※この作品はR-18です。

忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん!   作:さとう_2701

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第63話 シェラロッテとの放課後2

「ショッピングに行こうと思ったのになー」

 テーブルに突っ伏したシェラロッテはつまらなさそう。

 

「でもあいにくの雨だしね。明日には止むんでしょう?」

 

「風精はそう言ってる。だからってさ、室内で過ごすにしても他にやることあると思うんだ。どうして宿題なの!?」

 シェラの不満がサティーヌに注がれる。

 サティーヌは素知らぬ顔でお茶のお代りを入れてくれた。

 

「お嬢様が宿題をサボるからでしょう。ここでなさってください」

「う”------」

 

 シェラが面会日に宿題をするのは初めてね。

 いつもはどうしているのか、サティーヌに聞いてみた。

 

「帰宅されてから取り組んだり、日数に余裕のあるものは放課後ご友人と一緒に取り組んだりされています。実技は契約のお陰で術力が安定して成績が上がっているのですが、座学がここのところは落ち込んでますね」

 

「だって! 興味がないんだもん。古語とか歴史とか礼儀作法とか、全然覚えられない」

 顔を上げないままシェラがぼそぼそと呟いてる。

 

「イルヴァングさまのところでしたら、家庭教師を雇えるでしょう?」

 

 サティーヌさんが苦笑してる。

「ええ。もちろんです。旦那様からもご提案いただいているのに、お嬢様が承諾しないのです。家に帰ってまでやりたくないと。ぜひフェリシア様からお叱りいただきたく」

 

 なるほどね。

 私がいえば、シェラがやる気になるのじゃないかってことね。

 昔は教えたりしたけれど、今はどうかしら・・・?

 

「教科書は持ってきていますか?」

「こちらに」

 しゅぱっとサティーヌさんが用意してくれる。

 

 ペラペラとページをめくる。

 あら。気になってたロムファードファン戦役の事が詳しく書いてあるわね。

 

 ふんふん。ジュリエス三世のことも。

 

 へー。なるほど。

 

 ロンダルディア王国は、テラニード王国が西のイェール海を暴れ回っていた海賊を討ち取り、海賊王の娘とテラニード王国の王子が結婚して作られた国なのね。だから言語も一緒なのだけれど、他の国ではもちろん言語が違う。その辺の境目や文明の起こり方なんかも書いてあって面白いわね。

 家の書架にあった書物と内容が違うところもあるし。

 

「フェリシア、面白い?」

 いつの間にか隣にシェラが来てる。

 

「面白いわよ」

「どの辺が?」

 

「この辺かしら。家の本にはテラニード王国の勃興地は王国南東部のテランとなっていたわ。テランが精霊術を以て周辺国を圧倒し、制圧・統合して現テラニード王国になったって書いてあったと思うけど、教科書だと南西部の山岳地帯になってるのよね。これだと国名も合わないし変だなって。あとここね。”女神はある日突然現れテランに住む人々に精霊術を授けた。信仰心の高いものほどその能力は高かった” というところ。これは本当? ラウが信仰心と精霊術の強さは比例しないと言っていたけれど。この教科書正しいの?」

 

 シェラは呆れた顔で肩をすくめた。

「教科書が正しいかどうかなんて知らないよ。ただテストでいい点取れば良いだけだから、教科書どおりに回答するだけ」

「それもそうか・・・。歴史は私が教えてもいい点は取れなさそうね。手伝えなくてごめんなさい」

 教科書の奥付を見れば、発行・編集はもちろん教会のロンダルディア支部。

 家にあった本はテラニード王国製だったわね・・・。

 教科書にある山岳地帯は精霊教会の本部があるとされているところよね。

 国内向けなんでしょうけれど、テラニード王国へ遠征になったときに術士のみんな恥をかかないかしら? 今度ジーナさまが訓練にいらっしゃったら聞いてみよう。

 

 ラウラが他の教科書を手に取って眺めてるけど、すぐにぽいっとしてる。まだ文字苦手だものね。

 代わりに口頭で教えてくれた。

「フェリにも教えたけれど、信仰心と精霊術は比例しないわよ? というか女神から授けられて女神への信仰心の高さで決まるって書いちゃってるの? 教会は精霊を信仰してるんでしょ?」

 

「ラウ、続きあるわよ。”女神が神の世界に帰ってからは、人々は四精を崇めた”って」

「女神の信仰心の高さで精霊術の能力が高まるんでしょ? 神の世界に帰っちゃったら信仰しないの? 四精あがめたって能力高まらないんじゃないの? シェラロッテはどうなのよ? あがめてるの?」

 

「崇めるっていうとちょっと違うかなぁ。仲良くなった方が力は貸してくれやすいからね。霊力を広げて、精霊たちに聞いてもらう感じかなぁ? というか、一番効果あるのフェリシアに祝福してもらったときだから。あれはみんなすっっっごい言うこときいてくれる」

 

 ラウラも同意して、ふかく頷いてる。

「それは間違いないわね。フェリは愛されてるから」

 

 いや、それ糧? えさ? としてでしょ。

 みんなのお役に立てるなら良いんですけど。

 

 

 私はさらにぺらぺらとページをめくる。

 

 女神を崇拝してるのは、テラニード王国と属国のロンダルディア王国だけで、他の国は男神だったり獣人だったり、それこそヒト型をしていないヘビや竜だったり。

 私が知っているような内容をさらっと書いてあるだけで、目新しい記述はないわね。

 

 古語はヒト型の神たちが使っていた言語と言われて、昔の本は古語で書かれている。歴史を解明していくには古語が必須なの。

 

 古語は私も齧った程度だけれど、教科書を読めば解いていけそう。

 

「シェラ、これは、こう訳せばいいと思うけどどう?」

「えー? えーと、どうしてこれが文末にくるの?」

「教科書のここに例題載ってるから、それに当てはめただけよ。構文覚えちゃえばいいでしょう?」

「そうだけど〜」

 またシェラが机につっぷしてしまった。

 

「こんなの覚えきれないよ〜」

「こればっかりはね。。書いたり、読み上げたりして反復するしかないと思うわ。精霊術の昔の書物も古語でしょう? 術士としては必須と思うけれど?」

「わかってる! わかってるってばぁ! ・・・頑張るから血ちょうだい♡」

 

「あんたねぇ 」

 ラウが怒っているけど、私の血なんかでやる気になってくれるなら安いものよ。どうせあげるんだし。

 

 指先を切ろうとしたのだけれど、シェラは違うところがいいと言う。

 

「肩がいい!フェリシアにぎゅってされて飲みたいから」

 

 なんなの、その理由は…。

 

「あんたねぇ!   」

 ラウのこめかみに青筋あるけど、シェラはまーーったく気にしてない。

 

「いいでしょ〜?」

 上目遣いでおねだりしてくる。。

 

 ハグぐらい別にいいし、肩から飲んでもいいけどね。ラウがすごい顔してるけど。

 

 離宮のマスナの時の真摯な様子は、私の中でまだ真新しい。

 近くにいたいと言ってくれた。

 結局故郷で大事にできているのはシェラだけだし。

 

 

「いいわ。肩ってどの辺?」

 袖を捲ろうとすると止められた。

 

「わたしの上に乗ってよ。フェリシアの上にわたしが乗るのはちょっと気が引けるし」

 

 頭ひとつ分違うけど、そこまで柔じゃない。大丈夫だけどと思ったのに、腕を引かれてシェラの膝に乗る羽目になった。

 

「えへへ♪」

 満面の笑み。

 こんなの学校でやってそうだけれど。

 

「この辺から飲みたい」

 首元の紐を寛げられると、襟を広げられて鎖骨が丸見えになった。

 シェラが飲みたいのは肩と首の中間くらいのところかしら。

「いいわよ。血がつかないように襟のところ持っててね」

 ラウがどんな顔してるのかは、もう見ないことにした。

 

 私の視界には可愛い幼馴染のみ。シェラは身なりに無頓着だったけれど、昔から綺麗な顔をしていた。黒髪は艶があったし、瞳はぱっちりの二重、肌も白くて綺麗で、私と同じく水仕事もしてただろうに今もつやつや。

 

 私とは違って双丘はちゃんと膨らんでるし、年頃の女の子って感じ。羨ましい。

 蒼い瞳からは親愛が見て取れる。ハイエヴァーの時より一層。

 

「切るわね」

 右親指の隠しナイフを、鎖骨の上の肉に突き刺す。

 ちょっと痛いのよね。

「どうぞ」

 ナイフを引き抜いた場所をシェラは凝視してる。

 これはラウもよくする。

 私の血を飲めるのだと思うと、全身がぞくぞくして堪らなくなるらしい。

 

 

 愛し子は忌み子に転じることもある。こんな生き物の血を与えて大丈夫なのかな、と一抹の不安はあるの。

 

 ナウシーさんは血を摂取する時、こんな顔をしない。

 ハイエヴァーから一緒だった二人だけ。

 長年摂取し続けると中毒になるのかしら?

 

 みんな私の血を誉めてくれるけど、本当にそんなにいいもの?

 

 考え込んでる間にシェラが近づいてきて、肩口に口付けられた。

 べろっと犬のように舐められ、2回ぺろぺろとすると不満の顔を上げた。

「足りない。一舐めしたら血がないんだけど?」

「ナウシーさんかラウがすぐ治しちゃうのよね・・・。もう一回切るから」

 

 息を止めて痛みがくることを構える。

 ふと視線を感じて、虚空から熱のもとをたどると、シェラだった。

 傷じゃなくて私の顔をじーーー、と見つめてる。

 血を欲しがるでもない、傷つけてごめんね、という感じでもない。

 

 熱心に―――。

 

 なんだろう?

 この感じどこかで?

 

 

「早く済ませて」

 冷たいラウの一言にはっとして、私はぶすりと深く肉を抉った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしは部屋で枕を抱きしめた。

 もちろん彼女はこんなにふわふわじゃない。

 

 確かな肉感は両手にまだ残っている。

 甘いにおい。

 血だというのに、鉄臭いどころか甘くて花のようなにおいがして。

 

 首元からは彼女のにおいがむわっと温かく漂って、細く華奢な体は柔らかくて――――美味しそうで。

 

 

 あぁ。たまらない。

 

 危うく肩口に噛みついてしまいそうだった。

 

 まだ背筋がぞくぞくしてる。

 

 

 明日も明後日もしばらくは毎日飲める。

 なんて素晴らしい――――。

 

 

 はやく。

 はやく明日になればいいのに。

 

 

 

 どうしてわたしは学生なんだ。

 どうして屋敷の者はラウラリーエに反抗的な態度をとったんだ。

 

 一緒に暮らせたはずなのに。

 

 不満は湧き起こるけど、これらは現状を改善しない。

 ラウラリーエを排するのは、わたしには無理だ。

 

 大事なのは、ラウラリーエに邪魔されずにフェリシアに近づくこと。

 独り占めできなくてもいい。フェリシアの近くにいたい。

 

 

 あぁ。あの小さな唇に口付けてみたい。

 

 

 

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