忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「あなた、名前は!?」
「ナウシーです!」
「汝ナウシーとプティに、私フェリシアが祝福する。汝らの霊力、知力、生命力、気力の向上、そして幸運がもたらされんことを! 我が血に掛けて。プティ! 私の血、いくらでも持っていって!」
肩口から流れ出る血を血術として、ナウシーさんと上空にいるであろうプティに向ける。
祝福が強すぎたのか、それともただ火の手が強くなって火の粉が舞い上がったのか。
あたりがキラキラと煌めくと、ナウシーさんが一言口にした。
「エアカッター」
ごうぅ。
爆風で髪が舞い上がり、外套がはためく。
ものすごい風も一瞬のことで、目を開けると鋭い爪で引っかかれたような傷跡を残して、熊もゴブリンも切り刻まれて死んでいた。
私の知ってるエアカッターの威力じゃないわね。
ナウシーさんも自分のやったことにびっくりしているし。
「エアカッターってこんな残酷な技でした? 怖いんですけど!!」
半泣きのナウシーさん。
「でも助かりました。ありがとうございます。プティもありがとう」
空に向けて声を掛けると、
「どういたしましてって、プティちゃんが言ってますね」
にこにことナウシーさんが教えてくれた。
「どうにか倒し切れましたね」
ほっと気を緩めたときだった。
こめかみに衝撃がはしった。誰かに殴られたのかと思ったけど、そうじゃない。
10歳くらいの男の子が大声で叫んだ。
「忌み子の所為だ! お前が連れてきたんだろう!」
地面に落ちている石を見て、ぶつけられたのだと悟った。
「違います! 見ていたでしょう? 彼女は助けてくれたんですよ!」
ナウシーさんが男の子と私の間に立ってくれたけど、私たちを取り囲むように村人たちが円を作った。
「陛下が忌み子を愛し子だなんて言い出してから悪いことばっかりだ! 作物は不作になるし、魔物は増えるし! 早く出て行ってくれ! 殺さないだけましだと思ってくれよ!」
「・・・はい。ありがとうございます」
今回は石で済んだわね。
私に付いてこようとしたナウシーさんに村長らしき年長者が声を掛けた。
「術士様は残ってくだされ。家屋に挟まれて怪我した者もいますでな」
はー!? とナウシーさんの柳眉が上がったのは見物だった。
白い制服は教会所属の証。たまたま旅行してたのかしら。困っている民には手を差し伸べなければならないはず。
「私なら大丈夫なので。そちらを助けてあげてください」
「分かりました。でもフェリちゃんも手当が必要ですからね。少し離れたところで待っていてくださいね。すぐ追いつきますから。矢抜いちゃ駄目ですよ。失血しますから」
耳打ちしてくると、ついでみたいに頭を撫でられた。
この人は忌み子のこと、怖くないのかしら?
変な人だなと思いながら村を出る。
ちゃんと出たか調べたいのか、数人がずっと付いてきている。
もうだいぶ村から離れたのに、まだ。
早歩きで歩く。
間隔が変わらない。
村人たちの速度も上がったことを感じて、私は走り出した。
雪道を全力疾走する。でも氣をうまく使えない。息が切れる。
視界の片側が暗んで、木の根に足を引っかけて転んでしまった。
汗で髪が張り付いて鬱陶しいなと思って手で拭ったら、血がべったりと付いていた。
さっき石をぶつけられたところね・・・。
左目に入ってそれで視界が狭まってるみたい。
「居たぞ! あそこだ!」
このまま走っても、だめだ。振り切れない。
私はいっそのことと思って森に逃げ込んだ。
はぁはぁと白い息を吐きながら、木々の間を縫うように走った。獣道でもなるべく狭く暗いところへ。
片側がよく見えないから、枝にひっかけて切ったり、また木の根で転んだり。
なかなか距離を稼げない。
森に逃げ込んだのは失敗だったかもしれない。
「こっちだ!」
村人の声が近づいてくる。
どうしよう。振り切れない。
はぁはぁと息が零れる。こんな大きな息を吐いたらばれちゃうのに。
カーン!とすぐ隣の樹に弓矢が刺さった。
「ちっ、外した!」
「追え追え追え追え! 逃がすな!」
どうすることもできないまま、ただ前に向かって走った。
ここで殺されるんだろうか。
契約しなくて良かった。
安堵が胸に広がって、足が空を蹴った。
崖!!!
そのまま雪の薄く積もる暗闇へと落っこちた。
「あぁぁあ!」
うっすら積もった雪のおかげか死にはしなかったけど、背中から落ちたから刺さった矢に変な風に力がかかって、矢柄が折れ、肉がえぐられた。
頭は守ったけど、全身が痛くて起き上がれない。
崖上からは村人たちの会話が聞こえてきた。
「死んだか?」
「それなら好都合だ。山手から回ろう」
「これで今年は豊作だな。畑で首切った方が効果が高いか?」
「じいさまからは何処で殺したとかは聞いてねえなぁ。でもこんな崖下で殺すよりは畑に近い方がいいんじゃねえか?」
「熊が襲ってきたときはどうしようかと思ったが、今日は付いてるな!」
「お前ら! 無駄口たたいてねーで、さっさと崖降りろ! 逃げられたらどうするんだ!」
逃げなきゃ。
ここで殺される。
シェラと明後日会うって約束したんだから。
右手も両足もしびれてないで動いてよ!
のそのそと芋虫みたいに這いずる。
村人たちが移動してくる音が聞こえる。
草をかき分ける音。
木の枝を折る音。
だんだんと近づいてくる音に緊張して心臓がばかみたいに激しく胸を打つ。
自死が頭をよぎる。
あんな何処の誰とも知らない人に殺されるよりは、よっぽど良いかしら・・・?
でもせっかく死ぬなら、畑が豊作になった方がいい。
そうするとここで自死はできない。
どうするか決めかねていると、村人たちが崖を降りてきてしまった。
「あそこだ。死んでるか?」
「わからん。気絶してるだけかもしれん」
「手足縛るか?」
「忌み子だろう? 何があるか分からんし、心臓突いておくか」
ひと思いに殺してくれるのね。
虐殺されるより、よほどありがたいわ。
男たちが近づいてくる。
私はもう身動きせずにうつ伏せのまま彼らが来るのを待った。
ひとり、ふたり、さんにん、よにん。ぐるりと取り囲まれ、誰かが剣を抜いた音がした。
失敗しないでちゃんと突いて欲しい。外れたらきっと苦しいから。
私が死んだら、その血を畑にまいてくれるのよね。
豊作になって村の人が助かるなら無駄じゃない。
ハイエヴァーの事を思えば、悪くはない最期。
ラウとフォーレとムームにはすごく良くしてもらった。
宝石のような記憶が一年分もある。
シェラのことだけは心残りだけど、きっと誰かが対処してくれるはず。彼女は独りじゃないしね。
満ち足りた気持ちでその時を待っていると、ごおぅ、と豪風が頭上を吹き抜けた。
小雨が降ったかと思うと、びちゃ、どしゃ、とまるで濡れた砂袋が落ちたような音がした。
村人たちの気配・・生き物にある息遣いが感じ取れなくなって、恐る恐る顔を上げてみると、全員上半身と下半身を別れ別れにして亡くなっていた。
こんなことできるのは・・・。