忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「フェリちゃ~~~ん」
やっぱり。
「今行きますからね~」
もたもたした様子で、崖の上から飛翔術を使って降りてきた。
近くまで来ると急に悲鳴を上げられた。
「ひやぁぁぁ!! 亡くなってるじゃないですかあ! プティちゃん! ここまでしていいって言ってません! え? 何ですって? フェリちゃん殺されそうになったですって? でもプティちゃんなら結界はるとかで対処できたでしょう?・・・あー、まあそうかもしれないですけどぉ。上になんて報告したら良いと思ってるんですか~」
ナウシーさんののんびりした雰囲気で緊張が一気に抜けた。
でも少し惜しかったかも。
「フェリちゃん、大丈夫ですか?」
「はい。生きてます」
「大丈夫じゃなさそうですね~。ここじゃなんですから、移動しましょう」
ナウシーさんが屈んで私を抱っこしそうになったので、慌てて辞退した。
「その白い服汚れてしまいます」
「ふふ。いいですよ。この白い服が赤くなることこそ誉れなんです。知らなかったですか?」
「忌み子ですよ?」
「さっき聞きましたよ~」
私の話なんか取り合わないとばかりに抱っこされた。ラウよりすこしふっくらしてるけど、安定感はない。
「ふんーーー! 大丈夫です! 軽い軽い!」
よろよろしている。
近接戦苦手って言ってたし、身体強化も苦手ぽいわね。
「どうして助けてくれたのですか? プティですか?」
「ええ。プティちゃんが死んじゃう! 早く! てすごく急かしてくるので。急いできましたよ~。今も契約してってずっと言ってます。・・・笑い事じゃないって怒られちゃいました」
よろよろとしばらく歩いて、惨殺現場から離れると毛布を敷いた上に横たえられた。
「プティちゃんが早く早くというので、こんなところであれですけど怪我を確認させてもらいますね。ライト」
照明の術を使ったのは分かったけど、私には効果がないので真っ暗のまま。
私に触れた瞬間、ナウシーさんが手を止めた。
「・・・そうでしたね。愛し子に触れると精霊術は消えちゃうんでしたね。焚き火にしましょう」
「追っ手きませんか?」
「そのときはまたプティちゃんに頑張ってもらいましょう。ほら、本人も張り切ってますし」
生木は燃えにくいのに、火精の加護があるそうで、すぐに焚き火が熾った。
便利ね。
汗で冷えた服を脱がされて、焚き火が在る側とない側の寒暖差が酷い。
やっぱりちょっと寒くて震えちゃう。
あちこち怪我を観察していたナウシーさんが眉根を寄せた。
「フェリちゃん、契約しましょう」
「どうして? ちょっと怪我しましたけど、大丈夫です」
「んーー、そうですね。大丈夫かも知れません。でももしかしたら失血死する可能性もあります。生存できる可能性をあげましょう」
「失血死する可能性もあるんですよね?」
「でもフェリちゃんはこのままでも大丈夫と思っているのでしょう? 死なないと思っているのなら、契約しても良いのではありませんか?」
「それは、そうだけど。死ぬ可能性が少しでもあるなら、契約は・・・」
ナウシーさんがにっこりと笑んだ。
「契約して怪我が治せるなら、フェリちゃんは絶対に死にません。保障しますよ。プティちゃんが泣いてますよ。死んだら嫌だって」
「プティが? どうして?」
私が居なくても楽しく過ごしていそうなのに。
「大事にしている人がいなくなったら、誰しも悲しいでしょう? 分かりませんか?」
「・・・わかるけど。私がそんな風に思われてるなんて考えたこともなかったから」
「気がつけて良かったですね~」
頭を撫でられた。額に張り付いた髪をかき上げてくれる。
ラウとは違う優しい手つき。
姉がいたらこんな感じかしら?
「契約しましょう。もし契約してみて気が乗らなかったら取りやめれば良いですしね」
そっか。ずっと契約しなくちゃいけないと思っていたけれど止めれば良いのね。
「はい」
「それで、契約するにはどうするんでしょう?」
「私の血を舐めるんです。・・・やっぱり止めておきましょう。気持ち悪いでしょうし。寝てれば治りますから」
肌寒いけど、すごく疲れてもう眠いし。
目をつぶると、こめかみがぬるっとした。
びっくりして目を開けると、ナウシーさんがぺろりと唇を舐めていた。
「これくらい何でもありませんよ。さあ、契約しましょう」
存外に押しが強い。
本当は私もどうするかなんて知らないけれど。
「汝ナウシーと私フェリシアは怪我の転移の契約を結びます。致命傷は転移しません。代わりに、ナウシーに与えられるだけの精霊の加護と幸運が与えられますように」
言っても何も起こらない。
「あ、契約だから、ナウシーさんの承諾も必要なのかも。ナウシーさんはこの契約を望みますか?」
「ええ。構いません。私ナウシーはフェリシアの提案を受け入れ、フェリシアの怪我の転移を望むわ」
言い切った瞬間、ナウシーさんの体がびくっと痙攣した。
「ナウシーさん? 大丈夫?」
そのまま仰のいて、痙攣が止まらない。
「ナウシーさん?」
彼女の手を握ると、ようやく震えが止まった。
「大丈夫?」
どこか呆けたままだった彼女の視点が定まると、前のめりに両手で手を握られた。
「すごいわね! すごい!」
何がすごいか分からないけど。
彼女は自分のこめかみをペタペタ触ると、突然叫んだ。
「ああ! そういうことね!」
「急にどうしたの?」
「血が足りないのよ。怪我が転移してくるほど、フェリちゃんと同化してないって事。フェリちゃん、ちょっと舐めるわね」
て、全然ちょっとじゃないじゃない!
「ひとの血なんて嫌じゃないの!?」
「嫌じゃないって最初から言ってたでしょ~。フェリちゃんの血、甘くておいしい。みんなこうなのしら?」
肩周りまでぺろぺろ舐められ、ようやくナウシーさんが止まった。
「みてみてフェリちゃん。ほら、やっと転移してきたでしょう?」
確かにナウシーさんのこめかみに傷ができて血が流れてきてる。
「まだまだ足りてないわ。背中も舐めちゃうわね」
どんどん剥かれる。
ナウシーさんが乗っかってきて、その重みにぞくりとする。
全然違うのに、あたたかいのは一緒で。
少し悲しくなって、少し泣いた。
「プティちゃ~~ん。ちょっと速度落としましょうよ~」
『いやだ!ナウシーがもっと速度出せよ!』
「これが精一杯ですって~。飛翔術はじめてなんですよ~? 落っこちたらどうするんですかぁ~」
ちょっと涙出ちゃう。
高度は300メートルほどだそうだけど、これ落ちたら死んじゃいますからね?
『フェリさまのためにもっと速度出せ!』
「そんなこと言われても、無理ですぅ~」
王都まではあと三分の二ほどかな。
森を出て今はすっかり日が昇ってる。
『あーー! もうーーー!』
プティが人間みたいに頭をガリガリしてる。
『このままじゃ、フェリさまが~~~! あ! やっときやがった! 降りるぞ!』
「え? え? 何が来るんですか~?」
飛翔術の主導権は残念ながら私の手にはなく、地面に向かって急降下した。ちょっとちょびっちゃた~。えーん。
「プティ! フェリは!?」
すごい勢いで走ってきた美人が目の前で急停止した。
『ナウシーの背中』
美人の視線が私をロックオンする。え? 瞳孔開いてない? こわ~。
「あなた、フェリの血舐めた?」
ぎ、ぎ、ぎ、と地獄の釜が開いたみたいな音がする。
声も出せずにいると、プティちゃんが助けてくれた。
『フェリさまと契約してもらった。今もまだ危うい。言い合ってる場合じゃねえんだ。早く帰るぞ。とりあえず二人抱えて走れ』
「わかった。走りながら聞く」
美人さんはフェリちゃんを大事そうに私の背中から抱き上げると、抱っこしたまま私に背中に負ぶさってくるよう言った。
『紐で結んでおいた方が良いぞ。吹っ飛ばされるぞ』
プティちゃんの助言どおり、お腹とお腹を紐で結んだ。何やらワンちゃんも居て、こちらはフェリちゃんのお腹の上が定位置のよう。
私がおぶさったのを確認すると、美人さんが信じられないくらいの早さで爆走した。防護壁をろくに張らないから風圧が酷いことになってる。口の中に変な風に空気が入って、口とじれない!
『来んのがおせーんだ、馬鹿が』
「だって、フェリが泊っていけって言ったって」
『ばーかばーかばーかばーか』
ぐっと美人さんが奥歯をかみしめたのが伝わってくる。
『ナウシーいなかったら今頃フェリさま死んでたぞ。イラついてる場合か。感謝しろ』
「・・・ありがと。ナウシーさん」
「いいいいい、え」
口開きっぱなしだから上手く言えない。
『今朝方までは平気そうだったんだけどな。やっぱり失血が酷い。ナウシーにいい知り合い居るんだってよ。そいつならフェリのこと元気にしてくれるかも知れねえ』
「わかった。急ぐね」
え? もっとスピード出るの?
「ぐえええええー」
紐縛っておいて良かったーーーー。
知り合いはお婆さまのご友人なのだけれど、連絡するとすぐ来てくれて、生気とやらをわけてくださいました。
フェリちゃんの浅い呼吸が深いものになって、冷たかった手足が温かくなってきた。
良かった~~。
明日には目を覚ますそうなので、自宅の客室に寝かせたままにしておきましょう。
それに何より、何があったか報告に行かなきゃな~。
気が重いです~。
行きたくなーい。