※この作品はR-18です。

忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん!   作:さとう_2701

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第15話 オーク戦6 祝福

 私だって戦況を正確に把握してるわけじゃない。

「膠着してるって思ってるけど、合ってる?」

「ええ。決め手がないのよね。わたしの攻撃も効かないけど、魔狼の攻撃もわたしにはあまり効かないわ」

「なんなら効くの?・・・て愚問ね」

 人間と違って大人しくしてくれるわけじゃない。

 

「ラウの時、私どうやって血をあげたの? ほんとに覚えないんだけど」

「わたしはあの地の精霊だったから、少しくらい離れててもフェリの血を享受できたの。でもこの魔狼は違う。直接与えないと駄目だと思う」

 小声でこそこそと話し合ってる間に魔狼がストーンバレットを放ちながら飛びかかってきた。

 

 ラウは素早く飛び離れ、後衛の術士が結界を張り、タンクは盾を構える。

「私邪魔でしょ?」

「フェリが狙われてるんだから、これがベスト」

 

 離してくれるつもりはないみたい。

 

「一回、魔狼の上にジャンプしてみてくれる? 飛び越す感じで良いから」

「わかったわ・・・。切りすぎないでね」

 私の手にあるナイフを見て不安そうに言ってきた。

 

「大丈夫よ。来たわ」

 魔狼がこちらに目がけて迫ってくる。

 私が左腕を切りつけると、ラウが悲鳴を上げた。

「切りすぎよ!」

 文句を言いながらも近くの木の枝に飛び乗り、反動をつけてジャンプしてくれた。注文通りの軌跡。

 

 気持ちと血とことば。

 

 何滴か魔狼にしたたり、黒い靄がわっと広がった。が、それだけだ。魔狼も体に寄ってくる羽虫を払うように体をふるっただけ。

 

「効いてるのかしら?」

「数滴だったものね。もっといるのかも・・・、て、だめ! やっぱりみんなで一度退こう?」

 

「退いてどうするの? 策は?」

「わからないけど、こんなの嫌だ」

 私の流れる血を見つめるラウの瞳が、不安で心配げなものから、うっとりとしたものに代わる。

 

「飲みたい?」

 

「飲みたくないときなんかない」

 私が小枝で怪我をしたり、指がささ剥けて血が出た以来、飲ませていないので久しぶりかも。

 

「どうぞ」

 

 気持ちと血とことば。

 

 ラウが私の傷口に舌を這わせたところを見計らって声をかけた。

「ラウの怪我が早く治りますように。私の血がラウの助けになりますように。祝福を与えられますように」

 言葉を重ねるごとに気持ちを重ねる。

 

 すき。

 だいすき。

 

 ズゥン、と全身が震えるような圧を感じた。

 舐めるようだった舌の動きが、傷口に吸い付いて血をすすって飲み出した。

 ちりちりとしてちょっと痛い。

 

「もっと飲みたい?」

 もっと切り裂くくらい何でもないけど?

 

 ラウが傷口の端から端まで丹念に舐め、すすり、ちゅぱっとようやく顔を上げた。

「だめ。これ以上は。おかしくなっちゃう」

 

 ラウの光彩が宝石のように輝き、魔狼が放ったストーンバレットを完璧にアイスランスで相殺した。

 ん? 太くなってない? ランスって言うより杭だったけど?

 

「ごめん、フェリ。今自制効かないから、ここで待ってて」

「う、うん」

「あの犬しつけてくるから。誰にも負ける気がしない。フェリの力、みてて」

 

 にこ、ていうには凄みがある笑みを浮かべて、ラウが地を蹴った。

 早すぎて目で追えない。

 次に目で終えたのは、魔狼の脇腹に回し蹴りを食らわせているところだった。

 さきほどとは威力が段違いで、蹴られた魔狼が樹に当たって、え? 止まらないの?

 威力が消せずに、二本の目の樹にまた当たって、ようやく止まった。そこにラウが追い打ちをかける。脇腹を上から地面に向かってたたきつけるように何度も殴り、頭にかかと落としを食らわせる。

 ぐったりしている魔狼の尻尾を掴んで、振り回したあげくに地面にたたきつけた。

 

 え~~、強くなりすぎでは?

 

 びっくりして見ていると、こっちきて!とラウからお声がかかった。

 駆け寄ると、ラウが口に手を突っ込んで、無理矢理上顎を持ち上げた。自力で閉じられないようにアイスランスを三本中に打ち固定する。ついでに四肢も杭を打たれて、地面に貼り付けにされた。

 ちょっと魔狼かわいそう。

「血、あげて。こんな奴にフェリの血をあげるなんて、ほんとに嫌なんだけど!!!」

「・・・うん」

 

 さっき切ったところはラウが舐めてしまって、出血は止まってしまっている。

 新しく切りつけて(それもラウは嫌そうに眺めていた)、魔狼の口に流し込んだ。

 

「あなたの中から悪意がなくなりますように」

 

 ラウが穴狐の姿で泣いて嫌がっていたのを思い出す。

 かわいそうに。

 この子もそんな目に遭ったんだ。

 

「こんな姿になりたくなかったよね。苦しかったよね。助けてあげられなくてごめんね」

 

 憎め憎めと言っていた年若いローブ姿の男が思い浮かんだ。

 

「誰かを憎まなくて良い。恐れなくて良い。あなたは精霊だったのでしょう? 世界を構成する尊い存在だわ。思い出して。こんな悪意は消し去りましょう?」

 

 話しかけ続けると、魔狼から声が漏れてきた。

『苦しかった』

『嫌だった』

『助けて。助けて』

 

「助けるわ。口に入れたの、飲み込める? ラウ、アイスランス消して」

「う”ーー」

 いやいやながらも消してくれた。

「フェリ、一歩下がって。四肢は縫い止めてるから飛びかかっては来ないかもだけど、噛みつかれる可能性はあるから」

 ラウの心配を余所に、魔狼は素直に私の血を飲み込んだ。

 

 魔狼のあちこちから黒煙が立ち上がった。

『もっと! もっとほしい!』

「図々しい犬ね! こっちの言いつけ通りにしないとまた口の中に杭打つから」

 がぱっと開けた口を急に閉じないようにラウが抑えてくれている。

 私はまた血を口の中に注いだ。

「大丈夫よ。あなたはあなたに戻れるわ。どうして見も知らない人の悪意通りに動かないといけないの? あなたはあなたの気持ちで生きていい」

 

 生木を燃やしたかのように黒煙が黙々と上がり、魔狼が苦しそうにのた打った。

『ああ! 無理。できない!』

『やれって! 憎めって! 黒く染めてこいって』

『くるしいぃ!! 痛いい!!』

 すんなりと浄化される黒煙がある一方で、魔狼の肉体にしがみつこうとする黒煙もある。 

 浄化されようとしている悪意が、魔狼にしつこくしがみついているんだわ。

 魔狼の瞳から涙があふれてきて、私は思わず一抱えもある頭に抱きついた。

「かわいそうに。もっと簡単に助けてあげられたらよかったのに。ごめんね」

 

『もっと!!もっと飲みたい!』

 今度は腕をもっと深く傷つける。

 どっぱりと血が出てすべて注いだ。

 

「フェリ!!!!」

 ラウが真っ青な顔で、こっちも泣きそうになっている。

 

 これで足りるかしら?

「あなたがあなたの意思で生きられますように。あなたの生が光り輝くものでありますように」

 祈り、願う。

 

 ぼふん、黒煙があたりを包み、警戒してラウが私を抱きしめる。

 風が黒煙をつれて中空に散って消えてしまうと、中から小さな子犬が現れた。真っ白な子犬だ。

「わん!」

「え”ーーー」

 ラウが心底嫌そうな顔をしている。

 

「魔狼は、このわんちゃんになったの?」

「うん。そうみたい」

 真っ白で利発そうで可愛い。わんわんと足下に擦り寄ってくる。

「よかったぁ。これで一件落着ね」

 

 あれ? オーガキングはどうしたかしら? オーク戦は大丈夫?

 いろんな事が気になったのに、視界が暗んでよく見えない。ちりちりと首筋が熱くて冷や汗が止まらない。

 

「ラウ・・・」

 ごめんなさい。立ってられないかも。

 

 

 

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