※この作品はR-18です。

忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん!   作:さとう_2701

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第106話 邂逅

 厚い雲が垂れ込めるなか、私たちはシュリーナウゼ様たちと合流すべく北へと向かっているわ。

 

 シュリーナウゼ様と別れた後、私は森ネズミを駆除し浄化を与えて、ついでに食料を援助してくれた隣国テラニード王国のドンオール領にも足を伸ばして祝福を与えてきた。

 北上して大元を叩きに行った場合、戻ってくるの大変だし。あそこからだと半日で行き来できたしね。食事を一緒にしたいとか、お茶とかいろいろ誘われたけど、忙しいからって断って浄化だけしてきたわ。

 「ぜひまた足をお運びください! どのような助力も惜しみません!!」と興奮した様子で、感極まってる領主の握手に応じたけれど、大柄な体躯だったから怖かったわ。。

 

 シュリーナウゼ様から遅れること一日半、私はラウに抱っこされて森を爆走中。

 ネズミ駆除がなければ、数日かかった旅程も一日あればバンドラガルまで戻ってこれる。

 

 そろそろ分岐点にさしかかるけれど、浄化されてるみたいね。ネズミの姿もないわ。

 そのまま北上していくと、マグとリー、ふたりから同時に制止の声がかかった。

 

「全体、とまれ!」

「止って」

 

「どうしたの?」

 

「この先に戦闘跡があります。瘴気です」

「それなら急いで加勢にいかないと」

 

 私の焦りに、リーがゆるく首を横に振った。

 

「戦闘音はしません。おそらく終結しています」

「リーの言うとおりかと。大地が瘴気で侵されたままということは―――」

 

 シュリーナウゼ様が負けたというと?

 私より熟練の血術使いだったのに?

 

「偵察に行って参ります」

 

 マグの姿が消え、四半刻もしないうちに心話が入った。

『シュリーナウゼ隊の約半数が死亡、残りは磔にされています。シュリーナウゼもです。敵は3名。忌み子が2、術士が1です』

 

『磔にされてる人たちの生命活動は?』

 

『ここからでは瘴気が濃すぎて判別がつきません。が、地面にシュリーナウゼとフェリシア様の身柄の交換要求が書かれております。骸だろうが生きていようがフェリシア様との交換などあり得ませんが』

 

 交換か・・。

 敵にとっては私の方が価値があると思ってるということ。

 マグやリーの主であるとどこかで嗅ぎつけたのでしょう。

 私が忌み子になったとしても、マグやリーまでもが落ちるわけではないのだけれど。

 

「フェリ様、助けに行かれようと思われてますか?」

 

 リーの質問に、当然と頷く。

 私の任務は忌み子の排除と愛し子と救出だ。

 

「母さまから任されてるし、忌み子の排除は私の使命でもあるわ」

 

「左様ですね。では私も情報収集に行って参りましょう。フェリ様、血術結界を展開し、我々が戻るまで解除しないように。ラウラ、フォーレ任せましたよ」

 

 リーもぱっと移動して行ってしまった。

 

「シュリーナウゼ様はきっとご無事よ。強い方だもの」

 ユスフさんが雰囲気を和ませるような笑顔を見せてくれた。

「お二人が戻るまでお茶にしましょう」

 

 ・・・ストレージ持ちがふたりいると便利ね。

 お茶を嗜んだ後、戻った二人と作戦を立てたわ。

 

 作戦は次の通り。

 

 シュリーナウゼ様と私の身柄の交換に応じる振りをして近づく。

 あの辺りは瘴気が濃すぎて精霊術がまともに作用しないらしいから、まずは浄化の必要があるの。あれほどの濃度で遠距離からだと、余分に浄化に時間も血力も必要になるわ。ある程度近くで血術を使う必要がある。

 間合いに入ったところでシュリーナウゼ隊を結術結界で保護しつつ浄化を行うわ。

 

 なお、マグやセリスが側面から同時展開。リーやラウはそのまま敵を捕獲する。術じゃなくてパワーで♡と言っていたわ。。

 

 マグとリーの見立てでは敵は3人ではなく、悪意で落とした魔獣たちもいるはずだって。30人近いシュリーナウゼ様の部隊とやり合うには、3人じゃ少なすぎるものね。

 フォーレ、レイハスさんとユスフさんは魔獣たちを相手にすることになってるわ。

 

 この作戦の肝は私が敵の忌み子の瘴気に負けず、いかに早く浄化するかにかかってる。気合いを入れなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 森が暗く沈み、動物たちの息遣いも遠い。

 みんなは遠見をぎりぎりまで使用して敵の姿を視認してるみたいだけれど、私にはまだ見えないの。でもわかることもあるわ。

 

 2つの瘴気のうち、一つはイーダさんの瘴気。そしてもう一つはフォーレを魔狼にした女の子のものね。

 

 今はもうジーンとしての記憶もあるから、イーダさんの影響力は相対的にさがってる。引っ張られることもなさそう。

 

 今回の忌み子の対処は殺害以外を考えてる。私が望んだ通りの結果を引き寄せられますように。

 

 左右に展開していったマグとセリスの姿が森の木々に吸い込まれて見えなくなる。二人は伏兵役だから、祝福かけると術士には光って見えるのですって。なので私はふたり以外の皆に祝福と加護を与えた。

 

「分かっていると思うけど、この作戦、相手の捕獲を第一にしていません。シュリーナウゼ隊の保護、自分たちの命が至上です。殺めてしまうことになっても仕方ありません。怪我をしない、無理をしない、難しい場合は誰かがフォローに入るまで防御に徹してください」

 

「無論です」

「わかってるわ!」

「承知しました!」

「大丈夫だも!こちはカトレア隊の2人を守るも!」

 

 皆で大きく頷く。

 

「行きましょう」

 

 

 先頭をラウ、次に私、リーはその後ろ、最後部をカトレア隊とフォーレが守り森の奥へと進む。

 

 私たちは隠れるつもりがないので、隠蔽の術すらかけず草木を踏み分けて近づく。それも徐々に枯れ果て、葉を落として裸のような樹木ばかりになった。

 

 そんな中まず目に入ったのは、大きな十字架だった。聳り立つ十数個の十字架にはシュリーナウゼ様の隊員が磔にされている。

 乱立する中程にシュリーナウゼ様のお姿があった。

 お髪は血に塗れ、白い隊服も泥と血に染まっている。

 微動だにしない姿からは存命かどうかも判じられない。血術で探知しようとしたが、瘴気の所為で拒まれる。

 

 

「久しぶりだな」

 

 私がシュリーナウゼ様に目を奪われていると、十字架の陰からイーダさんが姿を現した。手には小刀を携えてる。

 

 あの時よりは背が伸びて健康そう。敵愾心も見えない。

 

「ええ。元気そうね」

 

 にや、とイーダさんが笑った。なんの気負いもない、そこらの村の少年が浮かべるものと変わりない。

 

「あんたもな。あんたを抱えてそこの精霊もどきが逃げたときは、骸抱えてどうすんだって思ったからさ。生きててくれて嬉しいぜ」

 

「貴方達こそ、フェリが死んでると思ってたのに、どうして追ってきたの?」

 

「さあ? クロイツが忌み子の体は実験に使えるって言ってたな」

 

 仲間の気配が物騒になったところで、十字架の陰から女の子が飛び出してきた。

 

「にーに!」

 ひしっとイーダさんの足にしがみつく。

 可愛らしいワンピースを着た5歳くらいの女の子。血色もよく髪も手入れされてるみたい。

 ただ眼差しだけは年頃の女の子からは程遠かった。

 

「どうしてお話するの? みんな殺すんでしょ?」

 

「殺したら手間を掛けて磔にした意味がなくなるだろう。お前は大人しくしていろ」

 低い身震いするような声と共に、あの時の死神のような男も私たちの前に姿を現した。

 以前見た時と変わらず顔色が死人のよう。

 

「さてフェリシア、お前一人の命でこの部隊全員と交換してやる」

 シュリーナウゼ様に刃を向けたまま宣う。

 

「そもそもどうして人間なんか助けるんだ? 殺されかけたのに。お前がいるべきはこっちのはずだ」

 イーダさんが右手を差し出してくるけれど、私の中で彼の言葉に共鳴するものは何一つなかった。

 

 憎しみ、恨み、世の全てを滅ぼして何になる?

 私はその果てをヨルロン・ダンジョンで目にした。

 

「私が助けない、と言ったら、取引になりませんよ」

 

 動き出しそうなラウを右手で制して、一歩歩み出た。交換するように見せかけるためだ。

 イーダさんの瘴気の圏内に入り次第浄化する。

 

 あの男だったら、死神みたいな男に転移して秒で斬首にしてるわね、とふと脳裏に浮かんだ。

 次の瞬間、目の前が真っ暗になり、どん、と何やら誰かとぶつかった。

 

「え?」

「な!?」

 

 私が声がした上を見上げるのと、死神男が振り向いたのが同時だった。

 

 真っ暗だと思ったのは、死神男のローブだった。。

 どうして死神男真後ろに??

 

 考えるのは後!!

 死神男が私を捕獲しようと身動きするのを察して、咄嗟に結界を張った。

 

「結界!」

 

 私自身のみの小さいものだ。

 死神男は私を結界ごと腕に抱えると、満足げに唸った。

 

「確かに。取引成立だ。この部隊には手を出さん。早く救助すれば助かるだろう。行くぞ、イーダ、小娘」

 

 

「フェリ!」

 飛び出したのはラウだ。

 

 いつもなら風を切るラウの手刀も、死神男にあっさり止められてしまった。大地を浄化できてないから、加護どころかデバフがかかってる。

 

「ちゃんと玩具も用意してるぞ」

 

 死神男がストレージから熊や虎の魔獣を出し、ラウにけしかける。

 

「くっ!この!」

 襲いかかる魔獣にラウが素手で応戦するのを尻目に、私は手のひらを傷つけた。

 さっさと浄化すればいい。

 結界内に血がたまるけれど構わない。

 

「大地よ、悪意を退けその身の輝きを取り戻せ」

 

 焼けた石に水がかかったように、周囲に黒煙が立ち昇る。

 

 だめね。足りてないわ。血も力も何もかも。

 私は更にその場で左腕を傷つけ、肚の中から血力と神力、氣を奮い立たせる。

 

 浄化もシュリーナウゼ隊員の救助も同時に行わなくちゃ。

 脳裏に思い描きながら、力を惜しみなく注ぎ込んだ。

 

「土の精霊、水の精霊、火の精霊、風の精霊、光と闇の精霊よ、精霊たちよ! 御身を染めるは悪意に非ず。我フェリシアの血を以て祝福となし、福音とせよ。穢れを祓いその御力を顕現せしめよ!」

 

 青々と茂る大地、軽やかに薫る風、安らぎと勇気を与える炎と光、安寧をもたらす闇。

 

 どれも必要で、脳裏に描きながら力を解き放つ。

 自分の力だけではなく瘴気によって犯された精霊たちをも浄化し、力を乞う。

 

 

 ちょっと「ことば」が長かったかな。でも想いを込めるには必要で、、と考えている間に、死神男が呻きながらよろめいた。

 浄化が効いてる?

 

 この隙を見逃さずラウがウォーターカッターで死神男の腕を切断して、結界ごと私を回収した。

 

《びっくりするでしょ!》

 声は怒ってるけど、ほっとしてるところも大きい。

《ごめんね。私もびっくりした。。》

 

 どうして死神男の真後ろにいたの、私?

 

《そのまま結界の中にいて。すぐ終わらせるから》

《うん》

 

 

「ぼやっとするな、イーダ、小娘!」

 死神男の叱咤が飛ぶ。

 

「分かってる!」

「わかってるわ!」

 

「「呪え呪え、その身を呪え!」」

 

 イーダさんと女の子が呪詛を吐くけれど、これ以上悪意を広めさせないわ。

 

「結界!」

 ふたりを結界に閉じ込めて、さらに浄化する。

 よし! これであたりは浄化できたわね。

 

 

 この後の戦闘は一方的なワンサイドマッチだったわ。

 

 片腕を失った死神男の行動は精彩を欠き、あっけなくラウのアイスウィップに拘束された。

 魔獣たちもリー、カトレア隊、フォーレのメンバーで次々と捕縛。マグは司令官よろしく上空から戦況を俯瞰しているわ。

 

 戦闘が落ち着いたらリーと私で捕縛した者たちを監視し、他のみんなにはシュリーナウゼ隊の救援活動に向かってもらった。

 

 あたりはすっかり暗く、リーが一つ篝火を焚いてくれた。

 救助活動を行っている方は、私からは見えないけれど光術で明かりを点しているのでしょう。

 

「暴れないことは褒めましょう。尋問はあとで行います」

 リーが、アイスウィップで芋虫のように転がっている死神男にヒールを掛けた。失血死されては困るからね。その後は自分のストレージの放り込んだ。

 ストレージの中は閉じられた空間のため精霊術は使えない。四肢は拘束しているし、できることは漂うことだけらしい。

 

 死神男の姿が見えなくなると、ふたりもようやく呪詛を止めてくれた。

「なんでだよ! お前だってこっち側だろう! どうしてあいつらの肩を持つんだ!!」

 

 ドン! とイーダさんが悲しげに私の結界を拳で叩いた。

 こうなっても彼は私に憎しみを向けてこない。

 

「イーダさんも旅をしてきたなら分かるはずです。あなたの村のような人ばかりではない、ということを。あなたのしていることは、自分の憂さを誰かで晴らしているだけ・・・」

 

 ここでその名を出すか悩んだけれど、私たちには私たちの伝え方がある。

 

「フェリ様っ!」

 リーが手を広げて、私の進行を阻んできた。

 忌み子の悪意で私が汚染されることを懸念してるのでしょう。

 

「大丈夫」

 私はリーをその場に留めてイーダさんに張った結界に近寄った。

 そっと触れて結界を解除すると、彼の手を両手で握る。

 固くて骨張った血に汚れた手を。

 

 彼の記憶が、想いが、なだれ込んでくる。

 くるしい。かなしい。私に知って欲しい、って。

 

 分かるよ。あなたがどれほど妹さんを愛していたか。

 非力な自分を恨んだか。

 

 私もラウを失ったら、同じ事をしたかも知れないから。

 

 それでも全部が悪い人じゃない。

 懸命に生きてる人もいる。忌み子だってわかっても親切にしてくれる人もいるの。

 

 そんなの分かりたくないと彼の心が叫ぶ。

 そうだね。でも、本当は分かっているんでしょう?

 

 私はグラハスの森や、南部での森ネズミの被害を見せた。

 イーダさんの行いで森の動植物が死に、近隣の人々も飢えと病で苦しんでる。

 

 知らねえ! 国が悪い! 王様が悪い! とイーダさんが嘯く。

 いいえ。優しいあなたは全部分かってる。

 苦しめてごめん、とあなたの心がいってる。

 

 妹さん――ミーシャさんを失った悲しみは何をしても埋められない。

 あんなに大好きで、自分の全部だった存在を、何かで埋められるわけがないと思わない?

 

 埋まらないよ。

 一生埋まらない。

 

 

 私はあなたが屈強な男たちに立ち向かったことを知ってる。

 あなたに勇気があったことを知ってる。

 慈しむ心があることを知ってる。

 

 憎しみはあなたへ明日の一歩をくれたかも知れないけれど、悲しみに立ち止まってもいいと思うの。

 泣いて泣いて泣いて、前が見えなくて、その場に立ちすくんでしまうかも知れないけれど、誰も責める人はいない。

 

 泣いて、飽きるまで泣いて、涙が涸れるまで泣いて、その後のことはまた考えよう?

 私はあなたの敵じゃない。けれど誰かを悪意で攻撃するのなら私が止める。

 

 今はその力を眠らせておくね。

 

 大丈夫、その子も傷つけない。

 イーダさんからも説得してくれる?

 

 ありがとう。

 

 

 

 

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