忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
細い月に照らされたフェリの顔は少し赤い。
高熱ではないけど、熱がある。
下に敷いたウォーターマットの温度を少し下げて、額に手を当てた。
苦しそうではないけど、昏々と眠ってる。
あの後、フェリは夕飯も食べず、結界越しにイーダと隣り合って眠ってる。
「ごめんね、今日は・・落ち着かなくて」
いつもだったら私の腕の中ですやすや眠ってくれるのに。
フェリも言いづらそうで、ぽろぽろと断片を溢してくれるけれど、いまいち要領を得ない。
「どうしてイーダのところに行きたいの?」
「ごめん」
「謝って欲しいんじゃ無くて、理由を聞いているのだけど?」
「ごめんなさい」
「私じゃダメってこと?」
「そうじゃ・・っ。ううん、そうなのかも。ここがざわついて泣いてるの。今日だけでいいから。今日だけだから」
胸を押さえながら言うフェリこそが泣きそうで・・・。
今も時折閉じられた瞳から、つ、と涙が流れてくる。
日中にイーダ、ティッテと同化していたからその影響なんだろうな、とは思うけれど。
涙を拭いてあげていると、もう眠ったと思っていたイーダから声を掛けられた。
「お前は寝ないのか?」
「この状況で寝れるほど、おめでたくできてないわ」
私を呪って魔獣に落とそうとしたあんたのことなんか大っ嫌いだからね?
「お前以外もそうなんだろうな。視線向けられてる」
「そうでしょうね。味方を殺されて寛容な人はいないわ」
「なんつーか、意外。仲間見捨てて逃げなかったことも、庇うヤツがいたことも。もっとドライで、てめえの命が危なくなったら逃げ出す奴らだと思ってた」
「それは人や所属部署で違ってくると思うけど」
「フェリも嫌々やってんだと思ったんだよ。聖女なんて持ち上げられて、お前らにいいように使われてんだろうなって」
「フェリをあんたと一緒にしないで」
「てめえの命より、小汚え穴狐に全部譲ろうとするヤツだったからよ。少し優しくされて、騙されてるんだと思ったんだよ。あ、違うか。騙されてると分かってても、助けてくれって言われたら手を貸しちゃうヤツか・・・」
あながち間違ってないのムカつく。
「浄化はフェリの意思で行ってるわ。私は何にもしなくていいって、フェリさえいればどこにだって行って暮らせるって思ってたんだけどね。今は義務として課されているから」
「やっぱさせられてんじゃねえか」
「フェリの意思よ。起きたらもう一度聞いてみたら?」
「ふぅん。・・・なあ、フェリはともかく、あいつらが俺を許すと思うか?」
イーダの視線はシュリーナウゼ隊に向かってる。
「いくらかの罰は科されるわ。でも命までは取られないでしょうねえ。フェリがそうしたいと思ってるから。フェリ、国のお偉方に顔効くのよ」
「そりゃ助かる」
軽口にしてもからりとして、私を魔獣に落とそうとした人物と一緒とは思えない。
あんたは世界なんてどうでも良くて、みんな苦しめばいいって思ってたんじゃないの?
「あんた、変わったわね?」
「そりゃあな。こいつもいるからな」
イーダは隣で眠っているティッテの頭を乱暴に撫でた。
「それにフェリが・・・、いや何でもねえ」
へへ、と鼻の下を人差し指でこすってる。
そういうのがムカつくのよ。同化、ほんとずるい。
「フェリ、もうあっち連れてってやれよ。夜風に当たりっぱなしじゃ、さらに熱上がっちまうだろ?」
「それ、あんたが言う? フェリがあんたのところがいいって言ったの。起きたときに別のところにいたら怒られるかもしれないじゃない」
「もう大丈夫だろ。怒られたら俺が庇ってやるって。お前にずっと起きて見張られてるの嫌だしよ」
「こっちだって願い下げだっての。 それならもう連れてくからね」
「おう」
片手をひらりと振ると、イーダはティッテの方を向いて毛布をかぶり直したから、私はフェリを抱き上げてみんなのところに戻った。
小さな光精に照らされた結界内は、ユスフ、セリスとフォーレのみ。フォーレは毛布をかぶって気持ちよさそうに眠っている。
「リーとマグ、レイハスは? 見張り?」
「シュリーナウゼ様の血術結界と、マグ様の精霊結界のダブル展開ですからね。不寝番は不要でみんな休んでます。休んでるというか・・・、あれでは今日は難しいでしょうね」
「プライド、ばっきばき。シュリーナウゼ様に付けられてたの、ハイクラス多かったし」
「こらこら、セリス。言い過ぎよ。治癒術を掛けて怪我が治っても体力は戻りませんからね。リー様、マグ様、レイハスは捕まえた男の尋問を行ってますよ。フェリシア様の方は? もうあちらにいなくていいのですか?」
「イーダがもう行けって。フェリの熱さがらないから、夜風に当てるなって」
「フェリ、垂らし込みの天才すぎ」
「私もそう思ったところよ」
セリスが呆れながらも立ち上がって、フェリの顔をのぞき込みにきた。
苦しそうにはしてない様子に、ほっとしてる。
「一時期、ほんと可哀想だったから。あんまり苦しそうじゃなくて良かった。今日、フェリすごすぎだし」
そうですねぇ、とユスフがため息混じりに同意した。
「本当に素晴らしい体験でしたわ。まだ祝福の息吹が大地に残っています。浄化される際のフェリ様の神々しさと言ったら、女神もかくやというほどの輝きでしたわ。閃光どころか光線放たれてましたし!! フェリ様光りすぎて姿を見失うほどでしたわ」
「きらきらじゃなくて、びかーーーってなってた」
「シュリーナウゼ隊の方々が ”光の女神” って呼んでましたよ」
「それ、フェリ嫌がりそう」
「当たり! さっき話したらすごく嫌がってたわよ」
「バンドラガルの聖女ですら嫌がってますからねえ。私もテラニード王国から帰都して、血術が上達したのは感じてましたけれど、ここまでとは・・・。王族3人分はございますよ? レイハスもセリスも心当たりありそうなのに教えてくれませんし。ラウラ様も教えてはくださいませんよね?」
しゅん、としつつユスフが上目遣いで聞いてくるけれど、神族になったなんて言えないし。
レイハスとセリスには直接話してはないけど、システィナは「お姉さま」呼びしてたし、なんとなく察してるんじゃないかなぁ。でも口に出したら消されそうだしね。リーとマグに。そりゃ言えないわ。
「ごめんね。言えるのは、伊達にリーとマグの主じゃないってことくらいかなぁ」
「私もテラニード遠征に行きたかったです!!」
「それは、ごめんね」
適当に答えつつ、ウォーターマットを敷いてフェリを横たえる。
「ん・・」
フェリが身じろぎして、擦り寄ってくる。
胸元にすりすりして落ち着くポイントがあったみたいで、顔を埋めて眠ってしまった。
「フェリ、猫みたい」
「ふふ、かわいいですね」
ユスフもセリスもにやにやして見てくるけど、私はテレとかないから。全然乗る。
「そうでしょ。かわいいでしょ。寝顔は見せないけどね」
毛布を引き上げちゃう。
「セリスもユスフも寝ないの? 不寝番いらずなんでしょ?」
「そろそろ寝ようと思ってた。私が先。おやすみ」
セリスがぐいっと毛布をかぶってこちらに背を向けた。
「不寝番いらないんじゃなかったの?」
「ラウラ様が起きてらっしゃるなら不要でしょうけれど、もしフェリ様とご一緒に眠られるおつもりなら、ここだけ張り直していただけませんか? フェリ様が入ってきて張っていたのは消えてしまったので」
「もちろん構わないけれど・・。魔獣は縛り上げてフェリの結界に閉じ込めてるんだから、警戒対象はシュリーナウゼ隊しかないんだけれど?」
「その通りです。あそこはシュリーナウゼ様を至上と崇める部隊ですからね。シュリーナウゼ様を脅かすような存在に何をしてくるか、私も分からないので念のためです」
「光の女神って言ってるくせに?」
「一枚岩ではないのですよ」
「ダルが直接弟子にしてるって知ってるんでしょ? 手に掛けてどうするの? 極刑コースじゃない?」
「それでも構わないといった輩もいるのです。それに、危険だと分かっていたからシュリーナウゼ様を先行させたのでは、と疑心暗鬼になっている者もいるようです。レイハスが心配していました」
「そんなわけないでしょ。分かってたら先行させるわけない」
「もちろん、フェリ様はそんな方ではありません。リー様とマグ様が仰っていましたが、シュリーナウゼ隊と我々は合同で森ネズミ狩りを行うそうですね?」
「別々に分けると戦力が偏りすぎるって、二人が言ってたわ。もし離れた時に、あの死神みたいな男の仲間がまた襲ってくるとも限らないしね。一緒に行動した方が守りやすいって」
「フェリ様をお一人にすることは無いと思いますが、気を付けた方が宜しいかと。我々もあちらの動向を注視しておきます」
「ありがとう。頼むわ」