忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
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残酷なシーンがありますので、苦手な方はスキップをお勧めします。
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「イーダ!イーダはどこだ!」
荒々しい父親の酔っぱらった声がする。
ドン、と壁やテーブルを蹴りつける音と振動が母屋と隣接する家畜小屋まで響いて、慌ててイーダは母屋に顔を出した。
扉から顔を出すだけ。決して中には入らない。
「とうさん、なに?」
聞かなくても呼びつけられた理由など分かっている。
「おっせんだよ!ちんたらしやがって!」
父親が酔った足取りで戸口から出てきた。
「今日、一匹も取れなかったってどういうこった? あ? 他に何ができんだよっ!」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
イーダは小さく縮こまった。
今日は海が時化て、一匹も魚が獲れなかったのだ。
父親に脇腹を蹴り上げられて、ぬかるんだ地面に転がり倒れた。
反抗すればもっと痛い目に遭う。
小さく亀のように丸くなり、背中を蹴られ、足蹴にされ、頭を踏みつけられたが、父親の気が済むのをじっと待つ。
「この穀潰しが!ただ飯ばっかり喰いやがって!」
散々蹴り付けて、気が済むと父親は母屋に戻って行った。
ばたんと木戸が締まったのを見届けてから、家畜小屋から妹が飛び出してきた。
「にいちゃん・・」
「大丈夫だ。骨は折れてないから」
父親は事あるごとに自分を殴り、蹴りつける。
今年で十六になるのに、どこにも雇ってもらえない息子に苛立っているのだ。
忌み子である自分を雇ってくれるようなお人好しは、この世にいない。
生まれ育ったリロテル村はィエール海に面した漁業の村で、多くの者が魚を獲って生計を立てているが、漁師村であるリロテル村の中にあって、イーダの父親は小麦農家の小作をやっている。
イーダの家が建っている土地も地主のもので、イーダの父親のものではない。
父親の、更に父親、イーダの祖父が事業に失敗してこの村に流れ着いたらしい。
困っていたところを地主に拾ってもらったということだった。
地主は敬虔な精霊教会教徒で、恩恵に与れない忌み子を嫌いぬいている。
父親と同じく雇ってもらうなど到底無理な話で、イーダは誰の物でもない海に出かけ、船もないので素潜りで魚を獲って家計を助けていた。
本来なら漁協ギルドに入って船を貸してもらい、沿岸まで漁に出られれば、もっとたくさんの魚が獲れることも知っているが、誰もそんな手は差し伸べてくれない。
この先、両親が亡くなった時に、どうしたらいいのか。
「にいちゃんと一緒だから、いい」
今年十四になる妹ミーシャはそう言ってくれるが、これ以上惨めな生活をさせたくない。
母屋での生活もさせてもらえず、年頃だというのに綺麗な服も着せてもらえない。
もちろん自分にも金はなく、もしお金があっても仕立て屋は売ってはくれないだろう。
この村でミーシャをもらってくれるような物好きな男もいないだろうし、父親が死んでこの家から出て行くように言われた時は、ふたりで出て行くしかない。
それが何年後の話になるのかは、イーダには見当もつかなかったが、ミーシャが言ってくれたように、妹さえいるなら、貧しい暮らしでもどうにかなるような気がした。
夏の暑い日だった。
この村では納涼を兼ねて夜祭が毎年開催され、その日ばかりはケチな地主や数軒の網元が金銭を出し合い、食べ物を振る舞ってくれる。
イーダとミーシャはその祭りには参加できないが、夜には母親が振る舞われた料理を食べさせてくれる。
せめて身綺麗にしておこうと川に身体を洗いに来ていた。
十四歳になったミーシャは、イーダとは違って胸が膨らみ、身体が丸みを帯びてきた。一緒に洗いっこをしていると、どぎまぎすることもしばしばだ。
普段なら誰も来ないような森の奥の川端で、ふたりで水を掛け合って楽しんでいると、大勢の足音がした。
「ひゅー、ほんとだな」
「だろ。言った通りだったろ」
現れたのは村の若い衆で、中でも猛々しいと噂されている連中だった。
連中は父親と同じく、イーダが目に付いただけで気に喰わないらしく、会うたびに暴力を振るってくる。
どうしてこんなところにと、思わずにいられなかったが、今は妹がいる。因縁を付けられる前に川から上がろうとした。
「おっと、イーダ、妹は置いて行けよ」
「は?」
言われた意味が分からずに、男衆を見返した。
「十四にもなって貰い手がないんじゃ、かわいそうだからな。俺たちが男ってもんを教えてやろうと思ってな」
にやにやとした顔は醜悪で、イーダは服を引っ掴むと、妹の手を取って男たちとは反対側に駆け出した。
「追え! 追い込み漁だ!」
痛快そうな声を背に浴びながら、裸足で森を駆けた。
右も左もよく知る庭のような森だが、男たちの足は速かった。
ぐいぐいと追いつかれ、妹の服を掴まれた。
「にいちゃんっ!」
「手を離せ!」
逃げるのを諦め、男と対峙したが、一瞬もせずに殴り倒された。
「お前は黙ってろ。いつもどおりまぁ~るく、小さくなってりゃいいんだよ!」
別の男に蹴り倒され、二人掛かりで取り押さえられた。
その間にも妹には五人の男たちが群がり、びりびりと服の破ける音がする。
「やだぁっ! にいちゃんっ! にいちゃん!」
「ミーシャ! ミーシャっ!」
腕を捻り上げられ、地面に俯せに押さえつけられたが、骨が折れてもいいから、めちゃくちゃに暴れた。
肩の関節が外れて、ごりっと音がしたが、構わなかった。
背に乗った男を退けて妹に駆け寄りたかったが、男たちに殴りつけられた。
「大人しくしろっ!」
こめかみと顎と強かに殴りつけられ、手足に骨がなくなったように、ぐにゃぐちゃになった。
足が立たず、背骨がまっすぐ伸びない。音がぐわんぐわんして、目が回る。
「にいちゃん! にいちゃん!」
妹が泣く声と、男たちの下卑た笑い声ががんがん響く。
「やぁあああ! やだぁあああ!」
「うるせえ! 静かにしろ!」
張り倒される音も聞こえてるのに、何もできない。
悔しくて、涙で視界がけぶって、妹が見えない。
「やあああ! いやあああ!」
「うるせぇな。口塞いどけ。ちっ、はいんねぇ」
「いってぇ! 噛まれた!何しやがんだっ!」
ごつっと鈍い音の後に、ぼきっと太い何かが折れる音がした。
「ばっか! おまえ! これじゃ楽しめねぇだろ」
「だっていきなり噛みやがるから」
「ちっ、つまんねぇな。三日は楽しめると思ったのによ」
悪態をつきながらも、男たちが焦るそぶりが伝わってきた。
「俺たちは何にも楽しんでねぇんだぜ? 信じられねぇ。今日の酒はお前のおごりな」
背中に乗っていた男が退いた。
男たちの会話も、妹の悲鳴も全部が水中で喋っているように聞こえて、頭もぼんやりとして、愉しんでないのに、どうして男たちが遠ざかっていくのか理由も見えないまま、声を上げない妹ににじり寄った。
「ミーシャ、大丈夫か?」
うまく動かない手で涙をこすり、ミーシャに側寄る。
服は破かれてあられもなくはだけ、あちこち擦り傷もあった。
「ミーシャ、ごめんな。にいちゃん、守ってやれなくて・・・・・」
破かれた衣服を引っ張り合わせ、身動ぎしない妹を抱き寄せた。
まだ温い妹は、頸が折れていた。