忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「「う〜〜ん」」
ふたりで依頼ボードを見つめて唸る。
「フェリ、次にシェラに会うの明日でしょ? そのあとは3日後くらい? 週に2回てなると、間が3、4日しかないから受注難しくない?」
冒険者ギルドの依頼ボードに貼ってあるのは、商人による荷馬車等の護衛依頼がほとんどで、討伐や採取系の依頼は少ない。あってもキグナム山脈の飛龍の爪とか、イェール海北部のブラック蟹とか、遠方なのよね。明後日までに戻るのは難しそう。
「そうね。片道2日のところしか受けられないし…。シェラに会うのを週2日立て続けにしてほしい、て言えば5日は確保できるけど。依頼を受けるのは少し考えましょう」
冒険者ギルドをでると、外は快晴。積雪はほとんどないけど、風が冷たいわね。
残る今日のミッションは食料品などの補充。
安い南部の商店街をわんちゃん形態のフォーレをだっこして歩く。
部屋を契約してもお金はまだある。イルヴァングさんから毎月20金貨もらえるなら、働かなくても食べていくことは可能よね。
「ラウは働くのってどうなの? まえは必要だったから稼いでいたけど」
「ん? 働かなくて良いなら、ずっとフェリと一緒にいるけど?」
にこにこと答えてくれる。
あなた、働いてるときも私同伴だったでしょう・・・。
「食堂で働こうかなぁ。料理覚えたいし」
私に美味しい物を食べさせたい、ということなのだろうけど。
「それは嫌」
フロアでラウが働いたら、みんなが声かけてきちゃうじゃない。
「どうして?」
ちょっとにやにやしてる。
分かって言ってるんでしょう!?
「嫌なものは嫌なの!」
「ふふ。ほんと可愛いわね」
ちょっと!どさくさに紛れて、こめかみにキスしないで!
無限にちょっかいを出してくるので、フォーレが呆れてる。
少し距離を置いて歩こうと思ったのに、ラウの手が腰に回る方が早かった。
「ほら、他の人とぶつかっちゃうわよ?」
「う。それは、ありがとう」
「フェリはどうなの? 働きたい?」
「そうね・・・」
率先して働きたいと言うわけじゃないけど、暇なのよね。
こうして今は買い出ししたりやることがあるけど、そのうち何にもやることがなくなってしまうのではないかしら?
今までは食料を採取したりしていたけれど、ハイエヴァーでは羊毛を紡いで糸にしたり、繕い物をしたり、保存食を作ったりと手仕事があった。
「フェリはやりたいことないの?」
ずっとやるべき事、やらなければいけない事ばっかりだったから。やりたいことなんて、あったかしら。
その時目の端に楽器屋さんがうつった。
左手が動けば、おじい様から頂いたリュート弾きたかったけれど。
そのほかにやりたい事は、ラウに追いつくことかしら。
「・・・鍛錬?」
「それもいいわね。最近思い切り体動かせてないし。フォーレも人型に慣れた方がいいしね。都外にでて組み手でもしよ?」
午後は都外にある森で・・・・・・森? 林に近いわね。よく手入れされてて、下草もなく歩きやすい。
あ、松ぼっくりが落ちてるから、後で拾って松の実を採取したり、焚き付けにしたりしたいわね。
フォーレの人型が耳としっぽが見えちゃっていることと、風が冷たくて私の体調を心配したラウが結界を張ってくれた。こちらから外は見えるけど、外からは中は見えないらしい。何もないよう透き通って見えるんですって。
フォーレを人型にすると、ラウは走り込みを指示した。歩くのも覚束ないところがあるものね。
結界の内周をぐるぐる歩くくらいの速度で走り出した。てこてこと歩く様が可愛い♡ しっぽがふりふりしてる!
「フェリはこっちね」
「はーい」
氣の訓練は毎日やっているけど、氣を通した体で運動するのは久しぶり。
ポーリンガム森林で悪意を払う時に使った血の力。氣と相性がいいのよね。氣を血液に流して意識して広げる。薄く全身を包んで、足と手を多めに。身体強化も少しは板についてきたわね。
ラウと相対するけど、隙なんかない。
どこに打ち込んだって当たりはしなさそう。
でも。
隙を作って一撃当てたい、といつも思っているの。
大地を蹴って、まずは胸元目掛けて一発。
ぱんっ、と乾いた音がして、ラウの左手に阻まれた。
「いいね。体重乗ってる」
すかさず左足の回し蹴りで頭部を狙う。
屈んでかわされちゃった。
態勢を整えて、殴打、蹴りを繰り返す。当たらない。
ラウの方が早いし、動きを読まれてる。
浄化したときのストライクショット的な技使えないかしら。
もちろん血は使えないし、戦技を使用してラウを傷つけたいわけじゃない。あのときの力を種火にして単純に氣を爆発させるのは?
何度か攻防を繰り返し、さらに氣を練る。左手に集めて手刀としてラウに叩きつけると同時に破裂させた。
「なっ!」
ぱああっ、と走る閃光にラウの動きが一瞬止まった。
横手に回って、体幹を意識して独楽のように回転する。体重を乗せて右回し蹴り!
「あぶな~」
紙一重というところで、ラウの右手に阻まれた。
「残念だったわね」
にこやかに言われても、全然嬉しくない。
「今のどうやったの? 戦技とも違ってたし」
「氣に浄化の力を混ぜてみたのよ。浄化は光っていたでしょ? 氣で散らしたの」
「よくそんなこと思いつくわね」
「地力が違うから。何でも思いついたものはやってみないと」
ラウに追いつけない。
「今日はあと少しだけ軽く組み手をやって終わりにしましょう?」
「ええ」
久しぶりの運動は疲れたけど気持ちよかった。今日の閃光は応用が利きそうだから、家でも考えてみよう。
組み手は、動作の遅い私にラウが完全に合わせる形で行ってくれる。
技量が同じ人同士でやれば楽しいのだろうけど、ラウはどうかしら?
予定調和な動きも多くて、やったことないけどダンスみたい。ぎこちないところがあって申し訳ないなと思うところもあるけど、私が打った右拳を過不足ない速度と力でラウがはじく。左手も足技も同じ。
ラウが私の速度に合わせて、突きや蹴りを繰り出してくる。私も払ったり、受け止めたり。
ラウの軸足、腕の長さ、間合い、呼吸。そういうのを全部感じて受け止めて返す。
気持ちも一つになっていくような一体感。
「フェリ、もう終わりにしよ。汗すごいことになってる」
「あれ? ほんとね」
額から汗が止まらず、下着もびちゃびちゃ。
「帰ったらお風呂に入ろうね♡」
・・・まだ日も高いんだけど?
「お風呂すきー!」
走るのに飽きたフォーレはさっきまで落ち葉で遊んでいた(落ち葉を集めて飛び込んで散らすを繰り返していたわ。何が面白いのか分からないけど)のに、急に会話に参加してきた。
「わかったわ。お風呂にしましょう。変なことはなしよ。フォーレいるんだから」
「えええー」
しょげてるけど、駄目よ。