忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「ああ? ふざけんな! おい、思い知らせてやる!」
リーダー格の男に呼応して他の男たちも襲ってくる・・・までもなく、一瞬で3人が地に伏した。
詳しく言うと、ラウラが腹パンしたあと、屈んだ相手の首の後ろから手刀で気絶させて1人目。レイハスさんは剣で袈裟斬りを二発入れて2人目。セリスさんが短刀を投げて男の左肩と右腕に当てると同時に、ユスフさんがバインドの術をかけて拘束して3人目。
見えはしたけど、この人たちと比べたら私の戦技はお遊びね。はぁ。落ち込んでる場合じゃないけど、落ち込む。
唯一意識のある3人目にラウラが近づいた。
これ以上何かする気なの?
「結!」
ラウラが男にとどめを刺す前に血術の結界で覆った。
「どうしてこんなことするの?」
何も分からないけど、一方的過ぎると思う。
「こいつらが下品なことを言うからよ。許せないわ」
「私には何も聞こえなかったけど?」
「小声だったしね。だからって許せないの」
「下品って、どんなこと? 殺す、みたいな?」
「え? えーと・・・・・・」
ラウラが急にしどろもどろになった。それでは分からないわ。
「私にはラウが一方的に攻撃したように見えたわ。納得できない」
言おうかどうか逡巡してるラウラを尻目に、セリスさんが教えてくれた。
「フェリ様をぶち犯したいって言ってた」
なるほど。あの嫌な感じな視線はそういうこと。
「ユスフさん、バインド解除して。レイハスさんはあっちの男の治癒を。セリスさんはこの3人に治癒かけて」
「フェリ!」
ラウが怒ってるけど無視した。
手のひらを切り付けて声を上げる。
「傷ついている者たちに治癒力の向上、痛覚軽減、生命力の向上を」
練り上げていた血力を惜しみなく注ぐ。
血が足りないわね。
左手首を切り付けると、ラウが飛んできた。
「フェリ!やめて」
自然治癒や治癒術の効果の向上でなくて、直接治癒術を使えたらいいのに。
イメージとことばでできないかしら?
「彼らの傷の治癒を」
彼らの骨の位置を正し、切れた血管を繋ぎ、内出血を止め、皮膚で覆う。ひとりひとりの状態に合わせ細かくイメージする。
集中してた時間はそれほど長くないと思うけど、気がついたら目の前でラウラが跪いて涙目で懇願してた。やめてって。
「いや」
男たちの状態を確かめていたレイハスさんが「もう大丈夫ですよ。回復し過ぎなくらいです」と言ってくれたので、血術をやめたのだけれど、階段からは幾人かこちらを伺ってる気配がする。
「この場は離れましょう」
レイハスさんの提言に従って、セリスさんを先頭に歩き出した。誰も何も言わない。
私はフォーレを抱っこして歩いた。
胸にはぐるぐると感情が渦巻いてる。
悪いのは品のないことを言ったあの男か。
一方的な暴力を振るったラウラか。
私の行動は正しいものだったか。
あの場では一番何が正しかったか。
それよりもまずはするべきことがある。
「ラウも。皆さんも。私のことを思ってしてくれたのですよね。ありがとうございます」
ひとりひとりの顔を見て頭を下げる。
「でも、過剰だと思います。相手は私に指一本触れてません」
「触れてからじゃ遅いでしょ!」
反論してきたのはラウラだ。
「思うのは勝手でしょう?」
「口に出してた!」
「実害はなかったわ」
「フェリに害があってからじゃ遅いでしょ!」
ラウが怒るけど、それなら・・・。
「他の誰かも怪我するかもしれない。病気になるかも知れない。この町に悪いことが起こるかも知れない。・・・それで私は刺された」
嘘でしょ? とラウが忌々しげに吐き捨てた。
「フェリがあの口汚い男と一緒で、わたしがフェリを刺した町の男と一緒だって言いたいの!?」
激昂か、悲鳴か。
とにかく大声で詰め寄られた。
「ええ。同じ言い分でしょう?」
「フェリは町の人を傷つけるって言ってない! あんな男とフェリが同じわけないじゃない!!」
「でも、私を害するかもしれない。町を害するかもしれない。どちらも同じ理屈に思える。私は刺されて当然だってことになる」
「ちがう!! あの男とフェリは違う! 刺されて当然だなんてことない!」
「違いが私には分からない・・・・・・」
ラウの言ってることが分からない。
レイハスさんもセリスさんもラウに賛同してた。
私が間違ってる?
でも、もしクロシード領で彼らが領民だとしたら?
守るべき領民を私などの所為で致命傷を負ったとしたら?
とんでもないことをしでかしてしまったのでは・・・?
胸が詰まってうまく息ができない。
刺されたところも急に痛んで・・・。
いつも痛くなったりしたいのに。
「はぁっ」
努めて息を吸って吐く。
落ち着こう。
とりあえずは治癒してきたし、死んではいない。
大丈夫。・・・大丈夫。
「フェリさま」
抱っこしていたフォーレの腕が首に巻き付いてきた。
ぎゅ、と抱きしめられる。
いい匂いがして、胸元が温もる。
何も言わずに、ぎゅっとしてくれる。
少しだけ落ち着いて回りを見れるようになると、みんなが心配そうに見てた。
無性に恥ずかしくて、消えてしまいたい・・・。
「ごめんなさい」
彼女たちは私たちに付き合ってダンジョンに来てくれて、私のためにしてくれたのに。
そう思う一方で、もしあの男たちが死んでいたらと思うと、こわくて指先が震えてくる。
「フェリ、ごめん」
ラウラがおずおずと触れてきて、拒まれないと分かると、フォーレを間を挟んだまま抱きついてきた。
「フェリがそんな風に思うって分かってなかった。傷つけてごめん」
「傷つく? 私が? 傷ついたのは彼らよ? 私はどこも傷ついてない。少し悲しかっただけ」
ラウは眉尻を下げて苦笑いすると、手を握ってきた。
震えてる、とは指摘されず、おでこをくっつけて「ごめんね」と囁かれた。
「少し休憩しましょう」
ユスフさんが声を掛けてくれた。
レイハスさんもセリスさんも大きく頷いて、案内してくれる。
階段を降りたところは岩山ばかりで、1階から5階までみたいと思っていたのだけれど、少し行くと天井が大きく開け、地面には水が流れていた。
水は青く輝き、きらきらと天井に反射して、カンテラがなくても明るい。天井は鍾乳石? かしら。石でできた氷柱みたいのから水が滴ってくるから、岩肌は濡れてすべりやすい。気を付けて歩かなきゃ。
それに、これまでの階と違って天井が広いから声も響きそうね。
岩山と岩山の間を進み、いくらか行ったところでセリスさんが立ち止まった。
「この辺でいいんじゃない?」
「そうね」
レイハスさんが同意すると、ラウラが周囲に結界を張った。隠蔽と遮音も込み。地面が濡れているから、いつもの結界マットを少し高めにして背もたれのない椅子も作ってくれた。
興が乗ったのか、ローテーブルと侍女さんたちの椅子も作ってくれた。
「ありがとうございます、ラウラ様」
ユスフさんがローテーブルの上に何もない虚空から簡易コンロ、茶葉、鍋、コップを取り出して並べていく。ストレージは本当に便利ね。弓士だったら大量の矢を持てる。
「フェリ、座って」
腕を引かれてラウラの隣に座らされる。抱っこしてたフォーレも私の隣におろす。
10階にくるまでずっと抱っこされて移動してきたのに、まだくっつき足りないみたいにラウが、擦り寄ってくる。
「ちょっと! ラウ」
押しやったのに、気がつかなかったわ~、みたいな顔して。
諦めてユスフさんの作業を眺める。
簡易コンロは辞書みたいな厚さの板で精霊術の陣が描かれてる。法力を流すと発火するのですって。
ぼんやり眺めている間にお茶を淹れてくれて、熱々のカップを渡された。
私の背中にあるラウラの腕も、となりのフォーレも温かい。カップだって熱い。侍女さんたちも優しい。
それでも刺されたところが冷たく、凍るように痛くて。
忘れるな。
思い上がるなって。