忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
王都から離れ、4日目。
目に映る景色はどこも変わり映えはしない。
枯れ切った草に所々にある雪。丘に森。
馬車でない旅程は道に依らず、なるべく一直線に向かってるらしい。
昼飯は飯処で食べられる時は寄り、時間や距離的に立ち寄れない場合は野外で携帯コンロを使って用意してくれた。
夜は野宿はなくて必ず宿屋に泊まってくれる。
私のためだけではなくて、みんなの士気向上と体調管理を兼ねてみたい。寒いしね。
先頭を走るレイハスさんも私のペースを掴んでくれて、初日みたいにぷるぷるすることなく過ごせているわ。
でも筋肉痛であちこち痛い。
午前中も走り、昼食を村の飯処でとろうかと話題になった時にラウラが顔をしかめた。
「村の向こうの森、瘴気があるわね」
セリスも神妙な顔で虚空を睨むけど、諦めた様子で短くため息をついた。
「流石です。私には何も探れません。村の向こうと仰いますが、どれくらい向こうですか?」
「いまの移動速度だったら半日くらいかな」
「相当向こうですね」
レイハスさんも苦笑してる。
「申し訳ありませんが、移動中に瘴気に遭遇した場合は浄化するよう王太后さまから仰せつかっています。お話は聞いていますか?」
「聞いています。放置すれば広がりますし当然の対応です」
「ありがとうございます。村で昼食をとったあと向かいましょう」
レイハスさんはいいながら胸元から地図を取り出した。
「今はこの辺りです。こちらの方面に向かっているので、半日先というとグラハスの森あたりになりますか?」
みんなに見えるようにしてくれたので覗き込んでみた。
「そうね。そう呼ばれてる森だって精霊たちが言ってるわ」
「助けてって言ってるも」
見えなくてもフードの下のケモミミがぺったりしているのが分かった。
一方でセリスが悔しそうに口を引き結んでる。
「セリス、どうかした?」
「私には聞こえないから。人には聞こえないということ?」
「この世界はいろんな世界が重なってできてるも。精霊界もそのひとつ。そこに繋がってないと聞こえない声もあるんだも。こちたちは体は与えられたけど、心は精霊界に繋がってるんだも」
「フォーレ様、ありがとうございます。やはり存在が違うということなのですね」
「気にすることないも。それぞれの界でそれぞれに役割があるも。セリスもレイハスも優しいから、こちは好きも」
「私も大好きです♡」
「私もです!」
二人が食い気味に即答する。
「見つけたからには時間を置きたくないわ。昼食を食べたら、フェリとフォーレを抱っこして最速で向かいましょう。フェリ、あとで祝福して」
「もちろんよ」
向かったグラハスの森に近づくにつれて、ラウの表情が険しいものになった。
理由はわかる。
この気配はラウを魔物に落とそうとした、あの男の子のものだったから。
「ラウ。何があっても、何を引き換えにしたって、あんな目には絶対に合わせないから」
抱っこされた姿勢だったけど、決意を込めて誓ったのに、目を丸くして立ち止まって声を上げて笑われた。
どうして笑うの!
「その心配は要らないわ。あの男の悪意が、フェリの血と親愛に勝るわけない。それに・・・」
言いかけたところで虚空を見上げる。
精霊たちのお話を聞いてるみたい。
「本人はいないみたいね。魔獣へと変異させられた精霊ととっくに立ち去ったみたい」
悪意を広める本人がここを去ってもこうして広がっていってしまうのね。
萎びた下草に、枯れた枝木。地面は黒ずみ、空気は澱んで下水のような腐った臭いがする。
祝福を与えてなければ、みんな瘴気に侵されてしまいそう。
「悪意をばら撒く本人がいないなら、森の奥まで行く必要はないわね。端の方から祝福で浄化していくのがいいわ。体調崩しそうだし」
ラウの提案に私は頷いた。
みんなに危険がないのがいい。
「ここから始めるわ。ラウおろして」
冷たい大地に降り立ち、私はイメージを膨らませた。
冬の森。
ハイエヴァーの森やポーリンガムの森はどうだった?
深い緑の針葉樹も、すっかり葉を落とした広葉樹も伸びやかに枝を伸ばし、春を待って蕾を膨らませる。
森閑とした空気。
小鳥の鳴き声がして、冬に実をつける木に小さな動物たちが立ち寄って。
森のそばで暮らした私の中には、森の姿がまざまざと浮かぶ。
黒ずんだ大地に血を一滴与え、血力と氣をまぜて練り上げた。
「さあ、あなたたちの本当の姿を取り戻しましょう。苦しい気持ちにも悲しい気持ちにも負けない、あなたたちの中には温かい気持ちがあります。負けないで。私も助力します。すべからく皆に祝福を」
血の一滴を媒介に血力と氣を爆発させる。
矢を放つ時のように弦を大きく引き、灰色の空へと撃ち放つ
「ストライクショット」
流星の雨が空を、木々を、大地を打つ。
一帯の瘴気が雨に打たれるように浄化され、元の美しい森の姿へと戻るけれど、枝の陰や木のウロなどに残るかもしれない。
残れば増えてしまう。
私はさらに雨が降った後の靄をイメージした。
小雨が立ち込め霧のように辺りを包む。
こうしておけばストライクショットで逃してしまった瘴気も消えるでしょう。
「本当にいつも素晴らしいわ」
ラウが頬擦りしてきたかと思うと、頬にキスされた。
「フェリに見えたらいいのに。精霊たちが踊り狂ってるわ」
ふふふ、と上機嫌で教えてくれるけど、どこの精霊も踊り狂うのね?
「ポーリンガムでもヨルロン・ダンジョンでも、この前の王太后さまのお屋敷の祝福の時も、いつも精霊は踊るの?」
「そうね。体全体で喜びを表現するのよ。こんな風にね」
ラウが軽やかに踊って見せてくれる。
フォーレもそのまわりを好き勝手に踊る。
「なんという・・・」
レイハスさんが祈りのポーズしちゃってる。。
セリスは食い入るように見てるけど、私に気がつくと興奮して教えてくれた。
「ラウラ様が踊るのに合わせて精霊たちも踊ってる。すごい光景」
「そうなのね」
私には冬の森でラウとフォーレが仲良く踊ってるようにしか見えないわ。
「フェリ! 一緒に踊りましょう!」
「ええっ!?」
ダンスなんてできないけれど。
「いいのよ、適当で。フェリが思うまま体を動かせば良いの」
ラウがそう言ってくれて、私の手を取った。
好きに踊ればなんていうくせにぴったり密着してくるじゃない!
半ば引きずられるような形で体を動かす。
ダンスといえるようなものじゃなかったけれど、ただ楽しい。
しばらく踊っていると、セリスが声を掛けてきた。
「盛り上がっているところ悪いけれど、浄化するところまだ残ってる。日が暮れる前に行こう」
ごもっとも。
「セリスの言うとおりですね。次の地点に移動しましょう」
レイハスさんの先導に続く。
私は乾いた枯れ草を踏み締めた。