忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
魔狼までラウは飛ぶように移動した。
私もただ抱っこされてるだけじゃない。オークと戦っている味方に大声で呼びかけた。
「結界を張ってあります!みなさんそこで立て直してください!治療も行っています!みんなが生きていれば必ず勝てます!1人で突っ込まないで!諦めないで!」
風精も伝えてくれているけど、言わずにはいられなかった。こういう時の鼓舞は効果がある。
挫けそうなときには、状況を一変させる目に見える分かりやすいものが必要なの。
あれがあれば、みんな頑張れるはず。
何度も呼びかけたけど、ラウが早すぎて・・・。みんな聞き取れたかしら?
「フェリ、あそこ」
ラウの目線の先に魔狼と戦うBランクチームの姿があった。
タンク役の大男が攻撃を防ぎ、両手剣を持った男がその隙に斬りかかった。
連携は悪くない。
切り付けられた脇腹から、黒い靄のようなものが湧き出した。
「くそっ!やっぱり効いてない!治療はどうだ?」
タンクが後ろの仲間に声をかける。
「だめよ!解毒も効かない!傷が広がってるわ!」
術士が叫んでる。
「このままではジリ貧だ。増援がくれば…」
オーク戦に目をやってる。援軍が来てくれる余地があるか測ってるんだわ。
倒れている男性を見ると、胸のあたりからあの黒い靄が見えた。
解毒術のレベルが低いのかしら?
ラウは回復術も攻撃術も元精霊だけあって行使できるレベルが高い。
「ラウなら治療できる?」
「無理よ。わたしにはできない」
「ラウにもできないの? 神官のラーフローさまは? ここに呼んでくれば…」
ラウが中空を見つめて、うんとうなづいた。プティと話してるみたい。
「神官は本部で治癒してるって。それに神官にはあの怪我は治せないよ」
ラウにはあれが何かわかってるの?
「忘れちゃった? わたしもあれに取り込まれそうになってたでしょ?」
穴狐の四肢が黒ずんでいたことをどうにか思い出す。
「あの時のこと、あんまり覚えてないの。どうやってラウは助かったの?」
ラウの口が真一文字に引結ばれた。
え? なにその顔。
「ええと・・・。なんて言ってたかしら? 私の血とことば?」
「覚えてるじゃない」
「よくは覚えてないわ。血も言葉もあげた覚えもないし」
ラウが私を抱きかかえ直した。
首筋にすりついてくる。
「あの黒い靄は、悪意よ。フェリの血と言葉にはそれを浄化する力がある。フェリが治るようにと思いながら血と言葉で表せば消えるはず」
ほんとに? そんなことで治るの?
「わかったわ。やってみる」
「フェリ、大好き」
すりついていた首筋に、ちゅ、と口づけてきた。
「ちょ、急にどうしたの?」
今度は頬にすりすりと犬のよう。
「あの人間たちは助ける価値ある? フェリの力見たら、調べられて忌み子だってばれちゃうかもしれない。それでも助ける?」
ラウラは優しい。
ぎゅっと抱きしめた。
「私、この町では優しくしかされてない。助けられるなら助けたい。もし、また・・・」
嫌われて刺されるようなことがあれば。
「他の町に行くわ。ラウは一緒に来てくれる?」
「もちろん!」
一点の曇りもない笑顔を見せてくれた。
「ありがとう」
私はけが人の治療に、ラウラは魔狼を抑えるために、別々に駆けだした。
けが人は4人。チームの半分弱。後衛の術士や弓士の攻撃はほぼ効かず、数名の前衛で魔狼の攻撃を凌いでいるよう。術士が回復に回っているが、黒い靄は少しずつ広がっているみたい。
私は左手の人差し指を少しだけ切った。
「フェリの血は本当に大切だから。1滴でいいんだからね。あげすぎないで」
ラウのアドバイス通り、ほんの少し。
「私にも治療させてください!」
術士はこんな状況で警戒する余裕もなかったのか、あっさりと向かいに座るよう促してくれた。
「あなた治せるの?」
「やってみますね」
「きをつけて。この黒いのに触ると移ってくるの」
男性の胸部は爪に引っかかれた深い傷とそこから黒い靄が発生している。女性が手を見せてくれた。手のひらが黒く染まってしまっている。
あちこちの地面からも黒い靄が出ていたのはこのためみたい。
「治癒も効きが悪くて、全然回復できないの」
男性の息は荒く、女性も泣きそうだ。
私も黒い靄に手を当ててみたが、私の手に移っては来ない。冷たくて氷みたいな気配はするけどそれだけ。
ん? それだけでもないような・・・。
じっくり感じ取ってる場合じゃない。
血を与えたなんて知られると気持ち悪いだろうから、黒い靄の上から手を当てて見えないようにする。
あとは気持ちとことば。
気持ちをのせて言葉を発した。
「あなたが回復しますように」
「ええっ!」
女性がびっくりした声にびっくりした。
効果はまだまだ薄いのに。
何をやっても効果がなかったから、地味でも驚いてくれているのかな。
黒い靄が煙のように少しずつ風に消えていく。
「大丈夫よ。元通りに治りますように」
男性の不安も消えるようにと、思いながらしばらく続けると、黒い靄が消えた。
ついでに女性の手も治しておく。
「治癒術お願いできますか?」
「ええ!任せて!!他の仲間もお願いできる?」
「もちろんです」
私が三人目の治療を終え、次のけが人に向かおうとしたとき、
「フェリ!」
ラウの鋭い声が聞こえた。
戦場とは少し距離をあけていたのに、魔狼が迫り鋭い爪を振りかぶっていた。
とっさに氣を両足にまとい、大きく飛躍する。
そこをどうしてかラウにキャッチされた。
「着地できたけれど?」
「だめっ!」
言い合いは後だ。迫ってきた魔狼をかわし、脇腹に蹴りをお見舞いして距離を取る。
私はさっと戦況を確認した。
大小の怪我を負っている者は多いが、致命傷の者は一人もいない。
ただ日も高くなりつつある。続く戦闘に疲労の色は濃い。
ラウも精霊術を打つのは止めて、身体強化のみに留めているみたい。
魔狼の背にいくつかのアイスランスが突き刺さっているけど、あまり効いてはいなさそう。
「フェリが回復してるって気づいたみたいなの。一応知性あるようね」
ラウにだっこ(再)されて、魔狼と対峙する。
両脇、後ろにランクBの面々が武器を手に構えてくれている。
「嬢さん、どうする?」
タンクの男がラウに尋ねてきた。
「フェリ、どうする?」
秒も考えずに丸投げしてきた。
「ちょっと待ってね・・・」