忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「結婚したの」
私の手と自分の手を得意げに掲げたラウが会心の笑みを浮かべている。
「はーー!?」
面会に来たシェラが目を剥いた。
「この前はそんな話してなかったじゃない!」
「ええ。そのあとこうなったの♡」
場所は三日前とは変わって、ナウシーさん宅の応接室。
寝てばっかりも何だし、そろそろ体を動かさないとね。
服はラウに自宅に取りに行ってもらおうと思ったのに、ナウシーさんの祖母イレーヌさまが「孫が増えたみたい!」と喜ばれて、あれこれと購入されてしまったの。
自分では絶対に買わないフリフリしたドレスは可愛いけど、窮屈で重い。足下がひらひらして動きづらいし。
新緑色のドレスは時期的にまだ少し早いと思うのだけれど、ラウは「かあいいいいいいい!」と頬ずりしてくる。まあ、ラウがいいならいいわ。
「まあまあ、フェリちゃんはモテモテなのね」
イレーヌおばあ様が両手を頬にあて、楽しそうに驚かれている。
おばあ様はナウシーさんの仰ったとおり、お暇をされているのか、それとも治癒術士として怪我人が屋敷にいるのが気になるのか、毎日お見舞いに来てくださる。
お菓子や本などを差し入れてくださって、ラウもフォーレもすっかり手懐けれられているわ。
フォーレなんかちゃっかりイレーヌおばあ様の膝に座ってるし。
シェラが私とラウの間に割り込むようにして指輪をのぞき込んできた。
「いつの間にこんなの用意したの?」
シェラが指輪に触れると、ばちっと指先が弾かれた。
「痛った!」
ふふん、とラウが鼻を鳴らす。
「不用意に触るからよ。わたしとフェリ以外が触ると氷結の術で指先が凍るの」
「ラウ! そういうことは先に言ってよ! シェラ、大丈夫?」
見れば、指先が凍ってしまっている。
「うん。大丈夫。光の精霊よ。我にその加護を授け給え。ヒール」
凍っていたところがみるみる戻っていく。
「良かった・・。ラウ、こんな風に相手を傷つけたりするのダメよ」
治癒術で治るからなんて思っているのなら、本当に許せない。
「ごめんなさい」
しゅーーーんと、見えない耳が垂れてる。
「謝る相手が違うでしょう」
「シェラロッテ、ごめん」
「いいわよ。これくらい。ラウラリーエって年上の割に子どもっぽいし」
ラウとは反対側の椅子に座り、私の腕を抱き込んできた。接触しないと過多症の治療にはならないのだけれど、契約した今はどうなのかしら。
聞こうと思ったのに、シェラがラウに指輪について訊ねてしまった。
「いつの間に買ったの?」
「買ってないわよ。作ったの」
ラウは手を握り込んで作ってみせる。
「ほら。今度は触っても大丈夫よ。何も付与してないから」
おそるおそる触れ、言葉が嘘ではないと分かると、
「これって水霊術?」
「ええ」
「水だけでこんな質感出るの?」
「金属・・鉱石も少しいれてるわよ。物質として安定するしね」
「ラウラリーエって何が使えるの? 水と土? 火も使えるよね?」
「メインは水だけど、火土風は少し使えるわ。ほんの少しね。だから飛翔術とかは無理よ。光と闇も無理ね」
「ええー。それ反則じゃない? 水だっておかしいくらい強いでしょ? それに加えて三精だなんて。どれだけ愛されてるの? 普通一つか二つよ?」
ふふ、と本当に嬉しそうにラウが微笑んだ。
「いいでしょう。わたしも元々は水だけだったの。でもフェリが望んでくれたから、三精へも助力を請えるようになったの」
「えーー? なにそれずるい! フェリ! わたしにも他の精霊の加護を得られるようにしてよ~」
「そんなこと言われても。私、ラウに言った覚えもないんだけれど?」
「あのときフェリは夢うつつだったものね」
「ラウラリーエ、あなた、そんな状態のフェリシアに契約させたの?」
「まあね。でもいろんな状況が重なってできたことだから、もう無理よ」
「自分ばっかり~」
むっとするシェラは指輪をラウに返すと、注がれた紅茶に口を付けた。
「飲みやすい! イレーヌおばさま、こちらの紅茶飲みやすいですね」
つい内輪でばかり話をしてしまったわ。シェラが女主人のイレーヌおばあ様に話しかけてくれて助かる。
「そう言ってもらえて良かったわ。シェラロッテさんはどの系統が得意なのかしら?」
「わたしは風と光ですね。火も少し」
「三属性なんて優秀ね。フェリシアちゃんと契約してどう? 数日経ったけれど、霊力過多症の状態は少しは良くなったかしら?」
「良くなったなんてものじゃありません! 圧迫感がなくなって体は軽くなったし、精度も威力も段違いです。級友にも講師にも驚かれました。まだフェリシアと同化も済んでないのに。あとで血を飲ませてね」
にっこり笑いかけられたけど、笑いながら言う台詞かしら・・・。
「シェラロッテさんは今年いっぱいで学院を卒業だそうだけれど、来年からはどうするか決めているの?」
「進路についてですか?」
「ええ」
「もともとは教会の癒し手になろうと思っていたんですよね」
シェラは私の方を見て説明してくれた。
「教会の癒し手は、各地の教会の司祭になって町や村の人を癒やすのが仕事なの。しかも初任地は地元が多いって聞いたから、フェリシアを迎えに行こうと思って。ちょうど王都で保護してくれるって聞いたから、連れてきても良かったし、わたしと同行してくれるならそのまま連れて行こうと思ってたの」
「そうだったの・・・。でも今は?」
「イルヴァング様が軍の副官だし、軍に入隊するのが筋だとは思うのよね。養子だし。でも、今はどこかと戦争はしてないけど、そうなったらやっぱりちょっと怖いなって気持ちはあるわ。こんなこと先の戦役で活躍されたイレーヌおばさまには、なにをぬるいことをって思われると思いますけど」
イレーヌおばあ様は先の北方のピレニモア王国とのダッカルハル戦役で、治癒術士として大勢の命を救ったとされ陞爵となった立役者と伺っている。
「戦争がないのはいいことよ。人の命を奪うことを厭う気持ちがあるのは良いことだわ。まだ1年あることだし、ゆっくり考えてもいいわね。それに軍属になったとしても、数年後に教会付に変更されることもあるし。逆もまたしかりね」
「そうなんですね」
「ええ。ところで、シェラロッテさんもフェリシアちゃんの事が好きなの?」
急に話題が戻ってきて、あやうくお茶を吹き出すところだったわ!
イレーヌおばあ様何を聞いているの!?
シェラの顔がかーっと赤くなる。
「好きかどうかと聞かれたら、それは好きですけれど! でも結婚相手として見ていたわけじゃありません! ラウラリーエこそ姉なのに、結婚なんてどういうつもりなの?! 姉妹での婚姻は認められていないわ! 姉としてフェリシアを好きなんじゃなかったの?」
ラウはずっと握ったままだった左手の指先に急に口づけてきた。
「ちょっと! ラウ!」
「姉としてもフェリのことを大事に思っているけれど、それ以上にただフェリが好きなの。誰にも譲りたくないの。それにフェリも了承したわよ?」
ぎん、とシェラの視線がこちらを向いた。
「了承したの!?」
「だ、ダメだった?」
はーーー、と深いため息をつきながらテーブルに突っ伏してしまった。
「……なんてうらやましい」
「え? なんて?」
声がくぐもっててよく聞こえなかった。
と思ったら、がばっと今度は顔を上げてラウに問いただした。
「ちょっと待って。教会で婚姻は認められないでしょう? どうやって結婚したの?」
「結婚しよ♡ て言って、いいよ♡ 言ってもらったの」
いいよ♡ なんて言ってないから! そんなのノリノリで承諾したみたいじゃない!
「ただの口約束じゃない! なにか裏技つかって婚姻したのかと思ったでしょ!! びっくりさせないでよ!」
はーー、びっくりしたとお茶を飲むシェラ。
それは・・・そうなんだけど。
少しさみしい気持ちになって私もお茶に口を付ける。
「フェリ」
ラウが腕を引いてくるので、なあにと振り向くとおもむろにキスされた。
ちゅ、と音がやけに生々しく部屋に響く。
あまりにびっくりして硬直していると、さらにもう一度された。
黙ってたらまたされちゃう!
ラウを引き離そうとしたのに、ぐいっと抱きしめられた。
「ちょっ! ラウ!」
柔らかな胸に顔を押し込まれながら、頭上からは固い声が聞こえてきて、それ以上の抵抗ができなかった。
「法的効力はないかも知れないけれど、それでも、わたしにとっては大事なの。フェリが了承してくれたってことが。この国に認められようが認められまいがどうだっていい。フェリ自身がわたしのものだって解っていることが大事なの」
私がラウのもの・・・。
左手の感覚は薄くて、指輪を付けている感じもしないのだけれど、目をやれば水色に輝る指輪が在る。
嬉しくて、皆の前で恥ずかしくて、顔に熱がこもる。
「ラウ、もう止めて。こんなの私とラウが分かっていれば良いことだから」
「それもそうね。ごめんなさいね。のろけちゃって」
ラウが離してくれたけれど、恥ずかしくて顔を上げられない。
俯いたまま気を落ち着かせようと茶器を手に取ると、シェラがのぞき込んできた。
「本当に良かったの? 姉でしょ? ラウラリーエに押し切られてない?」
「え、ええ。いいの。私も驚いたんだけれど、こんな私でもいいって言ってくれるから」
「恋愛対象として見れるの?」
本当の姉だったら見られなかったかも知れないけれど。シェラには奇異に見えるでしょうね。
「気持ち悪い?」
「そんなことない! フェリシアがいいならいいの。無理をさせられてるんじゃないかって思ったから」
「無理はしてないわ。心配してくれてありがとう」
「何かあったら言ってね。何でも相談に乗るから!」
「ありがとう」
ナウシー邸からの帰り道。
夕闇に包まれた街並みは寒風が吹き込んでいるけれど、馬車は暖温の術で温められ、寒さは微塵も感じられない。気泡一つない高価な窓硝子の向こうに目をやりながら、シェラロッテは思い知らされていた。
一番の友達になりたいと思っていた。
ただそれだけだと思っていたのに。
女同士で結婚できるはずもなく、術士と忌み子で、未成年で・・・。
友人として接するしかないと思っていた。
姉であるラウラリーエも、姉としてしか在れないと・・・。
それをぜんぶ吹っ飛ばして口約束でフェリシアを手に入れるなんて。
天啓を得るとは、このことか。
結婚したと、フェリシアにキスをするラウラリーエが羨ましくて仕方なかった。
フェリシアの血は花の蜜のようだ。
くどくなく、さらりとした軽い甘さ。本当に人の血かと疑うほどに。
もっと飲みたい。
一舐めじゃ全然足りない。
あの血が流れる肉はどんな味がするのか、つい考えてしまう。
もちろん本当に齧ったりはしない。ただ考えるだけ。
はあ。
喉が渇く。