忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
私は宿まで戻ると、部屋に集まってもらった。
夕食までまだ時間はある。
この宿は客室には暖炉がないから、私はラウの股の間に座らされて毛布を被らせられてる。
膝にはフォーレがいるからぬくぬくよ。
フォーレに聞かせる内容ではないと思ったのだけれど、仲間外れは嫌とのこと。
「人間の幼児と違って100年くらいは生きてるから大丈夫」とラウから口添えもあり、みんなに聞いてもらうことにした。
向かいのベッドにはレイハスさんとセリスが座ってる。
口に出すのも憚られるイーダさんの記憶。
私のお腹に回されるラウの手に左手を乗せ、フォーレの小さな手と右手を繋いで勇気をもらう。
しっかりと読み取れたのは妹さんを失ったあの時の記憶だけで、他は断片が見えるくらいなのだけれど、みんな口を挟まずに静かに聞いてくれた。
あぁ。やっぱり苦しくて悲しくて、また気持ちが引っ張られてしまうわね。
ラウが空いた手で心臓の上に置いてくれる。まるで私の胸に空いた穴を埋めるみたいに。
「フェリ。そんなことにはさせないけど、もしそうなったら人間滅ぼすわ」
「変な宣言しないで。でも、もしラウがそんなことになったら、私も同じ事をしちゃうかも知れないって思ったの。・・・でもね、私にはラウやフォーレがいてくれるでしょう? だからイーダさんの悪意を浄化するのは愛し子の役目だと思うの。私には貴方がいてくれる。大事な人を失った彼らの悲しみを浄化できるのは私たちだけだから」
「フェリ・・」
「それでね、ガカーヤカム・ダンジョンに行って戻ってきたら、イーダさんの後を追おうと思っているのだけれど、いい?」
ラウならすぐに首肯してくれると思っていたのに、見上げた彼女の眉尻が下がっていた。
「後を追って浄化だけなら。でもいつか彼に追いつくと思う。その時、フェリはどうするの? 彼が襲ってきたら、彼を殺せる?」
殺す?
どうしてそんな発想になるの?
全てを呪うほどの悲しみに包まれているのに、これ以上どうして苦しめるの?
「いいえ。彼ごと浄化してみようと思っているわ。難しくても、彼の悲しみが消えるまで何度だって」
「失血死するまで?」
その一言は思ってもみなくて…。
「ごめんね、フェリ。フェリのその気持ちは尊いものだと思うわ。でも、イーダの呪詛とフェリの浄化対決になった時に、失血死は十分あり得ると思う。フェリを失う危険のあることに賛成はできないわ」
黙り込んだ私にラウが微笑んだ。
「いいのよ。フェリはそのままで。わたしがその分フェリを大事にするから。話してくれてありがとう」
さらにぎゅっと抱き込まれて、耳元で囁かれた。
脳髄までわからせるように。
「ガカーヤカム・ダンジョンから戻ってこれたら、ダルのところでもう少し過ごして欲しい。特訓も途中だし、左手もまだ治ってないし、フェリには少しでも安全なところで過ごして欲しいの。でも、どうしてもイーダの後を追いたいと言うなら、覚悟して欲しい。フェリを傷つけられるくらいなら、その前にわたしは彼を殺す」
今のラウなら、身体強化で殴りつけるだけで殺せそう。あの死神みたいな男にだって負けないと思う。
恵まれた私が、悲しみしか与えられなかった彼を助けてあげたかった。
彼にはなにか救いがあるのかしら…。
そろそろ夕食だと宿の娘さんから声がかかり、階下に降りると今朝とは打って変わってじろじろと不躾な視線が向けられた。
…嫌悪じゃない?
好奇心や好感?
お前ばっかり!!
むらっとイーダさんの気持ちが沸き起こった。
お前ばかりが守られて!
大事にされて!
俺にだっておじい様がいたら!
クロシード領に産まれてたら!
妹を失わずに済んだのに!
恵まれてるくせに、俺のことは少しも助けてくれない!
見ろよ、昼間森で会った術士の目を!好意に満ちてる目を!
お前だって俺と同じくせに!
同じ忌み子のくせに!
胸が詰まって苦しい。
いつの間にか冷や汗が流れてる?
視界が暗く狭まって前がよく見えない。
気がついたら客室のベッドに寝かせられてて、ラウが髪を撫でてくれてた。
「気がついた?」
「私……気を失ってた?」
「ほんの少しね。お腹は空いてる?こっちにもってきてもらうわね」
あんまり空いてない、と正直に言ったのだけれど、余ったらフォーレが食べるわと、笑って返された。
「宿泊客の中に森で出会った術士たちがいたのね。迂闊だったわ。明日は朝食の時間の前に宿を出ちゃいましょう?」
「ええ。…急に倒れたりしてごめんなさい」
びっくりしたでしょう?
「何でもないわよ。術士たちのこと、フェリがちゃんとお話してくれてたから、狼狽えずに済んだの。何かあったら…ううん。なんでもない事でもお話してね」
「……うん」
なんて言ったらいいんだろう?
私はもそもそと夕食をとりながら考え、ラウとフォーレとお風呂に入りながら考え、お風呂から上がって漸く言葉にできる気がした。
水術ですぐに余分な水気は取り除かれ、王太后さまからいただいた上等すぎるシャンプーのいい匂いが漂う。
ラウやフォーレから漂う分には素敵ね、と素直に思えるのに、自分からも同じ匂いがしてるのかと思うと泣きそうになる。
寝巻きに着替えてベッドの端に腰掛けると、ラウとフォーレも私を挟むように腰掛けてきた。
フォーレは何も言わずに右手を握ってきてくれる。
ラウは左手。
私を包み込むようにハグしながら結婚指輪を重ねてくる。
私は深呼吸をして、ずっと震えている心をととのえる。…整わないのだけれどね!
でもやっと勇気がでて言葉にできた。
「あのね、イーダさんのことなのだけれど、イーダさんの気持ちだけじゃなくて、私のことでもあるの。イーダさんが思った事は、私が考えていた事でもあって、彼は私だったかもしれなくて」
うまく言えてるかしら?
伝わるかしら?
言葉を費やすしかない。
「あのね、愛し子と呼ばれることに慣れないの。ずっと忌み子だって下げずんできたくせにって思っちゃうの。私だけラウとフォーレがいてずるいって、私の中の私が言うの。お前ばっかり恵まれて、苦しんでる同胞を助けないのかって。何もせずに見捨てるのかって。ラウはイーダさんを殺すって言うけど、それは私を殺されるのと変わりなくて、私は私を助けるためにイーダさんを追いたいの。助けられるかは分からないけど、足掻いて努力したいの」
わかってもらえたかしら?
フォーレは首どころか体を傾けてるわ。
「フェリさまのお話は難しかったも…。でもイーダを追いたいって言うのはわかったも。ラウラはどうするも?」
ラウを見上げるまでもなく、ぴっとりと頬をくっつけてきた。
しかも深いため息付きで。
「そこまで言われたら断れないわ。でも、イーダの浄化よりもフェリの命を優先するのは譲らないから」
「ありがとう!ラウ!」
ラウの頬に口付けると、顰めしい表情が少しだけ緩んだ。
ノックをすると、明らかに寝起きのレイハスが扉を開けてくれた。
「遅くにごめん」
「いいえ、とんでもございません。どうぞお入りください」
わたしは隣室のレイハスとセリスの部屋に入り込んだ。
部屋の作りはわたしたちの部屋と変わらない。
狭い簡素な部屋にベッドが二つきり。
わたしたちは一つのベッドで3人で寝ているが、こちらは一人一つずつベッドに寝てる。
「ラウラ様、どうかしたんですか?」
セリスも眠たげに瞼を擦ってる。
お嫌でなければ、とレイハスが自分のベッドを指してくれたので、隅に座らせてもらった。
「少し話をしたくて。昨日、風精を王都に飛ばしたでしょう? 回答はいつ頃?」
「ここから王都までは3日はかかりますし、王太后陛下からは報告のみ課されております。返事が来た事はありませんし、今回も方針を問うような内容ではありませんので・・」
「そう」
「何をお知りになりたかったのでしょうか?」
「イーダの今後についてよ。このグラハスの森に足取りを追いに応援部隊はくるのでしょう? どれぐらいの規模がくるの? 殺せる見込みはある? カトレア隊には何人の愛し子が在籍しているの?」
「愛し子は6名在籍してますが、戦えると言える者は半数ですね。あとは足手纏いにはならない程度です。調査隊は来るでしょうが、戦闘に特化した者たちではありません。それに忌み子はイーダだけではないのです。グラハスの森のように精霊を魔獣に落として連れ去る事件は他にもいくつか起こっています。手は全く足りていない状況です。
今回については、イーダの足取りを追いながら、瘴気が見つかれば浄化できる愛し子が派遣されることになるでしょう。急にどうされたのですか? フェリシア様は遠征からお戻りになれば王太后陛下の元に戻るお話だったと思いますが」
隣に腰掛けたレイハスがわずかに身を寄せた。
セリスもようやく目が開いてきたみたいね。
わたしは先ほどのフェリの言葉を伝えた。
「フェリがやっぱりイーダを追いたいって。愛し子の共感性の所為ね。イーダに親近感を感じすぎてるのよ。忌み子のイーダをそのまま放置することは、自分を放置する事と同義と感じているわ」
「ラウラ様は何と回答を?」
「断れるわけないでしょう。それはフェリの心を殺すことでもあるわ。だからガカーヤカムに行っている間に処理して欲しかったのよ。…でも、無理そうね」
レイハスの顔が浮かないものになる。
「申し訳ございません。愛し子そのものが足りないのです。忌み子に相対するには、一対一では取り込まれます。ただでさえ貴重な愛し子を失うわけにはいきませんので、瘴気の浄化のみの対策となるかと思います」
「忌み子を取り除かない限り、瘴気は増え続けるでしょう? イタチごっこでは?」
「それでも今はその手段しかとれないのです。王宮の離宮で保護されている方たちが所属してくだされば多少の余裕もでるでしょうが、全員が全員フェリシア様のような祝福、浄化ができるわけではありません。不向きな者はどんどん貴族との婚姻を勧めると伺っています」
マスナを思い出すわね。
彼女は結婚したがっていたし、喜びそう。
離宮の者たちの顔ぶれを思い浮かべると、女性たちは戦闘には向きそうもないわね。浄化が精々。
男の子たちは鍛え方次第かしら。
「忌み子も愛し子も根幹はその血にあります。願うのが祝福か呪いかの違いだけです。誰かが血術の使い方を教えている者がいるのです。イーダと共にいる術士。その背後も追っている最中です」
「あいつか…。フェリには絶対に近づけたくない相手ね」
せっかく話を聞きにきたけれど、カトレア隊はイーダの排除には動いてくれそうにはないわね。
フェリ自身が戦力アップを望んでいるけど、体調が不安定すぎる。何かあれば血を捧げ、過去のこともフラッシュバックするような状況では…。
フェリの戦力をあげるよりは、やはりフォーレをシゴく方が良さそう。
「明日からフォーレにもっと強くなってもらわないと困るから、簡単に抱っこしないでくれる?」
手っ取り早く強くするなら、フェリから血を与えてもらうのがいいのだろうけど、そんなの嫌だし。
模擬戦でもして鍛えましょう♡