忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
どうされるのかは早速翌日に分かることになった。
今度はお姉様であるルミスティーヌ様を伴って現れたの。
どうやら王太后さまはご存知だったようで、訓練の時間にお茶をすることになった。
朝ごはん食べたばかりでそんなに入らないのだけれど。
第一王女のルミスティーヌ様は、金髪青瞳の実直そうな方だったわ。童話に出てくる妖精のような美しさ。私より一つ下だったと思うのだけれど、身長は私より頭一つ分は高い。出るところはでてるし、羨ましい。
「昨日はわたくしの愚妹が大変失礼いたしました」
頭を下げて謝罪するルミスティーヌ様。
王族は頭を下げないと思っていたのだけれど、王太后さまといい、ちょっと変わってるわよね。
「全然いいわよ。それより女性同士で婚姻できるか調べてきたんじゃないの?」
ラウラがティモーナ第二王女様に水を向けたのだけれど、答えたそうにしたティモーナ様を制して、ルミスティーヌ様が口を開いた。
「我が国で同性同士の婚姻は認められておりません。なぜラウラリーエ様はそのようなお話を妹にされたのでしょうか?」
「別にあなたたちに認めてもらう必要はないでしょ? 私たちはそういう気持ちでいるってだけ。邪魔するなら許さない、という警告よ。あなたたちはすぐ子供をもうけろとか、国のためにって言ってくるから」
王家なのだもの。国の繁栄や存続を第一義とするのは当然でしょうに。
でも、婚姻を勧められるのは辟易するわね。
「国家の損失ってね」
隣に座ってるラウが頬をつついてくる。以前の会話を当てこすってくるわね。私だって王族だったら婚姻迫ってるわよ。立場によるの!
「ダルも承知してるわよ? 私たちに強要したらこの国からいなくなるって分かってるから、言ってこないわ」
ダルって・・・。ダルディッシャム様のことを省略しすぎでしょう?! 昨日の今日でいつのまにそんなことになったの?
私の驚きにも気づかず、王太后さまが重々しく頷いた。
「当然のことだな。これ以上恥を晒すな。もういいだろう。王宮へ戻れ」
王太后さまの冷たい一言にお孫さまたちは従うものだとばかり思ったのだけれど、ルミスティーヌ様がおずおずとした様子でこちらを見てくる。
「大変不躾とは思うのですが、せっかくの機会なので、ヨルロン・ダンジョンで行ったという歌の浄化をみせて欲しいのです。本当に歌で浄化できますの? しかも愛し子以外の歌声も加えてと聞きました」
「ええ。できますよ。瘴気がないので祝福でよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。構わないわ」
「王太后さま、手の空いている侍女さんを数名お貸しいただけますか?」
「マリアンナ!」
侍女長へ下命されるとすぐに10名程度の侍女さんが集まってくれた。そのなかにはマリアンナ侍女長もいらっしゃる。
なんだか皆さん嬉しそう。ワクワクというか。
「何の歌にしましょうか?」
「もちろん、我が祖国ですわ!」
国歌ね。王太后さまも王女殿下もいらっしゃるし、相応しいのでしょうけど、あまり好きではないのよね。
好き嫌いで決めるべきではないかと思い直したところに、足元からフォーレが見上げてきた。
「こち、昨日うたったお歌がいいも」
ヨルロン・ダンジョンから戻ってきてから、約束通りフォーレとお歌の練習をしているのよね。昨日は春のうたを歌ったの。
教会の讃美歌でもあるのだけれど、田舎では春の種蒔きをする時に農夫たちがうたう歌でもあって、私も耳馴染みがある。国歌なんかよりは断然好き。
「そうしましょうか。みんなが知ってる歌ですしね」
ラウ湖でもたまに歌ってたし、ラウもこの曲は知ってると思うし。
「昨日、フォーレとは春のうたを歌ったのです。それで皆さんいいですか?」
フォーレさまのご要望とあれば是非もなし、と侍女さんたちが大きく頷いてる。
私は血を一滴床に垂らすと音頭をとった。
「皆さん、声量ではありません。春のうたの歌詞の通り、新しき息吹を讃え祝福する気持ちで歌ってください。では。いち、に、さん、はい!」
〜あたたかな、はるのかぜ♪
大地も冬の眠りから覚め〜
皆さん気持ちの乗ったいいお声ね。フォーレもお腹から声が出ていて、みんなと合わせて歌うのが楽しいみたい。
〜鳥よ うたえ 蝶よ 舞え
春の息吹を みなに伝えよ
春よ 春だと 雪どけの
女神がうたう その歓びを
ひかりさす 大地をみどりにせしめよ
木々にそよぐ あまねく声を
みなで歌わん さあ春の歓びを〜
みんなの歌声に私の声を合わせる。ちゃんとみんな他の方の声を聞いてくれてるようだから、抑揚をつけて感情を乗せやすくする。
みんなの歌声に私の歌を混ぜ込んで、まるで一つの血術のようにまとめ上げる。声に想いを込めて、床に垂らした血を媒体に、血力をさらに浸透させる。室内に広がるハーモニーを、まるで風で膨らんだカーテンのようにイメージする。
この歌は大地に祝福を齎すという意味では、祝福として最適だと思うけれど、少しばかり時期が早いのよね。まだ2月だし、畑を耕すのも種を蒔くのも早い。
だから祝福するのは大地ではなく、王都に住まう人々にしようと思う。ほんとは邸内で働く人にしようと思ったけれど、過度な祝福がかかりそうだったから。
暖かな春に芽吹く草木のように、新しき命に祝福を。また皆の才能が芽吹くように。飛躍と癒しの心を込めて。
みんなに届きますように。
みんなに祝福を。
大きく広がった光のカーテンを、私は室内を超えて空に放った。輝く星を地上にばら撒くように。
ストライクショットよりは優しいと思うのよね。春の日の小雨かな。
「まるで春の風ね」
すぐ頭上から包み込むような優しい声音がそそいだ。
でもイメージと違うのだけれど。
「優しい春雨をイメージしたのだけれど?」
「そうなの? 優しくて暖かくて春一番の風だと思ったわ」
ラウがふふ、と笑う。
「すてきね。すごくフェリらしいわ」
室内の窓から晴れた晩冬の空を見上げるラウには、どんな景色が広がって見えるのかしら?
私にはただの青空だけれど、ラウの瞳にすてきに映ってるならいいの。
「ありがとう」
ラウが私の左手をとってお揃いの指輪に口付けてきた。
「だいすき」
言わずにはいられないと言った風で、いつもに増して瞳がきらきらしてて潤んでる。
そんな顔、あんまりみんなに見せないで。
「ラウ、それ以上はやめてね」
釘を刺すと、分かってると言うけど、手は繋いだまま。離してはくれないのね。
「フェリさま! すごいも。このあたり全部きらきらしてるも!!」
フォーレが興奮して室内を駆け回ってる。
侍女さんたちも夢見心地みたいだけど、私からすればみなさん天井を見上げちゃってて、大丈夫?と聞きたいくらい。
まあヨルロン・ダンジョンでの侍女さん3人と同じような反応ではあるのだけど。
突然拍手の音が耳を打った。
はっとして目を向ければ、王太后さまが拍手してくれていた。
「見事だ」
「恐れ入ります」
頭を垂れておく。
「ミスティ、あれがバンドラガルの聖女であり、ヨルロン・ダンジョンの管理人が認めた癒し手だ。納得したか?」
王太后さまがどこか呆れたような様子で、ルミスティーヌ様に尋ねてる。
「はい。十二分に。・・・おばあ様、このあと少しお時間をいただいても?」
「いいだろう。フェリシア、訓練場で訓練しておいで。血術の練度を上げて結界の練習だ」
「はい。かしこまりました」
私たちがいつもの訓練場に移動すると、同行してきた侍女さんたちが目をキラキラさせて跪いた。みんなで目配せして頷きあってる・・・。
「私たち、フェリシア様のことももちろん尊く思っておりましたが、レイハスやセリスの言う通りでございました。今や王都中に星が散りばめられており、精霊たちが舞い踊っております。また、私たちの歌声を祝福としていただけるなど望外の歓びです。少しでも精霊に愛された者なら、この奇跡に立ち会えたことを神に感謝せずにはおれません。フェリシア様に深い感謝を捧げ、より一層のお世話に努めさせていただきます」
信徒のような眼差し・・・。
何というか、背中がむず痒いわ。
「あの...まずはお立ちになってください。はっきり言って皆さんが見えているものと、私が見えているものは違います。その前提でお話させていただきますが、昨日の私と今日の私とで、何ら変わるところはありません。ですから、皆さんも態度を改める必要はありません」
なんて言ったらいいのでしょうね・・・。
「今日のことで何か期待されても、私の姿勢は変わりません。ここに滞在しているのは一時のことで、すぐに出ていくつもりです。えぇと・・・」
この地に留まり、この国を祝福し続けるのは王家の役目で、私の役目ではないとはっきり伝えるべき?
それに、愛し子と忌み子は表裏一体の存在。愛し子だと尊ばれても、その裏に何があるのか知りもせずに一方的な盲信をされるのも好きじゃない。
どうお伝えしたものか悩んでいると一人の侍女が大きく頷いた。
「承知しております。それでも今日この日この場に立ち会えたことを歓ばしく思うのです。フェリシア様にはフェリシア様の思いがございましょう。それでも私たちのこの感動を無かったものにはできませんわ。たとえ王命だとしても。そのことを知っておいていただきたかったのです。あなた様のお命も精霊に尊ばれてお産まれになったのだということを」
侍女さんの最後の一言に、私は目から鱗が落ちた気分だった。ラウから言われてもピンと来なかったけれど、ようやく胸に沁みたというか。
産まれて喜ばれることがあるんだって、やっと分かったの。
納得して、理解できた。
ラウが言ってくれたから、シェラが言ってくれたからじゃなくて、私のことなんか全然知らない、ほとんど関わりのない人が生きていていいって言ってくれた。
親だって、町のみんなだって私をいらないと言ったのに。
私の存在を肯定してくれた。
胸が震えた。
「ありがとうございます・・・」
声が震えてうまくお礼が言えない。
「良かったね、フェリ」
ラウがそっと頭を撫でてくれた。
「こちも! こちもフェリさまとのお歌だいすきだも!」
足元でフォーレがぴょんぴょんと跳ねてる。
「うん」
こぼれ落ちそうな涙をラウに唇で吸い取られちゃった。
微笑ましげに侍女さんたちに見られて、居た堪れない・・・//////
先ほどとは別の侍女さんがパンと手を叩いた。
「お茶にしましょう! こういう時はお茶です! フェリシア様もまだ気持ちが落ち着かれないでしょう?」
他の侍女さんたちも、そうしましょう! とお茶の準備を始めてしまった。
私は訓練室にあるテーブルに着かされてしまったわ。
「またお菓子食べられるも?」
フォーレは嬉しそう。
ラウは何も言わないけど、私のすぐぴったり横に椅子をくっつけて背中に腕を回してくる。指先は腰に置かれたまま。嫌じゃないけれど、あんまり朝からは止めて欲しい。
「料理長が腕によりを掛けて作ったアップルパイがございますよ! 甘さ控えめだから是非フェリシア様にも召し上がっていただきたいと申しておりましたわ!」
「林檎や蜜柑もございますよ」
次々とテーブルに運び込まれて、訓練場だというのに甘い匂い。
王太后さまがいらっしゃったら目を丸くされるかも知れないわね。
「今日の祝福が上手くいったのも、皆さんのお気持ちが歌に沿ったものだったからです。皆さんも一緒にいただきましょう?」
侍女さんたちは遠慮せずに同席してくれて、王都の流行や世間話などを聞かせてくれた。
ささやかな茶会は楽しくて、ついつい訓練の時間が短くなってしまった。
時は少しだけ遡る。
フェリシアたちが退出し人払いした応接室には、王家に連なる王太后ダルディッシャムと孫のルミスティーヌ、ティモーナだけが残された。
口火を切ったのはルミスティーヌだ。
「おばあ様、我がロンダルディア王国はテラニード王国の分家筋です。血筋としてはテラニード王国に引けをとりません。血の濃さもです。血力は血の濃さだと仰っておいででしたでしょう?」
淡々とした口調ではあったが、焦りが含まれているのをダルディッシャムは微笑ましく受け取った。
努力家で勤勉な彼女は挫折を知らない。国内には彼女を脅かす者などおらず、テラニード王国の王子王女とも伍するそんな第一王女に初めて土を付けたと思わせたのだ。
「そうだな。私もずっとそう思っていた。王宮に保護している愛し子の中で我々を超える者がいるか? フェリシアは特別だ。今日の歌は祝福だったが、ヨルロン・ダンジョンでは界を違えて浄化を行ったのだぞ? そのようなこと私でも無理だ。それに精霊を精霊人ではなく ”女” にしたのだ。これがどういうことか分かるか? ”精霊”という存在を”人”へと転換させたのだ。このようなこと未だかつてあり得ぬ。”男”であればと私だって惜しい気持ちはあるが、こればかりは仕方がない」
ダルディッシャムは一度紅茶に口をつけ、一呼吸置くと覇気とともに孫たちを睨み据えた。
「フェリシアもラウラも我々の手の内には入らぬ。入れようとすれば王都は壊滅するぞ」
びくりと姿勢を正した孫たちに正しく伝わったようだ。
覇気を収めると、にやりと笑いかけた。
「なあに、フェリシアを害しさえしなければラウラが怒ることはない。フェリシアは優しく情に厚いところがあるしな。お前たちも王族としてではなく、一個人として付き合ってみたら良い。友人になればお前たちが困っていれば助けてくれることもあるだろう。・・・ただモーナよ、もう少し考えて発言なさい。マリアンナから話を聞いて倒れそうになったわ・・・」
何かあったかしら? と首をかしげる第二王女に、ダルディッシャムは頭痛がして、眉根を押さえる羽目になった。