忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「フェリ、足下気を付けてね」
肌を刺すように空気が冷たくて、吐いた息が湯気のように真っ白に立ち上る。
月が煌々と照らすなか湖に張った氷の上に、そっと足を下ろす。
「大丈夫。水術でさらに氷分厚くしてるから。割れたりしないよ」
ふふ、と微笑んでラウが手を引いてくれる。
夏にはよく聞こえる虫の鳴き声や動物たちの息遣いも、真冬の今は聞こえない。
みんな自分の住処にこもってじっとしてる。
しん、とした空気に耳が痛いほど。
彼女の歩いたあとをもそもそと付いて歩く。
氷が割れないとしても、つるつるして歩きづらいの。
ラウが気がついて私の腰に腕を回してきた。
「すごいね」
ラウの視線を追うと、白い月の回りに満点の星空が広がっていた。
キラキラと耀く星々は、原初の光のよう。
「うん」
話題なんていくらでもあるのに、言葉少なにふたりで歩く。
あなたが触れてくれるところが温かくて、それだけで心が満ちる。
でもラウは、今日は少し落ち着きがないかな?
湖の真ん中当たりまで来ると、ラウの足が止った。
「あのね、みんなからは朝日が出てからにしたらって、ほんとは言われてたの」
「うん」
「でもね、待ちきれなくて」
「うん」
ラウがポーチから小さな箱を取り出した。ベルベット生地の高そうな箱だ。
そのサイズ感からさすがに察する。
「やり直しさせて欲しいの」
ぱか、と開いた小さな箱の中身は、想像したとおり指輪が収められていた。
暗くてよく見えないけれど、白いリングに宝石がついてる?
「今度は嵌めてくれる?」
期待と緊張で身を固くする彼女に、返す返事は一つしかない。
「ええ。喜んで」
挽回する機会を与えてくれてありがとう。
「どっちがどっちの指輪?」
「んーとね、こっち。わたしのリングにはペリドットが埋め込まれてるの。ほら、ね」
プラチナのリングに、月光により黄色くみえる宝石がきらりと瞬いた。
手袋を取って、リングを手にする。
ラウの温かい手を取るのを一瞬躊躇してしまう。
ラウに冷気は効かないけれど、私の手は冷たく感じるでしょう?
「早く嵌めて。フェリの手、しもやけになっちゃう。ごめんね、わたしのわがままでこんな寒いときにやらせてちゃって」
ぎゅ、と私の手を両手で包み込んでくれるから、そのまま彼女の左手を取った。
細く綺麗な薬指の第一関節を通し、第二関節でちょっと引っかかったから、ぐっと押し込んだ。
去年ラウが作ってくれた指輪はそのまま付けることにしたから、かちんとぶつかって高い澄んだ音が鳴った。
青い指輪と白い指輪。彼女の指に映えると思う。
「ラウ、だいすき。・・・愛してる」
少し照れくさい。
「わたしも愛してる。結婚してくれて嬉しい」
はにかんだラウが私の指にも嵌めてくれる。
左手の感覚が少し戻ってきたから、グーパーして指の感触を確かめる。
うれしい。
「ずっと大事にする。ずっと一緒にいるね」
ラウは出会ったときから、言葉どおりずっと大事にしてくれてる。
「うん。私にも大事にさせてね?」
「それは・・・、うん、まあ、・・・うん」
歯切れが悪いということは、分かってくれてるのね。
日が昇ったら私は15歳になる。もう数刻だ。
大人になったら、大人なことをする、とラウと約束している。
私を最後までもらってもらえるし、ラウのことを責めてもいい。
真っ白な大地と溢れそうな星空。
吐息がこぼれそうなほど綺麗な景色だけど、いまは――――――。
「せっかく連れてきてくれたのに申し訳ないけど、早く帰ろう? 誰よりも早く誕生日おめでとうって言ってくれるんでしょう?」
だから、2回目のプロポーズは明日じゃなくて今日だった。
誰よりも先に。
体も全部欲しがってくれたから。
「ええ! 飛ばすわ」
ラウが私を抱っこして氷湖を疾走した。
凍り付いた風が頬をきる。
でもすぐに熱くなれるのを知ってるから。
あしたもあさっても、その先も、あなたと――――――。