忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
第70話 テラニード王国への出発
「それでは行ってまいります」
王太后さまのお屋敷には侍女さんたちが鈴なりで見送りにでてくれて、気恥ずかしい。
「お気をつけて!」
「お帰りお待ちしております!」
仲良くなった私付きの侍女さんが大きく手を振ってくれるから、私もささやかながら振り返してみた。
フォーレにはジーナ様を筆頭に、めろめろに攻略された侍女さんたちが手を振ってくれている。
「行ってくるも〜」
フォーレは大人気ね。
みんなが大好きなケモミミだけど、フードを被せて隠さなきゃ。
「ラウラ様、フェリシア様、参りましょう」
レイハスさんが促してくれる。
王都外まで馬車で送ろうかと提案されたけど断ったの。どうせ王都外にでたら走って行くのだし。
旅装もその辺にいる(上位)冒険者と変わらないものを用意してくれた。変に高いものを身につけていると狙われるからね。
それでも私たちが着ていた服よりは上等で、今まで着ていたのでいいと伝えたのだけれど、泣いて止められた。
私たちなりに稼いで選んで買ったものだったから愛着もあったのだけれど、ただの 厚い布 VS ミスリルの鋼糸 ではね。防御性能が全く違うからね。勝負にならなかったわ。
それから私たちの身分を証明するものとして、身分証と指輪を渡された。指輪は王家の家紋が刻まれた白銀製。一目で値打ちものと分かってしまうから、革紐に通して首に掛けてるわ。ラウもフォーレも同じようにしてる。
遠慮したのだけれど、テラニード王国にも通告済みだから、これがないと入国できないと言われたの。
なんかもう、まんまと取り込まれたみたいで嫌。
なお、レイハスさんとセリスは自分の家紋のものを身につけてる。
今回はユスフさんはいないから、自分の荷物は自分で持って移動。私は肩にずっしりと重い長剣のラエスメリアも背負ってるから、身体強化使ってなかったら潰れてしまう。
王都を出てしばらく。
人気のない丘陵までくるとレイハスさんが屈伸をし出した。
「フェリシア様。そろそろいいでしょう。私が先頭を行きますのでついてきてくださいね。フェリシア様のあとはフォーレ様、殿はラウラリーエ様お願いいたします。セリスは飛翔術で飛びながらあたりを警戒して」
「承知」
雲も少なく、春のように暖かい。
レイハスさんが外套をはためかせながら駆け、私も後に続いた。
目的地のガカーヤカム・ダンジョンは、隣国テラニード王国の南西。ロンダルディア王国とテラニード王国の間にはティール川が流れていて、これが国境線になっているの。
北と南に橋が掛かっていて、今回は南の橋を渡る予定。王都からは南東に向かうわ。
ロンダルディア王国から国境まで余裕を持って8日の旅程を組んでる。順調に走れば5日くらいで着くそうだから、だいぶ余裕があるわ。
全身に身体強化をかけて走る走る走る。
前にナウシーさんを助けたハユール村の時みたい。
農村や牧草地、放牧地などを駆け、雑木林を抜けて小川を超える。
「こち、もう無理だも!」
フォーレが早々に根を上げて、セリスが抱っこして飛んでくれることになった。
「フェリも抱っこする?」
ラウラがにこやかに聞いてきてくれたけど、私は首を左右に振った。
抱っこは好きだけれど、早すぎるわ。まだお昼にもなってないし。
「では行きましょうか。フェリシア様、まだ初日です。無理をする必要もありませんので、疲れた場合は早めに教えてくださいね」
了承したけど、ちょっと疲れたからって声はあげられなくない?
どれくらい疲れたら言っていいの?
氣を練りながら全身に行き渡らせる。王太后さまから言われた通り、氣や血力を巡らせて回路を太くしたからまだ大丈夫。
予定より半刻ほど早く今日の昼食&休憩地にしていた場所に着いた。
ご飯を食べたら再出発。
フォーレは今度はレイハスさんに抱っこされてる。
走って一刻ほどしたら、セリスが休憩しようと提案してくれた。
レイハスさんやラウラは平気そうだけど、セリスも飛翔術使い続けてるから疲れるよね。
ラウがテーブルや椅子を水術で作ってくれて、レイハスさんが携帯コンロやケトルでお茶を入れてくれる。
はー。温かくて美味しい。
「フェリ。今も身体強化使ってるでしょ? 休まなくて大丈夫?」
「氣なら走ってる間も少しは回復するし、宿に着くまでなら持つと思うわ」
「そうじゃない。氣が大丈夫なのはそれはそれですごいけど、体は大丈夫って聞いてる」
「氣を巡らせてるから大丈夫よ?」
レイハスさんが、お行儀悪くがちゃっと音を立てて茶器を置いた。
「身体強化止めてみてくださいますか!?」
慌てた様子でどうしたのかしら?
言われた通りやめてみると、途端に手足が震えて紅茶を溢してしまった。
ラウがカップを手から取ってくれて、水術で一瞬にして綺麗されたわ。
「すみません。もっと早くに気がつくべきでした」
「レイハス、フェリはどうしちゃったの?」
問いただす間にも抱きしめられる。
「フェリさま、大丈夫も?」
フォーレも心配気に見上げてくる。
「ただの筋肉疲労なので休めば大丈夫ですが、今日は走るのはもう止めておきましょう。私の不注意で申し訳ありません。痺れ以外に痛みなどはありますか?」
右手をぐーぱーと握り込んでみるが問題はなさそう。ぷるぷるしてるけど。
「足がちょっと痛いかも?」
立って少し歩いてみたけど、鈍い痛みがある。
「別に平気かな?」
これくらい大したことないわね。
ラウに攫うように抱っこされた。
「だめ! この後は宿までこのまま行こう」
まだお茶の途中なのだけれど?
「ラウラ様、少し歩かせた方が筋肉が落ち着きます。お茶が終わったらしばらく散歩して、それから抱っこで移動がいいと思います!」
「セリス・・・」
わざと抱っこを強調したでしょ。
セリスがくすっと笑う。
「だってフェリ、だっこ好きでしょ?」
セリスは私の要望通り友達口調で話してくれる。裏表もないし、旅の雰囲気が一気に気安いものになって、私も過ごしやすい。
でも、あんまり揶揄われるのは恥ずかしいわ。
好きって言ったことないのに、どうして分かるの?
ふふ、とセリスに笑われた。
「フェリ、全部顔にでてる!」
「ええ!?」
にやけたりしてたのかしら?
自分では分からないけど、右手でほっぺをぐにぐにしてみた。
「あーーん!かわいい♡♡♡」
ラウが左の頬やこめかみに何度も口付けてくる。
それ、私がフォーレによくやるやつでしょう・・。
「ほんとにかわいい。大好き」
私を抱えたまま椅子に座るから、私はラウの膝に座る形になった。
キスされそうになって、慌ててラウの口を塞ぐ。
「場所を考えて!」
何かもごもご言ってる。「そうだったわ。ごめんなさい」かしら?
溢してしまったお茶のおかわりを、レイハスさんがにこにこしながら注いでくれた。
「眼福です。王太后陛下とジーナ司教はお屋敷ではお近くにいらっしゃいますが、一歩外に出ればそれぞれお立場のお有りになる方ですから」
セリスもにこにこしてる。
「そう。ここまで明け透けにいちゃいちゃしないし」
それはそうよね!
公衆の場だもの。
「ラウ、おろして」
「だ〜め。汗かいて冷えてきちゃうでしょう? すこし水分とってあげる」
汗で濡れていた下着がさらりと乾いた。
「ありがとう」
「それに私たちは精霊術で体を温めてられるけど、フェリはそうじゃないでしょ。この前凍傷になりかけたの忘れた? 体は冷やしちゃだめ」
「大丈夫よ。ラウもフォーレもいるからいつもぽかぽかよ?」
ベッドが冷たくて眠れない日もないし。
「まだ手が震えてる。紅茶を飲ませてあげる。こんな荒野の真ん中で誰も見てないし。いいでしょ?」
レイハスさんとセリスが見てるのだけれど、私がカップを持つとまた溢しちゃうものね。好意に甘えちゃおうっと。
「いい香りね」
私のカップに顔を近づけて匂いを嗅ぐ横顔から、急に嬉しそうに間近で笑いかけてくる。
髪も顔もいつもきらきらして綺麗なのに、瞳までがとろとろで屈託がなくて、心から私を好きだと言ってる。
心臓が爆ぜる。
不意打ちはやめてほしいと思うけど、ラウは何にも考えてないのよね。
私が勝手にこうして何度も恋に落とされてるだけ。
「・・・・・・」
すごく好きって言いたくなったけど、レイハスさんもセリスもいるから。
ラウの服の胸元を掴んで我慢する。
ラウがこっそりと耳打ちしてきた。
「あとでいっぱいキスしようね」
もう! なんでそういうこと言うの?!
「フェリはかわいい」
セリスに言われてさらに顔に熱くなる。
あんまり言わないで!
むっとした顔を見せても、セリスもレイハスさんもによによしてるだけ!
「かわいいでしょ♡ いいでしょ♡ 私のお嫁さん♡」
ラウもやめて!
さらに頬にキスされそうになって、私は膝から飛び降りた。
「もう行きましょう!」
「はいだも!フェリさま、お手て繋いで欲しいも」
「〜〜〜!」
フォーレの上目遣いは攻撃力が高すぎると思うの。
ラウとは違った意味でお目がきらきらしてる。幼児は瞳の水分量が多いわよね?
目の白いところが薄ら青くみえることもあるし。
さらっさらの髪もぷにぷにのほっぺも愛らしい。
全幅の信頼が寄せられてるのも堪らない。
「もちろんよ」
「待って! 後片付けするから。あと私も手を繋ぐ!」
セリスが慌てて声を上げた。
どうして?と思ったのだけれど、身体強化をしてない私の手足は覚束なくて、心配してくれたみたい。
「ラウラ様だとまた赤くなっちゃうでしょ?」
「セリス!」
怒るけど、ふふふ、と笑われちゃった。
「剣も持ってもらえたら良かったのに」
危ないからと荷物はラウが持ってくれたけど、下賜された剣のラエスメリアは私の近くに置いて、血力と馴染ませた方がいいらしい。
普段は朝か夜に血をあげてるだけで持ち歩いてないのよね。
でも今回は長期遠征だし、持ってきてるの。
私の血力が馴染めば手足みたいに使えるらしく、重さも感じなくなるとのことなので、しばらくの辛抱。
「私の剣なのだもの。私が持つわ」
一刻ほど野道を散歩して、赤く染まる草原を抱っこされて最初の宿に着いた。
部屋はラウと私、レイハスさん、セリス、フォーレで二つに分けたのだけれど、眠くてキス以上は記憶がないわ。
でも翌朝、内腿の際どいところに鬱血痕を見つけたの。
私が見つけたことに気がついたラウが、自分にもつけて欲しいと言い出した。
「お、おなじところにつけて欲しいの?」
想像するとどきどきして緊張したのに、ラウはあっけらかんと否と…。否と!!
なによそれ! 頼んできてよ!
「恋人いるってアピールしたいから、首がいいわ。フェリ、きて?」
「・・・・・・」
断れるわけないでしょう!
誘われるままラウの胸に飛び込んで、首筋に口づけた。