忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
入浴後しばらく休んでから、街道に出て西に進んだ。
しばらく休んだのは、長湯で私が倒れたから。
肩まで浸かるお風呂って体力使うのね。
バンドラガルは古い都なだけあって城壁もたかく、入るときに身分を確認されたけれど、二人ともみすぼらしい格好すぎて同情され、中で身分証を作るよう言われて通された。
城内は多くの人で賑わい、片田舎のハイエヴァーとは大違い。
「すごく人がいっぱいだね! お祭りとか?」
「おそらく毎日こんな感じなんだと思うわ。ここは東西の行路の交差路にあたるから人の行き来が多いのね」
「へーーー!すごいねえ!」
感心しきりのラウがキョロキョロと周囲を見渡す。
あちこちの露天から焼いた肉の美味しそうな匂いがして、食べたそうにしてる。
「フェリ、あとでお肉食べたい!」
「ええ」
私はリュックだけだが、ラウはリュックに加えて大きな麻袋も担いでいる。
美人で不慣れ、粗末な服とくれば絡まれるのが定石なのかも。
路地裏に入ったわけでもないのに、少し通りを歩くと正面から柄の悪いそうな男が歩いてきた。突然ぶつかりそうになったので、私もラウもさっと避ける。
男は体勢がずれたのか勝手にすっころんだ。
「てめえ、よくもやりやがったな。女だからって容赦しねえからな!」
勢いよく怒鳴られて、ラウがびっくりしていたので私が矢面に立った。
「勝手に転んだのでしょう。言いがかりはやめて。・・・行きましょう」
ラウと脇を通り抜けようとしたとき、男が掴みかかってきた。が、ラウの腕が同時に伸びた。
「だれに何をしようとしているの?」
私の襟首を掴もうとした男の腕を掴んだラウが割り込んだ。
「ああ?おまえも後で落とし前つけてやるから大人しく・・・」
「話が長いわ。簡潔に言ってほしいのに」
「ぎやああああああ!」
突如男が叫び声を上げた。
「あら、力加減を間違えてしまいましたか?」
しっぱいしっぱい、と腕を放すと男はその場にしゃがみ込んだ。
「腕折っちゃったの?」
「折れた感触はなかったから、そこまではしてないと思うけど」
男はおぼえてろよ!とまるで本で読んだ悪役のセリフをはいて消え去った。
「ああいう人間もいるのね」
「ほんとにね」
私も初めて見た。
その後は絡まれることもなく、目的地に着いた。
私が獲物の販売先に選んだのは、商人ギルドだ。冒険者ギルドだと冒険者登録した者しか売買できなかったはずだから。場所は門番のおじさんに聞いた。
町の中心にほど近い石造りの立派な建物に「商人ギルド バンドラガル支店」の看板を見つけ、安堵した。
迷子にならなくてよかった。
正面の入り口にはパリッとした中年紳士が立っていて、私は毅然として話しかけた。
「こんにちは。狩りで獲った獲物を買ってほしいのだけれど、こちらで買い取ってもらえるかしら?」
「こんにちは。可愛らしいお嬢さん。もちろん買い取りも行っているよ。今日はお姉さんと来たのかな?」
私が答える前に、ラウが勝手に答えてしまう。
「ええ!そうなんです!」
声が大きい。
「はは。仲が良さそうで何よりだね。ここは売買の手続きや事務手続きがメインでね。買い取りは裏でやっているんだ。案内するよ」
中年紳士が裏手へと案内してくれる。
「それにしてもこんなに可愛い姉妹だけで売りに来させたのか? ここは割と治安のいい町だが悪い輩もいるから気をつけないといけないのに。ご両親とは別行動かな? 女の子にそんな荷物任せるなんて。おじさんがその荷物を持ってあげるよ」
確かにラウは15歳くらい?に見えるとは思うけど、体と同じくらいの大きさの袋を背負っているから、そう思われても仕方ないかも。
中年紳士がラウラの荷物を持って、うおっとひっくり返りそうになってる。
「お嬢さん、見かけによらず力持ちだねぇ」
ヨタヨタしながら裏側の戸口を案内してくれた。
「おーい!買い取り希望だってよ」
「あいよぉ!」
カウンターの向こうからは革のエプロンを着けたお兄さんが対応してくれた。
「色つけてやってくれよ」
「わぁってるよ。こんな可愛い子ちゃんだもん。あんたこそ店紹介してやったら? 割引してくれそうじゃん」
「無論だとも。二人とも買い取りが終わったらおじさんにもう一度声かけてくれるかい? それまでに地図書いておくよ」
なんて親切な中年紳士。
「ありがとうございます」
獲物は傷がない方が買い取り額が高い。
私はラウになるべく傷つけずに捕獲するよう伝えていたため、お兄さんが驚いていた。
「兎に狐、それに一角狼か。傷が全然ないけど、どうやったんだ? 毒でも飲ませたのか?」
「毒? そんなことしてない。術で凍らせて捕まえたけど?」
「へええ! 流しの術士か! なんで冒険者ギルドで売らないんだ? 問題起こしたとか?」
根掘り葉掘り聞かれて、居心地が悪い。
どこで会話の主導権を握ろうか考えていたのに、またしてもラウが勝手に答えてしまう。
「問題? 起こしてないよ。登録してないし」
「こんなに腕が立つのに? 動物獲ってくるよりは儲かると思うぜ! 妹さんにうまいもの食べさせたいだろ? うちはもちろんこういった買い取りも嬉しいんだけどさ。綺麗な商品だし、高値で買い取らせてもらうよ」
「ありがとう!」
いもうとだって!とまたラウが上機嫌になった。
「姉妹でしょ? そっくりだもんな。妹さん病気でもした? もっと食べらせて太らせた方いい。細いとすぐに病気になっちゃうからな」
「うん! そうするね! この辺で美味しいものって何? 露天でいろいろ出てたんだけど、目移りしちゃってどれも美味しそうにみえて決められないの」
「この町はマトンが有名だな~。串に刺してどこでも売ってる」
肉かぁ・・・。噛むのが面倒から肉は嫌だなぁ。
それに顎が疲れるというと、ラウが自分で噛んで柔らかくしたものを食べさせてくるから困る。
何が困るって、嫌じゃない自分が困る・・・。
複雑そうな顔をしていたのをお兄さんが察してくれたのか、
「肉が好きじゃなかったら、、そうだなあ。通りに菓子屋があるから、あそこは女の子に人気かな。クッキーが花形だったりして形がかわいいんだって」
「フェリ、行ってみる?」
「ラウが行きたいなら」
「じゃあ、後で行ってみよ?」
小さく頷く。
持ち込んだ兎5羽、狐2匹、一角狼1頭は、金貨2枚にもなった。
これでまずは食料を買わなければ。
入り口で案内してくれた中年紳士に声をかけると、服飾店や食料品店、雑貨店などを紙に書いてくれていた。紹介状も一緒に。
「どうしてこんなに親切にしてくれるの?」
「こんなに可愛い子が困っていたら親切にもなるさ」
言わなければいいのに、つい口をついて出てしまった。
「私が忌み子だとしても?」
「忌み子!?」
中年紳士がびっくりして、顔が引きつっている。
「お嬢ちゃん、冗談だろう? 大人をからかうもんじゃないよ。忌み子はこんなところを出歩いたりできないはずだよ」
忌み子は生まれたときから管理され、領主の管轄に置かれる。
監禁か、軟禁か。
私も似たような状態だったけど。
「からかってごめんなさい」
「そうだろうそうだろう! おじさんびっくりしちゃったな~」
中年紳士から地図を受け取って、ラウの裾をひっぱる。
「いこ」
雑踏に紛れると、往来の真ん中なのに、ラウラが抱きついてきた。
「フェリ。フェリさまがだれに何をしようとわたしは咎めるつもりはないの。でもフェリさまが傷ついたり、危ない目に遭いそうな場合は止める。もしあの男がフェリさまの言を信じたら? 教会に手が回ってフェリさまが狙われるかもしれない。無論、誰にも負けるつもりはないけど、少しでも危険から遠ざけておきたいの。・・・分かってもらえる?」
耳元でささやかれ、吐息が当たる。
うん。わかる。
ラウは優しいから。
「ごめんなさい。つい言ってしまって・・・」
「分かってもらえたならいいの。フェリ、まずは食料品を買いに行こ!」
お説教タイムはおわり、と手を取られて引っ張られた。
「ラウ、そっちたぶんちがう」
ラウは地図が読めないことが判明した。