忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
場所を移動して話を聞くことになった。
通された個室はやけに広くて、10人は座れるようなテーブルに、調度品、ソファなどもある。来たこともない高級店。
わんちゃん連れで大丈夫?って思ったけど、いいんですって。
イルヴァングさんは何も気にされてないように真ん中に掛けたので、私はフォーレを抱っこしてその向かいに、ラウは私の隣、シェラはイルヴァングさんの隣に掛けた。
イルヴァングさんに仕切られるとろくな事がなさそうな気がしたので、私から切り出す。
「それで、精霊力過多症に私が有効とはどういうこと?」
「はは。飲み物が来る前から早いねえ。言葉の通りだよ。フェリシア嬢は精霊力過多症のことはどこで?」
「嬢はやめて。過多症のことは本で少し読んだだけよ」
私がイルヴァングさんと話しだすと、不機嫌なラウが椅子を寄せて腰に手を回してきた。何かあれば抱いて逃げるということかな。
「なるほど。多くの本は忌み子、いや愛し子だけどね。この件を抜きにして書かれている。愛し子に精霊術は効かないが、術士に触れるだけで霊力を散らす力があるんだよ。逆に言えば、愛し子に触られていると術が発動しない。経験があるだろう?」
確かにハイエヴァーで暮らしていたとき、シェラの精霊術が暴発しそうな場合は触れて止めていた。
「触れるのが過多症に効果があるの?」
「ある。少なかれね。それでシェラは国に愛し子との定期的な接触を申請していて、国が保護している何人かの愛し子と接触もしてみたんだが、効果が薄くてね。微熱と倦怠感が続いている。最近は授業にも差し障りがでていて、困っていたんだ」
「えーと? それで効果は薄いのよね? どうして私?」
「ちょっとシェラに触れてもらえないかな?」
「は?」
ラウから聞いたことがないような低い声がでた。
「どうしてフェリがその子を助けないといけないの?」
目つきも悪くて威圧がすごい。
「同郷のよしみで・・・いや、言葉を濁すのは止めよう。シェラから聞いていたんだよ。ハイエヴァーの愛し子の時は霊力の放出を体感できるくらいだったと。同郷のフェリシアならこの子を助けられるんじゃないかとね。バンドラガルの報告書を読んで藁にもすがる思いで調査に来たんだ」
「それで? どうして助けてあげないといけないの?」
ラウの態度は取りつく島もない。
「もちろん相応のお礼もさせてもらうつもりだよ。捜索願の取り下げは当然としてね」
「わたしはシェラロッテに聞いているわ。どういうつもりで助けを乞いに来たの? フェリをあんなに傷つけておいて、よく言えたわね」
私だってびっくりするくらいの圧を掛けられているのに、シェラロッテはどこか上の空。
名指して責められて、ようやく目の焦点が合ったような・・・。瞳は潤んでるし、微熱って言ってたから、熱が上がってきたのかしら?
「父の件に関しては謝るわ。あなたの所為で父が病気になったなんて・・・」
「その件に関して謝罪は不要よ」
私だってラウから聞くまでは自分の所為かもって思ってたから。
世話役のタニア、その夫で下男のギムニ、それにおじい様、その上仲良くしていた子のお父さんだなんて・・・。私に関わる人は早くに亡くなってしまう・・・て思っていたから。
「ラウ、私は別にシェラの所為で傷ついてなんかないから」
「泣いてたでしょ。湖で。それ見て許さないって思ったの」
「あ、あれは、えっと・・・」
見られてたなんて思ってなかったから。
かあっと顔に熱が集まる。
「私が悪かったから」
シェラのためになんて、地理や歴史なんかを教えた気になって、王都に行った彼女から半年後くらいに手紙が届いたの。
私から教えてもらったことなんか全然必要じゃなかったって。精霊術士だって分かってたくせに、どうして早く教会に行くよう進言してくれなかったのかって。田舎暮らしなんかほんとに無駄で、私と過ごした日々も無駄だったって、書かれていて・・・。
私と仲良くすると、町の人からは仲間はずれにされてしまうだろうから、私なりに悩みながら彼女に接していた。
霊力がうまく扱えず、術が急に暴走する彼女にとって、私は唯一傷つかない人だろうって思ったから。
悩みながら過ごして、それなりに仲良くなったと思ったのは私だけで。
彼女にとっては仲間のいる王都の教会で過ごす方が良かったんだろうなって、思って。
自分でも納得しているのに、悲しくて湖で泣いてしまって。
いまさら急にそんな話を出されても、動揺しちゃうじゃない・・・。
「あれは私が思い上がっていただけよ。止めて、そんな話」
「どんな内容だったかも覚えてる。プティが教えてくれたの。ほんとあれだけのことをしてもらって、こんな仕打ちしてきて、シェラロッテなんて大嫌い。助ける義理なんかない」
「すまないが、話がみえないんだが? うちの子が何かしたのかい?」
注文したお酒と料理が届きだしたが、給仕の人は険悪な雰囲気にかかわらず、淡々と用意していってくれる。
「王都行ってから手紙かいたでしょ?」
「ラウ! やめて!」
「忌み子なんかと過ごした日々は本当に無駄で、どうして同じ町で育ってしまったのかと嘆いているところですって」
「やめて!」
ラウの口を塞ごうとしたけど、力じゃかなわない。
「ごめんね。フェリ。少し我慢してね」
腕を押さえつけられてしまった。
「もっと酷いこと書いてあったけど? これでどうして助けてなんて言えるの? 恥を知らないの?」
シェラロッテの顔が困惑に満ちた。
「し、しらない。わたしそんなこと書いてない!」
「ああ、なるほど」
イルヴァングがつるりとした顎を撫でた。
「シェラ、手紙は教会経由で頼んだだろう?」
「はい。無料でハイエヴァーまで届けてくれるって言われたから」
「教会経由で配達される手紙は検閲が入るんだよ。検閲とは名ばかりの悪趣味な嫌がらせだがね。愛し子宛と分かって書き換えられたんだと思うよ。シェラはそんなことを書く子じゃない。フェリシアとどんな風に過ごしたのか、今日授業で習ったところは、君に教えてもらっていたところだったって、嬉しそうに私に教えてくれていたんだからね」
これを聞いて私は納得したのだけれど、ラウの態度は一貫していた。
「証拠は? 書き換えられたって証拠。それを見つけてからにしてくれる? っあ、ごめんね。押さえたままだった」
「ううん。大丈夫」
「フェリ、もういいでしょ。行きましょ」
ラウが席を立って腕を取ってくるけど、それでも、私は・・・・・・。
あの町は私がおじいさまから託された町で、追い出された今でも助けを求める領民がいるなら、私はそれに応えなければならない。
「ごめんね、ラウ。私やっぱり・・・」
「フェリはもうダインガルドの教えを守る必要ないでしょ?! 追い出されたのに! それにシェラロッテももうあの町の住人じゃない」
「わかってるわ。・・・分かってるけど、ごめんなさい。自分を曲げられない」
助けてって言ってる人を拒絶できるようなったら、私は私じゃなくなっちゃう。
「んもう! フェリのばか! お人好し」
「ごめんね」
「今日はいつもの3倍してもらうから!」
そんなので許してくれるんだ。
「ふふ。わかったわ」
私は悄然とするシェラロッテのそばに立つと右手を差し出した。
「特効薬試しましょう?」