忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
森ネズミの駆除は、あのあと数日の内にあっさりと終わった。
森ネズミ本体を浄化したことにより分け身は消滅、本体も力を使いすぎたのか、魔獣に落とされてから期間が長すぎたからか、フォーレのように精霊獣になることなく光となって消えていった。
フェリによると、あれが精霊の元らしい。フェリは原初の光と呼んでいたわ。
使役されていた他4体の魔獣も3体は光と消え、残り1体は鳶になった。フォーレが自分に乗って欲しそうだったけれど、爪が結構痛いのよね。
マグかレイハスのライトアーマーの肩口か、セリスと一緒に飛んで遊んでる。
もちろんフェリには格別に懐いているわ。
嫉妬?
そんなのしないわよ。
嘴でどうやってキスするの?
まったく問題ないわ。
シュリーナウゼ隊の不穏分子は、私たちが警戒していたこともあって、できること言えば不平不満を口にすることくらいだった。
忌み子を庇うなんておかしい、シュリーナウゼ様は嵌められたのだ、と言う忌諱派と、祝福と精霊たちの歓びを聞いた上で言っているのか!と擁護・崇拝派に分かれて夜な夜な意見を交わし合っているよう。
フェリはそんな状況を招いてしまった謝罪をシュリーナウゼにしていたわ。
シュリーナウゼ隊を伴っていることもあって、当初の目的の絵姿も買えず、ムームへも訪えず、王都へ真っ直ぐ帰ってくることになった。
その頃には、フェリの具合も良くなってきていたけれど、忌み子への批判や、フェリの祝福の効果が高すぎる、化け物ではないか、とあらゆる事に難癖をつけられて、暗い表情をしていることが多かった。
もっと助けになりたいのに、いろんな人がいるし、ここで彼らの言論を封じたら独裁者みたいでしょ? 彼らの言うことも一理ある。私は、人ではなくなってしまったから、と瞼を伏せたフェリに気の利いた事ひとつ言えなかった。
神族になっても、人じゃなくなるのは悲しいことなのかな?
「ジーン様はずっと人として在られてきましたからね。元々精霊の私たちとは感じるものも違うでしょう。フェリ様も今はまだ人としての意識がお強いと思っておりましたが、人間との付き合い方も早々に改める必要があるかもしれません」
リーが直接人と関わらせないことも一考する、と。
この世界の維持とフェリの安寧が我々の使命。
フェリが心細やかに過ごすためには、そうする事も必要なのかもしれない。
季節は7月に入るというのに、湖畔を渡る風が心地よく、木影にいれば暑さは感じない。
「そうそう、上手よ」
テラスではフェリがフォーレとティッテに文字を教えている。
そう、テラス。
白い瀟洒な椅子に飾り彫の施された見事なテーブル。
リーの私物だけれど、どれだけ溜め込んでいるのやら。ストレージに限りはないのかな。
振り返ればイルヴァング邸もかくやの豪邸が目に入る。
いつの間にかダルから土地を下賜されてたんだって。この辺一帯だけって聞いたけど、知らない間に豪邸建てて、フェリもびっくりしてた。
わたしたちが借りた小さな家は、少し悩んだけれど賃貸契約をやめる事にしたわ。
イーダとティッテを手元に置くことになったし、リーとマグもいるならあの家じゃ狭すぎるから。
またいつか必要になったら借りようってふたりでこっそり約束してるから、惜しかった気持ちもない。そのいつかが今から楽しみだし。
だって今度こそふたりきりだもの♡
「二人とも上手ね。その調子であと5回ずつ書いてみよっか。ラウは終わった? やる気ないわね?」
わたしの手元の黒板を見て、フェリが詰ってくる。
実はわたしも単語のテストさせられてるの。これ嫌いなのよね。
「だってぇ」
普段使うような文字は覚えたし。依頼書とか経理とか口にできるなら誰かに書いて貰えば良くない?
わたしは戦力をあげたいなぁ。
「だってじゃないわ。二人がこんなに頑張ってるのよ?」
「じゃあ、わたしの代筆はティッテに任せるわ」
ティッテの処遇はまだ決めかねていて、様子見となっている。
午前中にフェリと一緒にダルのところの稽古に付きそうのが、ここに置く条件。
イーダも一緒に行ってるけれど、彼は下男や小間使いとして働いてる。
ベアトリーゼ殿下が自分のところで引き取る、と提案してきたのだけれど、シュリーナウゼ隊の隊員の心境を慮れば、彼女のところに置いておくわけにはいかない。ダルとフェリが宥め、ダルのところで日中は面倒を見ることで着地した。
イーダと違ってまだ課されるものがないティッテは、嬉しそうにぶんぶん首を縦に振った。
「やります! ラウラ様のだいひつ! もじ上手になります!」
「ティッテ」
フェリがぽん、とティッテの頭を撫でた。
「炊事も家事も、なんでもやる気があって助かっているわ。でもラウも必要なことなのよ。・・少し休憩しましょうか」
そういうフェリに翳りがあって、今すぐ抱きしめてキスしたくなった。
でも流石に日中からできないから、柔らかな頬に触れて、顔にかかる横髪を耳にかけた。
「だいすき」
あ、間違えた。心話で言おうと思ったのに、つい口を突いちゃった。
途端にフォーレもティッテもあきれ顔になる。
「ほんとにラウラ様はフェリお姉ちゃんのこと大好きよね」
「そうなんだも。他人がいてもお構いなしにいちゃいちゃするんだも。ちゅうくらいだったら見慣れたんだも」
「えーー!? そうなの!?」
「よく朝やってるも」
おはようのキスかな。
べつにいいじゃんね? ショーツに手を入れてるわけでもないし。
ぼん、とフェリが真っ赤になる。
「私、お茶を淹れてくるから!」
ちょっと前だったらわたしの行動をたしなめて怒ってきたのに、勢いよく席を立って逃げるように邸内に入って行っちゃった。
お茶セット、ここにワゴンで置いてあるのに。
「二人とも、ここにいてね」
言い置いて追いかける。逃げられたら追いかけたくなるもの。
リーもマグも今は情報網の構築をするとかで、ここ最近日中は出かけていて不在なの。
立派なキッチンに立ち入ると、フェリが頬を左手で抑えながら、ポットを竈にかけるところだった。
「フェーリ」
呼んでるのにこちらを見ようともしない。
「ごめんって」
先手必勝。
後ろから抱きしめて、耳元でもう一度謝る。
「聞いてる? ごめんね? 朝のキス、止める?」
止めるつもりはさらさらないんだけど、フェリの意向を確認してみる。
伏せた瞼が悲しげに潤んでたかと思うと、じっと見上げてきた。
「ラウは? するの嫌だった?」
「ううん。わたしはいつだってフェリに触れるの好きだから。機会が減るのは悲しいよ? でもフェリが嫌な思いする方が嫌だから。嫌だったら止める」
フェリが反転してぎゅっと抱きついてきた。胸元に息がかかる。
「いやじゃない。・・・ラウとするのすき。・・・私、フォーレに言われて、どんな顔してラウとキスしてるんだろうって思ったら恥ずかしすぎて」
なんてかわいいの?
「フェリ、顔見せて?」
「やだ。まだ真っ赤だもん」
「ふふ。かわいい。だいすき。キスしたい。フェリのかわいい声ききたい。早く夜になればいいのにね?」
「疑問系なのやめて」
「わかった♡ 止めるから顔上げて。キスしたい」
おずおずと上げられた潤んだ瞳に、愛欲がみえて胸が熱くなる。
彼女をこうしたのはわたしだし、もっと深く与えてあげたい。
「フェリ、のんで。夜はフェリののみたい」
返事も待たずに覆い被さる。
瞼に、頬に、こめかみにキスを落として、ようやく薄い唇に落とすと、すぐにフェリが舌を伸ばしてきた。
熱い吐息とともに絡め合う。
小さな背をかき抱き、キスに合わせて背筋をなでる。
「はぁっ」
溢された小さな吐息すら飲み込み、あふれ出る唾液をフェリに注ぎ込む。
こくり、と上下する喉元。
わずかでもフェリにわたしの成分が入ってるかと思うと、うれしくてうれしくてうれしくて。
「だいすき。あいしてる」
「わ、私も」
「よる、いいでしょう? 明日安息日だし」
安息日はダルのところの稽古がお休みなの。
返事をくれる代わりに、フェリの口づけがさらに濃厚なものになった。