忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
何度も歌う。
心臓の下、魂を震わせて血力を体内に巡らせて、歌に乗せる。
あなたたちが眠れるように。
恨みも憎しみもここで浄化にして、来世に行けるように。
皆んなも歌ってくれるから。
皆んなの想いも私の血力に乗せて、あなたたちに届ける。
「おやすみさい、仔猫たち。
おやすみなさい、仔羊たち。
おやすみなさい、ーーー」
フォーレが喉が痛いも、と脱落し、侍女さんたち、ラウラは休み休みながらも順番に合唱してくれる。
血力を浄化の力に変えて。
声が掠れても。
血をさらに大地に与えて。
歌う。
歌う。
歌う。
何度も歌っていると、男の子から止められた。
『ストップ!ストップ!もういいよ!』
「まだ…ちから、のこ…ます」
悪意はだいぶ薄まったように思うけれど、彼はできる限りと言ったし。
『声枯れちゃってるでしょ。すごいよ。想像以上だよ。ぼくの任期もだいぶ短くなっちゃった。助かったよ!ありがとう!』
「も…だい…ょぶ、です?」
『うんうん。大丈夫!お礼に鉱石取ってくるから。ほかにこのダンジョンで目当てのものある?』
声の出ない私に代わってラウが答えてくれた。
「高額で取引されるものを取りに来ただけだから、鉱石で大丈夫。ここで待ってればいい?」
『OKだよ。ここで待ってて〜』
言うや否や来た時と同じように、急に消えた。
今ならそのタネが少しわかる。
窓の外に悪意が満ちていたように、その他の扉に潜ったのでしょう。
ラウはソファに私を座らせると、喉に手を伸ばしてきた。
「大丈夫?」
「うん。ちょ…いたい」
「治癒術かけてたけど、筋肉疲労には効果が薄いの。声は出さないようにして?」
こくこくと頷いた。
テーブルの向かいに座ったセリスさんが頬を高調させてる。
「フェリ様・・すごすぎ」
「「完全同意」」
レイハスさんもユスフさんも瞳を潤ませて、夢見心地の様子。視線もどこか遠くを見てる。
どうしたの? 大丈夫かしら?
界を隔てていたから、浄化具合はわからないと思うのだけど。
ラウに首を傾げて見せると、苦笑いされた。
「フェリには見えなかったと思うけど、凄かったのよ。ハイエヴァーでもフェリの歌は大人気で、わたしも大好きなんだけど、今ダンジョン中の精霊が集まってきたのかってくらい集まってるの。今もまだ周囲を踊り回ってるわ」
祝福じゃないのに?
彼らには効果ないはずなのに?
「フェリが浄化を行っていたとしても、フェリの歌声はそれだけで精霊たちの糧や癒しとなるのよ。ああ、ほんともう、凄いことになってるのに」
「フェリ様は本当にこれが見えてないのですか?」
これって何? 今もただの変わり映えのしないダンジョンだけど?
聞いてきておいてユスフさんが身悶えた。
「あ〜〜! 神はどうしてこんな存在をお造りになったの? 精霊たちが狂喜乱舞して、この辺一体キラキラして、星の粉を振り撒いたみたいになってますのに! 見えないとか!! もう!」
なんで怒ってるの?
そんなタイミングで男の子が両手で抱えきれないほどの鉱石を持って戻ってきた。
『持ってきた〜。これで足りる?』
「これでいくらくらいになるの?」
ラウの独り言にレイハスさんが算盤を弾く。
「金貨3000枚はくだらないかと」
「3000枚!! 十分すぎる!」
『良かった!じゃあ、これで・・・』
私は急いで男の子の服の裾を掴んだ。
「も、ひ・・・かかえ」
「もう一抱え欲しいの?!」
ラウは意訳してくれながら驚いてる。
あー! 声が出ないって不便ね。
私が書く真似をすると、ユスフさんが携帯筆記具をだしてくれた。
ペン先にインクをつけて、さらさらと書き綴る。
・レイハスさん、ユスフさん、セリスさんの一泊二日分の給金
・上記日当以外に残業、宿泊費
・食材費
・運搬費
ここまで書くとラウも納得してくれた。
「そうよね。あのお肉相当お値段しただろうしね」
『OK OK! 一番食べたの、ぼくだしね! おかわり持ってくるよ! その代わり、明日の朝食も一緒に食べていい?』
彼もほんとにちゃっかりしてるわね。
私も人のこと言えないけど。
誰も傷つけないし、ちょっとの手間で済むのだし、もらえる時に貰っておこう。
『明日の朝食時に追加は持ってくるよ。ぼくも浄化されたダンジョン内の瘴気の調整とかあるからさ。じゃあね〜。また明日〜』
気軽に手を振っていなくなった。
「わたしたちは休みましょうか。フェリも疲れたでしょ?」
それはもちろん。血力もあとちょっとしか残ってないし。
「眠る前にお茶にしませんか? 蜂蜜を持ってきていたはずなので、蜂蜜湯はいかがでしょう?」
「飲みたいも〜!」
みんな歌ったのだから、みんなで飲もうということになり、再びのティータイム。
それにしても侍女さんたち、ずっと瞳が潤んでるわね。
「はあああ。ここが天上のようです〜」とユスフさん。
「夜空の中に放り込まれたようね」と詩的なレイハスさん。
「精霊力も回復してる。ずっと祝福されてるみたい」とセリスさん。
「すごいでしょ〜。ハイエヴァーにいた時は毎月せがんで歌ってもらってたの。いつもこんな感じよ。森がざわついて、精霊が飛び交って。お祭りみたいでしょ?」
うーん、とレイハスさんが首を傾げる。
「お祭り・・・。まあそれも祭事といえばそうですけど、もっと厳かで神聖です。今日この日この場に立ち会えたことは人生最良のできごとです」
みんな喜んでるのはいいのだけれど、私からみるとさっきと変わらない岩場なのよね。
甘いのは好まないんだけど、蜂蜜のお陰で少し声が出るようになった。
「ユスフさん、にもつ出し・・・もらえます?歯磨・・・寝支度しよ、とおもぅので・・」
小声だけどね。
歯磨きしてる間に、ラウがベッドを用意してくれてる。侍女さんたちの分も。
作戦時に持ち物について話し合った時に、野営は毛布が嵩張るよね、地面足腰痛いし、て話になって、寝具はこちらが用意することにしたの。
「椅子をご用意いただいた時から思ってましたが、これは病みつきになりますね!」
「ベッドと変わらない柔らかさ! 水精術すごいですね。セリス、これ風精で再現できます?」
「ユスフも無茶いう。これ、すっごい霊力使うよ? 多分似たようなのは再現できると思うけど・・うーん。やわやわの結界を作れってことでしょ? 土の精霊術士だったら、ラウラ様がやってくださったようなテーブルとかベッド作れそうだよね。風はちょっと難しいかも」
侍女さんたちは早速ベッドに寝転んで感触を楽しんでるみたい。
よかった。
私も最初ほんとうに感動したもの。
普通、野営っていったら、地面が湿ってて背中やお尻が濡れるのが常だったの。
それが家のベッドと同じように寝られるなんて感動するわよね。
私もぷるぷるのベッドに横になると、ラウラが急いで歯磨きを終えて隣に飛び込んできた。
「フェ〜リ♡」
ほんとにキスしようとしてる?
「フェリさま〜」
フォーレもベッドに飛び込んできた。
そうよね。お家と違ってバスケットないもの。
「今日はムリ」
「やだ♡ 集まってる精霊にわたしのだって自慢したいの」
精霊は別にいいんだけど、フォーレも侍女さんたちもいるのよ?
「結界で覆うから。フォーレ、ちょっとあっちのベッドでおねぇさんたちからヨシヨシしてもらってきなさい」
「えぇ? 今日もだも? 昨日もたくさんしてたも! 今日はずっと一緒がいいも! いっつもラウラばっかりずるいも!」
「ずるくない! フェリはわたしの嫁なんだから、いっぱいいちやいちゃして当然でしょ?!」
「やだやだやだやだ! ずるいも! こちもちゅうしてほしいも! 契約もしてくれないし、こちばっかり仲間外れも!いやだも!」
いつも聞き分けのいいフォーレがぐずる理由も分かってる。
さっき上手く歌えないって、落ち込んでたのよね?
言ってあげられなくてごめんね?
涙目のフォーレを引き寄せて抱きしめた。
そうよね。シェラよりナウシーよりずっと一緒にいるのに、契約はしてあげてないし、血もあげてないし、キスもしてない。夜の最初はいつもバスケットだし。泣いちゃうよね。
ごめんね。
柔らかな真珠のような頬に軽く口づけた。
「泣かなぃで。フォーレ、だいすき」
「ぎえええええ!」
ラウうるさい。
「だいすき。いっもありがとぅ。フォーレは家族。いつもそば・・いてくれてありがと。だいすき」
今度はピンクに染まった耳の先に口づけた。
「キス、くらいいいよね? ラウだめぃうけど、わたしもしたいおもってたから」
「うぇええええええん。やだやだ!フォーレとキスしないで!!」
ラウ、ほんとにうるさい。
「フォーレもだいじ。家族としてすごくすき。でも、ラウはこいびととして、すきなの。すぐおわるから、向こうで少しまっててくれる? 今度うた、いっしょれんしゅうしよ? ふたりで」
「うん♡ わかったも♡ こちもフェリのこと大好きだも。いっぱい練習して次は最後まで歌うも!」
「ありがと。フォーレ」
この際だからと、おでこにもキスすると、フォーレがお返しに頬にキスしてくれた。親愛のキス。ふふ。くすぐったいわね。
フォーレがベッドを降りると、途端に結界が張られた。
「フェリ!!!」
なんで涙目・・・。
「 他の子としないで!」
「かぞくのキスよ。そんなおこらなぃで? ラウはゎたしのおよぇさん、でしょ?」
両手を広げるとラウが飛び込んできた。
今日も乗り切れたのは、ラウがいて、みんながいたから。
だから、そんなに悲しそうな顔しないでよ。
「それに、こんなキスはラウとしかしない・・・でしょ?」
小さく囁く。
ラウ、大好き。
想いを込めて口づける。深く。深く。