忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「ああ。顔は知らなくても名前は知っていたか」
一応ロンダディア王国の国民ですから!
隣に座ったラウがつんつんしてくる。
「王太后て?」
「先日お会いした陛下の母上ということよ。実際は王后さまのお母様なのだけれど」
ラウがダルディッシャムさまを見て目を剥いてる。
「えー!? 国王さまと同い年くらいじゃないの? ウソでしょ」
私だってそう思ってる。
若すぎない?
50歳くらいてことでしょ? 30くらいにしかみえない。
「ラウラリーエ! 口の利き方気をつけなさいよ」
私を挟んでシェラの小言が飛ぶ。
「だって!」
お互い顔を前に出してやりあってるけど、お茶に髪の毛入りそうよ。
「いいんだ。こちらこそハイエヴァーを長年守護いただき感謝いたします。ラウラ。ラウラリーエ殿とお呼びしたほうがよろしいかな?」
勘違いや鎌を掛けるといった口調ではなく断定だ。
しかもわざわざ
誰にも言ったことないのに。知っているのはどうして・・・。
ラウと顔を合わせてみても、わからないと横に小さく振られた。
「呼び方はラウラのままでいいわ。でもどうして知っているの?」
「ではラウラと呼ばせていただく。こうして
敵意はないと言われても、ダルディッシャムさまの所為で精霊人だと、シェラとナウシーさんにバレてしまったのですが?
ラウが眉根を寄せた。
「気に入らないわね。フェリの全部がわたしのものなの。勝手に
「それは本当に申し訳ない」
ダルディッシャムさまが頭を下げたかと思うと、ジーナさまも同じく頭を下げられた。
「本当に申し訳ございません、ラウラさま。ただの言い訳ですが、もしフェリシアが落ちていた場合、それなりの対処が必要になります。フェリシアは
それを言われると強くは出られないわね・・・。
隣でラウも、あー、と額を押えてる。
「それはフェリが愛し子だってバレないように、近づかないよう頼み込んだり、追い払ったりしたのよ。教会の人に見つかると碌な事ないんだもん」
「行き届かず、大変申し訳ございません」
ジーナさまの再度の謝罪。
あちゃー、とシェラが小声で呟いたのが耳に届いた。
「どうしてあなたが謝るの?」
ラウの問いにダルディッシャムさまが回答してくださった。
「ジーナはロンダルディア教区の司教だ。言うなれば教会に所属する者のトップ」
えー!!
大声で叫ぶところだったわ。
王太后さまの契約者がロンダルディア教区のトップ。びっくりしたけど、納得もする。
どおりでシェラが神妙にしてるわけだわ。
ナウシーさんがいつもどおりなのは、なんというかすごいけど。
ロンダルディア王国において権力の頂点に立つ二人がどうしてわざわざ面会を?
「何が望みなのですか?」
ダルディッシャムさまは両手をあげて首をすくめて見せた。
「何も・・・と言いたいところだが、いくつかお願いがある。他国の軍事力に与しないでいただきたい。我が国にご協力いただけるなら幸甚だが、強要はしない」
これは想定内のお話ね。
そこまで祖国を嫌っているわけじゃない。
「承知しました」
「二つ目。住まいだが、この屋敷かイレーヌのところにしないか?」
確認するように私とラウに交互に視線を向けてくる。
「どうしてでしょう?」
ダルディッシャムさまは給仕が配ってくれた紅茶を一口飲んだ後、申し訳なさそうに答えてくれた。
「フェリシアやラウラがイレーヌの屋敷に住っていることは多くの者が既に知るところとなってる。我々は貴族派とうまく行ってなくてね。刺客とまではいかないと思うが、尾行くらいはつけられるかもしれない。フェリシアがバンドラガルの聖女と見破られていてもおかしくはないことを考えると、誘拐のリスクが高いように思うし」
そうなのね、とラウは納得しているけど、そうじゃない。
「わざとバレるようにしましたね?」
「どういうこと?」
ラウが首を傾げている。
「王太后派のイレーヌさまのところに滞在させ、私たちが王太后派だと印象付けることによって、貴族派に我々が何者か興味を持たせることができる。イレーヌさまに預け、王太后さまが直接会うような者は何者か? 私たちの風体から、バンドラガルの件と結びつける者もいるでしょう」
王太后さまがにやりと笑った。
「そうだ。お前が私の庇護下にあると明示することでもある。どっちにしろ愛し子は私かカイエル派に入るしかない。貴族派は中間層の教会所属の者と懇意にしているからな。お前の家も貴族派だ」
「そうでしょうね」
言ってくるだけ親切なのかもしれない。私たちに何も告げず、襲ってきた誘拐犯を捕まえることもできることを考えれば、私たちを囮にはしないということ。
改めてどうしようかなと思っているとラウが左手を強く握りしめて、私の顔を覗き込んできた。
「フェリと借りた家、すごく好きだけど、ここかイレーヌさんのところに住まない? わたしね、今回すごく反省したの。おんなじ所をみてると思ってたけど、すれ違ってたし、一歩間違えばフェリを失ってた。まだ人間歴が短いから、わたしたちの間には誰かにいてもらった方がいいと思うんだけど」
嬉しいと思う一方で、第三者が介在しなければ成り立たない関係なら、それまでということではないのかしら?
「ごめんなさい、ラウ。私はそう思えなくて。この屋敷もイレーヌさまのお屋敷も不相応よ」
イレーヌさまのお屋敷のメイドさんたちも良くしてくれたけど、身の置き所がないように感じる。
契約したのだから当然と言っていただいたけれど、身の危険と引き換えの契約なのよ? どうしてさらに厚顔な真似ができるの?
「ここもイレーヌのところも分不相応には思わぬが?」
ダルディッシャムさまがそう仰っても、私はそうは思えないの。
「私はあの家がいい」
「そっか。フェリがそういうなら。でも1人では外出させないからね?」
「分かったわ。ということなので。王太后さま、申し訳ございませんが」
ダルディッシャムさまは嫌な顔一つせず、相分かった、と了承してくださった。
「では、三つ目。良ければ私の元で血術を学ばないか? 祝福や浄化だけではなく、結界や戦い方も教えられる。それに、その左腕3ヶ月で治そうではないか」
「治せるのですか!」
つい反応してしまって恥ずかしい。
今だって少しずつなら動くようになってはきているの。でもそれが5年先か10年先かと思っていたのに。
たったの3ヶ月で。
でも・・・。
私の気持ちを読んでダルディッシャムさまが言を重ねられた。
「授業料はいらぬ。代わりにポーリンガム森林で行ったような浄化を頼みたい。まあ半年に一度くらいの頻度で。どうだろう?」
ラウは答えたそうにしていたけれど、私の判断を待ってくれている。
小さく頷いた。
「よろしくお願いいたします」
「はあ♡」
珍客が辞してしばらく経つというのに、ジーナはまだ頬を紅潮させたままだ。
茶器を持つ手にも幸福が溢れている。
「急な来客ではなかったぞ。前から知らせていただろう?」
今日の訪問は1週間前にはジーナに伝えていた。面子も内容もだ。
「シャムはそう仰いますけれど、我々にとっては精霊人は特別なんですの。それに精霊獣の方も大変愛らしくて」
「なんだ、あっちを愛たくなったか?」
「もう! 意地悪を仰らないで」
ジーナが席を立つと、背後から首にすらりとした腕が伸びる。こめかみにそっと唇が寄せられた。
「孫がいたらあんな感じかと思っただけですわ。孫にしては偉大ですけれど」
「そうだな」
回された腕に手を添える。馴染んだジーナの体は本当に心地よい。
「あの耳は極上だったな。イルヴァングのところのシェラロッテとの面会日と休息日以外はここで稽古の約束を取り付けたから、いつでも会えるな?」
「ええ。楽しみです。シャムみたいに引退したいわ」
カイエルが国王として立ってくれてはいるが、王族としてそれなりに政務はある。完全に隠居生活を楽しめるわけではないのだが、ジーナに比べれば雲泥の差だ。
ジーナが教会のトップに立たされることになったのは、私と契約しているからだし、引退させられないのも貴族派と争っているからだ。
教会の役職は血筋ではなく精霊力と政治力によって受け継がれる。ジーナが降りれば次点の貴族派の者が司教の座を得るだろう。貴族派の力を削ぐまでもうしばらくはジーナにいてもらわないと困る。
「すまないな。もう少し時間をくれ」
「分かっていますわ。ラウラ様、フォーレ様はテラニードの守護精霊のようになってくださるかもしれません」
「すべては我らにかかっている。慎重にいかねば」
「ええ」
フェリシアとラウラ、フォーレの居住の区画は全て買い上げた。万が一などあってはならない。万全を期す。