忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
作戦決行当日。
皆は日も暗いうちから群れB討伐に向かった。
私はカルロアさんに送られて本部で待機。
本部は群れBとCの間に設置されているそうで、群れAからDは南から北に向かって展開されており、南北に長い戦線となる。
ラウラがプティを私につけたと言っていた。何かあればすぐ駆けつけるって。
チームで作戦に当たっているのに戦線を離れるのは、役務規定違反になるのでは?
何かあっても自分で対処しなきゃ。
ひっそりと決意を固め神官の男との距離を測る。
本部にはギルド長と戦線との連絡係である風精使い、ギルドの事務方トップらしい初老の男性と、神官のラーフローおよび神官の護衛官が詰めている。
私はなるべく邪魔にならないようテントの端に身を置いた。
本部テントは四角い布を四方に張っただけの簡易なもので壁はない。
空はようやく黒から藍色へと変わりつつある。
ギルド長が各班の展開状況の確認を始めた。
「群れA、配置は完了したか?よし、群れBはどうだ?」
戦線の状況は風精が伝えてくれてるみたいで、大人たちが、うんうん、とかよしよし、と話している。
うまくいってるみたい。
ほっとしていると、群れDの順番になって、大人たちが血相を変えた。
「魔狼だと!? 群れDのオークは全滅!? そのまま戦線を離脱しろ。群れCBに合流。Bランクの二組は標的を魔狼に変更。仕留めろ!」
「ああ、そうだ!オーガキングは群れAで対処。難しいようなら、増援がくるまで持ち堪えろ」
「ラーフロー殿、群れDで魔狼にやられた者がこれから本部に来ます。治療をお願いします」
「分かりました」
「ちっ、俺も前線にでるか」
本部が慌ただしくなり、私も何か手伝えることはないかと思案していると、一陣の風が吹き抜けた。
冷たいそれに鳥たちが一斉に飛び立ち、森の気配が静まり返った。
あの時と似てる…。
ラウが魔物に変えられそうになった時と。
私は居ても立っても居られず本部テントから飛び出した。
ドガーーーン!
直後大気を震わせるほどの爆音が響いた。
精霊術を使ったのかな?
それとも魔狼の攻撃?
何にも分からないけど、大勢の人が行き交う気配はわかる。
大きな音がしている方へ必死に走った。
「フェリ!!」
木陰からラウラが現れて頭の先からつま先まで視線で確認する。
怪我はしてないみたい。よかった。
「プティが教えにきてくれた。現場は混戦だよ。魔狼とオークは共闘するわけじゃなくて、お互い殺し合ってる。人間も被害が出ないように防御メインで頑張ってるけど」
群れCのオークが群れDと混じり、魔狼が敵味方無しに暴れているんだ。
「魔狼は強いの? オーガキングくらい?」
ラウラの瞳が翳った。
「あれは魔狼じゃない。精霊が呪われてる」
「どれくらい強いの?」
「わからない。精霊術がほとんど効かないみたいなの。どうしたらいいか・・・。このまま逃げる?」
苦しげなラウに私は首を横に振った。
「いま逃げたら後悔するわ。そういう生き方は嫌。私を連れて高い場所に登って。戦況を確認するわ」
ラウは私を横抱きにすると、一望できそうな木に登ってくれた。
黒煙と悲鳴があちこちから上がり、木々の隙間から見渡す限り混戦が続いていた。
「いやぁ! 誰か助けてぇ!」
「こっちだ! 俺が相手になってやる!」
「班ごとにまとまれ! オークをまず片付けろ!」
「魔狼だ! みんな散れ!」
どうすればいい?
どうすれば助けられる?
いくつかの案がよぎる。
「ラウ、全員に能力向上の術をかけられる?」
「無理よ。印をつけた群れBのチームだけならできるわ」
「それでいいわ。とりあえずかけて」
「わかったわ」
ラウが精霊術を使っている間に、さらに目をこらした。
魔狼を相手に10人ほどの男女が相対している。Bランクの人かな。精霊術が効かないせいで、たびたび押し切られてC・Dランクの人に被害が出ている。
オーク戦にしても、オークがあちこちに点在している所為で、前衛が前、後衛が後ろ、といった陣形がとれずに攻守がうまく機能していない。
オークと戦闘経験のないDランクにCランクの指示が行き届かない。
一度撤退して陣形を整えようにもこれでは・・・。
どうしたら・・・。
そんな中、ラウが「あちゃー」と天を仰いだ。
「どうしたの?」
「わたしが急にいなくなったから、ケイナさんとサニクレアがぶち切れてるって」
ほら、あそこ、と指の先を確認すると、戦場のほぼど真ん中。
ぶち切れながらも2体のオークの相手をしながら、ほかのチームのDランクに指示出しをしている。
サニクレアさんの背後から棍棒を振りかぶったオークが躍りかかろうとしていた。
「ラウ!」
「アイスランス!」
頭の先から地面までを縫い付けられオークは即死したみたい。
「群れBチームのいるところに向かって」
「わかったわ!」
ラウが勢いよく樹を飛び降りるから、味わったことのない浮遊感に心臓が縮んだ。
こ、こわい・・・。
ラウが道々のオークを蹴り飛ばしまっすぐに群れBチームに向かう。
「着いたらこの地を中心に50メートルの円形結界を展開。人は出入りできるようにして。高さはさっき登った木の半分くらい。できる?」
「もちろん」
「結界を張ったら、オークを排して。群れBメンバーばっかりなんだから、人的被害を出さずにいけるわね?」
「もちろん! フェリの望みくらい叶えるわ!」
ラウは群れBチームに戻ると、氷霧結界とアイスランスをほぼ同時に発した。
氷霧の結界は私には見えないけど、大きな氷の槍が次々とオークに刺さるのは見えた。
見えるのと見えないのの差があるのは、また今度説明しようと思う。
私が目視で確認できる範囲内のオークは倒せたと思っていると、人には当たってないはずだけど文句が飛んだ。
「こらーー!! ラウラリーエ! 急に戻ってきたかと思ったら、大技使うな!びっくりするでしょ! でもグッジョブ!」
ケイナさんが片手をあげ、サニクレアさんもウインクしてきた。
「ほかに打ち漏らしない?」
「んーーー、大丈夫」
「プティはこの近くにいる?」
ラウが頷いてくれた。
「プティも手伝ってくれる? 仲間の風精に頼んで、Bランク以外のみんなに伝えてほしいの。結界を張ったから、この地で陣形を整えるようにと。無理してオークを倒そうとしなくていい。専守防衛に徹して、この地に撤退してって。結界はみんなの目から見えてる? 見えない人がいたら誘導して」
「プティ滅多に頼み事されないから喜んで飛んでったよ。あとはみんながここに集まればいい?」
「そうね・・・。この結界はオークに殴られても大丈夫?」
「魔狼はわかんないけど、オーガキングだって敗れないよ」
ドヤァと胸を張られた。
そばまで駆け寄ってくれていたケイナさんとサニクレアさんに伝えた。
「ラウに結界を張ってもらいました。ここを拠点としてオークを迎え撃ちましょう。治癒術が使える人は治癒を主にやってもらえるよう伝えてください。また、オーク討伐を行うチームと、逃げ遅れた人を回収するチームに分けて対応してもらえるようロアさんに伝えてもらえますか?」
「わかったわ。任せて」
ケイナさんが笑顔で請け負ってくれた。
「ラウラリーエとフェリちゃんは?」
サニクレアさんがラウラの袖を引く。
あんまり触らないでくれるかな。
ラウラが私をまっすぐ見つめてくる。サニクレアさんのことは本当に気にしていないみたいで、私も気持ちを入れ替えた。
「この結界があれば、オーク戦は大丈夫でしょう。私たちは魔狼に向かいます」
「やっぱりかぁ~」
サニクレアさんが頭を抱えた。
「Bランクチームが相手してるんだから、それで無理なら無理よ。態勢を改めて整えないと。だから、無理しない! 危ないときはすぐ逃げる! ラウラリーエ! 妹ちゃんと守るのよ!」
ケイナさんの指示に、ラウが首肯した。
「もちろんです。誰が死んでも逃げますから」
もう!そんなの良い笑顔で請け負わないで。
この地に味方が続々と集まり、混戦が収まりつつある。
「ラウ、行こう!」