忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
イーダさんの説得もあって、彼と一緒に行動していた5歳くらいの女の子―ティッテも保護することができた。
彼女はロンダルディア王国北部の田舎町出身で、監禁されて生活していたところを救出したそう。
イーダさんが妹さんのように甲斐甲斐しく世話を焼いていたから、すっかり懐いて準じていただけで、彼女自身が身体的、精神的な虐待を受けていたわけではないみたい。
おかげでイーダさんの時のように感情に引っ張られずに、忌み子の力を封ずることができた。
「後で夕食は用意してもらうけど、一応捕虜の扱いになるから、しばらくはこの結界内にいてくれる?」
「わかった」
イーダさんが簡素に頷く一方で、ティッテは不安げに見上げてくる。
「あいつは?」
リーの方をみるから、きっと死神男の事を気にしているのね。
「死んでないわよ? 尋問が残ってるし。あなたたちとは扱いが異なって、彼はもともと手配書が配られていたお尋ね者なの。心配?」
「ううん。心配はしてない。ご飯も寝床もくれるから従ってただけだし」
「そう。あなたたちとは扱いが異なるから、会うことはもうないわ。何か言いたいことがあれば、リーに言って。伝言してくれるでしょうから。私はあっちを見てくるね」
「あ・・」
イーダさんの動きかけた腕に、私も反応しそうになる。
ふたりで同化したから、あのときのミーシャの死が身近に感じられて心細いのよね。
「また後で来るわ」
「ああ」
話を終えて、シュリーナウゼ様のご様子を伺いに行こうと踵を返したところでティッテから声がかかった。
「ねえ! 私もお姉ちゃんみたいな力使える?」
「え?」
思ってもみない質問に足が止る。
「私が使ってた力よりも、お姉ちゃんの使ってた力の方が光ってて綺麗だったから。私もそっちがいいって思ったの!」
なんて単純で、日の光の下で生きる、生き物らしい答え。
愛し子や忌み子の力は、私が母さまから授けられたもので魂に刻まれている。この力を振える者は、私とどこかで血が繋がっている。
精霊術士もそう。
親が精霊術士だったから精霊術士になれる。彼らはオーウェルの子孫か、青狼の子孫になる。
血の繋がりがあるものは魂の操作もしやすくて、今回はその回路を閉じた。
閉じただけだから開くこともできるけれど、愛し子として祝福を与えられるかどうか、検証してからになる。
リーやマグの話だと、一度忌み子に落ちると精霊から烙印を押されるらしいの。
祝福を与えるのは難しいのでは、と言ってたけれど試してみないと分からなくない?
「ええ。私もそうできることを祈ってるわ」
シュリーナウゼ隊の状況は想定よりは軽微なものだった。
約半数は死亡とマグが推察していたけれど、磔にされず地面に転がされている中でも生きている人がいたの。逆に磔にされている人でも亡くなっている方もいたわ。
結局、亡くなった方は騎士1名、精霊術士7名の計8名。生存者はシュリーナウゼ様含め20名。
また、亡くなった精霊術士のうちの1名がストレージ持ちで、彼女に預けていた荷物は回収不能になってしまったとのこと。ユスフさんが代わりに遺体を収容し本部まで持ち帰ることになった。
班は違えど、同じカトレア隊なのだもの。既知の方もいらっしゃったでしょう。
3人の表情はずっと暗く、シュリーナウゼ様や隊の者と悲しみに沈む彼らに、掛ける言葉は見つからない。
松明に照らされた彼らの表情を、一緒にリーと眺めていたのだけれど、私と同じような感慨は持ち合わせていないみたい。
「救護者の対応は終わったようですね。その後のことは、あのままカトレア隊の皆さんとフォーレに任せておきましょう」
冷たく淡々と告げてくる。
《マグ、ラウラ集まってください》
リーが急に招集をかけた。
このあとの対応についての話かな?
音だけが聞こえない結界を展開したのに、なぜか心話で話しかけてきた。
《フェリ様》
心話なのに、低い声なのなんで? 声帯使ってないのに。
しかもこれ、怒られるトーンじゃない?
《なに?》
《なに、ではございません。火急の用件は対応終わりましたので、ようやくです。その間に何かあったらと生きた心地が致しませんでした》
《だから、なに?》
リーの片眉が綺麗に跳ね上がった。あ、青筋たってるわ。
《転移に決まっています! フェリ様が故意に発動なさったわけではないのは理解しておりますが、どうして急に発動に至ったのです? 今までお使いになられたことはなかったはずですし、使えると伺っておりません。また急に転移されたらと思うと、心が浮き足だって手につきません!》
いや、十分手についてたと思うけれど…。言わないけど。
《私だって使えるって知らなかったわ。シュリーナウゼ様を人質に取られた時に、あの男だったら転移して簡単なのにって思ったら発動してたの。びっくりしてあの顔色の悪い男にぶつかったくらいよ?》
《では、今ご自分の意思で発動できますか?》
あの時の神力の流れは覚えてる。使おうと思えばできると思うけれど。
ラウとリーの間に、と。
――――――できないわね。どうして?
みんなが私を注視してるから、緊張してる?
いや、うーーん。
なんだろう。
さっき使った回路なのに、閉じちゃってる?
思った通りに通せないわ。
《…試してみたけど、できない。まだ神力の扱いが足りないみたい》
リーとマグが頭を抱えた。
《では、ご自身の意思では使えないけれど、発動はできるということですね? 対象が人なのか場所なのか、どこまで転移できるのかもわからないのに?》
《今回のに限って言えば、あの男の側って思ってたわよ!》
少しでも心象を良くしようと思ったのに。
《そこですね》
《そのお心映えですね》
《無理だからね!》
仲間が捕まってるのに、助けようと思わないなんてできないわ。
はあ、とふたり共がため息をついた。
《そうでしょうとも》
《そこがジーン様ですからね》
ラウがずいと近づいて、私の背に腕を回してきた。
《リーもマグもそんなに怒らないであげて。フェリだって好きで転移したんじゃないし。びっくりしたけど、また誰かが危ない目に遭ってたら転移しちゃうこともあるって想定できるだけでも全然違う。それに前回と違って心話も使えるし、眷属だからフェリがどこにいるか分かるもの》
うう。ラウがやさしい。
《フェリ》
両手でほっぺを包まれて上向かせられた。
「もし誰もいないところに転移しちゃったら、結界張って待ってて。絶対に迎えに行くからね」
ちゅ、と額に口づけられた。
「お説教はもう終わり。もういいでしょ? もう休ませてあげたい」
背後から包み込むようにハグされる。
難しい顔をしていたリーもマグも、同時に頷いた。
「そうですね。ラウラ、フェリに様についていなさい」
「え? 魔獣の浄化は? 汚染されちゃうでしょ?」
それだけは今日やらなくちゃ。
「問題ございません。フェリ様が先ほど洪水のような勢いで浄化されましたので、浄化の継続が続いています。お気づきになられていませんでしたか?」
「そうなの?!」
浄化の力、まだ漂ってるわね、てしか思ってなかったわ。
ラウもマグもリーの発言に頷いてる。
「そうなの。精霊術で拘束してるし、大丈夫よ。それより熱が上がってきてる。体だるいでしょ?」
「え?」
ラウが額に手を当ててきた。
「さっき、熱いなって思ったの。瞳もとろんとしてるし、手もほら」
そうかな。熱っぽい? まだまだ元気だけど?
マグにはじっと見据えられた。
《急に神力をお使いになったからでしょう。浄化の際に少しだけ血術に混ぜて使用していたのを、今回ありったけお出しになったでしょう? 加えて忌み子の力の制限。急な使用に体が付いて来れないのも頷けます》
《ほんとにね。思いっきり光ったもの。浄化の輝きなんて生やさしいものじゃ無くて、光線だったもの》
「なに、その光線って・・?」
「フェリからは見えてないかもだけど、浄化すると精霊たちが光ったりするのよ。今回力が強すぎて、閃光が走ったの。私たち眷属はフェリの光に目を焼かれることはなかったけど、ほかのみんなは視界を失って動きが鈍ってたわ」
「・・・なるほど?」
あの男の動き、鈍ってたわね。
「シュリーナウゼの隊員、光の女神って呼んでたわよ」
「えー・・、嫌なんだけど。バンドラガルの聖女よりランク上がってない? 女神って、母さまじゃあるまいし。僭称にあたるから止めてもらいたいわ」
「フェリから直々に言えば止めてくれると思うけど、ひとりで近づいたりしないでね。私たちの誰か伴ってね」
必ず誰か護衛で付いてくる癖に、よく言う。
「フェリシア様、もう一点ご報告すべき事案がございます。今回捕縛した魔獣にネズミ型の者がいなかったのです。ネズミ被害を抑えるためにはもう一働き必要です」
「マグ、ネズミであれば急ぐ必要もないでしょう? フェリ様の体調が回復次第、対処するとしましょう。あとはシュリーナウゼ隊ですが、しばらくは我々と同行させた方が良い、と進言いたします。あの男の仲間が追撃してくるとも限りませんし」
「ええ。もちろん。一緒に行動していれば守りやすいし。食料はどうかしら? 不足するでしょう?」
「マグに獲ってきてもらいますよ。隊員たちには肉を食べてもらいましょう。フェリ様の分は確保しますので問題ございません」
「シュリーナウゼ様にもね?」
「では、そのように」
一通り情報交換がなされると、休むようにと釘を刺されて解散となった。