忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
雨の日は好きだ。
家の手伝いとして薪や木材を売りに行かなくていいし、家でずっと本を読んでいられる。
ただこの前借りてきた本は読み終わってしまった。
続き4冊はあったな・・・。
まだ朝ご飯を食べたばかりだけど、雨の日なら彼女も家にいるはず。
本を片手に養父のダージリウスに外出の身振り手振りをする。
むっと眉をしかめられたが、川カエル製の合羽を羽織って家を飛び出した。
家から彼女宅までは四半刻ほど。
川カエルはこの辺に出没する魔物で、その皮を剥いで作った合羽は防水性が高い。
ブーツもいい職人のものであれば重宝すると聞いた。下手な職人が作った製品だと、縫製が雑で水がしみ出してくるらしい。
わたしのブーツはもちろん普通の革靴だ。
水たまりはちゃんと避けなくちゃならない。
彼女の家までは森のふちを歩いて行けば着く。
わたしの家は森の裾にあるし、彼女の家もおなじ。町と領主の館を眺めながら、しっとりと濡れた道を歩く。
何件かの家を通り過ぎたがひっそりと静かで、森からはたまに鳥の鳴き声が聞こえた。
三日ぶりに訪れた彼女の家の外壁には、もう壊れた椅子は置いてなかった。
ノックをして家に上がり込むと、彼女はこちらに背を向けて、かまどで何やら煮込んでいる様子。
合羽を脱いで近づくと酸っぱい匂いがする。
鍋の中は真っ赤だ。
「いらっしゃい。木イチゴでジャムを作っていたの。蜂蜜も手に入ったから大工のところの子どもたちも喜ぶと思って」
蜂蜜!!!
わたしも大好物なので、彼女の袖を引いてアピールするとうっすらと微笑んでくれた。
「あなたも食べたいのでしょう? まだ煮込まないといけないけど、お昼すぎに来てくれるなら少し分けてあげられるわ」
『お昼までここにいたい』
彼女は考え込む表情をしたけれど、外に目線をやってから頷いてくれた。
「わかったわ」
ぱあああ、と気持ちがはじけると同時に、彼女を取り巻いていた精霊たちの数体が急にこちらに擦り寄り、突風が吹き荒れた。
「!!?」
慌てて彼女にとりつく。
風がぴたりと止んで、いたずら好きの精霊たちはちょっぴり頬を膨らませたが、彼女に寄り添っていた精霊たちに叱られ、うなだれている。
急でびっくりしたけど、彼女のとなりにいるかぎり安心だ。
「お茶を入れるわ」
空気を変えるように彼女が提案してくれてる。
うん!と大きく頷くと、彼女はまたいつもの優しい笑みを浮かべてくれるのだった。
くつくつと木イチゴが煮える音と、薪が爆ぜる音。
わたしが繰るページの音。
ふと本から顔を上げて鎧戸の外に目を向けると、しとしとと雨は降り続いていた。
状況は自宅と変わらない。
ダージがいて、わたしがいて。
ここにはダージの代わりに彼女がいて、わたしがいて。
ダージも彼女も無駄話はしない。
静かなのはどっちも変わらないのに。
ぴったりとはまった感じがするのはどうしてなんだろう。
彼女がかまどに掛けていた鍋をキッチンのテーブルに移動する。
ジャムできたみたい!
お味見したいとそわそわしていると、こちらに気づいて苦笑された。
「もうちょっとまってね」
小麦粉、卵、牛乳と高級な材料をボールに入れて混ぜ始めた。
フライパンにたっぷりのバターを広げて焼いていく。
食べてなくても匂いだけでわかる!
これは絶対おいしい!
彼女は不安そうに何度もひっくり返し、わたしは本を読む気にもなれず、彼女のまわりを熊のようにうろつく。でも熊ほどは大きくないから、犬?くらいかも。
「できたわ」
わたしの席に置かれた木皿の上には、分厚めのクレープに赤い木苺のジャムがかかり、さらに蜂蜜もうっすらかかっていた。
めちゃくちゃおいしそう!!!!!
さっそくフォークを手に取り食べようと思ったが、彼女の皿にはジャムも蜂蜜もかかっていない。ただのクレープが一枚きり。
「甘いのは得意じゃないって知ってるでしょ」
知ってる。
そう言っていつもクッキーも譲ってくれる。
でも口に入れたジャムはそこまで甘いわけじゃない。すっぱいところもあるのに。
自惚れそう・・・。
本当はわたしにたべさせたくてジャムを作ったんじゃないかって。
わたしがこの前クッキー食べれなかったの気にして・・・。
「おいしい?」
深くうなずいた。
おいしくて脚が勝手にぱたぱた動いちゃう。
優しくしてくれる彼女がすき。
わたしも優しくしたいな。
いつのまにか雨は止んだようで、窓から光が差していた。