忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
3箇所に祝福を与えたけれど、グラハスの森は広く、残り3分の1ほど。
あと2回祝福すれば完了しそう。
日は森の向こうに隠れて、灰色の空は暗く薄気味の悪いものになってきている。
「やはりここで切り上げましょう。カンテラでは足元が悪すぎます」
みんなは光術で明るい中歩いているけれど、私だけ暗いままなのよね。
おかげで転びかけちゃったからレイハスさんが心配してくれてる。
足元はよく見えなくても、前を行くレイハスさんとフォーレがいるから、その後をついて歩けばいい。
それほど高負荷な作業でもないし。
「大丈夫です。このまま祝福してしまいましょう」
歩を進めると木々の向こうに、なにか巨大なものが見えてきた。
巨大な魔物だったらラウが注意してくるだろうし、なんだろう? 巨大な石?
近づいてみると、中央からばっきりと折れた巨木だった。
夕闇に沈むその姿は昏く、そこから闇が立ち上ってくるよう。それにこの森に入ってから最も悪意に満ちた場所ね。
折れた樹木の断面はとげとげしく、泣いて悲鳴を上げているみたいに見える。
こんな立派な樹だもの。
この森を守護する精霊の拠り所だったのでしょう。
可哀想に。
ラウもあのとき嫌だって泣いていた。
きっとこの樹の精霊も嫌がったと思うの。
「本当に気に食わない気配ね。ここの森の精霊守は魔物に変えられた後、北の方へ連れて行かれたらしいわ」
「ここの浄化終わったら追う?」
セリスの質問に、私も今後についていろんな事が脳内を巡る。
浄化をおろそかにはできないから、追いかけるなら終わってから。
あの男の子の傍には、死に神のような男がいた。
ちょっと怖いけど、今のラウならどうにかなるかしら?
一年前のあの日のことをラウに聞いたことがあるけど、生成されたばかりの体で、どうにか私を担いで逃げたって言ってた。
魔獣にされて連れて行かれた精霊も、私たちとは敵対してくるわよね。
「無理よ。この樹に棲み着いていた精霊は1ヶ月は前に攫われてる。到底追いつけないわ」
「そうですか・・・」
しょんぼりとしたセリスの肩に、レイハスさんがなぐさめるように手を置いた。
「精霊が連れ攫われる事件は他にもいくつか報告を聞いているわ。私たちの今回の遠征の趣旨とは違うし、それに向こうの戦力も分からない。ラウラ様がお強いと仰っても、忌み子相手では分が悪いと思う。
もし罠を張られていて、ラウラ様、フェリシア様、フォーレ様に何かあっては、ガカーヤカム・ダンジョンでの浄化に滞りが起きてしまう。私たちはこのまま進むのが良いと思うわ。精霊を害する奴らに憤る気持ちは分かるわよ? 今回は王太后様へのご報告で留めておきましょう」
「はい。レイハスさん」
セリスが納得したところで、私は浄化の準備を始めた。
瘴気に満ちた大地に血を垂らし、血術と氣を体内に巡らせる。
今日4回目だけど、浄化作業はそれほど苦ではない。血力も半分は残っているし、汚染の酷い巨木は、強めに浄化した方がよさそうね。
私は巨木を重点的に浄化するイメージを乗せて、夕闇の空にストライクショットを放った。
打ち上げた浄化の力がドーム状に広がっていくのを見ていると、突然両足の甲に痛みが走った。
「!!!?」
倒れ込みそうになったところで、ラウが抱きかかえてくれた。
「フェリ!!」
自分で革靴をみても何にも無い。
激痛と悪寒ーーーこれは、悪意?
シネヨ・・・キエロ・・ミンナホロベ・・・・オナジメニアワセテヤル・・・
「レイハス! フェリの靴を脱がせて!」
「はい!」
両足はどす黒い紫色に変わり、靴底にはナイフが刺さったみたいな穴が空いていた。
1ヶ月以上前に立ち去ったって言ってたけど、まだ近くにいる?
私は再度手のひらを傷つけて結界を張った。半円形の結界で悪意や瘴気は通さない。もちろん精霊術も。
立て続けての攻撃を警戒するけど、とくに何も起きない。
さらに血を媒介にしてあたり一体の探索をしてみたけれど、忌み子の結界や悪意は見つけられなかった。
「ラウ、この付近に忌み子の気配はないわ。精霊術士の気配はある?」
「ないわ。いないと断言できる。それより足は大丈夫なの!?」
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
これくらいの悪意ならどうってことはないわね。
ヨルロン・ダンジョンの方が肝が冷えたわ。
一時は両足首まで黒く染まったけれど、体内を巡らせる血力を足に意識すれば、徐々に本来の色を取り戻していけそう。
でもこのまま消してしまうのは、もったいない気がする。
彼がどうして忌み子になってしまったのか。
・・・シネ・・・・・・クルシメ
彼の悪意からは思念が読み取れる。共感性で読み取れないかしら?
両足の悪意に浄化ではなく、意識を寄り添わせる。
真っ先に脳裏に映ったのは、胸が潰れそうな後悔と喪失。
そして喧騒と暴力、悲鳴。
私はもう少し深く意識を潜らせた。