忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
風が冷たい。
ただ冷たいだけではなくて、足下から湧き上がってくるような冷たさ。
隣にはラウがいてくれて、背に腕を回してくれている。
わんちゃんのフォーレはさきほどの結界のところで待機。ラウは私謹製の肉体だそうだけど、フォーレの素体は雪狼らしく、悪意への耐性は低いのだそう。また黒い靄がくっついたら可哀想だしね。
「もし気配が分からなかったら、ふつうに浄化しよう。魔狼を浄化するのと違って、血も少しでいいと思うから」
「ええ」
私は地面に両手をつき、自分の地の気配を探した。
氣の要領って聞いたけど。
ムームの提案も悪くないように思うけど、悪意にまみれている地なら、それ以外を感じ取る方が早いような気がする。あのとき私は魔狼を助けたいと思っていたから、その気持ちを呼び起こす。
魔狼を浄化してあげられますように。助けてあげられますように。
目をつぶると昏い中で、淡く蛍のように光る地点がぽつぽつと視えた。
氣を練るように気持ちを練る。
対象を魔狼から悪意へと換える。
おなじ忌み子のあなたに尋ねてみたい。
だれかを呪って訴えて、あなたは救われた?
友だちはできた?
お腹は膨れた?
あなたはどんな風に生きてきたの?
だれも親切にはしてくれなかった?
だれもあなたを導かなかった?
今のあなたが一人じゃないといい。
今のあなたが空腹じゃないといい。
あなたが呪う以外の方法で世界と関わりを持てているといい。
あなたにも大好きと言ってくれる人がいるといい。
ラウが好き。
何も持っていない私が、持っている唯一。
その気持ちだけで地に染みこんだ血が呼応して光り出した。
あなたを否定するわけじゃない。
私もずっと独りだったから。
さみしい、は誰かがいてくれて初めて分かるのよね。
ずっと胸の真ん中がすーすーしてても、これがなんなのか分からなかった。
あなたにもきっと誰かがいたのよね。
あなたがまた誰かと一緒にいられますように。
あなたがさみしいとみんなを呪うなら、私があなたの幸福を祈るから。
点在する光をもっと広げるにはどうしたらいいかしら?
ムームの言葉を思い出す。
イメージ。
地面に染み込んだひかり。
点を面に広げるには?
点在するひかりを広がるようにイメージする?
もっといい方法があるような…。
ひかり。
払暁の流星。
左手が動かなくなる前、得意の得物は弓だった。
よく使っていた戦技はストライクショット。
イメージが固まる。
ラウと過ごす結界のなか。
闇が晴れるときの煌めきのように。
私は地に染み込んだひかりを感じ取りながら、氣を混ぜ天に向かってストライクショットを放った。
ドームのように広げ、あとは重力に任せて落ちてくるのを待てばいい。
ひかりが小さな小さな流星となって森に大地に降り注ぐ。
「すごい!」
隣でラウが息をのんだ。
手のひらに流星を受け感触を楽しんでいるみたい。
「光の慈雨。ほんとうに恵みの雨」
「えぇ? 流星のつもりで打ったのに」
「流星?」
目を細めて破顔された。
「可愛いわね。冒険者たちが騒ぎ出したわ。帰りましょう」
「ええ」
「森にいた冒険者の人たちも浄化されたから大丈夫でしょうけど、討伐隊の中で悪意が付着した人はいなかったの? バンドラガルの町にもかけた方がいいかしら?」
流れるようにラウに抱っこされた。
「町の様子みたい? ・・・うん、・・・うんうん」
プティと話してるみたい。
「自然物と違って人間の場合は悪意の進捗がそこまで早いわけでないらしいわ。国王に救援要請してるんだし、誰か派遣されてる来るだろ、てプティは言ってるわ。わたしも賛成。これ以上は人間に任せておきましょ」
「・・・ええ。そうよね」
「どうかしたの? 町に行ってみたいの?」
いったんは心を落ち着けたのに、冒険者たちを見ていたら懐かしくなってしまった。
何でも言って? とラウに促される。
「ケイナさんやサニクレアさんたちに会いたいの。心配してくれてるんじゃないかって思うから。もうバンドラガルには行かないでしょう? 挨拶だけしたいなって」
「もちろんいいわ。顔を出して帰りましょ」
「ありがとう。・・・あと、少しゆっくり帰ってほしいの。来るときは早くて楽しめなかったから」
ラウには申し訳ないけど、抱っこが好き。
密着できてふかふかで、夜共寝するときとは違った味わいがある。
「もう急いで移動しなくていいでしょう?」
なかなか返事がないので、ラウの外套を掴んで見上げると悲鳴が上がった。
「ふぁあああ!なんて可愛いの!!!」
ちゅ、ちゅ、と何度もこめかみにキスされた。
「わんわんわんわん!」
フォーレが怒った。
通訳されなくても、なんとなく私にも分かる。
「いいから早く出発して!て言ってる?」
「分かった?」
ふふ、と二人で笑みを溢し合った。