忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
『食べにきたよ〜』
翌朝、現れたのは男の子だけじゃなかった。
『私は辞退しようと思ったのですが、結局来てしまい申し訳ない』
そう言って下げた頭には、フォーレのようなお耳。
お顔はフォーレとは違ってまるで本物の狼の顔で、頬も首元もふさふさ。
なのに人間の服を着て、手は人間のものだし、足は靴を履いて二足歩行・・・。体どうなってるの?
顔を上げると、すごく長身でおじい様より大きい。こんな大きな人初めて見たわ。
『あなたがフェリですか。私はユーペルシンナゥと申します。昨日はうちのヤガルがお世話になりました。お陰で248年分浄化できました。女神も喜ぶでしょう。ほら、ヤガル』
『これ、昨日約束した鉱物ね。置いておくよ〜。あと、フェリ、手だして』
今周囲に悪意は感じ取れないけど、触って大丈夫かしら?
またあっち側に連れ込まれないわよね?
逡巡してると手を取られて腕輪が乗せられた。
綺麗な銀の腕輪だ。
『フェリにあげる。血力ながしてみて』
言われるがままに流すと、腕輪がすぅと体に吸い込まれた。
まるで水面に落ちるかのように。
「え!? 腕輪、体に入っちゃったんですけど!!」
『いいの、いいの。大丈夫』
「あんたねぇ! フェリに何かあったらどうするの!?」
ラウが掴みかかっても涼しい顔してる。
『大丈夫だってば。ありがい女神製だよ? ちょうピンチの時に助けてくれる! かもしれないアイテム〜!! 紛失したら困るでしょ? だからこういう仕様なんだよ。助けてくれるといいねぇ。では、ご飯にしよ!!」
なんて曖昧な。
「かもしれない、て助けてくれない時もあるということですか?」
『逆にいうと、女神が一個人をいちいち見てると思う? 見つけやすくするってだけのアイテムさ。もしかしたら、困ってなくても来ちゃう可能性もあるけどね。てか、ぼくはまたフェリが来てくれたら助かるけどね〜』
ごはんごはん、と勝手にテーブルに着いちゃう。
ラウがユーペルシンナゥさんの分の椅子を用意してくれる。
ユスフさんはストレージから追加分の食料を出して調理を始めてくれた。
今日の朝食はソーセージとスクランブルエッグ、昨日の残りのスープとパン。
スープとパンはセリスさんが取り分けてユーペルシンナゥさんに・・・て名前が長くて言いづらいわね。狼マスクさんに配膳してくれてる。
『フェリ、今回はありがとねー。ぼくとしては定期的に来て欲しいんだけど、きっとガカーヤカムの方が困ってると思うから、先にそっち行って浄化してくれない? 管理人には伝えておくからさ』
「ガカーヤカム・・・?」
ピンとこない。どこかしら?
レイハスさんがフォローしてくれた。
「テラニード王国の西南ですね」
「ありがとうございます。テラニード王国のガカーヤカムですね。・・・スタンピードの危険があるということでしょうか?」
『いや、それはまだ大丈夫だと思うけど・・・・・・いや、うんそう! そうだったかも!』
どっちなの?
「危険があるなら早い方がいいですよね。テラニード王国の愛し子に向かってもらう方が早いと思うので、王太后さまにお伝えして手配してもらいますね」
『だめ。フェリが行って』
迷うそぶりもなく、提案はすっぱりと弾かれた。
「私が・・ですか? 実はまだ癒し手としては未熟で、王太后さまに血術を教わっている最中なのです。既に癒し手として活躍されている方の方が良いと思うのですが・・・・」
『いやいや、あれだけ浄化できたら十分でしょ。ガカーヤカム行ってきて。鉱石も金貨6000枚分あげたから、旅費としては十分でしょ?』
旅費としては十分だけれど、理由が曖昧じゃない?
なんか胡散臭い・・・。
ラウラも侍女さんたちも困惑してるわ。
レイハスさんが男の子に違和感を確認してくれた。
「浄化ならテラニード王国にも我が国にも他の癒し手がおります。その方々ではなくフェリ様がいく理由は何でしょうか?
スタンピードの兆候があるなら早く手を打つべきですし、基本的にテラニード王国国内の事はテラニード王国が、我が国内のことであれば我が国が担当する事になっておりまして、フェリ様が浄化を行うのは越権行為に当たります」
まっとうな理由ね。本当にそう思うわ。
なのに。
はぁ、と、とても面倒くさそうに溜息をつかれた。
『ぼくらにとっては国なんてどうでもいいんだけどね。マグに話通しておくよ。これでい?』
「あの、ですから、フェリ様である必要性がわかりかねます」
男の子は供されたソーセージに勢いよくフォークを突き刺した。
『それを君らに言う必要ある? ぼくはフェリに行って欲しいんだ』
隣の狼マスクも男の子の言を重ねた。
『申し訳ないがヤガルの言うとおりだ。情報は開示できないがフェリに行って欲しい。他の誰でもなく』
狼マスクさんからそう言われちゃうと、行った方がいいような気がしちゃうわね。
「わかりました。なるべく急いだ方がいいですよね? 1週間以内くらいですか?」
頭に地図を思い浮かべ、どれだけかかるか目算してみる。
王都からテラニード王国国境までなら、ラウなら3日あれば行けると思うのよね。西南なら、そこから3日もあれば行けるとは思うけれど地理がわからないから、バッファで1日確保して1週間かな。
男の子は機嫌が良くなって、セリスさんが出した皿の料理をパクパク食べだした。
もぐもぐもぐ。ごくん。
『1週間か。それ行ける? ちょっと無理があるよね? 3ヶ月以内くらいでいいよ。行くのはフェリだけでいいけど、ついていきたいなら、君ら二人ならついていってもいいよ』
男の子の視線はラウとフォーレに当てられてる。
待ってください!とレイハスさんがまた声を上げた。
「スタンピードを止めるのではないのですか? それを三人で? いくらラウラ様がお強いとはいえ、普通は討伐隊を組んで臨みます。さすがに了承できません!」
聞けば聞くほどレイハスさんの言うとおり。常識のある話しぶり。
『大勢で行っても無駄だしね~。今回みたいに界の狭間の浄化だし。まだ実体化してないのをどうやって君らが倒すのさ? ラウラだってできやしない。でもラウラやわんちゃんはフェリが拠り所にしてるみたいだから、付いてっていいよ、て言っただけ』
「それなら、我らだけでも同伴させてください。3ヶ月ともなれば長旅です。ガカーヤカムに行くまで不埒な輩もいるでしょう。宿や食事の準備などの雑事もあります」
『まあ、それくらいならいいではありませんか、ヤガル。なにも何百人で行くわけでもありません。数人程度なら許容範囲でしょう? それにあちらでも肉を提供してもらった方がいいのでは? 我々だけ食べたとなれば怒られますよ?』
男の子は子どもにしては渋い顔をしてる。
『たしかに。ペルシの言う通りかも。じゃあ、あっちの管理人にも美味しいもの食べさせてくれる? あとデザートも好きだから。甘いもの用意していってあげて。それなら許可する』
「分かりました。ありがとうございます」
レイハスさんはほっとされてるけど・・・・・・。
「・・・・・・あの、侍女さんたちの三ヶ月分のお給料とお肉とデザート、今回いただいた金貨で足ります??」
せっかく稼いでもすぐに足りなくなるんじゃないかしら・・・・?
「ラウ、料理長にお肉の焼き方聞いて、熟成肉購入して私たちだけで行く? デザートは近い街で買いましょう」
これなら金貨の減りも少ないはず。ラウが「うん」と頷きそうだったのに、侍女さんたちから悲鳴が上がった。
「お待ちください!」
「待ってください!」
「待って!!!!」
「そんなことになったら王太后陛下に叱られます! お給金は大丈夫です。ダンジョン管理者からの依頼ですし、フェリ様ではなくて国庫から拠出されるはずです。ご心配には及びません!」
「そうです! お三方だけでダンジョンに向かわせるなどあり得ません!」
レイハスとユスフの熱弁に、セリスもうんうんと頷いてる。
王太后さま叱ったりされるかしら?
「今回は一泊二日だから、王太后さまのご厚意に甘えさせていただきましたが、いくら忌み子だとはいえ、高位貴族の方に護衛として付いてきてもらうのは心苦しいと言いますか・・・。ラウやフォーレは精霊人、精霊獣だからわかりますが、私、平民ですよ?」
レイハスさんとセリスさんが天を仰ぎ、ユスフさんはがっくりと肩を落とした。
三人ともがっかりしたようだけど、どうしたの?
そんな中セリスさんがいち早く復帰した。
「でも、フェリ様子爵令嬢でしょ? 私も伯爵令嬢だし、ほとんど変わらないわ!」
一つ違えば大違いだと思うのだけれど。
「名ばかりというのも憚られるくらい、令嬢として過ごしたことないし、令嬢と言えるのは家の後ろ盾があってのことだと思うわ。私は家からは追放されてるし、やっぱり平民よ。皆さん、私が王太后さまの客人みたいな扱いになってるから ”様” 付けしてくれてるけど、すごいのはラウであって、私ではないので」
ラウやフォーレを国外に出したくないのでしょう。
護衛という名の監視をつけて帰国させたいのでしょうね。
「ラウとフォーレは留守番で私だけ行ってーーー」
ラウに片頬を摘まれた。
「一人で行動するのは許さないって言ったよね?」
すごく凄んでくる・・・。わかってるわ。
「ちゃんと覚えてるわ。私だけ行って来れるなら丸く収まるのに、て思っただけよ」
「思うのも嫌」
それは横暴すぎでしょ。
「フェリ様お一人で向かわせるなどあり得ません! ハユール村でのことお忘れですか?!」
ユスフさんやセリスさん、レイハスさんも口々に怒ってる。
ハユール村?
ああ、ナウシーさんを助けた村ね。
確かにあんな村はどこにでもあるだろうけど。
「みなさん優しいですね」
平民の私などを心配してくれて。
貴族だから庇護の対象と思われてるのかもしれないわね。
ナウシーさんも優しいし。
侍女さんたちが「違うのに!」「そうじゃないの!」とあわあわしてる。
「フェリ様、違う。ラウラ様が大事にされてるから優しくしてるんじゃない。フェリ様に価値があるから大事にしてる」
セリスさんの言葉を受け継ぐようにユスフさんが口を開いた。
「ロンダルディア王国で精霊人を成す愛し子はフェリ様だけです。それに昨日の浄化も見事でした。ご自身も貴重なのだとご認識ください!」
ユスフさんは、いえ、侍女さんたちはそう思っていたのね。
そんなことないから安心してほしい。
「私がラウを精霊人にできたのはたまたまですし、歌もみんなできますよ」
精霊人はきっかけやタイミングが必要かもしれないけれど、王都の離宮で会った愛し子たちも地元に戻れば、ラウラのように想ってくれてる精霊もいると思うのよね。
歌による浄化もできると知れば、みんなできるわよ。
さらにユスフさんが口を開こうとしたところで、男の子がストップをかけた。
「そんなの後でいくらでもやってよ~。ご飯冷めちゃうから、早く食べよーよ」
確かに。こんなところで言い争っても埒があかないわね。
王太后さまを交えて再検討することになったわ。
『ごはん美味しかったよ〜。また来てね〜』
男の子と狼マスクの体が虚空に消える。
ウィンナーもスクランブルエッグもスープも綺麗に食べ尽くしていったわね・・・。
狼マスクは男の子以上に食べてたわ・・・。体が大きいから消費も大きいのでしょう。
今日はもう帰るだけね。
思った以上に稼げたけど、テラニード王国行きかあ。
ほんと何があるか分からないわね。
食事が終わって席を立つと、不意に男の子の声が聞こえた。
姿は見えず声だけ。
『フェリ、ぼくたちのことをちゃんと覚えていられるのはフェリだけにした。ぼくらのことは君以外の人には秘密で頼むよ。じゃあまたね』
界の狭間からこっそりと。
それってどういうこと?
名前だって顔だって明かしてたのに?
疑問は王太后さまのお屋敷についてから判明した。