忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
「フェリ!フェリ!!」
ラウに揺さぶられて、私は自分が泣いているのに気がついた。
臓腑を焼く憎しみと悲しみに、心臓すら圧迫されて呼吸が苦しい。
心が鳴動して、目の前のラウの首にかぶりついた。
温かくて抱き返してくれて、・・・ミーシャの・・・・・・妹の首は折れてしまっていたのに。
「うわぁぁぁぁぁあ!!!」
彼のかなしみが去来して、慟哭が収まらない。
…シネ…ミンナクルシメ…ミンナシネ
同調せずにはいられない。
人間なんてみんな死ねばいい。
苦しんで死んでしまえばいい。
「あぁぁぁぁあ!!」
心のままに叫んでいると、頬を張られた。
「フェリ!しっかりして!」
気がつくと、ラウの首からは引き剥がされて、セリスが左手をあげていた。
「もう一回叩いておこっか」
ぱぁん!!
逆側も張られる。
「あ、あ…」
「フェリ、大丈夫? わたしの声、聞こえる?」
頷くと半泣きのラウに抱きしめられた。
「良かった。話しかけても泣き叫ぶばっかりだし、悪意は広がるし・・・」
心臓はまだ早鐘を打って、悲しみも憎しみも胸の中でとぐろを巻いているけれど、イーダの意識に引っ張られすぎていた自分を取り戻せた。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫」
気軽に記憶を覗こうとしたのは浅慮だったけれど、見なくても良かったとは思えない。
忌み子になるということは、あれだけの悲しみと憎しみを抱えるということ。
もしラウが同じ目にあったらと思うと、心が潰れて息もできない。
あんな想いを抱えて、変えられない過去を嘆いて、力のない自分を恨み、人を呪い、埋められない心の穴を誰かを害することで埋めた気になって・・・。
誰が呪って、誰が呪われているのか・・。
だめね。涙が止まらない。
「フェリさま、足痛いも?」
フォーレが袖で涙を拭いてくれる。
「ううん。大丈夫よ。ありがとう。足は大丈夫。胸が苦しいだけ」
「なでなでするも?」
胸の上に置かれたフォーレとラウの手をにぎる。
胸の痛みが薄れた気がする。
私にはお嫁さんがいてくれて、大事な家族もいる。なにも失ってない。
でもイーダに起こったことは、同じ忌み子の私にも起こり得た事。
どこに生まれ落ちるか。
神の気まぐれだ。
忌み子に産まれたことさえ気まぐれなら、そんな運命を呪うのも当然よ。
「もっとなでなでするも!」
フォーレもラウも優しくなで続けてくれる。
「フェリ、してほしいこと言って!」
「フェリシア様、大丈夫ですか?」
セリスもレイハスさんも心配気に覗き込んでくる。
胸がいっぱいになる。
「みんなありがとう」
心が震える中、イーダの悪意を浄化しきる。
最後の一片がつま先から消え失せる。
それでも私の中にはイーダの心が残ってる。
私の足が元通りになって、みんなほっとしてる。
「あと一箇所でしょうが、今日はもう浄化は無理でしょう? 最寄りの村で宿を取りましょう。靴も買い替えないとですね」
レイハスさんの提案通り、村で一泊することになったわ。道中はラウに抱っこされていたけど、村の中では目立つからやめてもらった。歩けないほど疲れてるわけではないし、靴も雨でなければ染みてこないしね。
食事処を兼ねた宿屋の一階で夕食をとる。
遅くに宿を求めたのに、宿屋のご夫婦は嫌な顔をせずに夕食も出してくれたわ。
女将さんは話好きなのか、テーブルに料理を置きながら滔々と話していく。
「森がおかしくなっちまって、魔獣がでるようになってねぇ。おちおち薪も拾えないもんだから、冒険者ギルドに村で金を出し合って依頼してるところさ。お嬢さん方も冒険者なのかい?」
こういう場合はレイハスさんが相手をしてくれる。
「いえ、我々は通りがかっただけの旅の者です。モートレルまではグラハスの森を突っ切った方が早いでしょう?」
女将さんの目玉がこぼれそうなほど大きくなった。
「魔獣がでるって話したばっかりだよ! 悪いことは言わないよ。街道を行った方がいい! 魔犬が集団ででるそうだよ!」
「そうなんですね。じゃあ少し戻って街道を馬車で行った方がいいですね」
「そうした方がいいよ! こんな小さな子たちを連れて森だなんて危ないからね!」
声かけて良かったわ〜と言いながら、女将さんが料理を並べ終わって席から離れる。
「もう森に行かないも?」
フォーレがレイハスさんに訊ねる。
「詳しくは部屋で話しましょう」
「分かったも」
食事処ではレイハスさんが森のことや、去年の作物の出来、領主のことなどを世間話として聞き出してくれた。
私はまだ心あらずだったけれど、半分くらいは聞けたと思う。
私が本調子でないことを察して、みんな心配はするけれど話しかけてきたりはしなかったから助かったわ。
温かい食事をいただきながら、落ち着かない心も少しずつ咀嚼していく。
到底咀嚼し切れるものじゃない。
何日かかるかわからないけれど。
2階の部屋に戻ってから、レイハスさんがベッドに腰掛ける私の前に跪き、手を握られた。
なおラウは珍しい行動にびっくりはしていたけど、レイハスさんを制止するようなことはなかった。
「フェリシア様、体調はいかがですか?」
「大丈夫です。問題ありません」
「浄化についてですが、引き続きグラハスの森の浄化は行えそうですか? もし難しい場合はカトレア隊に連絡をとって人員を手配する必要があります」
確かにみっともなく泣き叫んでしまったし、レイハスさんが業務の継続を心配するのも無理はないよね。
「瘴気があと少しだからとか気にする必要はないわ。他にしてくれる人がいるなら任せよ? 休養をとった方がいいと思うの。今日はいっぱい血を流したでしょ?」
ラウがいつもの甘ったるい過保護を爆発させる。
まあ、私が悪いのだけど。
「ううん。大丈夫。明日浄化するわ。浄化の威力は落ちてるかもしれないけど」
体調よりは心が整わないのよね。
心の表面を繰り返しあの光景がちらついて、ずっと落ち着かないの。
ざわざわして、ふとするとまた泣きそうになっちゃう。
「大丈夫? またフェリに何かあったらって、心配なの」
ラウの眉尻が下がる。
私は少しだけなにがあったか伝えることにした。
「悪意に両足を侵された時、イーダさん・・・・・あの悪意の忌み子の記憶をみたの」
「どうやって落ちたか分かったのですか!?」
レイハスさんが驚きながら身を乗り出してきたけど、私は手で制した。
「ごめんなさい。まだ自分の中でもどうするべきか分からないの。少し待ってもらえるかしら?」
きっとみんなに話せばそれぞれ解を得られると思うの。でも、先ずは自分で考えてからじゃないと意見に左右されてしまって、自分なりの答えを見失ってしまう気がする。
「フェリシア様がそう仰るなら、もちろんです。お心が落ち着かれましたらで大丈夫ですので」
「はい。ありがとうございます」
ラウもフォーレもうんうん、としているところでセリスがつっこんできた。
「まずは靴屋でしょ。穴の空いた靴で森はない。明日浄化するかは靴屋次第」
「そうね。王都からはだいぶ離れてるし、品物が売ってなければ靴底の修理するんでしょ? 数日修理でかかるといいわね!」
ラウが変なこと言ってる・・・・。
そんなに私を休ませたいのね。
「まあ、明日朝一で靴屋に行ってみましょう」