忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
年が明けた。
早速翌日から、養父にくっついて納品先まで足を運ぶことにした。
町の宿屋のこともあれば、鍛冶屋、領主の館のこともあった。
そんな生活を十日も過ごした頃、とうとう彼女と会うことができた!
年末に話を聞いた養羊業を営む家畜小屋にその姿はあった。
弱った羊を膝に抱き、頭を優しくなでていた。服が泥にまみれていても関係ない。暗い小屋の中でも彼女の茶色の髪は光が当たったよう。
何をしているのか養父に視線で問いかけたが、教えてくれなかった。
養羊のおじさんに話しかけるわけにもいかない。
小屋の地面に座り込んでいる彼女を無理に外に連れ出すわけにも行かず、ただじっと視線を送った。
その次に彼女と会えたのはふた月も過ぎた頃だった。
あたりは短い春を迎え、緑が芽吹き花々が競うように咲いていた。
領主の館に薪を届けに行く途中、森の際を歩く彼女を見かけた。
質素な貫頭衣を着て、足下は逆に高そうな革靴。周囲にはいつもの精霊たちだ。
すぐに駆け寄りたいが、背中には養父を手伝って薪を背負っている。
彼女の姿を目に収めながらダージリウスについて歩く。
領主の館の裏側に回り、使用人用の戸口に立つ門番に声をかけて中に入る。
彼女の姿が見えなくなりそわそわするが、我慢だ。
指示された場所に薪を下ろす。
もう手伝い終わり!!
背負い縄を養父の手に渡し、一目散にかけだした。
入るときは身元を確認する門番も出て行く者には注意を払わない。
彼女を最後に見かけたところにはもういない。
西に向かって歩いてるみたいだったけど。
注意深く辺りを見回すと、森の中に白い貫頭衣が見えた。
よかった! まだいてくれた!
すり切れた革靴で必死に追いかけた。
声をかけられたらよかったが、ぐっと我慢する。
あと3メートルまで迫ったところで、彼女が立ち止まり振り向いてくれた。
新緑のエメラルドグリーンの双眸と視線が絡む。
彼女はびっくりした様子で、山道を脇にどけようとしてくれるが、わたしはお構いなしに彼女の腕をつかんだ。
「!?!?!?!?!?」
さらに彼女はびっくりし、硬直してしまった。
彼女に会えたら、なんと言うか、シミュレーションだけはたくさんした。
逃げられないように手をつかんだまま棒を取り出すと、地面に書いた。
『はじめまして。わたしはシェラロッテ。あなたの名前を教えてほしい』
彼女はさみしげな表情を浮かべると、小さく顔を横に振った。
「えーと、声は聞こえる?」
わたしが頷くと、彼女は告げた。
「ごめんなさい。名前は忘れてしまったの」
そんなことある!?
出鼻をくじかれて二の句が継げずにいると、そっと手を外された。
「あなた木こりのところの子でしょう? 教わらなかった? こんな風に触ってはだめ」
確かに失礼だったかもしれない。
『ごめんなさい』
「わかってくれればいいの。それじゃあね」
むんずと彼女の服の裾をつかんだ。
「まだ何か用があるの?」
こくりと頷いて、地面に書いた。
『どこに住んでいるの?』
『町に来たりする? 見かけたことないんだけど?』
『どんなお菓子が好き? わたしは木の実のクッキー』
『どんな本を読んでいるの? もし持っていたら貸してほしい』
『どうして精霊をたくさんくっつけているの?』
エメラルドグリーンの瞳が丸くなった。かわいい。
「家はこの先にあるわ。町にはいかない。お菓子はあんまり好きじゃないの。本は・・・ごめんなさい。あなた、礼拝には行っていないの?」
こちらをまじまじと見つめてくる。
『教会にお祈りに行くこと? ダージが信者じゃないから行ってない』
「ああ・・・。そう、そうなのね」
肺の奥から取り出したようなうめき声だった。
何か悪いこといったのかな?
『礼拝に行った方がいいの?』
「・・・それは彼が決めることね。何か理由があるんでしょう」
そのまま立ち去りたそうだったけど、つかんだままの裾を改めて引いた。
『本は貸してくれる?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ、わかったわ」