忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
第29話 王都
王都は王宮を中心にその周囲に貴族街が広がり、その周囲に平民街が広がる。平民街へは身分証さえ見せれば入れるが、貴族街へ入るためには特別な身分証か、あるいは紹介状が必要なのだそう。
なのだそうだけど。
外門の入り口で筆頭執事のスペイタスさんが馬車を控えて待機しており、身分証や紹介状などの提示も一切なくイルヴァングさんの屋敷に連れてこられた。
ほんとにお屋敷で、メイド達が並んだ奥にイルヴァングさんの姿を見つけて冷や汗がでた。
イルヴァングさんについて調べたら、肩書きは術士軍司令官補佐。術士軍No.2ね。そのうえ、隣国の貴族なのだとか。
いくらシェラのことがあるとは言え、場違いすぎる。
「フェリシア!待ってたわ!」
シャルロッテが駆け寄って来たが、もちろんの如くラウが間に入った。
「勝手に触らないで」
メイドを筆頭にこの屋敷で働く者たちの雰囲気が固くなったのを察知する。
敵意や殺意ではない。
シェラロッテが邪険に扱われることへの単純な驚き。
この空気は苦手ね。
好意へ変えられた試しがない。
驚きは非難に変わり、より強い嫌悪に変わる。
「よく来てくれたね! 待っていたよ!」
緩和するかのようにイルヴァングさんが話掛けてくれたけど・・・。
屋敷の者は総勢8名。そのうち6名は武術を修めてるみたい。隙がないもの。
スペイタスさんとイルヴァングさんも何か事を構えれば向こうに着くわよね。
Aランク相当のラウと、ほぼ戦力のない私とフォーレ。
まったく相手にならないわね。
もし自分一人だったら、どうなろうと案内されるままに屋敷に入っただろうけど、ラウやフォーレに何かあったら後悔しきれない。
「イルヴァングさん、ごめんなさい。申し訳ないけれど、打ち合わせは別の場所がいいわ」
今度こそメイドたちから声にならない悲鳴が聞こえた気がした。
表情から、なんて失礼な、と思ってるみたいね。
シェラロッテはきょとんとしている。
「お茶やお菓子も用意してたんだよ? 王都にいる間はこの家に住んでもらおうと思って部屋も用意してたんだけど」
「ごめんなさいね、シェラ。こんな立派なお屋敷、私には分不相応よ。それに広くて落ち着かないわ」
「わたしも最初そうだったよ! でも住んでる間に気にならなくなると思うけどなぁ。みんな優しくていい人ばっかりだよ?」
あなたにとっては、そうなのでしょう。
「ごめんなさい」
重ねて謝る。
「いやいや、こちらこそ意向も聞かずに済まなかった。茶屋などはどうだろう?」
「何人お連れになりますか?」
スペイタスさんや後ろのメイドたちに目を向けると、老執事が一歩前に出た。
「私だけです。よろしいですか?」
高齢とは言え、スペイタスさんもかなりの手練れと見受けられる。が、これ以上の要求は難しいかな。
場所を変え改めて話し合うことになった。
案内されたのは、貴族街にある高級茶屋店。私たちのような冒険者然とした者は一人もいない。綺麗に着飾ったドレスにギラギラしたネックレスや指輪。イルヴァングさんがいなかったら、叩き出されてるんだろうな。
その三階の個室に通された。
スペイタスさんは壁際に立ち、テーブルには着かないみたい。
イルヴァングさんの隣にシェラロッテが腰掛けるべきと思うのに、こちら側に身を寄せてきた。
「もう触れてもいい?」
1ヶ月前ほど体調が悪そうにはみえないけど。
おでこを触ってみるけど、熱はなさそうね。
「ええ。良いわよ。どうぞ」
左手が不自由なことをシェラには伝えていない。
弱いところを見せたくないので、差し出したのは右手。
ぎゅーと抱きついてきた反対側をラウに取られた。
「わたしはこっちね」
どういうこと? ラウは精霊力過多症じゃないでしょ。
私はシェラとラウに挟まれる形でテーブルに着くことになった。その上、膝にはフォーレが乗ってきたので、身動きとれない。
「はぁぁぁぁ、ほんとにきもちいい」
シェラがお風呂に入ったみたいな声を上げる中、私はイルヴァングさんに切り出した。
「以前話したときは、週に2回程度というお話だったはずですが? お屋敷に住んだら、週2回というお話の前提が崩れませんか? それにご準備いただいたところ申し訳ありませんが、そちらのお屋敷のお世話にはなりたくありません」
イルヴァングさんは怒るでもなく代案を出してくれた。
「そうか。それは残念だが、それなら家を借り上げよう。貴族街の方が治安も良いし、それでいいかな?」
「いえ。平民街で十分です。それに住むところは自分たちで決めたいので。お家を用意してくれるというお話はなしで結構です」
イルヴァングさんの息のかかった家だもの。何か仕掛けられているかも知れない。用心するに越したことはない。
「そうかい? それなら住居費も含めて報酬を払おう。週に2回、時間は2刻。月に20金貨でどうだろうか?」
「20・・・金貨ですか? 銀貨ではなくて?」
金額が違いすぎて心臓がどきどきする。
「銀貨ではまともな宿は借りられないと思いますよ」
スペイタスさんが教えてくれる。
一緒にいるだけで月に20金貨?
それだけ精霊術士の価値が高いということなのかしら。
精霊術士の平均的な給金が分からないから、高すぎると思うのかも?
「10枚でももらいすぎと思いますが・・・」
「いやいや、家を借りて、食費や細々したものも必要だろう? 20金貨くらい月にかかるだろう?」
お互い目を見合わせて、え? と首をかしげてしまう。
「イルヴァング様のおっしゃる通りかと。宿賃で金貨8枚、食費、雑費でそれくらいかかりましょう。こちらが王都へとお呼びしたのです。生活できるようきっちりお支払いいたします。お嫌かも知れませんが、食事や洗濯などの雑務をこなすメイドも一人つけたいところです」
もしかして家事できないと思われてる?
スペイタスさんの視線が左に注がれているような? ばれてたのかしら?
必死に振る舞ってたのだけれど?
「左手のことを仰っていますか?」
「はい。バンドラガルから調査報告書も上がってきておりますので。承知しております」
「時間はかかりますが食事は用意できてます。 何を心配されているのか、分かりかねるのですが?」
老執事の目がぎらっと光った気がした。
「失礼ながら言わせていただきますが、フェリシア様は栄養が足りておられないようにお見受けいたします。田舎は調味料が少なく、味も代わり映えしないでしょう。うちの者であれば、美味しい料理をご提供いたします」
反応したのはラウだ。
「本当? フェリは食が細いのだけど、美味しい料理だったら、食べられる量増える?」
いいって!ラウ。毒盛られたらどうするの?
「もちろんです」
鷹揚に頷くスペイタスさんに私は急いで拒否の声を上げた。
「いえ、結構です! 食べたいものがあれば、お店で食べますから」
「わたしはフェリに美味しいもの食べてもらいたい」
「わたしもそう思う!」
急にシェラが会話に参加してきた。
「前は身長一緒だったでしょ? 2年前から成長してないじゃない?」
失礼な。
「してる!! 前着てた貫頭衣の丈、少しだけ短くなったもの」
「少しね~」
シェラがなぜか呆れている。
「どうしてそんなに嫌なの? 美味しいもの食べられるんだよ? 作ってくれるって言うんだし、作ってもらったら良いのに。腕もこんなに細いし」
「細くない! ふつう」
という声はラウにかき消された。
「違うよ、シェラロッテ。やっとこれくらいまで太くなったの。もう、ほんとに可哀想だったんだから。ハイエヴァーで暮らしてた最後の一年は領主から食料の支給がなくなって、森で採れる果実とか草とかばっかり。たまに魔獣が出れば肉も食べれてたけど、胃が弱ってたからほとんど食べられなくて。ハラハラしてたんだからね」
「知ってたのならどうして助けてあげなかったんです?」
「わたしだってどうにかできるならしてあげたかった!」
目の前でバチバチやりあうの、やめてくれないかしら・・・。
「ごめんなさい。それでも家には家族しか入れたくないので」
ラウの相好が崩れ、フォーレも尻尾をちぎれんばかりに振ってすりすりしてくる。
「それ、わたし入ってない・・・よね?」
シェラが肩を落とすが、ここは譲れない。
シェラ個人が何かしてくるとは思わないが、シェラを仲介して何らか仕掛けてきたり、持ち込んだりはできると思うから。
「ごめんね。シェラにはもう家族がいるでしょう? 私の家族はラウとフォーレなの」
「ハイエヴァーでは入れてくれたのに?」
あの頃、大事なものは自分自身を含めて何もなかった。どうされてもどうなっても良かった。
「ごめんなさい」
悄然としながらも、シェラは吹っ切れたよう。
「ううん。ここ数年会えなかったのはしょうがないもんね。また仲良くなればいいから。じゃあ、場所はどうする? 家も嫌だし、フェリシアの家も駄目でしょ?」
「この場所を週に二度予約しておこう。変更がある場合は都度相談でどうかな?」
「ええ。構いません」
来月分と言うことで、イルヴァングさんが先払いしてくれ、三日後の午後2刻に会う約束をして別れた。