※この作品はR-18です。

忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん!   作:さとう_2701

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第73話 忌み子イーダの記憶

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残酷なシーンがありますので、苦手な方はスキップをお勧めします。

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「イーダ!イーダはどこだ!」

 荒々しい父親の酔っぱらった声がする。

 ドン、と壁やテーブルを蹴りつける音と振動が母屋と隣接する家畜小屋まで響いて、慌ててイーダは母屋に顔を出した。

 扉から顔を出すだけ。決して中には入らない。

 

「とうさん、なに?」

 聞かなくても呼びつけられた理由など分かっている。

 

「おっせんだよ!ちんたらしやがって!」

 父親が酔った足取りで戸口から出てきた。

 

「今日、一匹も取れなかったってどういうこった? あ? 他に何ができんだよっ!」

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 イーダは小さく縮こまった。

 

 今日は海が時化て、一匹も魚が獲れなかったのだ。

 父親に脇腹を蹴り上げられて、ぬかるんだ地面に転がり倒れた。

 反抗すればもっと痛い目に遭う。

 

 小さく亀のように丸くなり、背中を蹴られ、足蹴にされ、頭を踏みつけられたが、父親の気が済むのをじっと待つ。

 

 

「この穀潰しが!ただ飯ばっかり喰いやがって!」

 散々蹴り付けて、気が済むと父親は母屋に戻って行った。

 

 ばたんと木戸が締まったのを見届けてから、家畜小屋から妹が飛び出してきた。

「にいちゃん・・」

「大丈夫だ。骨は折れてないから」

 

 

 父親は事あるごとに自分を殴り、蹴りつける。

 今年で十六になるのに、どこにも雇ってもらえない息子に苛立っているのだ。

 

 忌み子である自分を雇ってくれるようなお人好しは、この世にいない。

 

 生まれ育ったリロテル村はィエール海に面した漁業の村で、多くの者が魚を獲って生計を立てているが、漁師村であるリロテル村の中にあって、イーダの父親は小麦農家の小作をやっている。

 

 イーダの家が建っている土地も地主のもので、イーダの父親のものではない。

 父親の、更に父親、イーダの祖父が事業に失敗してこの村に流れ着いたらしい。

 困っていたところを地主に拾ってもらったということだった。

 

 地主は敬虔な精霊教会教徒で、恩恵に与れない忌み子を嫌いぬいている。

 父親と同じく雇ってもらうなど到底無理な話で、イーダは誰の物でもない海に出かけ、船もないので素潜りで魚を獲って家計を助けていた。

 

 本来なら漁協ギルドに入って船を貸してもらい、沿岸まで漁に出られれば、もっとたくさんの魚が獲れることも知っているが、誰もそんな手は差し伸べてくれない。

 

 この先、両親が亡くなった時に、どうしたらいいのか。

 

「にいちゃんと一緒だから、いい」

 今年十四になる妹ミーシャはそう言ってくれるが、これ以上惨めな生活をさせたくない。

 

 母屋での生活もさせてもらえず、年頃だというのに綺麗な服も着せてもらえない。

 もちろん自分にも金はなく、もしお金があっても仕立て屋は売ってはくれないだろう。

 

 この村でミーシャをもらってくれるような物好きな男もいないだろうし、父親が死んでこの家から出て行くように言われた時は、ふたりで出て行くしかない。

 それが何年後の話になるのかは、イーダには見当もつかなかったが、ミーシャが言ってくれたように、妹さえいるなら、貧しい暮らしでもどうにかなるような気がした。

 

 

 

 

 夏の暑い日だった。

 

 この村では納涼を兼ねて夜祭が毎年開催され、その日ばかりはケチな地主や数軒の網元が金銭を出し合い、食べ物を振る舞ってくれる。

 

 イーダとミーシャはその祭りには参加できないが、夜には母親が振る舞われた料理を食べさせてくれる。

 せめて身綺麗にしておこうと川に身体を洗いに来ていた。

 

 十四歳になったミーシャは、イーダとは違って胸が膨らみ、身体が丸みを帯びてきた。一緒に洗いっこをしていると、どぎまぎすることもしばしばだ。

 

 普段なら誰も来ないような森の奥の川端で、ふたりで水を掛け合って楽しんでいると、大勢の足音がした。

 

 

「ひゅー、ほんとだな」

「だろ。言った通りだったろ」

 現れたのは村の若い衆で、中でも猛々しいと噂されている連中だった。

 連中は父親と同じく、イーダが目に付いただけで気に喰わないらしく、会うたびに暴力を振るってくる。

 

 どうしてこんなところにと、思わずにいられなかったが、今は妹がいる。因縁を付けられる前に川から上がろうとした。

 

 

「おっと、イーダ、妹は置いて行けよ」

 

「は?」

 

 言われた意味が分からずに、男衆を見返した。

 

「十四にもなって貰い手がないんじゃ、かわいそうだからな。俺たちが男ってもんを教えてやろうと思ってな」

 にやにやとした顔は醜悪で、イーダは服を引っ掴むと、妹の手を取って男たちとは反対側に駆け出した。

 

 

「追え! 追い込み漁だ!」

 

 痛快そうな声を背に浴びながら、裸足で森を駆けた。

 

 右も左もよく知る庭のような森だが、男たちの足は速かった。

 ぐいぐいと追いつかれ、妹の服を掴まれた。

 

「にいちゃんっ!」

 

「手を離せ!」

 逃げるのを諦め、男と対峙したが、一瞬もせずに殴り倒された。

 

「お前は黙ってろ。いつもどおりまぁ~るく、小さくなってりゃいいんだよ!」

 別の男に蹴り倒され、二人掛かりで取り押さえられた。

 その間にも妹には五人の男たちが群がり、びりびりと服の破ける音がする。

 

「やだぁっ! にいちゃんっ! にいちゃん!」

 

「ミーシャ! ミーシャっ!」

 

 腕を捻り上げられ、地面に俯せに押さえつけられたが、骨が折れてもいいから、めちゃくちゃに暴れた。

 

 肩の関節が外れて、ごりっと音がしたが、構わなかった。

 背に乗った男を退けて妹に駆け寄りたかったが、男たちに殴りつけられた。

 

「大人しくしろっ!」

 

 こめかみと顎と強かに殴りつけられ、手足に骨がなくなったように、ぐにゃぐちゃになった。

 足が立たず、背骨がまっすぐ伸びない。音がぐわんぐわんして、目が回る。

 

 

「にいちゃん! にいちゃん!」

 妹が泣く声と、男たちの下卑た笑い声ががんがん響く。

 

「やぁあああ! やだぁあああ!」

 

「うるせえ! 静かにしろ!」

 張り倒される音も聞こえてるのに、何もできない。

 悔しくて、涙で視界がけぶって、妹が見えない。

 

「やあああ! いやあああ!」

 

「うるせぇな。口塞いどけ。ちっ、はいんねぇ」

 

「いってぇ! 噛まれた!何しやがんだっ!」

 ごつっと鈍い音の後に、ぼきっと太い何かが折れる音がした。

 

「ばっか! おまえ! これじゃ楽しめねぇだろ」

「だっていきなり噛みやがるから」

「ちっ、つまんねぇな。三日は楽しめると思ったのによ」

 悪態をつきながらも、男たちが焦るそぶりが伝わってきた。

 

「俺たちは何にも楽しんでねぇんだぜ? 信じられねぇ。今日の酒はお前のおごりな」

 

 背中に乗っていた男が退いた。

 

 

 男たちの会話も、妹の悲鳴も全部が水中で喋っているように聞こえて、頭もぼんやりとして、愉しんでないのに、どうして男たちが遠ざかっていくのか理由も見えないまま、声を上げない妹ににじり寄った。

 

 

「ミーシャ、大丈夫か?」

 

 うまく動かない手で涙をこすり、ミーシャに側寄る。

 服は破かれてあられもなくはだけ、あちこち擦り傷もあった。

 

「ミーシャ、ごめんな。にいちゃん、守ってやれなくて・・・・・」

 破かれた衣服を引っ張り合わせ、身動ぎしない妹を抱き寄せた。

 

 まだ温い妹は、頸が折れていた。

 

 

 

 

 

 

 

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