忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
翌朝靴屋に行ってみたが、強度とサイズの問題で、購入するよりは修理した方がいいということになった。
急ぎの仕事はないそうで、今日一日で仕上げてくれると言う。
その間、何の変哲もない革靴を貸してもらったけど、これでいいような気もするのよね。
「だめ! あの靴には薄いけど、ミスリル鋼の板が入ってる。こんな革靴で守備力足りるわけない」
打ち明けたら、ふつーにセリスに怒られたわ。
「この後はどうしましょうか? 宿屋で寝て過ごしてもいいですし、村でも散策しましょうか?」
レイハスさんの提案にセリスが手を挙げた。
「冒険者ギルド!! 今すぐ行こう!」
「え? どうして? 依頼は受けられないでしょ?」
それとも今日一日で完結する依頼でも受けるつもり?
なぜかラウもフォーレものりのりで、いいから行こう! と連行されてしまった。
冒険者ギルドは受付嬢がいるカウンターと、依頼を掲示しているボードの他に、酒場も併設されているところが多い。
セリスはボードを見るでもなく、酒場でシードルとホットミルクを頼んできてくれた。
「ここ、座ろ」
王都の冒険者ギルドも賑わっていたけど、ここも結構賑やかね。
受付嬢と話しているチームの他、私たちのように朝から酒場のテーブルに着いて話し合ってるチームも多い。
「セリス、ホットミルクやシードルなら宿屋の女将さんに頼めば出してくれたわよ? どうしてここなの?」
「分かんないの!?」
びっくりされた。
「周りの人の会話、よく聞いてみて」
周りの人?
―依頼された魔獣がいなくなってる。
―精霊が踊り回ってた。
―瘴気がほとんどなくなって、まるで女神に祝福されてる!
―ギルドでも朝から捜索員を手配して調べているらしい。
―戦士の俺にはわからんが、うちの治癒術士が有り難がって、他の術士と精霊見学に行ったぜ。
えーと。
私の所為ね。
「魔獣退治に集まった人の仕事がなくなった責任を取れってこと?」
当て込んでた食い扶持がなくなったのだもの。困るわよね。
でもまだ浄化してないところあるから、今日中に行ってきて、と伝えるべき?
「違う!」
セリスは向かいの席からテーブルに這いつくばるようにして近づいてくる。
ねぇ、伯爵令嬢じゃなかったの?
なんなの、その振る舞いは。
ちょいちょいと顔を近づけるよう求められて、少しばかり近づくと、こっそりと教えてくれた。
「うちの子です! て自慢したい」
はぁ? 何を言っているの?
「わかる! わたしも!! でも、セリスのじゃなくてわたしのだから!」
「こちもフェリさまのこと、すごいすごい言ってるの聞くの嬉しいも♡」
「みんな、何を言っているの?」
騒ぎになって、教会の人がきて忌み子だ何だって言われたら面倒でしょう?
噂されるのも好きじゃないし。
私は手渡されたホットミルクを一気に飲み干した。
「もう行きましょ。こんなことなら、森に行って昨日の浄化漏れがないか調べた方が有意義よ」
「待ってください! まだ宿屋にもう一泊すると伝えてないのです。部屋を引き払われます!」
冷静なレイハスさんがいてくれて良かった。
私たちは宿屋に連泊を伝えた後、昨日浄化して回った森を再度訪れた。
私の血術、ラウとセリスの精霊術で瘴気を探ると、いくつかの浄化漏れが見つかった。
小さな瘴気だから、こちらも流す血は少しだけ。
イーダさんの気持ちは胸に巣くっているけれど、問題なく浄化できたわ。
昨日一度浄化した場所ということもあって、みんな少し警戒心が薄れていたのかしら。
精霊を見学に来ていた精霊術士たちに、浄化しているところを見られてしまったの。
「精霊様たちがあんなに!!」
「あれは国王様が仰る愛し子じゃないか!?」
「きゃーー!!そういことだったのね!!」
二十代くらいの女子たちは手を取り合って、ぴょんぴょん跳ねてる。
「あ、握手してほしいです!!」
十代半ばくらいの男性が駆け寄ってくるけど、レイハスさんが立ち塞がった。
「済まないが、あらゆる危険を考慮し、これ以上の近接は許可できない」
剣の柄に手をかけて間に入ってくれた。
「そうですか・・・。とても残念です。愛し子の浄化を初めてみました! とてもとても素晴らしくて! せめてお名前を教えていただけませんか!」
国王陛下の施策はこんなところに影響があるのね。
「特に名乗るほどの―――」
いいかけたところで、ラウが胸を張って答えちゃったわ...。
「フェリよ!」
「フェリ様ですか! バンドラガルの聖女様ですね! 似顔絵持ってるんですよ」
ポケットをあさり出し、折り畳まれた紙を取り出した。
「似てますね!どうして気がつかなかったんだ、僕は!」
「見せて欲しい!」
セリスが男の子にそば寄り、紙に書かれた肖像画を検めてる。
そんなことをしている間に他の術士たちも近づいてきてしまって、私の中のイーダさんの気配がむわっと立ち上った。
普通の人たちにはこんな風に笑顔で親切に対応してるけど、忌み子だってわかると、叩かれて殴られて。
田舎の教会に派遣されてくる術士の司祭たちは、数年おきの持ち回り。
優しい顔をして血をとられたり、その前任者はイーダさんの村に派遣されていた人と同じ傾向の持ち主だった。
一応おじい様の目がある頃は大丈夫だったけれど、亡くなってからは町の人の見ていないところで叩かれさり暴言を吐かれたり。
イーダさんの記憶と私の記憶が混ざって、好意的な視線の奥には、また私たちを傷つける何かがあるんじゃないかって警戒心が働く。
こんなに術士ばかりに囲われて大丈夫・・・?
大丈夫よ!
大丈夫に決まってるでしょ。
なにをばかなことを考えてるの!?
分かってるのに、心が縮んで、ついラウのコートの影に隠れてしまった。
「フェリ?」
ほんとうに何をやってるんだろう。
でも、近づいてきた術士たちに優しく微笑んだりはできそうにない。
「・・・私、あっちみてくる」
次のポイントへ足早に向かおうとすると、左右から手を取られた。
ラウとフォーレだ。
「こちも行くも!」
「待ってよ! わたしも行くわ! 悪いけれど急いでるから。みんなには内緒にしてね。シャイなのよ」
私の態度のフォローをしてくれる。ごめんね。ありがとう、ラウ。
そういうことだから、と話を切り上げてレイハスさんとセリスも追いかけてくる。
見知ったメンツだけになると恐怖心も薄らいで、やっと息ができる気がした。
「大丈夫? 彼ら怖かった? 肖像画が嫌だったかな?」
ラウが優しく尋ねてくれる。
自分でも自分がおかしいと思うから、言えるところは言おう。
みんなに心配ばっかりかけてるもの。
私はイーダさんの村の司祭のことや、ハイエヴァーに派遣されてきた司祭のことを簡単に話した。
急にイーダさんの記憶が瞬間的に見えて、気持ちが引っ張られてしまったことも。
ラウがぎゅと抱きしめてくれた。
フォーレも足元にひしっとくっついてくる。
「そうよね。町に派遣されてくる術士は酷いことばかりしたわ。わたしだって教会大っ嫌いだし。不安に思って当然よ。もう近寄らせないから。ごめんね、フェリ」
「ううん。こっちこそごめんね。レイハスさんもセリスもごめんなさい」
ふたりはカトレア隊所属だから、教会所属とは違うのだけど、いい気分ではないでしょう。
「いえ、こちらこそお話いただいてありがとうございます。カトレア隊では愛し子も隊員として在籍しています。浄化の作業に警護で同行することもあるのですが、今回のようなケースは初めてで興味深いです。フェリシア様はお優しすぎるのでしょうね」
レイハスさんは好意的に受け止めてくれるけど、たぶん他の愛し子は、瘴気や悪意から記憶を読み取ろうなんてしてないのだと思うわ。
あんなに訴えかけてるのに…。
イーダさんの悪意の声が甦るよう。
いえ、あんなに訴えかけてくるから、怖くて寄り添えないのかもしれないわ。
取り込まれてしまいそうだもの。
「優しさは関係ないです。自分の行動が正しいものかどうか、相手を知らなければ断じられません。私は臆病なのでしょう。己が正しいと思えないと行動できないのです」
存在ですら批判されてきたから、少しでも間違ったことをするのが怖い。
もちろん判断するのは私だから、無知による判断ミスもあると思うの。それでも手にできるカードから最も良いと思えるのを選びたい。知る機会があるなら知りたい。
ふと、あたりの枯葉が舞った。
「あの老害ども!」
セリスの瞳が瞋恚に燃えている。
「どうしたの?」
「たまに会うのだけど、本当に不快。全員投獄してしまえばいいのに」
急に過激なことを言うわね。
「老害って?」
ガルガルしてるセリスの代わりにレイハスさんが教えてくれた。
「教会職のとくに地方へ治癒術士として派遣される司祭のことですね。我々のような軍務職に就く者は、愛し子の御技を拝見することも多いので、尊き存在に敬愛を抱くばかりなのですが、地方の司祭たちはその経験も乏しく、忌み子どころか愛し子ですら不要と唱えている奴らです。愛し子は御技を使わずとも、精霊がまといついてますからね。正しい精霊教徒であれば、それだけで保護対象と察するものですが、フェリシア様が受けたような暴行を働く者もいるのです。許しがたいことに」
「精霊力無くなっちゃえばいいのに」
さらにセリスがぼそって追加してくる。
私はつい面白くなってしまって笑ってしまった。
「ありがとう。落ち着いたわ。次のポイントへ向かいましょう」
いろんな人がいる。
鎌首をもたげたイーダさんの心もレイハスさんとセリスのおかげで沈静化したみたい。