忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
あの頃、シェラが精霊術士見習いとして王都へ行ってから、養父のダージリウスさんは周囲の人から一目置かれるようになった。
あの狭い町で、王都の術士学校に行けるほど精霊力の高い子なんてそうそういない。誉れの高いことだったから。でも夏を過ぎたくらいからダージリウスさんは体調を崩して寝込むようになった。
教会の施す治癒術は外傷には強い効果があったけれど、病気には効果が薄いことが多くて、案の定、ダージリウスさんの具合は良くならず、私は本人にお願いされて痛み止めの薬を定期的に配達してた。
その行き帰りに町の人に嫌な顔をされたり、石を投げられたりはままあった。
不吉なお前が英雄の家に出入りするな、とわざわざ手紙が投げ込まれることもあった。
でも、私は私でやるべきことをやればいいと思ったの。
私は私の行いを正しいと思ってたから。
でもそうじゃなかったと分かったのは、刺されてから。
その男は、シェラと仲が良かったと言ってた。
お前が出入りするから、ダージさんの具合が良くならないんだ、と言っていた。
「お前がいるから! お前の所為でギムニ爺さんが亡くなったんだ! お前の所為で領主様に殴られて、その怪我が原因だって聞いてるぞ! 奥さんのタニアさんはお前の下女だったそうだな。タニアさんも病気で亡くなったと聞いたが、お前の所為なんじゃないのか? 良くしてくれた人を次々と不幸にして! これ以上ダージリウスさんに近づかないでくれ! みんなに嫌われてるのが分からないのか? ほんとお前が死ねよ!この地から去れ!災いしかもたらさない死に神が!」
タニアの死因については分からないけれど、ギムニのことはその通り。
シェラが精霊術士だと知っていたのに、教会に申し出るよう進言しなかったことを罪だと言われたの。
あの人は私を処刑しようとしたけど、お兄さまとギムニが談判しに行ってくれて、でも、激高したあの人に殴られて、意識が戻らないまま亡くなった。だから私の所為なの。
あの人が何をどう考えて処刑を中止したのかはわからないけど、食料品と衣料品の支給の取り止めだけで私は済まされた。
お見舞いも、もちろん葬儀への参列、墓参りも許されなかった。
あんなにお世話になったのに。
ああ。だめね。思い出さないようにしてたのに。
産まれて忌み子とわかった時に、あの人は私を殺そうとしたらしい。母がせっかくの我が子だからと助命嘆願をして助かったらしいけど、そのまま殺してくれたらよかったのに。
あの頃いつも思っていた考えに引っ張られると、顔をひっぱられて頬っぺたをむにっと掴まれた。
「フェリ、こっちみて」
真剣な瞳でこちらを見てくるラウラがいた。
けぶる睫毛の奥の緑青の瞳。吸い込まれて、思考を中断させられた。
「いま悪いこと考えてたでしょ」
「・・・うん。ハイエヴァーのこと思い出したら、つい」
「わたしから離れたらだめ。だめだからね」
「うん。ごめんなさい」
生きてたから、あの時ラウラを助けられた。
死んでいたらできなかった。
だから、死んでなくてよかったの。
「怪我したところ痛い?」
ラウが刺された傷跡に手を当ててくれる。
「うん」
本当に怪我してるわけじゃないのに、どうしてわかったのかしら?
「契約したから少しわかるの。フェリが胸が痛い時とか、傷跡痛む時とか。治癒術じゃ治せないのに。全部癒してあげられたらいいのに。だから、ごめんね。フェリに痛い思いをさせて」
だから、さっき・・・。
「ううん。ラウたちにも伝わっちゃうの?」
怪我には気をつければいいけど、胸の痛みや古傷はどうしたらいいのかしら? 痛い思いさせて申し訳ないけれど、急に痛むから避けようがないし。
ラウが、んー、と顔を傾げた。
「あの2人はどうかしらね。聞いてみないとわからないけど。私はほぼフェリでできてるから同調しやすいんだと思うわ。契約する前から、わたしの精霊術はフェリに触られても消えなかったでしょ? このウォーターマットとか。普通はフェリが触れたら消えるもの」
「そうなの? 私はラウを助けた時に、思いがけず契約した状態になったんだと思ってたわ」
「まあ、どっちでもいいけどね」
ぐりぐりとおでこをくっつけてくるわね、と思っていると、ついでみたいにキスされた。
「ちょっと!」
侍女さんたちもいるのだけど!?
「フェリ、ごめんね。わたしのフェリなのにって許せなかったの。でもフェリのこと分かったから。次からは襲ってくるまでは待つね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なにか違う気もしたけれど、先に手を出さないと約束させるのが大事かな。
「ええ。そうして。レイハスさん、セリスさん、ユスフさんも王太后さまから命じられてることもあると思いますが、今回は私の我儘を通させていただけませんか?」
3人は大きく頷いてくれた。
「「「フェリ様の望む通りに」」」
「お茶をいただいたら先を進みましょう。今日中に15階へ到達し、狩れるようであればモンスターを狩る予定ですので」
レイハスさんの言う通りに、休憩後私たちはさらにダンジョンの奥へと進んだ。
15階に到着したのは夕刻。
真っ暗なダンジョンでは日の進み具合が分からないからって、王太后さまが貴重な懐中時計を貸してくださったの。壊れると困るからユスフさんのストレージにいれてもらってるわ。
野営の準備をしてもいいのだけれど、少し時間があるから、目当てのモンスターを狩ってみようということになったの。
この辺りの階で高額な取引がされるモンスターはミノタウロスの角やアルマジロ系の外皮、昆虫系の甲殻とのこと。武器や防具の材料にいいらしいの。
採取系で言えば、稀に宝石類が出土するらしくて、それがすごく高値で売れるみたい。
出土するなら土術使いに探索してもらえればザクザクなのでは? と思ったのだけれど、みんな考えることは一緒で、探索しても見つけられないのだそう。不思議ね。
川を下るように進むと、目当てのアルマジロたちが集団で水を飲んでいた。15匹くらいかしら。
すばしっこいらしくて、腕力で倒そうとすると大変らしいのだけれど、うちにはラウラがいる。
「氷結」
全員氷漬けにして倒してしまった。
「流石ですね」
「一瞬すぎ」
「全部ストレージに入れておきますね」
凍ったアルマジロをストレージに入れたらどうなるのかしら?
「ストレージ内でも凍ったままなのですか?」
凍ったアルマジロを一体一体ストレージに入れながらユスフさんが答えてくれる。
「いずれ常温に戻ると思いますが、しばらくはこのままでしょうね。別空間というだけで、状態変化は今いるこの空間と変わらないんですよ」
「そうなんですね。生きたまま入れることもできるんですよね?」
「可能です。その場合は、ストレージの中は空っぽにしておかないと、既に入れてある備品や食料がめちゃくちゃにされますね。あとは、中で暴れられるとストレージの維持が難しいんです。精霊力を消耗しやすくて」
そばで聞いていたフォーレが目をキラキラさせて近づいてきた。
ユスフさんの袖をつかんで、くいくいと引っ張る。
「屈んで欲しいみたいですね」
意訳アシストすると、ユスフさんが満面の笑みを浮かべた。
フォーレファンはほんとうに多いわね。
ユスフさんが屈むと、フォーレは耳元に小さなお口を寄せる。
「こちも中に入れるも? 今度ラウラと隠れんぼする時手伝ってほしいも」
可愛らしいおねだりに、ユスフさんは大変申し訳なさそうに謝罪した。
「申し訳ございません、フォーレ様。生きた人は入れてはいけない決まりがあるんです。協力して差し上げたい気持ちはあるのですが・・・」
「そうなのですか?」
私も結界など張らなくてもストレージに入って休息をとれば、敵に襲われる心配もないし安心ね、と考えていたところだったのだけれど。
「精霊術が失敗することもあるんです。多くの精霊術は、術が暴発したり不発に終わるだけなのですが、ストレージだけは、中の人が行方不明になったり、ミンチになって出てきたことがありまして、人を入れるのは禁忌になっているんです。ばれなければいいと使っている人もいるかも知れませんが、大事な方に万が一何かあったらと思うと、恐ろしくて使えませんよ」
丁寧な説明にフォーレも納得した様子だけれど耳がぺったりとして、しゅんとしている。
「分かったも・・・」
よほどラウラとの訓練が嫌なのね。
隠れんぼというか、逃げ回ってるものね。
罪悪感に押しつぶされそうなユスフさんが、フォーレの小さい手を握りしめた。
「ストレージにお入れすることはできませんが、お屋敷内のことであれば、隠れるに丁度いいところをお教えできます!」
「ほんとうも・・?」
フォーレのおめめのキラキラが復活し、ユスフさんも顔をほころばせてる。
「ええ。ぜひお力にならせてください」
フォーレは屈託なくいろんな人に甘えられるから、私がいなくても大丈夫よね、と安心してみていられる。
こういう生き方ができたら、もっと楽しかったのかも知れないわね。