忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
中年紳士のおかげで食料品店で安く売ってもらうことができ、私たちは衣料品店に向かった。
外套の下の貫頭衣姿の私たちをみて衣料品店の店主はぎょっとしていたが、「寒村ではまだまだそういうところもあるだろうからねぇ」とフォローしてくれた。
「姉さまの服を買いたくて」
店主に言うと、すかさずラウラが口を挟んだ。
「フェリの服も買うの!」
「私はこれで十分よ。まだ丈も足りてるし」
「まあ、そう言わずに姉妹で買ったらどうだい? その格好だと脱走した奴隷に間違われそうだよ。首輪をしてないから奴隷じゃないんだろうけど」
間違われて誘拐されたら大変です!とラウラが騒ぐので2人分買うことになった。
町で見かけた女性たちが来ていたワンピースよりも装飾の少ないものを2着と、山での作業用にアウターとパンツを2着ずつ、それに下着とラウラの革靴。
さきほどの食料と併せて150銀貨が消える。
「だから、私の分はいらないって言ったのに」
「また稼げばいいから。もっと可愛い服買ってあげたい」
ラウの瞳は店の入り口に飾られているひらっひらの服に向いている。
「実用的じゃないわ。町で暮らしているわけじゃないし、山菜とってるあいだに枝に引っかけてやぶれちゃう。これだって十分すぎるくらいだけど・・・」
白い簡素な貫頭衣しか着たことがないから、違和感がある。
「服かわいそうじゃない? 服だってもっと可愛い子に着てもらいたいと思わないかしら? もっと安くて地味な服は置いてない?」
店主に聞いてみたけれど、
「いやいや似合ってるからね! お嬢ちゃんは十分可愛いよ!」
お世辞しか言わない。
「そうです!フェリは世界一可愛いです!」
ラウラも世辞しか言わない。
「・・・わかったわ」
そもそも獲物を狩ったのはラウなのだから、あんまりわがままを言うべきじゃない。
せっかくだからと、外套をリュックに仕舞い、ラウラが青で私が緑の色違いのワンピースを着て店を出た。
「お腹すいたなぁ。どこかで食べよ?」
太陽は中天をとうに過ぎていて、お昼の時間にしても遅い時間だ。
朝森で軽く食べただけだから、ラウはお腹すいたでしょう。
お兄さんが言っていたように露店で買って外で食べてもいいけど、少しはちゃんとした料理を食べてもらいたくて、目についた一軒の食堂に入ることにした。
私もお店に入るのは初めてなので、どうしていいか入り口で戸惑ったけど、ウェイトレスのお姉さんを見かけて声をかけた。
「食事をしたいのだけれど」
「いらっしゃい! 空いてる席に座って」
断られないと分かってほっとする。
「注文はどうすればいいのかしら?」
「文字は読める? 読めるなら壁に貼っているメニューから好きなのを選んで。決まったら教えて」
説明してくれる間も、お姉さんはテーブルの上を片付けていて手際がよい。
「分かったわ。どうもありがとう」
店内は男性の方が多かったが、女性もちらほらいる。
特段変なところはないはずだけれど、ラウラがちらちらと男性客から見られているのが分かった。
「あの席にしましょう」
店の端、壁際の席にして、ラウを壁側に押しやった。
これでぶつかられたり、話しかけたりしにくいはず。
壁にはメニューがずらりと書かれていて、私はラウのために読み上げた。
「メニューは概ねスープとメインと付け合わせね。スープだと野菜、魚、肉が選べるわ。メインは魚を焼いたものか肉を焼いたものね。あとはサラダとか煮物みたい。ラウはどういうのが食べたい?」
「フェリは?」
少しも考えた様子もなく即答された。
「パンとシチューにしようかと思ってたわ。ラウはラムのステーキも一緒に頼んだらどうかしら?」
「うん!それにする」
お姉さんに声をかけて注文できると、不思議な感慨にとらわれた。
ハイエヴァーではお店で買い物をしたことも、こうして食堂に来たこともなかった。
ここは私のことは誰も知らないし、嫌悪と拒絶のまなざしで見られることもない。
「すごいわね」
「ん? なにが?」
ラウは何もなくてもにこにこと楽しそう。
「おじい様からあの町を頼まれていたし、私も納得していたの。これでいいって。でも少し遠出をしただけで全然違って。・・・普通の人みたい」
「ムームのところを出て、町で暮らす?」
何がきっかけで忌み子と知れるか分からない。人は異質を嫌うから。
「私はいいわ。ムームのところが安心する」
「じゃあ、食べたら帰ろう? あ、でもお菓子屋さん寄りたい!」
「ええ。そうね。寄ってみましょう。あと冒険者ギルドにも寄りたいの。定期的に町にくるなら身分証を持っておいた方がいいと思うから」
「わかったわ」
料理に舌鼓を打った後、私たちは町の通りにあるというお菓子屋さんに寄ってみた。
もう夕刻手前の時間で、ほとんどの商品は売り切れていてしまっていた。
「また今度買いましょう?」
ラウを慰めつつ、冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドはさきほど行った商人ギルドからは2ブロック先の場所に建っていた。同じく石造りで立派な建物。
入り口に誰も立っていなかったので、依頼帰りだろう冒険者に続いて店内に入った。
ギルド内は左手半分が飲食スペースや待ち合わせ席、右手半分が壁に貼られた依頼票をみたり、カウンターで受付を行っているらしかった。
とりあえずカウンターで話を聞いてみよう。
依頼帰りの冒険者もまだ少ない時間帯のようで、空いているカウンターも多い。
どこにしようと悩んでいると、黒髪ロングのお姉さんと視線が合った。
「こちらどうぞ」
どこに行ってもみんな優しい・・・。
「姉に冒険者カードを作ってもらいたいの。どうしたら作れるかしら?」
「丁寧にお話しできて偉いですね~」
完全に子ども扱いされる。12歳以上は大人と同様に見なされるはずなのに。
「これでも13です」
身長?身長が足りないの?
「そうでしたか。それは失礼しました」
口調は多少改まったものの、子ども扱いが止んでないのは察した。
「カードを作るには、登録料と登録カードへの記入が必要ですが、それだけです。ただ、三ヶ月に一度は依頼を達成するか、登録継続料を支払う必要があります」
身分証として使用したい人は継続料さえ払えばいいということみたい。
「登録料はいくらですか?」
「30銀貨になります。なお継続料は50銀貨です」
「わかりました」
銀貨を用意しているとラウが口を出してきた。
「一人30銀貨ですか?」
「ええ。そうです」
「フェリは登録しないの?」
あの森の小屋からでるつもりはないから身分証も不要。それに。
「ええ。もうお金がないの。ラウだけで十分」
30銀貨きっちり支払う。
「たしかに30銀貨頂戴しました。お姉さんはこちらのカードに記入いただけますか?」
「それは私が書くわ」
氏名や年、出身地は適当に書いたが、スキルは「術士」と書いて大丈夫かな。
この国では上位の精霊術士は国に召し抱えられる事になってる。
町で術士と言っても隣国からの流れの者だと思われるけど、出身地が国内で術士と知れれば、なぜ王国術士軍に出仕しないか聞かれるかも。
「スキルはないとだめですか?」
「いえ、そんなことはないですよ。登録時点でスキルのない方もいらっしゃいますからね。ただどの系統のスキルか記入があれば、講習会などがあった場合にお知らせできますよ」
お姉さんはこちらの思惑など考えもしないようで、親切に教えてくれる。
私はスキル欄を空欄にしてお姉さんに渡した。
職員のお姉さんはしっかりと項目一つ一つを確認しているようだった。
「ラウラリーエさんですね。スルテム村出身と。こちら少し遠いように思いますけど、ギルガの町の方が近かったのではないですか?」
動揺してラウの目が泳ぐことはない。
全幅の信頼の下にただニコニコとしてくれるのはありがたい。
「交通路としてはこちらの方が発達しているし、依頼も多いと思ったの。それにギルガはダンジョンがあるから冒険者には人気だけど、その分柄の悪い大人も多いから」
「そうですね。おっしゃる通りです。では拠点をスルテム村からこちらに変えるおつもりですか? もし宿でお困りなら共同宿舎もありますよ。雑魚寝にはなってしまいますが」
「いえ、ありがとうございます。宿についてはあてがありますので大丈夫です」
「お知り合いがいらっしゃいましたか!それなら安心ですね。スキルの申請はなしですね。・・・はい。大丈夫です。カードを作成してきますので、かけてお待ちください。何か依頼を受けるのであれば、依頼ボードに貼りだしてありますので、ご覧になってお待ちください。最初はEランクからですよ」
言われたとおり、依頼ボードに足をすすめた。
夕刻時間なのもあって、誰も見ていない。
掲示もランクごとになっていて、一番端のEランクを見てみたが、簡単な依頼ばかり。薬草の採取や荷物、手紙の配達などが多い。
ヨモギやドクダミの採取なら森でも可能かな。期限も一週間ある。
「ラウ、これとこれならすぐにできそうだけど」
「わかったわ。カードできたらお姉さんに聞いてみる」
しばらく待つと、ラウラリーエさーん、と声がかかった。
「こちら登録カードになります。再発行にはお金がかかってしまうので、なくさないように気をつけてくださいね。最初はEランクからになり、依頼を達成するごとに高位ランクの依頼を受注できるようになります。何かいい依頼ありましたか?」
さきほどの薬草採取の話をすると、受注の仕方も教えてくれた。カードを剥がしてカウンターに持ってくればいいとのこと。
「ではこちらの2枚受注しますね。期限内までに採取をお願いします」
「わかりました」
無事にカードを作って冒険者ギルドを出るともう日も暮れかかっていた。
「一度ムームのところに帰ってから、薬草取る?」
「せっかく来たんだし、依頼を達成してから帰りましょう。明日一日あれば集められるし。…それより気がついてる?」
ラウが胸を張った。
「もちろん。どうする? 殺す?」
「いえ…」
こんなに好戦的とは知らなかった。
初めて来た町で殺しは良くないのでは?
いえ、普段から来ていたとしても殺しはいけないけれど…。
「忠告で済ませようかな。私が対応するわ」
「フェリがするの?! だめ! 危ない!」
「少し試してみたいことがあるの。本当に危ないと思ったら割って入っていいから」
「うーー。そういうことなら。気をつけてね」
こちらを物陰から伺っているのは、この町で絡んできた輩だ。行く先々で付けてきているのは分かっていた。仲間もいたようで路地の左右に3:2で潜んでいる。
私はあえて路地に向かって歩き出した。
余計な通行人はいない。
意識を肉体へ向ける。深く潜るように。氣を練り右手へと集めていく。
私の二歩後ろにはラウもついてきている。
路地に入ったところで、男たちの三人がこちらの裏側に回り込んだのを足音から察した。
残り二人は正面から向かってきた。
ごろつきにしては立派な体躯。さぞかし良いものを食べていそう。年は20過ぎたくらいかしら。
「ちっさい方に用はない。後ろの姉ちゃんに用があるんだわ」
と相手にしてくれない。
「姉さまに用があるなら、私が承るわ。どういった内容かしら?」
丁寧に聞いてあげたのに、男がああん?と首をかしげた。
「せっかく見逃してやろうって言ってんのに、分からんようだな。大人の話に首を突っ込むとこうなるんだ!」
子どもを相手にした舐めた右ストレート。手加減もしてくれたのかな。
私も身をかがめてかわして、カウンターを鳩尾に叩き込んだ。
練った氣を拳にはまとわせていたんだけど、腕や全身には回していなかったから、反動で吹っ飛んじゃった。
「フェリ!」
ラウがとっさにキャッチしてくれる。
「ありがとう。失敗だったわ」
「ううん。十分な一発だったよ」
男をみるとお尻を突き出した状態でうつ伏せに倒れ込んでいる。
「リーダー!」
残った男たちがまとめて襲いかかってくるかと思ったけれど、またしても「覚えてろよ~」とリーダーを四人がかりで抱えて逃げ去っていってしまった。
「つい見逃してしまったけど、次も町に来たら絡まれるんじゃないの?」
「あの程度、どうとでもなるよ。それよりフェリに怪我がなくてよかった」
抱き込まれたまま頭を頬でスリスリされる。
「ちょっと! 離して!」
「わかったから、暴れないの。早く寝る時間にならないかなぁ♡」
ラウは就寝時を合法的に私を抱き枕にできる時間と勘違いしているよう。
「あんまり変なこと言うと宿屋で二部屋とるわよ?」
「?? どういうこと?」
別々の部屋に寝泊まりする、ということを理解すると、ラウは半泣きになった。
「なんでそんな意地悪言うの? フェリをぎゅってしないと寝れないのに!」
「大丈夫大丈夫。毛布でも私だと思ってぎゅってすればいい」
「フェリのいじわる。いけず。ツンデレ!」
「ちょっと! だれがツンデレですって!?」
誰よ!? そんな言葉教えたのは!
「プティが寝てくれないなら、このままフェリのこと大好きーって叫んだらいいってアドバイスしてくれてる。叫ぶよ? 叫んじゃうよ?」
「変な脅しは止めて!」
私は叫びだそうとするラウの口を必死に塞ぐ羽目になった。
悔しいことに今日の勝敗もラウの勝ち・・・。