忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
お祭りの二日目。
借りた本を持って、わたしは彼女の家にむかった。
昨日からわたしはもやもやしていた。
彼女とキース・ジェシカを会わせるためにはどうしたらいいか?
町の子は森には来ないけど、彼女なら町外れくらいなら行ってるみたい。
キースとジェシカは町外れの小麦畑や牧草地に用はないだろうしなぁ。なんて言って連れ出したらいいんだろう?
木々が濃い緑の葉を広げ、揚々と生い茂る中、夏の日差しから身を守るべく木陰を選んで歩いた。
トントン。
ノックをするが、返事がない。
扉を開けて中を見てみたが、小動物一匹いなかった。
今日はいないのか。
残念に思いながら、新しい本を手にとると家をでた。
動物たちもいないの珍しいな、と思いながら歩いていると、緑色の精霊が元気に飛び回っている姿が見えた。
近寄ってこられて力が暴発すると困るので、さっと隠れる。
来るときにどうして気がつかなかったかな?
目を焼くような強い陽光を逃れ、一歩森に足を踏み入れると、ふだんと様子が一変していた。
森がきらきらしてる?
水色や茶色、緑、いろんな精霊たちがはしゃぎ、森の奥へと向かっている。
さっき飛んでいった緑色の精霊が友達なのか、ほかの精霊を連れて、すごい勢いで奥へ向かっていた。
なんだろう?
そう思いながら、私は何があるのかは薄々わかっていた。
彼女だ。
彼女が森の奥にいる。
精霊たちを追いかけ、わたしも森の奥へと向かった。
普段は踏み込まない奥地でも不安は感じない。
細い細い獣道。苔むした足下には、わたしと変わらないサイズの足跡が点々と残されていた。
勇気づけられてさらに進むと、ちらほらと動物たちが目についた。木に隠れるように座り込んでいる。
わたしをみてびくっと体を震わせるが、近づいてこないのを感じるとそのままじっとしている。
なにをしてるんだろう?
疑問はまもなく解消された。
澄んだ歌声と流れるような旋律。
たどり着いた光景に息をのんだ。
森の奥は木々が途切れ、燦々と光が注いでいた。魚の鱗のように湖面が煌めき、大木の下にはリュートを抱えた彼女が動物たちを相手に演奏をしていた。
〜いのち尽きし彼の羽は、風に吹かれて求る
彼の君に、ああ届かんや届かんや〜
耳を澄ませているのは動物たちだけじゃない。精霊たちも彼女を取り巻いてうっとりと聞き惚れている。
そんな中、ふと視線を感じて顔を向けると、湖の畔に精霊たちを従えるように人と同じサイズの精霊がこちらをにらんでいた。
何かした??
びっくりするぐらい睨んでる。
体は半透明で水色。聖霊かもしれない。
身動きとれずににらまれていると、演奏を終えた彼女がわたしに気がついてくれた。
「あなた、こんな奥までどうしたの?」
聖霊の視線を感じながら彼女に近づく。地面はゴツゴツしていて書きづらそうだったので、彼女の左手を借りた。
『本を借りたんだけど、精霊たちが騒いでるから来てみた』
「精霊が騒いでるの?」
うんうん、と肯定する。
『たくさんいるよ』
「ふーん? そうなんだ。なんでだろうね」
と彼女は興味なさそう。
何を言ってるかはわからないが、彼女にいつも付き添っている精霊たちの表情がしょんぼりしたものに変わる。
人間サイズの精霊もしゅーんとしている。
精霊たちは彼女のことが好きなんだなぁ。
でも精霊の話をすると彼女はいい顔しないので、鈴なりで見てるよ、というのは止めておいた。
『いつもここで歌ってるの?』
「月に1度か2度くらいかな。この子たちが歌ってほしいっていうから」
彼女の前にはいつメン(兎、狸、狐、鼠、蛇)が陣取ってる。
歌は誰に教わったの? て聞こうとして止めた。きっとどうせスルーされる。
『もっと聞かせて。すごく上手だったから』
彼女はうっすら微笑むと演奏を続けてくれた。
いつメンたちから少し間を開けて地面に腰掛ける。
彼女はわたしと動物たちだけに向けて演奏しているつもりだけど、多くの観客がいる。
精霊たちが乱舞し、木漏れ日とあいまって星を振りまいたみたい。
キラキラ、キラキラと夢のような光景。
何年も何年も、この光はわたしの胸を焼いた。
「ぐっすりと眠っておられますな」
フェリシアたちと別れた後、シェラロッテを連れて宿屋へ戻ってきたが、未だ起きずにすやすやと寝入っている。
「ああ。こんなところで出逢えるとはね。なんて僥倖だ。日頃の行いがいいのかもしれないね」
おどけて見せたが、執事のスペイタスは鷹揚に頷いただけだった。
「左様でございますな。お茶のおかわりはいかがでしょう?」
「頂こう」
スペイタスは老齢だ。今度の旅は別の若い者を同伴させようと思ったが、可愛がっているシェラロッテのこととあって付いてきた。
微熱が続き体力の低下した彼女が眠る様に、鉄面皮もほころんでいる。
「フェリシア様とラウラリーエ様はいかがでしたか?」
イルヴァングは茶器を手に思い返した。
ダインガルドの孫娘、クロシード子爵第二子フェリシア。
そもそもシェラロッテが手元に転がり込んできたのも幸運というより他ない。
通常、精霊術士の才を認められ、僻地から上京する際は寮に入れられることになる。シェラロッテも半年ほど入っていたのだが、霊力の暴走で寮が半壊し、イルヴァングのところまで話があがってきたのだ。
初めて顔を合わせた時は、シェラニエルとそっくりの容姿に目をむいた。
残念ながら彼女は亡くなっていたが、娘のシェラロッテをも失うわけにはいかない。
「利発そうな子だ。シェラロッテと相性もいい。契約者として申し分ない。ただラウラリーエがねぇ。今日の様子ではうんとは言わないかも知れないね」
「フェリシア嬢のご状況を伺いますに溺愛も頷けるかと」
「そうだねぇ」
フェリシア周辺のことは一年前のダージリウスの葬儀の際に調査した。
まずはシェラロッテが聞かされていなかった名前から始まり、子爵家の令嬢だということは簡単に調べ上げられた。
フェリシアの父ガイハルトが忌み子を厭い、祖父のダインガルドが面倒を見ることになったのだ。
ダインガルドが死去した後は放置されていたが、町の人との交流もそこまでは悪くなかったらしい。
確執が広がった訳も調査の結果判明している。証拠もこちらの手の内にあるが、他家のことだ。手札として使うまでは寝かせておこう。
また、姉とされるラウラリーエのことは一切分からなかった。城の者に聞いても、フェリシアに姉はいないと皆が口をそろえ、バンドラガルでの調書に出てくるまで一切その名が出てきたことはない。
フェリシアとの容姿の類似性から血縁なのは間違いないし、今日の話を聞くに、ハイエヴァーにいたことも間違いなさそうだ。
城のどこかに幽閉して育てたにしても、世話をする者の証言が得られるはずだが、それもなかった。妾腹の子で余所で育てたのか・・・。それでもどこかしら証言が出そうなものだが。
「まぁ、契約者の話自体は悪い話ではないからね」
「左様でございますな。1ヶ月ほどで来ていただけるとのこと。準備を進めておきましょう」
「ああ、頼む」
ふくふくとした香りが部屋に満ちる。
イルヴァングも明るい未来に胸を安らかに眠れそうだった。