忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
いざというときに頼まれたダージだったけど、声がかかることもなく2週間が過ぎた。
町の人の世間話によると、ここよりずっと遠くの方でスタンピードが起こったらしい。
今日もこの町、ハイエヴァーは平和そのものだけど、まもなく行われる水霊祭に向けて少しばかり騒々しい。
「祭りは明後日か。そろそろ行ってみるか?」
ダージは勘違いしてる。
わたしがそもそも外に出たのは彼女に会うためで、ダージの手伝いをしているのは成り行きだ。
いままでの謝罪も込めて少しは手伝おうと思っただけ。
人が苦手なのが治ったわけじゃないし、今も急に話しかけられないよう周囲に気を配ってる。
ドキッとして力が暴走しないように。
人混みの中で力が暴走して誰かを傷つけるなんて嫌だ。
ぶるぶると首を横に振った。
それなのに、配達先の何軒かの子どもたちからも一緒にお祭りに行かないかと誘われた。
特に商いをやってる家の子のキースやジェシカは文字が読めるから話が通じる。
「ねぇ、一緒に行こうよぉ!」
ジェシカは右腕をぎゅっと抱きしめながらお願いしてこられ、意思が傾ぐ。
ジェシカはふわっふわの髪を使用人に結い上げてもらって、服もレースがついた可愛らしいものだ。
『人混みが嫌だから』
鉄の意志で断ったのだが、キースがパン!と両手を合わせた。
「それなら、裏通りいけばいいじゃん。お祭りの屋台でしか食べれないペニエとか串焼きの肉とかでるんだよ! 買って空き地で食べよ!」
何それおいしそう。
わたしの鉄が食い意地に負けそうになっているのを敏感に察したジェシカがとどめを刺してくる。
ぎゅっと抱きしめてきた!
「私とキースで守るから! いいでしょ!」
待って待って!
大分慣れてきたとはいえこの距離は慣れない!
離そうとするがジェシカ、案外ちから強い!
「ふっふっふ。うん、て言ってくれたら放してあげる」
コクコクと頷いたのに、離れてくれなかった!!
「わ~い!やったぁ!」
さらに力強く抱きしめられた。ぐぇっ。
やっと放してくれた。
「シェラと一緒に行けるの楽しみ!」
素直に向けられる好意に、胸がほんわりする。
「やったな!」
キースとジェシカがハイタッチする。
なんだそれ。
作戦負けってこと?
でも不思議と嫌な気はしない。
「祭りは二日あるから、初日な! 二日目はそれにあれだろ」
キースの声が小さくなる。
二日目は教会による説法があるのだ。教徒は参加しないといけないらしい。
『わかった。初日ね』
祭りの初日、お下がりの服の中でもキレイ目のワンピースを着てジェシカの家に向かった。
大通りはなかなかの賑わいでぞっとする。
人の賑わいに精霊たちも興奮するのか、いつもより多くの精霊が漂っている。
裏の小道を抜け、ジェシカの家の裏口に到着するとキースが待ってくれていた。栗色の髪はきちんと櫛が通され、短パンにシャツとめかし込んできている。
「よ! ジェシカ待ってるぞ」
頷くと、裏口から家に連れ込まれた。
「シェラきたぞー」
「ありがとうございます。お待ちしていました」
迎え入れてくれたのは、この家で下働きをしている女性だ。
「待ってたわ! シェラ! こっち、私の部屋に来て。キースはそこね」
「わかってるよ」
ジェシカの家は家具を扱う大店で、私室の家具もそれは立派なものだ。白い飾り板に宝石があしらわれ、彫りもすごい。蝶とか天馬とか彫られてる。
鏡台の前に座らせられると、ジェシカが髪を梳ってきた。
「ずっとやってみたかったんだぁ。シェラ、あんまり髪の毛梳かしてこないでしょう? せっかくまっすぐで綺麗なんだから、ちゃんとしたらもっと可愛よ。梳かすのは私がするね! 結うのはシトラにしてもらお」
いちおう寝癖は直してきてたけど、まだだめだったか。
好きに直してもらおう。
絡まっていたところもジェシカがやさしく解いてくれる。
次にシトラがサイドを何本か小さめの三つ編みにして、それを後ろで一つにまとめて結い上げてくれた。
鏡で見てもすごくかわいい!
結い紐も赤と黄色の組紐で、それだけでもかわいい品だ。
お礼の代わりに深々とお辞儀をすると、二人とも喜んでくれた。
「シェラ似合ってる!」
「ええ!とってもお似合いです!」
キースに見せると、にっこりと喜んでくれた。
二人に連れられて、お祭りの穴場にむかった。
まずは肉汁たっぷりの串焼きを買って、食べながら裏通りを通って子ども向けの屋台が連なっている場所へ。
子ども向けって聞いたときはなにがあるのかなと思ったけど、昆虫同士の決闘をしてたり、小鳥を売っていたり、小さい太鼓やボールなどを売ったりしていた。中には虫かごやよく飛ぶ水鉄砲も売っていて、ちょっとほしかった。
そこで今度は度数のないシードルを買って、飲みながら店先をひやかした。
キースが前を歩いて、ジェシカが手を引いてくれる。
人が少ないところを選んでくれているのがわかる。
心配していたけど、だれにぶつかることもない。
ふと、彼女のことがよぎった。
お祭りには来ないだろうな。
彼女のことは誘えなかった。
誰にも自分のことを話すなと言われたし、町の人が彼女のことを嫌っているのも知ってる。
ふたりならもしかしたら・・・。
彼女と仲良くしてくれるかもしれない。
話さないわたしともこんなに仲良くしてくれるんだし。
ふたりにちょっと聞いてみよ。それぐらいならいいよね。
ジェシカを腕にくっつけたまま路地に入り込む。
木の棒を取り出して地面に書いた。
『ふたりは森の彼女のこと知ってる?』
キースがああ、と得心した顔を見せてくれた。
「あれだろ。西の森に住んでるってやつだろ? とーちゃんから危ないから近づくなって言われたけどな?」
キースがジェシカに同意を求めると、彼女も頷いた。
「そうね。まあ森なんて行かないけどね」
「なんで急に気になったんだ?」
キースの低い声に、やっぱりいい感情はもっていないみたい。
『町の人が話してたから。危ないって。どうして?』
なるべくそっけない風を装ってみた。できるかわからないけど。
「シェラは教会に行ってないからわからないと思うけど、教会には司祭様がいて病気や怪我を治してくれるのよ」
それは知っている。コクコクと頷いた。
「あ、しってた? それで、森の子はその御業が効かないらしいの。呪われた存在だから近寄ってはいけないとお父様から言われたわ」
効かない?
精霊に好かれるから、精霊たちが勝手に何かしてるんだと思ってたけど・・・。
よほどきょとんして見えちゃったのか、ジェシカがさらに教えてくれた。
「そういう人はたまに生まれてくるそうよ。何年か前にそういう人が原因で大勢の人が亡くなったって聞いた。だから近づくなって。シェラは見かけたことあるの? だから気ににしてる?」
話を聞いてもどういうことか理解できない。
『大勢亡くなった、どうやって?』
「んー、よくわからないけど、人も地面も真っ黒になったって聞いたけど。お父様もあまり詳しくは知らないみたいだったわ」
真っ黒? 火をつけてたのかな?
具体的にイメージできないな。
『そうなんだ。ありがとう』
「危ないからシェラも近寄っちゃだめよ」
大人たちから聞いた話ばかりで、キースやジェシカが直接会ったわけじゃない。
会ってもらえれば、彼女が悪い子じゃないってわかってもらえると思うんだけどな。
なにかきっかけがあればと思うけど、ふたりはいい子だし、言いつけを破るようなことはしないだろうな。
とりあえず頷いておいた。