忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
ふかふかの温もりに気がついて、ついすり寄った。
朝晩は本当に寒くて、以前は手足の感覚がなくなったものだけど、今はぜんぶが温かい。
温かいのは幸せなことだな、と思う。
彼女の顔が見たいのに、ちょうど顎の下に私はすっぽりとはまっているようで、体を起こさないと見えなさそう。
少し体を起こそうと思っただけなのに、あれ? 動かない?
彼女に体を絡め取られているから、というのも一理ありそうだけど、それにしても?
一年前頃に刺された頃と似ているかも。
出血しすぎてしまったのね。
みんな無事だったかしら。
気になることはあるけど、見慣れた暗い部屋は森の小屋のものだ。
すーすーとラウの寝息が頭上から聞こえ、心が穏やかに跳ねる。
いつもの家。
いつもの夜。
気になることはあるけど、また明日でいい。
いまはただ、温もりに浸ろう。
ふかふかの胸に顔をうずめ、目を閉じた。
パチっと薪の爆ぜる音と、いい匂いが鼻をついて目が覚めた。
「あっ!起きた!」
なぜか私が起きたことを瞬時に察知して、キッチンにいたはずなのに、一瞬で隣にいた。
「おはよう。フェリ。いまご飯作ってたの。食欲はある?」
「ええ。いい匂いがするなと思って目が覚めたの」
「ご飯の用意するから少し待っていてね」
「私も手伝うわ」
体を起こすと世界がぐるんと回った。
急に体を起こしたからかな。少しすれば収まると思う。
なのに、ラウにシーツに横にされてしまった。
「一人で準備できるから、フェリは横になってて」
いそいそとキッチンに立ってくれる。
私は横向きに姿勢を変えてラウを眺めた。
今日の彼女は髪を下ろし、ふんわりしたワンピース姿でとっても可愛い。
冒険者用のレザー製のワンピース姿の時は、邪魔にならないようにポニーテールだし、まあそれなりね。でもラウの可愛さが損なわれるわけじゃないから、けっきょく可愛いけどね。
数ヶ月前に逆戻り。
調子に乗ってしまったみたい。
私のことは重くないと言ってくれるけど、北の森から小屋まで連れてきてくれたということ。かなりの距離ね。
「運んでくれたんでしょう? ごめんなさい。 あれから何日経ったの? みんなは無事だった? オーガキングは倒せたの?」
謝罪し、気になっていることを次々に聞くと、ラウもスープをよそったり、パンを用意しながら答えてくれた。
「ううん。わたしはフェリとくっつけて嬉しかったよ。なかなか起きてくれないから心配ではあったけど。ふふ。一年前の冬の時に比べたら全然だけどね。心臓もちゃんと動いてたし。いつか起きてくれるだろうなって思ったから、安心して待てたよ」
一年前、心臓止まってたの? 気になるけど今は生きてるから、まあいいか。
「あの日からは二日経ってるよ。フェリのこと、どうして治療しないんだって空気になったから、抱っこして抜けてきちゃった。報酬ももらってないの。ただ働きになっちゃった」
はは、とから笑いするラウに頭が下がった。
「ごめんなさい・・・。もうバンドラガルには行けないわね。それで、みんなは無事だったの?」
覚悟の上でやったこと。行けなくなってしまうのは仕方ないわ。結果さえ手に入ればそれでいいの。
「それは・・・」
ラウが話しかけたところで、ばあああん!と玄関戸が倒れた。開いたのではなく、内側に倒れたわ!
蝶番おかしくなってたから、いつかこうなるとは思ってたけど。
部屋にはラウもムームもいたから、完全に油断していた。びっくりして体が1cmは浮いたと思うわ。
「わん!」
玄関には真っ白な子犬がいた。えぇと、あれは魔狼?
わんちゃんの前には同じくらいの大きさの兎がぐったりと横たわっている。
「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわん!」
私を見つけるとまっしぐらで走ってきて、くるくるくるくると周囲を走り回る。横になってるのに目が回りそう。
「犬!お座り!」
わんちゃんは首をぷん、と横に振ると私に擦り寄ろうとしてきた。
秒でラウが間に割り込む。
「触って良いなんて言ってないでしょう。同情はしてもこれは別。でも自分の食い扶持を自分で獲ってきたことは偉かったわ。食べるときは外で食べてね。血が滴っちゃうから。はい、ハウス」
人差し指を外に向ける。
それはさすがに可哀想。
「天気が良いなら私たちも外で食べましょう? シート敷けば良いし」
「わんわんわんわんわんわんわんわんわん」
わんちゃんが嬉しそうにぴょんぴょんしている。
「フェリは甘いわね。甘くなかったら私も、この子も助かってないけど。大好き」
ちゅ。
いきなりキスしてこないで! ちゃんと顔を洗って歯磨きしてからがいいのに。
ん?
さっきまでわんわん煩かったわんちゃんが、急に大人しくなったわね?
ラウがなぜかわんちゃんに鋭い瞳を向けた。
「間違わないでね? わたし、許せないから」
「くーーーん」
わんちゃんの尻尾が脚の間に挟まれた。
「ラウ、わんちゃん怯えてるじゃない。いじめないでね。もと精霊同士でしょ? おいでわんちゃん」
わんちゃんをお腹のあたりに誘うと、「まって!」とラウがわんちゃんの首根っこを掴みあげた。ぷらーんと宙に浮かぶ。
「この子を可愛がってもいいわ。我慢する。でもペット以上の行為はだめ。フェリがしていいのは、なでなでと抱っこだけ。それ以上は許せないから。ほっぺた舐めさせたり、口の周り舐めさせたり、脚舐めさせたりも駄目だから」
注文多いわね・・・。
「わかったわ。おいで~、わんちゃん」
「わんわん!」
ふわふわでかわい~。よーしよしいい子。少し毛がごわついてるところがあるわね。
「あとで一緒にお風呂入りましょうか」
「だめえええ!」
広い家でもないのに、声を張りすぎじゃない? 耳がキーーンとしたわ。
外で食事をし、入浴後フェリはまた眠った。
大丈夫だろうとは思うけど、話し声で起きちゃうかも知れないから、わたしとムームは外に出た。犬もね。二人っきりにさせておくと、勝手に舐めちゃうかも知れないからね。
晩秋の風が冷たい。犬が身震いしている。ムームはもともと石なので寒さは感じないみたいだけど、障壁を張って風を防ぐ。
「プティ、話を聞かせて」
プティはあの後わたしたちとは別行動を頼んでいて、ついさっき帰ってきた。
小さい人型をしたプティは頬をぽりぽりとかいた。
『ラウラの想像とは違った方向で大騒ぎになってるぜ』
どういうこと? と話の続きを促す。
『フェリさまが聖女様ってもちきりだよ。忌み子だなんて疑ってもない。神官の野郎も会いたがってたから、会ったらばれちゃうかもしれないけどな』
「やっぱり町にはもういけないわね」
『それがよ、そうもいかないみたいだぜ』
「どうして?」
『魔狼は浄化できたけど、飛び散った悪意が森にまだ残ってて侵食が始まってる。早めに手を打たないと魔の森に変わっちまうぜ』
犬がしゅーんとしているので、抱き上げた。
「あなたの所為じゃないでしょ」
『でもこちが南下したからあの森が・・・』
「呪われてしまったらどうしようもないわ。南下しなかったら他の場所が侵されていただけだし。それより・・・」
またフェリに血を流せというの?
「何かいい手はないかしら?」
一同を見渡すと、ムームが声を上げた。
「300年前はそれぞれの領主が癒し手じゃったがのう。そのための領主じゃったが今は変わってしまったかの?」
プティがくるり、と空中を一回転した。
『どうかなぁ。昔と違って大地に祝福してるなんて話は聞かないなー。ほかの風精にもあたってみるけど。もし領主が癒し手だったら放っておいていいってことだな』
「そうじゃの。だが領主が癒し手ではなかった場合、フェリ様にお願いすることになる。時が経てば経つほど、フェリ様の負担が大きくなる…」
うーむ、と唸ったムームが改めて切り出した。
「状況から、北の森にはフェリ様の血が残っていると思うのじゃ。新しく流さずとも、フェリ様がそれらを感じ取ることができれば、浄化できるのはないかの?どちらも並行して行ったらどうじゃろう?今は時が惜しい」
ムームの言う通りだ。
領主がダメだった場合はフェリにお願いするしかない。
『おっけー。仲間にも声かけて、領主探ってくる!北の森で集合だな!』
言うだけ言うと、プティは飛んでいってしまった。風精は落ち着きのない者が多い。プティはその典型ね。
「フェリを寝かせておいてあげたいけど、そうも言ってられなくなったわね。抱えてわたしも移動するわ」
『こちも行きたいも!』
犬がぴょんぴょんしている。
うーん。連れて行って役に立つかな?
隙あらばフェリを舐めようとしてこない?
「留守番でよくない?」
『嫌だも!自分の後始末くらいせめて見たいも!』
それはまあそうかも?
「しょうがないわね。大人しくリュックに入っててね」
『やったも!』
リュックに数日分の荷物を詰め込み、一番上に犬をのせる。顔だけは出してあげるか。
リュックを背負い、最後にフェリを抱き上げた。
「…ラウ?」
「起こしてごめんね。まだ寝てて」
「うん」
素直に眠る彼女の頬に口づける。
ほんとにかわいい。
「ラウラリーエ、フェリ様が困っておったら伝えて欲しいのじゃ。血と言葉と想い。想いはより強くイメージすると叶いやすい。自分がどうしたいのか強くイメージするのじゃと。あと、最初は己の血を感じにくいかもしれんが、フェリ様は氣を使われるじゃろう。その要領で、ご自分の血を感じとれると思うのじゃ。頼んだぞ」
「わかったわ!」
夜気がフェリに当たらないよう障壁を張ると数日前たどった道を駆け出した。