忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
家に帰る件は即時却下されたわ。
「今日もフォーレと湯に浸かるからな。帰宅は認めん!」
「すみませんね、フェリシア、ラウラ様」
ジーナ様、ぜんぜん悪いって思ってないじゃない?
お顔がほくほくされてる。
「こち、今日もアイス食べたい! 寝る前はまた絵本読んでくれるも?」
甘えた声でジーナ様を見上げ、きゃーと言われながらぎゅっと抱きしめられてる。
フォーレはジーナ様のお膝に乗って嬉しそうね。
「そう長い期間でもあるまい。1週間程度こちらで過ごせ。今日は私は王宮にいくからな」
王太后さまは私の顔をしげしげと眺め、改めて口を開いた。
「訓練はいつもより短めにして、少し休むといい。ラウラ、フェリシアに無理をさせないでほしい。隈ができてる。フェリシアに必要なのは栄養と休息。このままでは身長が伸びません」
わー。王太后さま、ありがとうございます!
隣のラウは、む、としながらも頷いた。
「分かってるわ。昨日はもりあがっちゃったの。気をつける」
ジーナ様は教会へ出仕されて、いつもの訓練場で血術の練度をあげたり、結界の練習をしていると、やにわに廊下が騒がしくなった。
いつも静かな邸内にしては珍しい。
王太后さまは執務で王城へ行っていて、戻るのは夕刻だと聞いたわ。ジーナ様ももちろん職場の教会へ行ってる。
この邸宅をいま預かっているのは、王太后さまの乳母だったという老齢のマリアンナ様。マリアンナ様は侍女長として屋敷のことすべてを差配しているけど、その方と言い争ってる声が聞こえるわね。
「ですから、王太后陛下の許しがない方にお目通しさせるわけには参りません」
「そんなに怒らなくてもすぐに帰るわ。会ったら直ぐにね」
相手の声音は高く、まだ小さい女児のようね。
訓練場にだんだんと近づいてくる気配がして、壁際に控えている侍女さんたちがざわつくのと、扉がノックもなしに開けられたのは同時だった。
「貴方ね! おばあ様がお隠しになられてるっていうのは!」
そうなの? それは知らなかったわ。
びしっ!と人差し指を突きつけてきたのは、私より頭半分は小さい女の子。赤茶色の髪をツインテールに結い上げ、青灰色の瞳は王太后さまと一緒ね。淡いピンクのドレス姿で可憐な様子なのに、彼女の雰囲気は好戦的で高飛車。
どこかで見たことあるような?
既視感を辿ると、姿形は違うけれど、態度が故郷の妹と似ているわ。
「そのようなお振舞いはおやめください。もういいでしょう? 王宮へお帰りください」
女の子の後ろからマリアンナ侍女長が諌めるけど、聞く耳はもたないみたいで、どんどん近づいてくる。
「わたくしはティモーナ・ウリス・ロンダットですわ。貴方、わたくしのお姉様と勝負なさい!」
またしてもびしぃっと人差し指を突きつけられてしまった。
ティモーナ様は第二王女様ね。お姉様はルミスティーヌ様だったかしら。
考えてる間にラウが私にべったりと寄り添った。フォーレも私のスカートの裾を掴んで足元にいる。
「なんの勝負――」
「マリアンナ――」
私とラウの出だしがかぶってしまった。
「ラウからどうぞ」
譲ると、遠慮なく、と言い添えてマリアンナ侍女長へ問いただした。
「マリアンナ、この無礼な小娘は誰なの?」
マリアンナ侍女長が答える前に、ティモーナ様が「はあ!?」と息巻いた。
「あなた、私のこと知らないの!?」
「知らないわよ」
侍女長が深く頭を垂れた。
「大変申し訳ございません、ラウラリーエ様。この方は我が国の第二王女であらせられます。王太后陛下のお孫様です」
「ダルディッシャムの孫ね。で、フェリは何を言おうとしていたの?」
ダルディッシャムっておばあ様を呼び捨てにしてる!! とティモーナ王女殿下が騒いでるけど、ラウは気にもしてない。
「王女殿下のお姉様、ルミスティーヌ王女殿下と勝負って、どうしてかしらと思って。理由を聞こうと思ったの」
「もちろん噂を糺すためよ! 貴方がお姉様より優れているわけがない!」
「・・・私もそのように思いますが…。噂があるのですか?」
国を背負わんと産まれたときから努力されている王女殿下と、比較されることがあるのね。びっくりするわ。
「バンドラガルの聖女で、精霊人に認められた次代の癒し手だって。そんなことあるわけないでしょう! あれほど努力されているお姉様が蔑ろにされているなんて認められないの!」
お姉様が大好きなのね。羨ましい。
「どなたがそのような噂をしているかは存じ上げませんが、私のような者が次代の癒し手など担えるはずもございません。どうぞご安心ください」
「ふ、ふん。なによ。案外物わかりが良いじゃない。分かれば良いのよ」
両手を腰に当ててふんぞり返ってる。可愛いわね。フォーレよりも3つくらい年上だったかしら。
「で、今日このあと勝負してくれるわよね? 皆の前で負けて欲しいのよ」
「何の勝負になりますか? 血術ですか?」
血術ってみんな視認できるんだったかしら?
「無論、剣よ。お婆様の代から王女でも姫騎士として兵を率いる義務があるの。お姉様の剣術は並じゃないんだから!」
なるほど。私に教えてくださったように、王女殿下も剣と契約されているのね。
「構いませんよ。負けるのも全然良いのですが、でも良いのですか? 私、ほとんど剣術を習ったことがないですし、剣を持てるかどうかも怪しいのですが、こんな素人丸出しの私と皆の前で戦わせて、ルミスティーヌ王女殿下の評判が逆に下がったりされませんか?」
「ある程度戦えるって聞いてるわよ? 剣じゃないの?」
「そうですね。昔は弓を使っていましたが、今は短剣ですね。短剣でも良ければお相手できますが、正式な決闘とは見なされないのではないでしょうか?」
「なんてこと!」
ティモーナ王女殿下は頭を抱えられてしまった。
「あ、でも今後剣術を習うことになっているのです。遠征から戻ってきてからになるので、三ヶ月後くらいからになりますが。半年もあれば少しは形になるかもしれません。その頃で良ければいかがですか?」
「馬鹿にしているの?! 十年訓練を続けているお姉様と半年の貴方を戦わせるですって?! お姉様が承知なさるわけないでしょう!」
なるほど。ルミスティーヌ様は高潔な人物のようね。でも、勝負となると・・・。
「困りましたね」
剣以外の勝負であればいいのだけれど。
「仕方ないわね。弓矢でもいいわ。お姉様は弓術も嗜んでいらっしゃったし。的当てなら怪我人も出なくて安心でしょう?」
譲歩したわたくし偉い、とばかりに鼻高々の様子のところ申し訳ないわ。
「申し訳ございません。今のところ弓は難しいのです。王太后さまが治療してくださるとのお話にはなっているのですが、左手が不自由でして弓が持てないのです」
左手を掲げてみせる。
力なく曲がった指先を目にしたティモーナ王女殿下は「だから剣も持てないのね・・・」と納得いただけたご様子。
「おばあ様はいつごろ治療されるって仰っていましたの?」
「以前のお話ですと3ヶ月ぐらいとの事でしたが、遠征の話が飛び込んできましたので、半年以上は先かと」
ティモーナ王女殿下はため息をつくと、大人のように肩をすくめた。
「本当にしょうがないわね。勝負してコテンパンにしてからと思ったのだけれど、精霊人だけでいいわ。お姉様に献上しなさい」
精霊人をけんじょう・・・。
そっとラウを窺い見ると、驚いて目をまんまるにしてる。
ラウが何か言う前に急いで回答した。
「申し訳ございませんが、精霊人は物ではございません。彼女には意思がありますので、私の一存で決めることはできかねます」
「そっか。人の命には従わないのね。でも貴方は契約したのでしょう? どうやって精霊人に気に入られたの?」
ラウが精霊人とは思ってもないみたいね。
「どう、と言われましても…」
気が付かない間に気に入られていたみたいだから、なんと答えたものかと困っていると、驚きから立ち直ったラウが答えてくれた。
「すべてよ。己がやるべきことに真摯に取り組む姿勢も、矜持も、愚鈍なほどの真っ直ぐさも、全部大好き。もちろん紅茶色の落ち着いた髪も、ペリドットみたいな瞳も、すぐ赤くなるところも全部好きだけど」
ティモーナ様の前だと言うのに、またこめかみにキスしてきた!
「ラウっ!」
腕を突っ張って遠ざけようとしたんだけれど、逆にバックハグされた。
「貴方には聞いてないのだけど・・・。え!? 貴方が精霊人なの?」
「そうよ」
「女の人じゃない!!」
「そうよ」
「精霊人って中性と聞いたわよ?! 性別あるなんて聞いてない!」
「ほかの精霊人なんて知らないわよ。私はフェリの血によってこの体になったの。大好きなフェリとお揃いの体よ?いいでしょう?」
「お揃いって・・・、赤ちゃんも産めるってことなの?!」
「そうよ。機能的に変わらないもの」
「え〜〜! わたくしが教わった精霊人と違いすぎるわ。おばあ様もこのことはご存知なの?」
「フェリの記憶みたんだし、知ってるんじゃない?」
侍女さんたちもざわざわしてる。
あれ? みんな気づいてなかったのかな? 胸あるし、明らか女性なのに。
「なんてことなの!? お姉様が男だったら、お姉様と婚姻いただいたのに!」
「・・・あんた凄いわね。私がもし男だとしても、あんたのお姉様は選ばないけど」
「どうしてよ! 才色兼備、非の打ち所なしよ!?」
まあ王族と婚姻できるとなれば、みなこぞって望むでしょうからね。
さきほどからティモーナ第二王女さまの表情はくるくるとかわって愛らしいわね。素直なのでしょう。
「だってフェリと結婚するし、してるし」
見て、とばかりに左手を取られた。
お揃いの指輪が青く輝く。
「え〜〜〜!!」
「だから他の女と契約は無理なの。分かったら帰ってくれる?」
「女性同士で結婚できたの!? え? うちの国ってそういう制度だった?」
ティモーナ王女殿下が混乱してる間に、入室してたお付きの侍女さんが、帰りましょう、とうまく誘導してくれてる。
「いつ間にこうなったの? 知ってる?」
「私では存じ上げませんが、法務長官ご令嬢のヘリナウベル嬢であればご存知かもしれません。宜しければこの後お誘いになってはいかがでしょうか?」
「いいアイデアね。行ってみましょう!」
きた時と同じように、嵐のように去っていった。
「すごかったわね・・・」
「ええ」
「また来るかしら?」
私の問いかけに答えたのはラウではなく、マリアンナ侍女長だった。
「次はお止めいたします。大変失礼いたしました」
「構わないわよ」
ラウは結婚してると事あるごとに言いたいみたいだから、ちょっと満足そう。
制度としては出来ないと知ったら、ティモーナ第二王女様はどうされるかしらね。