※この作品はR-18です。

忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん!   作:さとう_2701

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第76話 グラハスの精霊守

 昨日祝福したところを巡り、小さな瘴気を浄化していく。今日は遅くならずに宿に戻れる予定。

 

 最後のポイントはもちろん昨日攻撃された巨木。

 近づくにつれて、みんなの足取りが慎重なものになった。

 

 当然よね。

 

 近づく前にもう一度悪意や瘴気がないか調べたけれど、周囲には見当たらなかった。

 巨木の陰には浄化の霧が行き届かなかったところがあるみたいで、瘴気の気配がする。

 

 私がその点を重点的に浄化していると、ラウが不思議そうに虚空を見上げた。

「なんか、精霊集まりすぎじゃない? ん?」

 

「どうかした?」

 話しかけても、ラウ以外のみんなも宙を見つめていて返してくれない。

 

 私が精霊のことは任せて浄化に注力しようとすると、ラウとフォーレが私を背に庇って大声で警告し出した。

 

「勝手に近づかないで!」

 

 春を感じる温かい日だったのに、急に肌寒いような。気のせいかしらね。

 

「それ以上近づくつもりなら攻撃するわよ!」

「許さないだも!」

 

 どうしたの、一体?

 

「双方お待ちください!」

 レイハスさんが仲介に入ってくれた。

「精霊の皆さん、一人ずつお話いただけますか? それとラウラ様の仰る通りフェリシア様にそれ以上の接近をおやめください!」

 

 レイハスさんが両耳を押さえてる。フォーレとセリスも。

 

「お願い、結界張って!」

 よく理由もわからないけど、ラウのいうままに結界を張った。

 精霊はいない方がいいだろうから、もしいたら押し出す形で。みんなも含めて一つの結界にした。

 

 みんながほっとしてる。

 

「どうしたの? 精霊なんでしょ?」

 私には見えないし、聞こえないし、触れないし、近づいてきたって何の問題もないと思うのだけれど?

 

 結界の外側を見据えながらラウが硬い口を開いた。

「もっと浄化と祝福を与えろって言ってきてるの。瘴気は消してるし、精霊力だって回復してるのに」

 

「なんだ、そんなこと? 全然いいけど?」

 

「ちょっとまって!」

 セリスの鋭い一声にびっくりして、隠しナイフの手が止まった。

 

「レイハスさん、本当にいいの? 他の浄化の時もこんな風なの?」

 

 レイハスさんはええと、と困惑顔。

「ないわけではないですけど、被害が大きいほど元の力を取り戻そうとお願いされることはありますね」

 

「その時はどうしてるの? こんなにたくさんの精霊に力を与えてたらフェリが干からびる!」

 

 セリスに続いてラウからも質問が飛ぶ。

 そんなに集まってるの?

 

 レイハスさんは質問に答えながら、結界の向こうを見やる。

「大抵は精霊力が強そうな一体を選んで次の精霊守にするのですが、特別大きい方はいなさそうですね・・・」

 

 話を聞いて、みんなが精霊たちの品定めを始めてしまったわ。。

 私が残りの瘴気の浄化をしている間も、あの子がいいとか、あっちの子はどう? など相談してるようだったけど・・・。

 

「浄化は終わったわ」

 

 声を掛けても、みんな浮かない表情ね。

 

 どうするのだろうと思って任せてみていると、ラウが結界を通り抜けて、あたりを一喝した。

「次のこの森の主を決めるわ。この樹の精霊のように有事の際は一切の責任を負う。魔物に変えられても良い覚悟の者だけ前に出なさい! そうでない者は下がって。わたしのフェリに勝手に触れたら消し去るわよ」

 

 誰も話さない沈黙の時が流れる。

 みんな結界の外側の精霊たちを注視していて、声を発しないからなのだけれど、見えない私からは何もわからないわ。

 

「フォーレ、どうなったの? 決まった?」

 

「3体だけ前に出てきたも。レイハス、この中から一体選ぶも?」

 

「それも精霊が決めることです。この規模の森ですし、3体でも違和感はありません」

 

「決まったわ」

 ラウが結界に戻ってきて、腰に手を回してくる。嬉しいけど、近すぎない?

「わたしのだってアピールしたいから。もちろんずっとくっついていたい気持ちもあるし♡」

 とのこと。

 まあ、いいわ。

 

「精霊守にするにはどうしたらいいの? ただ祝福するだけで良いの?」

 ラウを見上げると、肩をすくめられた。

「さあ? 私は勝手に成っていたし、どうするかはわからないわ」

 

 レイハスさんに問い直すと、名前を付けるのだという。

 

「精霊守とするのは一種の契約なのです。名を与える代わりに、この地の守護を契約するんですよ」

「名前を付けるだけでそんなことできるの?」

 

 へぇと思っていると、頭上からぶつぶつ文句が降ってくる。

 

「名前を付けるだけじゃないの! そうじゃないの! 愛し子から祝福と名を与えられるというのは、神から祝福を受けると同義なのよ! もの凄い栄誉なの! 拾った犬や猫に名前付けるみたいな、そんな気軽なものじゃないの!」

 

 そんなこと言われても、犬猫の方がまだやる気が出るというか。見えるし触れるじゃない? 栄誉とかいわれても・・・。

 

「名前はどんなのが良いかしら? フォーレの時と違って性別はないでしょう?」

「そうね。肉体はないから性別はないわ」

 

 うーーん。

 グラハスの森だから、グラス? グース? 樹の精霊ってドライアドだったかしら?

 それだと、犬にイヌってつけるようなものよね。

 

 幾つか候補を挙げてその中から選んでもらいましょう。

 

 結界は精霊を排除するように作ったから、結界を解いてと――――。

 

 途端にみんなが耳を押さえた。

「うるさいもぉ〜」

 フォーレの背中が小さく丸まってしまって、私は見えないけれど声をかけた。

 

「静かにして。私の家族が困ってる」

 

「さすがフェリさまだも〜♡」

 ぴと、とフォーレが足元にくっついてくる。

 かわいい…。

 

「さすがわたしのフェリね!」

 ちゅ、と頬にキスされる。

 だから、セリスとレイハスさんもいるのよ。二人っきりのときにしてって言ってるのに。

 

 足元にいたフォーレがまた耳を押さえたと思ったら、ラウが耳元で大声をあげてくる。

「だから! わたしのフェリなの! 文句のある奴はかかってきなさい! そして静かにしなさい!」

 

 どうやら静かになったらしい。

 フォーレが耳からそっと手を離してる。私たちより耳がいいから苦しかったでしょう。

 頭をなでなでしていると、セリスが近づいてきた。ちょっとにやにやしてる?

 

「ラウラ様がキスしたとき、すごい悲鳴だった。個体主義で、自由気ままと思ってた精霊も一致団結することあるのね」

 

「悲鳴?」

「羨ましくて卒倒する感じ」

 

「んっふっふ。そうでしょうそうでしょう。わたしのだから触らないでね?・・・ほんとだって! ほんとに! ・・・フェリ、疑われてるから結婚してるんだってフェリからも言ってくれる? あ、結婚じゃわからないかな。魂の契り結んでるって言って?♡♡♡」

 

「・・・・・・」

 

 みんなは精霊見えてるかもしれないけどね、私には何にも見えてないからね?

 森で一人で宣言してる変な人になるからね?

 

 

 ひしひし無言の圧を感じるわ。言えばいいんでしょ!

 

 

 すっごい恥ずかしいんですけど!

 視線はどこに向かっていえばいいのよ!

 

 言う前から顔に血が集まってるのがわかってさらに恥ずかしい。

 

 

「ラウは私の・・・オヨメさんなの。魂のチギリ? 結んでるから、ラウの言うことは正しいの。間違いないの。・・・・・・わかってもらえた?」

 

 ラウを見上げて確認すると、なぜかぷるぷると小刻みに震えてて、頬じゃなくて口にキスされた!

 

「!!!」

 

「あ〜〜♡♡♡ 大好き! 分かったでしょ?」

 

 ふふん、とすっごい得意げ・・・。

 

 

 

 

「えーと、名前なのだけれど」

 

 私が幾つか候補を挙げた中から、3体はそれぞれ選んでくれた。

 

「私フェリシアの名の下に、グラス、ライア、ドゥイにグラハスの森の精霊守となる代わりに、名と精霊守たる力と祝福を与えるわ。グラス、ライア、ドゥイ、汝らは名と力と祝福を望むか?」

 

 切った指先からまた少し血が滴った。

 風がさやさやとそよいで頬が少し冷たい。

 

 血力が微かに揺らいだ?

 気のせいかしらね。

 

「望むと言っているわ」

 

「ありがとう、ラウ」

 私はラウを制して一歩前にでた。

 

 私の血がこの地に幸を齎せますように。

 木々が青々と繁り、実り大きものとなりますように。

 

 イメージを膨らませながら、血力を練り上げる。

 

 イーダさん。

 あなたが呪いに使う力は、みんなを豊かにすることもできるわ。

「我フェリシアの血をもって、グラハスの森に祝福と幸が訪れるよう。グラス、ライア、ドゥイ、汝らが仲良く協力し合い、森の守護者たることを望むわ」

 

 姿は見えないけれど、力を三等分して宙に浮かべる。それぞれが受け取ってくれたらいい。

 

 ざぁぁぁっ。

 風が吹いた。

 

 つい目を瞑ったけど、つぎに開いた時、枯葉の下に春を待つ新緑の芽を見つけた。

 木々の先端にもふっくらとした芽がついてる。

 

 冬だから劇的に緑が生い茂ったりはしないけど、小さい変化はあって。

 それが私の目にも見えるのが嬉しい。

 

「上手くいったみたいね」

 後ろを振り返る間もなくラウは抱きついてくるし、フォーレは楽しそうにくるくる踊ってるし、セリスとレイハスさんは・・・泣いてるわ。

 

 ラウが私を抱き上げてきた。

「もう抱っこさせて? 少しも他の精霊に近づけたくないの」

 

 血力けっこう使ったし、ふかふかで温かいラウの胸に言い訳を考えずに寄りかかれるのは嬉しい。

 

「うん」

 首筋からラウのいい匂いがして、外なのにほっとしちゃう。気を緩めすぎたらいけないのに。

 

「眠くなったら寝ていいからね?」

「うん」

 

 瞼を閉じて擦り寄る。

 いつだって夜は擦り寄れるけど、日中からこうするのは久しぶり。

 

 甘く優しい匂いがして、温かくて。

 

 

 

 ずっと冷たかった。

 寒かった。

 人肌が温かいことも知らなかった。

 

 イーダさんの気持ちもわかる。

 でも私だったら、相手を同じ目に合わせたその後は、ラウを追う。生きてたって意味がないもの。

 

 全部を滅ぼしたいって気持ちもわかる。

 実際にラウを失ったら、今はこんなことを言ってるけど、同じことをするかもしれない。

 

 

 でも、まだ、私にはラウがいてくれるから――――。

 

 

 イーダさんの悲しみは私が浄化する。

 悲しみがなくなるまで。

 

 そうする責任が愛し子と呼ばれる私たちにはあると思う。

 

 宿に着いたら、みんなに言おう。

 今回はテラニードに向かうけれど、戻ったらそうしたいって。

 

 

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