忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
ズガーーーーン!!!
養父ダージの斧からゆっくりと煙が立ち上る。
ダージの目の前の木は真っ二つになって地面に転がっている。
何回見ても意味がわからない。
男子だったらテンション上がるかも。
あきれ半分でダージを見ると、さらに隻腕で持ち上げた斧が風を切り、無駄な枝を落とし角材に成形していく。
あるいは薪に切り刻まれていく。
このむちゃくちゃな威力は、戦技と呼ぶらしい。
体内の氣を操り、武器に乗せて放っていると聞いた。
氣は誰の体にも巡っているものなので、すべての人が使えそうだけど、わたしは使えない。
まずは氣を感じ取るコツ? 勘?が大事らしく、感じ取れてもそれを体になじませ練り上げる努力が必要らしい。
王宮勤めの兵士になると必須の能力になるのだとか。
切られた断面は冬だったら湯気が立ち上がるほど上がっているが、焦げるほどではないし、すぐに冷める。
わたしは薪を拾うと、家の裏の壁際に積んでいった。
生木は燃えにくいので、乾燥させる必要がある。
すべて並べ終えると、今度は乾燥し終えた薪をロープでひとまとめにしていく。それを背負子に乗せ、わたしも少ない方を背負った。
今日は懇意にしている養羊家の家にいく。
今朝急に養羊家の息子が伝言に来た。
息子はわたしと同い年で、身長も服装も似たようなものだ。ぼろ一歩手前の服を着ている。
「にっ・・・に・・に・・・・にににに」
に?
「にく!・・・きっ・・・・・・・・・きき、ききっ・・・きき!」
き??
言葉が出なくて苦しそう。
顔を真っ赤にして、胸元をぎゅっと握りしめて伝えてくれる。
何が言いたいんだろう?
集中して聞いていると、こちらまで苦しくなってくる。
「きっ・・・きっきき・・きょっきょ、きょじゅっきょうじゅ・・・き・・・・・・・・・きき・・・きょうじゅう!!」
ぱあ、と彼は表情を明るくすると、こちらに伝わっているかどうかまでは確認せずに、扉をばんっ!! と締めてしまった。
えっ?
何が言いたいか結局わからなかったので後を追おうとしたが、後ろ姿はもう森の立木の陰にかすんでいた。
「ペニッツェは足が速いな・・・」
ダージも呆れるほどの足の速さだ。
息子ペニッツェは緊張しいの人見知り。こうして伝言に来るのは慣れた人の家だけ。
「肉を今日中に取りに来いってことなんだろうな」
今日薪の納品の約束をしているところは何件かあるが、そのあと向かえばいいのかな。
わたしはこくりと頷いた。
町に薪を納品した後、牧場に向かった。
なだらかな丘陵に白い点がぽつぽつと見えるようになると、養羊家まであと少しだ。
白い点は毛が伸び始めた羊たちだ。春に切り、冬までにもっと伸びる。のんびりと草を食んでいる。
牧羊犬のラットと追いかけっこをしている子羊も見える。
さらに進んでいくと、緑だった牧草地が荒らされ、茶色い地面がむき出しになっているところがあった。
争った跡?
遠目には木柵が壊され、簡易的に補強されているみたい。
家に近づいてみると、わあわあと賑やかで、庭先で狼の解体作業が行われていた。
逆さづりにされた狼が1体、解体が終わった毛皮の部分は大きな木桶に入れられ、塩にまぶされている。
女たちは肉を薄切りにし、干し肉も同時に作っているよう。
「おーう、遅かったな」
養羊家のポールズおじさんが片手をあげて挨拶してきた。
わたしがその場で頭を下げると、ダージも「おう」と片手をあげた。
「2頭か」
「いや、6頭だった」
「6頭!?」
さすがのダージもわたしも驚いた。
「よく無事だったな」
「領兵も手伝ってくれたし、姫もな」
「そうか・・・」
姫?
領主様の娘さんかな?
息子もいたような・・?
興味がないから全然わからない。
狼退治を手伝ってくれるなんて戦技がつかえるのかな。
女なのに戦場に立てるということはそういうことなんだろう。
ポールズさんは解体の手を休めないままダージに話しかけてくる。
「うちも羊をやられたからな。2頭はうちの分ってことで置いていってくれたんだ。あとは向こうの取り分さ。こっちも解体の手が足りないしな。隊長さんもよくわかってる。・・ペニッツェ!」
大声で呼ばれると、どこからかペニッツェが現れた。
「かあちゃんから肉受け取って、姫さんに届けてくれ」
”姫さん”の単語を聞いただけで、ペニッツェの瞳がぱぁっと輝いた。
こくこくと頷いている。
ペニッツェは作業台で肉を切り分けているハンナおばさんから肉を受け取って、ほんとの風のように走って行った。
「お前んとこはどうする? 肉持って帰るか? 夕飯にはちと早いがうちで食ってくなら、このまま焼くぞ?」
ポールズおじさんはダージとわたしにそれぞれ視線をくれる。
そこにダージの視線も重なった。
こんな大人数と夕飯とかむりむりむりむりむり。
首を左右にぶんぶん振ると、「まあ、だよな」とポールズさんはにっかと笑った。
「うちの奴も話すの苦手だからよ。黙ってたってうちの奴なら気にしねーから。気が向いたら今度一緒に食おうや」
こくり、と頷いて返事をすると、ハンナおばさんがロープに吊した肉の塊をダージに渡してくれた。
「領兵の話だと森が騒がしいらしいのよ。今回は領兵が来てくれたけど、いつでも来てくれるわけじゃない。戦技が使えるダージリウスさんにお願いすることもあるかもなんだけど・・・」
言葉を濁すハンナさんにダージは大きく頷いた。
「無論だ。声をかけてくれ。駆けつける」
「ありがたいわ」
ハンナさんが顔をほころばせた。
ダージが狼を相手にするところを想像してみたが、負けるところは少しも思いつけなかった。
ダージならポールズさん一家も羊も守ってくれるはず。
少し誇らしい気がする。
そこにペニッツェのお姉さんのミリシアさんが話しかけてきた。
「ロッテちゃんはこっち持って帰ってね」
急に近寄ってこられたから、どきりとしたが、変な事象は起こらなかった。
彼女で少しは耐性がついたのかも。
籐篭を渡された。見るに服のようだ。
「前からお下がりあげるって言ってたでしょ?」
そういえばそうだった。
今着ている服は母が町で買ってくれたもので、ずいぶんとぼろになり、丈も膝も出てる。
「・・・・・・・・・」
言えない代わりに地面に書いた。
『ありがとう』
「これなんて書いてくれたの?」
ミリシアさんの質問にダージが答えてくれる。
「ありがとうだ」
「へぇー!ロッテちゃん文字かけるんだね!今度文字教えてほしいくらいだよ」
わたしは話さないので、教えるのは難しいかもしれないけど、ミリシアさんが言った言葉を文字にするくらいはできる。あとダージの通訳があればなお完璧だ。
わたしはまたしてもこくりと頷いた。