「シュリーナウゼ、面をあげよ。膝もつかずともよい。フェリシア様は共同作戦の実行部隊として遇したいと仰っておられる」
「寛大な処置に感謝いたします」
顔を上げたシュリーナウゼ様はちょっと吊り目で怖そうな印象だったけれど、畏敬の念は見てとれた。
私がどれほどのものか推しはかってることも。
「初めまして、フェリシアです。ご助力感謝致します。お話ししたいこともありますので、どうぞお掛けください。ユスフさん、お茶を淹れてもらっていいですか?」
「もちろんです」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
立ち上がったシュリーナウゼ様はカトレア隊の制服を身に纏っていて、身長はリーくらいかしら。
歳は二十代半、赤みの強い茶髪は綺麗に結い上げられていて白いうなじが眩しい。
「まずは現場からお話ししますね」
私はバンドラガル周辺から瘴気を放つネズミを退治しながら南下してきたことを告げた。
「ネズミですか…」
「はい。浄化すると灰化してなくなってしまうのです。ああ、来ましたね」
途中でいいから、戻ってきて欲しいとラウラに伝えていたの。
「フェリ! 戻ってきたよ!」
「フェリさま、いっぱいとってきたも!」
「ラウ、フォーレお帰りなさい」
ラウラが大きな氷結界を野に置いてくれている間に席を立つと、シュリーナウゼ様も立ってくださっていた。
「シュリーナウゼ様、紹介します。私の仲間のラウラリーエとフォーレです」
「初めまして、ラウラリーエです。フェリの伴侶です」
ちょっと!自己紹介!! いちいち言わなくていいでしょ。。
シュリーナウゼ様もびっくり…されてない?
ふふ、と笑われた!
「存じております。叔母上から伺っておりますので。大層仲が良くていらっしゃると」
「仲良くできそうね」
ぎゅ、握手を交わす。
ラウラとの挨拶が終わると、フォーレがシュリーナウゼ様のお手に飛びついた。
「フォーレだも! フェリさまの家族なんだも!」
ふんふん、と鼻息が荒いわ。。
「フォーレ様ですね。ジーナ様からもお話を伺っております。大変お可愛らしい方と。皆様とお会いできて大変光栄です」
ジーナ様に似た落ち着いた佇まいに、フォーレもすっかり気を許してるわね。
「たくさんネズミとってきたんだも!シュリーナウゼも見てほしいも」
手をとってグイグイ引っ張り出した。
「ラウ、森ネズミを皆さんに見せてあげくれる? 私たちに代わって駆除をお願いするつもりだから」
「わかったわ」
氷に覆われていた結界を透明にしてもらうと、ぎちぎちに詰まった森ネズミの姿が露わになった。
蠢く群体にシュリーナウゼ様の部隊も息を呑んでる。
ラウに1匹取り出してもらうと、結術結界に取り込み直してシュリーナウゼ様に手渡した。
「先ほどお話ししたネズミがこちらです。微量ながら瘴気を発しています。シュリーナウゼ様にはこちらの浄化をお願いしたいのです。どうしてか浄化すると消えてしまうのですけれど」
シュリーナウゼ様はじっくりと観察されると、部隊の方たちに手渡された。
「皆も確認してください。フェリシア様が浄化されるところを拝見させていただくことは叶いますでしょうか? ぜひバンドラガルの聖女のお力を拝見させていただきたいのです」
「ダルディッシャム王太后さまでしょう? 買い被られていらっしゃるのです」
ハードル上げないでほしいのだけれど、なぜかセリスとユスフさんが得意げな顔してるわ。。
「何年も公務で浄化されてるシュリーナウゼ様の方が威力は上かと思いますが、僭越ではございますが若輩の私が浄化させていただきますね。1匹1匹の浄化は面倒なので、この結界単位で浄化してます。ラウ、少し穴開けて」
結界に空いた釘ほどの穴から血を垂らしながら血術を練り上げる。
「その身から悪意よ退け。浄化」
氷結界は透明にしてもらっていたから、ネズミたちが黒煙をあげながらどろどろに溶けて灰になるところまでよく見えてもらえたと思うわ。
シュリーナウゼ様たちは目も背けずに最後まで見てくれたようだし。
「悪意によって魔獣に変えられてしまっているなら、その素体に戻れると思うのです。なのに、ネズミはわずかな灰になるだけで素体には戻りません。何かご存知ではありませんか?」
念のために聞いてみたのだけれど、思いがけず有益な情報を得ることができた。
「私自身の経験ではないのですが、以前読んだ何代か前の王族の手記に似たケースの記述がございました。蝶の魔獣で産卵後、大量発生したと。大元の蝶を浄化することで全て消え去ったとあったはずです」
「分身体だから浄化すると消えてしまう、ということですね」
最初に森ネズミたちを探知して以来、手当たり次第に捕まえてもらって浄化してきたので行っていない。やってみる価値はあるわね。
「探知してみます」
緩やかな丘陵に立つと、風に乗って生臭いようなかび臭いような匂いが微かにする。
私は血を捧げ、血力を薄く広げていった。レイハスさんや町の人たちの気配の他、動物たちや瘴気を放つ森ネズミたちの気配も分かるけれど、突出して瘴気が濃い個体は見つからない。
「私では大元の個体は感知できませんが、シュリーナウゼ様であればいかがでしょうか?」
「見事な血術です。叔母上が手に掛けるのも納得ですわ。私の術と遜色ないですが試してみましょう」
そう言ってシュリーナウゼ様も試してくれたけれど、該当するような個体は見つからないとのこと。
途中から南下してきたけれど、実は大元は北上していたってこと?
分身体と一緒に浄化してしまっていたら、今頃全部消えてるのだから、それしかない。
「シュリーナウゼ様、私たち、バンドラガルから浄化しながら南下してきたのです。南部の方が瘴気が濃かったので。ですのでバンドラガルより以北に大元がいるかもしれません。大元を倒せば分身体は消えるでしょうが、この地の浄化は必要です。二手に分かれるべきと思いますが、いかがでしょう?」
「そうですわね・・・。どちらでも構いません。フェリシア様はどのようにお考えですか?」
逆に聞き返されてしまったわ。。
「実は仲間に近隣の村町へ食料の支援に行ってもらっているのです。帰りを待ちながらこの地を浄化してしまいたいと思っているので、シュリーナウゼ様には移動ばかりになってしまうのですが、大元を追っていただけると助かるのですが」
「構いません。そのプランで参りましょう」
「シュリーナウゼ様、ありがとうございます。私たちもこの地を浄化したらすぐに後を追います」
「ええ。お待ちしていますわ」
話が付くと、すぐにシュリーナウゼ様は馬車に乗り込み、一行は北へと向かってくれた。
私たちもすぐ向かわなきゃ。