忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
週末の安息日。
私はナウシーさんの家の馬車に揺られて、イレーヌおばあ様のご友人宅へ向かっていた。
お呼ばれされたのは私だけではなく、私と契約した三人とフォーレも。
一旦ナウシーさんの家に集まってから同じ馬車でご友人宅へ向かっているのだけれど、シェラの付き添いは今日もスペイタスさんではなく、前回も来ていた若い女性ね。
「スペイタスさん、最近付き添いでいらっしゃらないのね?」
シェラは私の腕を抱きかかえ、べったりとくっついてる。
シェラいわく、ラウはいつもくっついてるのだから面会時くらい譲るべきとのこと。
「はあ? なんでわたしのかわいい嫁を譲らないといけないの?」
と、ラウも譲らず反対側はラウがべったりくっついてる。
わたしの、を強調しすぎだし、嫁とアピールしなくていいんだけど。
よって、向かいの席にはナウシーさんとその膝に乗るフォーレ、ナウシーさんの付人と、シェラの付人が掛けている。
「なんか派閥がどうので、スペイタスさんは遠慮してるみたい。この子はスペイタスさんの孫のサティーヌ」
「ご挨拶が遅れましたがサティーヌと申します。宜しくお願いいたします」
宜しくお願いします、と私は返事をしたけれど、ラウは「ええ」と返したのみ。しかもイルヴァングの家の者とあって態度が少し斜だ。
「シェラ、派閥って?」
「色々あるみたいだけど、わたしもあまり詳しくないの。イルヴァングさまは国王派なんだけど、イレーヌさまは王太后派なんだって。あと貴族派もあるらしくって・・・」
サティーヌさんがやきもきしてる。ほんとは聞いてはいけなかったかしら。
と思っていると、ナウシーさんが口を挟んでくれた。
「そもそも今の陛下を隣国のテラニード王国から婿入れさせた方が王太后様なの。対立してるわけではないし、貴族派からみたら一緒にされることも多いわ」
「そうなんですね」
「でも最近は人材不足から、人材獲得合戦が起こってるってお婆様が仰ってたわ。その所為かしらね」
「そうなんですね」
有力な人材ね。ラウは強いものね。
思えば、陛下から依頼されてた件はどうなったのかしら?
「ラウ、愛し子捜索するって話はどうなったの?」
「断ったわよ」
いつのまに・・・。
「そうなの? すごく乗り気だったのに、どうして?」
ラウが頭にすりすりしてきた。今日は髪をセットしてきたんだから、やりすぎないでね。
「フェリを置いて二、三ヶ月の遠征になるって聞いたから。連れて行っていいかって聞いたらダメって言うし。無理よ。そんなに離れられないもの」
ぎゅっと左手を握り込まれた。まあ、なんというか、困ってる忌み子がいたら申し訳ないわね。
「そろそろ着きますね」
窓の外を眺めてナウシーさんが教えてくれる。
イレーヌおばあ様のご友人はどんな方かしら。
到着した屋敷はそれほど大きくはなく、イルヴァングさんのお宅やナウシーさん宅の半分といった程度。
調度品もほとんどなく、落ち着いたお屋敷という感じ。
イレーヌおばあ様のお話ぶりから、彼女より上位貴族のはず。質素倹約を旨としているのかしら? それとも王都にはいくつか屋敷を持っていて、そのうちの一つという可能性もあるわね。
二階の応接間に通されると、バンドラガルで出会ったロアさんより少しお姉さんといった感じの方がお二人テーブルに着かれていた。フォーレがおねぇさんと評していたが間違いない。
お二人とも綺麗に結い上げた髪に襟が高いドレスがとても似合う。
一人は濃い金髪に青灰の瞳で、きりっとした眉が意志の強さを現してる。この場でもっとも上座に座ってる。
もう一人は銀髪に紫の瞳の美人さん。今でも美しいけど、若い頃はみんなが振り向きそう。落ち着いた雰囲気を醸し出してる。
服も豪奢だし、金と銀で目がちかちかするわ。
「よく来たな。フェリシア、こちらに。ラウラとフォーレも」
呼ばれるままに濃い金髪で青灰瞳のお姉さんに近づく。
「手を出して」
どっちの手かしら?
「両手」
言われるままに両手を差し出しかけたけど、指輪に触れて痛い思いさせちゃうかも。
指輪をはずそうとすると、そのままで良いと言われてしまった。
「でもこの指輪に触ると指先が凍って痛い思いするかも知れませんよ?」
「その人なら大丈夫よ」
後ろで待っているラウが話しかけてきた。
「そうなの?」
「ええ。その人も愛し子だから。術は無効になるわ」
「そっか」
安心して両手を差し出す。
金髪美人さんは恐れる様子もなく指輪に触れて、ふふ、と笑みを漏らした。
可愛らしい笑みではなく、にやにやとちょっと悪い感じの。
「何か?」
「この前までしてなかっただろう? いい指輪だなと思ってね」
後ろでラウが得意げにしてる。
「・・・ありがとうございます」
そのまま手のひらと手のひらを合わせて、握りこまれた。
美人さんの手はつやつやで、もちろんケアはされているけれど、お嬢様然とした手じゃない。剣だこ? かしら。ところどころ固いところがある。
金髪美人さんが終始にやにやしていて、少し気分が悪い。
初対面とは思えない距離感を感じる。
むっとしながらもされるがままになっていると、だんだんと相手の手が熱を帯び、あっと思ったときには生温かい風が体内を吹き渡った。
「!??」
「大丈夫。何でもない。体調は順調なようだね」
「ナウシーさんの家の方が良くしてくださるので」
「それは良かった。でもしばらくは養生するように。激しい運動は控えるようにな。次はジーナだ」
訳がわからず戸惑っていると、隣の銀髪のお姉さんから声がかかった。
「ここにいらっしゃい」
金髪の美人さんと同じく両手を出されたので、同じように両手を差し出す。
「指輪は外してもらえるかしら? 私には精霊術が効いてしまうから」
言われたとおりに外して、両手を差し出した。
「よく働いてきた手ね」
そう言って両手を合わせるように握られた。
「もう良いわ。ありがとう」
そう言って解放されたが、これは一体なんの儀式なの?
隣ではラウが金髪美人さんと嬉しそうに握手をしている。頬が紅潮し、瞳が輝いてる。
忌み子と接すると心が浮き足立っちゃうって言われていても、やっぱり釈然としない。
結婚して欲しいと言われたけれど、忌み子なら誰でも良いんじゃないの?
疑念を抱きながら、侍女さんに案内されて向かいの席に座る。
シェラとナウシーさんもすでに座っていて、シェラのいつもの放埒とした雰囲気はどこにいったのか、神妙な面持ちでじっとしている。
ナウシーさんは普段と変わらずおっとり微笑んでる。
シェラとナウシーさんは握手しなくていいのかしら?
銀髪美人さんはラウ、フォーレとも握手をし、凄いわね!と興奮した様子を見せた。
握手会を求められたのは私たち三人のみだった。
「さて、まずは今日会えたことを嬉しく思う。よく来てくれた。私はダルディッシャム。こっちは契約者のジーナだ」
金髪の美人さんがダルディッシャムさまで、銀髪の美人がジーナさまね。
・・・・・・・・・・・・。
そのお名前聞いたことがあるわ。
そんなまさかね。
でも存命中に同じ名前をつけるなんて不敬をするわけないし。
「・・・・・・・・・王太后陛下でいらっしゃいます?」