※この作品はR-18です。

忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん!   作:さとう_2701

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第33話 国王陛下

 

「やあ! よく来てくれたね! そんなに畏まらなくていい。掛けてくれ」

 

 硬質な茶色の髪を後ろになでつけ、煌びやかな衣装をまとった男性に着席するよう促された。

 歳は30過ぎくらい。

 

「本日はお招きに預かり、恐悦至極に存じます」

 どうにかカーテシーをするも、平民のワンピースではちぐはぐでしょうね。

 

 ラウはぺこと頭を下げた程度。

 精霊が人間に頭など下げないものね。フォーレもラウを見習ってぺこ、と頭を下げた。

 

 

 イルヴァングさんが知り合いに会って欲しいというので、何も考えずに了承したところ、馬車に乗せられそのまま王宮の奥まで通されてしまった。

 温室だというここは春のような陽気で、見たこともない花々が行儀良く咲いている。

 その一角に設けられた四阿では女官たちがてきぱきとお茶の席を用意してくれる。

 

 

「どうぞ」

 椅子を引いてくれたのは、男性の侍従だ。

 

 国王陛下の目の前・・・。

 嫌とも言えないので、大人しく座る。

 ラウもフォーレも私の隣に座らせられた。

 シェラロッテはイルヴァングさんの隣ね。

 

 イルヴァングさんは国王陛下の隣に座ると、親しげに話し出した。

「連れてきましたよ。会いたがっていたフェリシアとラウラリーエ、フォーレです」

「フォーレは雪狼と聞いていたが?」

「効果は一日程度と聞いています」

「それは有望だな! 血術を習ったわけではないんだろう?」

「そのようです。契約者もいないと報告しましたよ」

「そうだな。そのこともあって、今回は呼ばせてもらった」

 

 くふ、と国王陛下は嬉しそう。

 イルヴァングさんを見ていた国王陛下の顔がこちらに向けられた。

 

「契約者の話は聞いたことがあるかな?」

「いいえ。ありません」

 

「まあそうだろうね。情報統制はしっかりしているつもりだし。契約はね、愛し子と精霊術士の間で結ぶ。まあ用途としては治療がメインかな。愛し子は精霊の加護が届かない。故に怪我を負った場合に命を落としやすいんだ。契約はこれをカバーする。愛し子が怪我をしたときに治癒するようにするんだ」

 

 そんな便利なことが?

 ラウをちらと伺うけど、小さく左右に振られた。

 

 教会から忌み子として嫌われてるんじゃなかったの?

 その嫌われ者をどうしてわざわざ治癒する必要が?

 

「どうだろう、ここは一つシェラロッテと契約してみないか? 彼女は霊力過多症で悩んでいるし、君と定期的に会えるようなったとは言え、契約した方が効力も高い」

 

「具体的にはどうするのですか? 書面にでも起こすのですか?」

 

「まさか。血だよ。血で契約するんだ」

「そのようなことが可能なのですか? 己が身に精霊術が効くように?」

 

 国王陛下は幼年期、絶対いたずらっ子だったでしょう。

 そんな顔をして国王陛下が破顔した。

「愛し子は何者にも侵されない。その身に精霊術が効くことはない。契約した相手に怪我を移すんだ。契約者は自分の身に移ってきた怪我を癒やす」

 

 自分の怪我を転移させると言うこと?

 実際にやってみよう、と国王陛下が仰った。

 

 戸惑っている間に、国王陛下が席を立ち、侍従から剣を受け取った。

 手首を一刀のもとに斬り捨てる。躊躇いが一切ない太刀筋。

 血しぶきが上がったのも束の間、瞬きの間に飛び跳ねた手首が元に戻り、剣を渡した侍従の手が転げ落ちた。侍従は手を拾って血が滴る手首に当てると治癒術をかけ、すぐにくっつける。

 

 一瞬の惨劇に悠々としているのはイルヴァングさんのみだった。

 

「こういうことさ。便利だろう?」

「戯れが過ぎます。せっかくの茶の席ですよ」

「そうか? 百聞は一見にしかずと思ったのでな」

 

 何事もなかったように席に戻るが、地面には大量の血。失った血が体内に戻るわけじゃないのね。

 

「さて、どうだろう? すぐ治って便利だろう? シェラロッテと契約してみないか?」

 

 断ろうとしていたのに、ラウが口を挟んだ。

「精霊術士であれば誰でも良いのでしょう? わたしがなるわ」

「もちろん、貴方でも構わない」

 

 その一言に慌てたのはイルヴァングさんだ。

 

「カイエル! 話が違う」

 にやりと笑う国王陛下は、狸そうなイルヴァングさんをも手玉にとれるらしい。さすが国王様。

 

「斡旋はすると言ったさ。ちゃんとやったろ? 一番大事なのはフェリシアに契約者が付くことだ。それはラウラリーエでもシェラロッテでも構わない。ただ、シェラロッテは過多症で悩んでいるから、契約者になれば一石二鳥だな、という程度だな」

 

「なるほど。そういうことね」

 ラウが失礼にも御前で腕組みをして、ふーん、ともらした。

 

「フェリシアが選んでいい。どっちと契約する? それともどちらとも契約するか?全く別の者がいいなら、それも用意しよう」

 

「どちらとも、ということは、二人と同時に契約するということですか?」

「ああ、そうだ。二人いれば怪我は二分され、三人いれば三分される。まあ、割合も決められるがな」

 

「それなら、なぜ陛下の契約者は一人なのですか? 二人、三人といればさきほどの方の腕が落ちることはなかったでしょう?」

 

「そうだな。だが、俺もいろいろとしがらみがあってな。同時に複数持つことが難しい。しかし、あの者が命を落とせば次点の者が契約者としての立場を得る。繰り上がると言えば分かるか?」

 

「はい。仰っていることは分かりますが・・・」

 

 それでは人が死んでしまう。国王という立場ではそれを選ぶしかないのかしら。

 

「人死が怖いか? なれば二人と契約したら良いと思うぞ。死ぬ確率は下がるからな」

 

 

 急にこんな話をされても困る。

 怪我をするのは怖くない。

 死ぬのも怖くない。

 

 自分の所為で怪我をするなら、その痛みを負うべきは自分のはずだ。

 それを誰かに肩代わりさせることに、少なくない抵抗がある。

 

 

 ラウを見ると不機嫌な様子で、目が合うと口パクでいやだ、と言われた。

 私の血をシェラにあげるのが嫌なのね。フォーレにもあげるのも嫌がってたし。

 逆にシェラロッテは祈るような瞳でこちらを見つめてくる。

 

 先ほど国王陛下は、確率が下がる、と仰った。

 死なないとは一言も言明していない。

 

 例えば私が致命傷を負い、二人に同時に半分ずつ転移したとして、治療が間に合わなかったら?

 本来なら死ぬのは私一人で済んだのに、二人を失ってしまうことになるんじゃないかしら?

 

 

 しかも有望な精霊術士を。二人も。

 

 自分のヘマを他人に転嫁して平気な顔をして過ごすなんて、私には向いてないわね。

 

 

 シェラには悪いけど・・・。

 

「契約しないわ」

「やっぱりかぁ〜」

 机に突っ伏したシェラを得意げに見下ろしてるけど。

「ラウともしないわ」

 

「え!?」

 ラウのお目めが落ちちゃうんじゃないかってくらいびっくりしてる。

 

「他の者が良いと言うことかな?」

 国王陛下が改めて聞いてくるけど、答えはNOだ。

 

「いえ。誰とも契約するつもりはありません」

 

 国王陛下が幼子でも諭すように優しく説明しだした。

「よく考えたまえ。精霊術士は怪我をしてもすぐ治る。逆に愛し子は怪我をしたら治癒も効かない、ちょっとした怪我でも命を落とす可能性があるんだ」

「分かっています。でも、それがなんですか? 私の過失です。私が受けます」

 

「フェリ! わたしとは契約してよ!」

 ラウに腕を掴まれた。

「嫌」

 

「怪我してもすぐ治してあげられるんだよ?! 何度治癒術効いたらって!」

「ええ、わかってるわ。でも嫌なの。ラウが痛い思いしたり、シェラが痛い思いをするの」

「そんなの一瞬よ! すぐ治せるもの。フェリみたいに何ヶ月もかかったりしないし、傷跡残ったりしないし!」

 

 やっぱり傷跡醜いって思ってたかな。少し胸が塞ぐ。

 

「それでもいいの」

 私の所為でラウに何かあったら、それこそ後悔しても仕切れない。

 

「フェリ! よく考えて! 王様の言う通りよ!? 契約した方が絶対にいい!」

「いいの。しないわ」

 

「どうして!! わたしに怪我を移しても、すぐ治せるから! 痛みなんか感じないうちに!」

 

「しない」

 

「なんて強情な!」

 ラウの瞳が怒りに燃え、ぐぬぬと歯噛みされたけど、意見を変えるつもりはない。

 

 

「うーむ」

 国王陛下はイルヴァングさんと顔を見合わせてしまった。

「自身の責は自身で負うか。まあそれも正しくはあるんだが・・・。愛し子を守るのは国力を守ると同義。愛し子がいるだけでその土地が豊かになるんだ。だから死なれては困るんだがな」

 

「・・・はあ」

 そのようなことを言われましても。

 

「でもそれだけではないでしょう? 忌み子の中には”忌み子たらしめる者”がいます。単純に豊かになるとは言えないのでは?」

 

「そうだな」

 国王陛下が紅茶を一口含んだ。

 

 先ほど国王陛下と術士が流した血は、術士が精霊術で片付けてくれ、血の臭いももうしない。私も合わせるようにカップに口をつけた。

 

「俺は元はテラニード王国の者でな。この国では愛し子の地位が弱く、あまりに扱いがひどい。俺はその改善のためにロンダルディア王国に入り婿したのだ。俺の生まれた国では愛し子は世界の鏡とも言われる。なぜそう言われるか分かるだろう? 闇落ちしてしまうのはロンダルディア王国の環境が悪いからだ。俺が来てから領主たちを説得し、保護政策を打ち出すまでになった。法令として発布したんだが、見聞きしてないか?」

 

 忌み子を保護?

「いえ。見聞きしたことはございません」

 

 

 国王陛下は角砂糖を二つ紅茶にいれて、ぐるぐると子どものようにかき混ぜる。

 甘い物を欲してるようだし、疲れてらっしゃるのかも。

 

「そうかあ。やっと去年発布したんだが、まだ行き渡っていないんだな。天災が起こったら人身御供にするなどと言って隠し持っていることがまだあるんだ。一つ一つ探し出して保護しているがまだ行き届かん。もし良かったら手伝って欲しいくらいなのだがな」

 

 

「手伝いましょう!」

 急にラウが前のめりに発言した。隣に座るフォーレも同じ真剣な顔をしている。

 

 精霊の身としては、忌み子の保護は何より優先するのでしょうね。

 

「そうか! それは助かる! このあと時間があれば、保護された愛し子と会って行かないか? 折角保護してもどんな扱いを受けるか知らなければ不安があるだろう? それに契約した者の話も聞くといい。きっと納得してくれるはずだ!」

 

「ええ! その通りね。時間はあるわ。会って行きましょう。ね? フェリ?」

 

 

 

 どくどくと嫌な風に胸が鳴って、押しつぶされそうに痛む。

 

 

「・・・ええ」

 

 私は努めて微笑んだ。

 

 

 急なことに驚いたけれど、いつかこんな日がくるって分かってた。こんな日が続くはずがないって。

 

 だから我慢できる。

 

 暴れ出しそうになる心を無理矢理押し殺した。

 

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