忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
翌日、日の出前に宿屋をあとにし、浄化に至らなかった森の東部へと向かう。
今日から厳しく特訓しようと思ったのだけれど、フォーレは起きれなくてレイハスに抱っこされてるわ。
セリスはあくびしながら歩いてるし。
フェリはしゃんとしてるけれど、顔色がよくない。
あとで抱っこしよう。
フェリの靴は、昨夜の間にセリスが靴屋に行ってくれて、新品同様に磨かれてる。
ミスリルの鉄板は足の甲の部分には入っているそうだが、靴底の部分にはないとのこと。今後は悪意に染まったところを進むときは気を付けなきゃ。
宿屋をでたところから精霊たちが集まってきて、森に到達するや否や昨日精霊守としたグラス、ライア、ドゥイまでやってきた。
「ちゃんと森を守護してなさいよ」
注意しても、元精霊同士。敬うといったことはされない。
口うるさく言い返された。
『わたしたちの愛し子をお迎えに上がるのは当然です』
『案内しますわ』
『ほんとに愛し子と魂の契りを結んでるの? まだ信じられないんだけど?』
その話は昨日証明したから無視する。
「浄化漏れがないか確認をお願いしてたけど、大丈夫だった?」
『もちろんです。愛し子の仕事に漏れはありません。まだ浄化が済んでないあの一角のみです』
比較的丁寧なグラスが答えてくれる。
心配そうにフェリが見上げてくるので、漏れはないと教えてあげると、ほっとして頬が緩んでる。
かわいい♡
日の出前の森は昏く、まだ夜気が漂っている。
レイハスがランタンを持ってくれているけれど、暗すぎるわ。
「暗くて危ないから」
細い腰に手を回して支える。
一瞬むっとするのよね。庇護対象としてみられてるって。
でもちょっとすると、小声で「ありがと」て言いながら、少しだけ擦り寄ってくるの。
も~♡ かわいすぎるでしょ♡♡
昨日一昨日と体調悪そうだったから、少ししかキスしてないのよね。
今日は全部なめたいなぁ♡♡♡
無事に浄化を終えてしつこい精霊たちの見送りを宥め賺して、ようやく森を出た。
目前には枯れた草原が広がっているけれど、その向こうには家畜が、さらにその奥の方に建物が見える。モートレルの町かな。
歩いて行っても昼食時くらいには着きそうと思っていると、胸元から声が上がった。
「もう森を出たから下ろして」
そうね。ほかの精霊に触られたくないから抱っこさせて、だったものね。
ここまで来ればフェリが浄化や祝福を与えた精霊たちの影響も薄れて、近寄ってくるものも少ないわ。
「温かくて気持ちいいから、もう少し抱っこされない?」
「されない! 荷物も自分で背負うから」
返してと言われたけれど、ちょっとね。
本調子じゃないって分かってないのかな。
「昨日倒れたばかりだよ? それに剣背負ってるでしょ。これ以上はダメ。レイハスに聞いてみて」
レイハスも苦笑いを浮かべて、わたしに賛成してくれた。
「ラウラ様のおっしゃる通りかと。フェリシア様、先は長いんです。ご無理をして倒れるようなことがあれば、一日中ラウラ様に抱っこしていただいて移動しますよ? それでもいいですか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ! 今それもいいって思ったでしょ!」
セリスのちゃちゃにフェリが真っ赤になって言い返してる。
「ちがう! おもってない!」
「フェリさま、思ってる顔してたも~」
「フォーレまで! おもってないってば! あ! こら! セリス! 撤回して!」
「ぜったい思ってた!」
飛翔術で逃げ回るセリスを追ってる間に、三人で追いかけっこが始まっちゃったわ。
春の風が吹いて、レイハスがなびいた髪を手で押さえた。
「フェリシア様、だいぶ元気になられましたね」
「ええ。ガカーヤカムから戻ったらイーダの後を追うって伝えたしね。心の折り合いが付いたんでしょ」
「その段になりましたら、護衛を増やします。我々二人では手に余るでしょうし」
「助かるわ。行きましょ。置いて行かれるわ」
「はい」
町に着くとバンドラガルと同じくらいに賑わっていた。
「明日到着予定のカンラータの町の方が賑わってますよ。あちらはテラニード王国との国境の町ですからね。でも商店街を冷やかすにはこちらの方が人が少なくて回りやすいと思います。昼食を食べたら商店街を見てみますか?」
通常なら、午後も走って今日中にカンラータに着いてる。でも無理はしないで今日はここに泊まることにしたわ。フェリの体の動きも鈍いしね。
わたしたちに心配掛けないよう、無理してるの分かるし。
「そうね。気分転換にいいかも。天気も良いし、宿に荷物を預けた後で出かけましょう」
レイハスと話を付けるも、前を行く3人は聞いてない。
「ちょっと! 3人とも聞いて!」
呼びかけてる間に角から飛び出してきた人が、フォーレとフェリにぶつかった。
「ごめんよっ!」
すぐに若い男が謝罪してくるけど、衝撃で外套のフードが外れたフェリの顔を見て驚愕してる。
「お、おま! こんなところに!!」
フェリの顔は後ろからはみえないけど、指輪から大きく鼓動が跳ねたのが分かった。
「どうしたの?」
すぐに割り込んだけれど、その間に若い男の手がフェリの腕を掴み、にらみ付けてくる。
「今度はこの人たちにするつもりなのか? 次々と依存先を替えて、寄生虫だな」
「手を離して!」
男の手を掴むけれど、男はフェリを離そうとしない。今度は私たちを心配げに見つめて忠告してきた。
「こいつは忌み子だぞ! 知っているのか!? 傍にいるとろくな事が無いんだ。可哀想だと思ってパーティを組んでいるのかも知れないが早く離れた方がいい!」
-なんだ? 忌み子だって?
周囲の人もなんだなんだと集まってきて、男が訴える。
「俺はクロシード領の出なんだが、こいつはそこの忌み子なんだ。人が何人も死んだよ。グラハスの森の異変もこいつが原因だな」
「適当なことを言うな!」
レイハスが一喝した。
「この方は国王陛下が保護しようとしている愛し子だ! グラハスの森の瘴気も浄化してきたところだ。行って見て来るがいい!! バンドラガルの聖女のことを知らないのか?」
「バンドラガルの聖女だって? こいつが? 何か質の悪い嘘だろう?・・・いだだだ!」
握りつぶしてやるつもりで男の手首に力を込めると、ようやくフェリから手を離した。
「本当よ」
左の背中側が妙に痛い。
フェリに視線を走らせると真っ青な顔で立ち竦んでる。
こいつか!!
「おまえがフェリを刺したの?」
「あ?」
手首を痛そうに振っている男に再度訊ねた。
「あの時、フェリをナイフで刺したでしょう?」
男は反省するどころか、ギャラリーにも聞こえる声をあげた。
「そっちが王国術士学院に入学するほどの精霊術士を呪うからだろう! お前の所為でシェラロッテの親父さんは亡くなったんだからな!」
「それは違うわ!シェラロッテの父君の病気はたまたまよ。なんでもかんでもフェリの所為なわけないでしょう! それに、あの時シェラロッテの家に通っていたのは、その当人に痛み止めの薬を頼まれていたから届けに行っていたのよ。何も知らないくせに噂話を鵜呑みにして! 愚かにも程があるわ!」
「なんだと! こいつはシェラロッテの親父さんだけじゃなくて、親切にしてくれてた下女や下男も自分の祖父ですら殺したんだぞ!」
ひゅ、とフェリが息をのんだ。
手足の温度が急激に下がってる。
イーダの後にこの男と会うなんて、本当についてない。
倒れそうなフェリを片手で抱き留めながら、声を張った。
フェリは間違ったことをしていないのだから。
「フェリが手を下したわけじゃないでしょう! 下女は病気だし、下男は領主の暴力が原因、祖父に至ってはよその領地の揉め事に巻き込まれたんでしょ。本当に頭どうかしてるわ」
周囲のギャラリーたちも、どっちの言い分が正しいんだ? と困惑気味だったけど、男の方の誤解か、で着地しそう。
そこに見物していた外野から声があがった。
冒険者の術士みたい。
「私、ポーリンガム森林でバンドラガルの聖女に助けてもらったことがあります! みんな彼女に感謝してますよ! 彼女がいなければ私たちのパーティも全滅してました! それに精霊力が少しでもある人なら、彼女を守るように精霊たちが飛び交ってるのが見えるはずです。彼女が忌み子であるわけがありません!」
「俺たちのパーティの引っ込み思案がこう言ってる。それに、そっちの姉さんにも助けてもらった。オークへのパンチやあの氷の巨大結界には痺れたぜ!」
パーティメンバーの男がサムズアップしてくる。
オーク戦に参加していた人がいてくれて助かるわ。見物人の中からも賛同の声が上がった。
-彼女のいうとおり!
-そう見えるわ!
-精霊のことが見えないくせに、偉そうに文句言うな! 領兵に突き出すぞ!
とまで声が上がる。
「なっ! 本当なのに!」
悔しそうに口をわなつかせると、「もう知るか!」と悪態を吐いた。
「あんたら死んでもしらないからな! せっかく忠告してやったのに!」
肩をいからせて足早に立ち去った男に、ギャラリーから歓声があがると同時に取り囲まれた。
-握手してください!
-グラハスの森が浄化されたって本当か?
-あんな男気にするなよ!
-今度来たら本当に領兵につきだしてやるからな!
-ポーリンガムでは世話になった。一杯奢らせてくれ!
好意的な声が多くて無理に押してきたりもしない。取り囲まれてるのは術士だけじゃなくて、普通の人もいるけどフェリはどうかしら?
心拍数は高いままだけど、ナイフで刺されたところの痛みは減ってる。
「握手して欲しいって、フェリどうする?」
顔色はまだ悪いけれど、蒼白というほどでもないし、嫌がってる風でもない?
「握手は大丈夫。・・したい」
おずおずと出された小さなフェリの手を見て、冒険者たちが騒いでる。
-こんな小さな手で俺たちを救ってくれてたんだな。
-いつかまたご一緒させていただきたいです。
-本当にお可愛らしいです♡ バンドラガルの冒険者支部の似顔絵、上手すぎますね。
フェリと握手をした中には、不埒にも頭を撫でてくる女がいたけれど許したわ・・・。わたしの方にも並ばれたし。男が多かったけど。
模擬戦して欲しいって言われたけれど断った。面倒くさすぎる。
列も途切れたころ、300メートル先から妙な視線を感じた。
さっきの男かと思ったけれど、違う?
探ったけれど、ほんの一瞬過ぎて判然としないわね。
「ラウ?」
心配したフェリから裾を掴まれた。
「ううん。大丈夫。それよりもう行きましょう」
「ええ」
注目を集め過ぎちゃったわね。
「お昼をとったら、今日の宿泊はカンラータにしましょうか。居心地悪いかも知れませんし」
こっそりとレイハスが耳打ちしてくる。
「それがいいわね」
こんなところで休むよりはカンラータまで行った方が良い。
「お昼は何食べる?」
フェリにきいてるのに、真っ先にフォーレが手を挙げた。
「お肉が食べたいも〜」
「フォーレには聞いてない!」
「私も肉!」
セリスも勝手に主張してくる。
フェリがくすくす笑いながら「焼肉にしましょう」と言い出した。
「フェリは焼肉好きじゃないでしょ! 本当に食べられるの?」
「朝は森を歩きながら乾パンしか食べてないもの。お腹空いたでしょう?」
フェリがフォーレのフードをなでなですると、ぴかぴかの笑顔を見せてくる。
「うん! とっても空いたも」
これは……断れないじゃない…。
「では決まりね」
大きな焼き肉の看板がかかってる店に入ってみたけど、案の定、フェリは二口しか肉を口にしない。
シードルとパンをちびちび摘みながら、フォーレがガツガツと、セリスが平然と皿を空にしていくのを楽しそうに眺めてる。
フェリは食が細いから、たくさん食べる人のことを眺めるのが楽しいのは分かるのよ。
でもね、わたしはフェリにもっと食べてもらいたいの。
「夕飯はスープとか麦粥にしよう?」
無理に食べさせると吐いたり、胃が痛くなるからね。伊達に一年過ごしてないわ。
頬を撫でると、頬を染めたフェリが小さく頷いてくれた。