忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
今日のお付きはサティーヌで紅茶を淹れてくれる。
「お嬢様、どうぞ。皆さんもお代りいかがですか?」
皆がお代りを要求したので、サティーヌが淹れてくれる。
彼女は祖父スペイタスがよく言い聞かせているみたいで、ラウラリーエに反抗的な態度をとったりはしないので安心してみていられる。
クッキーを手に取るとフォーレも手を伸ばしてきた。
「はい、あーん」
フォーレの目の前にぷらぷらさせると、あむん!と飛びついてきた。
「あむあむ。・・・ありがとうも!」
「フォーレはかわいいわねえ!」
素直だし、なによらこの耳がいい!
頭を撫でつつ、耳をもふる。さいこう。
「お嬢様、私もあげてもいいでしょうか?」
サティーヌがぷるぷるしながら聞いてくる。
今までよく自重してたよね。
行き帰りの馬車じゃフォーレ語りが止まらないのに。
「本人に聞いてみれば?」
サティーヌがフェリシアの背後に跪いた。
「フォーレさま!私も食べさせてもいいでしょうか?」
「食べさせてくれるも?」
「是非もありません!」
テーブルの向かいに回ったかと思うと、おずおずとクッキーを一つ取り上げてフォーレの口元に運ぶ。
フォーレは嬉しそうに、ぱくりと食べた。
「美味しいも!サティーヌもたべたら?」
お返しとばかりにフォーレがクッキーを一つ摘んで差し出した。
「あわわわ!!! ありがとうございます!!!」
フォーレの手ずから食べて鼻血を垂らしてる。
「サティーヌ、鼻血でてるわよ・・・」
「お嬢様、今日は今日は!!! 我が人生最良の日! 感無量です!! …しばし失礼いたします!!」
ばん! と部屋を出て行った。
トイレでしょうけど。
「鼻血、大丈夫も? フォーレ悪かったも?」
「喜んでたわよ。大丈夫。サービスしてくれてありがとうね」
頭をなでなでする。
「大丈夫だったらよかったも」
サティーヌの所為でどたばたしたけど、今日のミッションはまだ何もやってない。フェリシアとの時間は限られてるんだから。
わたしは早速聞くことにした。
「前回王太后さまのところで、ラウラリーエが精霊人なのは聞いたけど、時間がなくてそれ以上聞けなかったでしょ? フェリシアがラウラリーエを精霊人にしたの? 本当に姉じゃないの?」
「矢継ぎ早ねえ」
フェリシアを挟んで向こうに座るラウラリーエが呆れてる。
顔の造形は似通っているし、髪が茶色でくせっ毛なのも一緒。瞳の色は多少違うけれど、フェリシアは緑で、ラウラリーエは緑青。兄弟姉妹でも瞳の色が違うのなんてぜんぜん在るし。
「似すぎてるわ」
「それはそうでしょ。わたしのほとんどはフェリから作られてるし」
「どういうこと?」
「契約した時のことを知りたいんでしょ? 教えてあげるわよ」
ラウラリーエは森に忌み子が来て呪われそうになったこと、フェリシアが町の人たちに刺され死にそうになってラウ湖に来たこと。そこでフェリシアの血を使って契約したことを聞いた。
「わたしの素体は忌み子に使われた穴狐なんだけど、フェリの血を大量にもらったから一新されて、素体はほぼフェリになったの。でもこんなこというと面倒くさいじゃない? 姉妹ってことにしておけば誰も疑わないしね」
「大量の血があれば愛し子だったら誰でも精霊人にできるの? イルヴァングさまに聞いても、難しいらしいって術士よりの回答しか聞けないし。実際どうなの?」
フェリシアが首を傾げて、ラウに助けを求めた。
「できそうだけど? フォーレの場合はそこまで血をあげられなかったからから、雪狼の素体のままになったのよね?」
「待って待って!フォーレは拾ったって言ってたでしょ!」
「あれ? わたしがラウを精霊人にしたって分かったのなら、フォーレのことも分かったのかなと思ったんだけど」
「わたしそこまで察し良くないから! フォーレもフェリシアが精霊獣にしたの?」
「ええ。ポーリンガム森林の魔狼は彼女よ?」
「〜〜〜!!」
フェリシアの家族はとんでもないメンバーね・・・。王太后さまが手ずから教えるのはその所為かも。
「血をあげればってフェリは簡単に言うけど、実際は難しいと思うわ。わたしが成れたのは、フェリがハイエヴァーに生まれ育ったからよ。フェリがいるだけで、ハイエヴァーの土地、水、空気にフェリの力が満ちるの。十数年の上積みと、死ぬほどの血量が必要よ」
「でもさ。王家みたいに最初から愛し子のことを知ってて、精霊人の存在を知っていればできそうじゃない? 王都周辺の精霊で精霊人になりたい精霊っていないのかな?」
「なるほどね。王家だったら、精霊術士も協力してくれるものね」
フェリシアも同意してくれる。
「ね、ね、そうだよね。ほらぁ、ラウラリーエ」
我が意を得たり!
ラウラリーエはめんどくさそうに嘆息した。
「王家は精霊人を作れはしないわ。精霊たちから嫌われているもの」
「「そうなの!?」」
フェリシアも驚いてる。
「王にはそれだけの責務があるわ。この国の愛し子の状況はどう? 多くの精霊が王家には不満を持っている」
「ラウも?」
フェリシアがしゅんとして尋ねた。
「王家と関わるの嫌だった? 訓練の件、確認もしないで勝手に決めてごめんなさい」
抱きついていたフェリシアの左腕をたどって、ラウラリーエが恭しく左手にキスしてみせる。
わざとでしょ!?
わざと見せびらかせてるんでしょ!!
「謝る必要なんてないわ。ずっと嫌っていたけど、王太后さまや王さまの話を聞いて現状を改善しようとする心意気はわかったから。それにフェリを助けてくれたんだよ? 訓練はフェリのためになることだし、止めるわけないでしょ。大好き、フェリ」
隙あればいちゃいちゃするわね!
「でもそれはこの国に限った話でしょ? 隣のテラニード王国はどうなの?」
「隣の国までは知らないわよ。この国では難しいよね、て話だし。それこそイルヴァングは、テラニード出身でしょ。今日の話も含めて聞いてみたら? 前と違った回答してくるかもでしょ」
「そうね。そうしてみる」
フェリシアがラウラリーエもフォーレも精霊人、精霊獣にしちゃったなんて。
精霊を人に・・・。
精霊術士は精霊を神の御使として敬ってる。それを意思疎通可能な人に?
界を隔てて存在してる彼らを顕現させる?
想像もつかないわ。
思いを巡らせている間も彼女からはいい匂いがして、喉が渇く。
「フェリシア、喉乾いちゃった。血ちょうだい?」
「ええ」
なぜかフェリシアがわたしの茶器に手を伸ばした。自分の分があるのに?
見ていると、親指の指輪から小さなナイフが飛び出して、わたしの茶器の上で刺そうとしてる。
「ん? 紅茶に血を垂らそうとしてる?」
「ええ。王太后さまから、そうするものだって聞いたの」
「ふ~~~ん。でもわたし直接飲みたい」
「え?嫌じゃないの?」
フェリシアが首をかしげる奥で、ラウラリーエが睨んでくる。ふふん、知ったことか!
「嫌じゃない。直接飲ませて」
「ええ~~」
「嫌なの? 指先ぺろってするだけだよ? 何気にしてるの?」
「まあそうだけど・・・」
「嫌よ! 断って! シェラロッテは血をもらえるだけでもありがたいと思いなさい!」
とうとうラウラリーエが口を挟んできた。
「わたしはラウラリーエには聞いてないし、精霊人だからって遠慮したりしないから! ねえ、フェリシアいいでしょ? ナウシーは結構舐めたって聞いたけど? そこまで舐めさせてって言ってないじゃん」
「はああ!? 当たり前でしょ! 殺すわよ!」
がたん!とラウラリーエが席を立ったのを見て、フォーレがびくっと体を揺らした。
ごめんね。フォーレ。
「そっちこそ、結婚したからって言って、フェリシアのこと好き放題して舐めまくってるんじゃないの?」
ぼっと音を立ててフェリシアの顔が真っ赤に染まった。
「・・・え? ほんとに?」
一瞬の沈黙・・・。
フェリシアが真っ赤なまま半泣きで言い放った。
「直接でいいから! もう言い合い止めて!」
たっぷりと血を飲ませてもらった後(何度もしつこくおかわりした♡)、フェリシアが意外? でもないか、を言い出した。
「この前から考えていたんだけれど、シェラとは契約したから、もう過多症の症状はないでしょう?」
「うん。もうすっかり」
よかった、と微笑むフェリシアの次のことばにわたしは震えた。
「シェラとは過多症の改善ということで面会して、代金をもらう契約だったでしょう? 契約の履行は不要なのだから、代金も不要だと思うの」
「え? それは週二回会う必要がないって言ってる? 同化できるように今までどおりに会う約束だったでしょ?」
「そうだけど、私の怪我をシェラも負うわけでしょう? これで代金まではいただけないわ。ナウシーさんからもいただいてないし」
なぜかサティーヌが口を挟んできた。
「お嬢様のために家を借りたと聞きました。こちらの代金を受け取らずにどうやってお支払いをされるおつもりですか?食費や衣料品のお支払いもおありになるでしょう?」
「でも謂れのないお金を受け取るわけにはいきません」
こういうところ、フェリシア頑なだもんなあ。
「ラウラリーエ様も同様のお考えでしょうか?」
「いえ、初めて聞いたからわたしもびっくりしてる。でもフェリが受け取りたくないっていうなら、いいんじゃない?どうにかなるでしょ」
「そんな適当な・・・。フォーレ様のご飯はどうされるのです!?」
あ、そっちが気になってるのね。
「フォーレを飢えさせるようなことはもちろんしないわ。状況によっては、シェラとの面会はナウシーさんと同じく週一にさせていただくかもしれないわ。このこと、イルヴァング様にお伝えください」
そう言って今日の面会は終わった。
週一!? 少なすぎるんだけど!?