忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
体内の氣をまずは感じる。これが何よりの大前提。
氣を練り上げ、一カ所に集めて戦技とするのだけれど、以前使っていた弓技と違って体術で一カ所だけだと吹っ飛んでしまう。
全身に薄くまといつかせ、腕や脚などを厚くコーティングする。
でもこれだとやっぱり無駄よね。
薄くまといつかせる分、余計な氣が必要だわ。
軸足とか、吹っ飛ばない程度に体重がかかる場所だけに氣を乗せれば効率が良いと思う。
でもそれがうまく操れなくて、ムラができてしまうわね・・・。
体術の型をなぞりながら、氣を移動させる。殴打の時は拳に、蹴りの時は脚に。
いつかはスムーズに移動できるかもしれないけれど、今のところ満足いくものじゃない。
非常事態の時にないよりはいいかもしれない、という程度だ。
体術よりは武器に頼った方が攻撃力は上がるとは思う。
剣は無理だから、ナイフくらいかな。
単純にリーチが長くなるのもいい。
小屋に置いてあった古いナイフを持ちだして、氣を乗せてみる。まあまあかな。
腕や足くらいなら切り飛ばせそう。・・・当たれば。
はぁ。
私は外に作業用で出しておいた椅子に腰掛けた。
全然及ばない。
左手が使えていても及んでなかっただろうけれど、もう少しはましだったはず。
私は背もたれに寄りかかり空を仰いだ。
もう夕刻。
森に影が忍び寄る。
何にもする気が起きずにそのままでいると、ムームが家から顔を出した。
「もう日が暮れますぞ。夕飯はどうされる?」
「ごめんなさい。あんまり食欲なくて」
「そう言って、朝も昨夜も少しでしたぞ? まあ、そういう日もありますな。夏でも夜は体が冷えますから、せめて小屋に戻りくだされ」
「ええ」
ラウは役割分担しようと言った。
「私は獲物獲ったり、町で売ってくるから、フェリは家でご飯作って待っててほしいな」
一人暮らしが長かったから、家事全般はできる。特にご飯はラウが作るよりは美味しいかもしれない。
でもそれだけ・・・。
洗濯はラウが水術で洗いから乾燥までやってしまうし、家の掃除はムームがやってくれる。
ラウのように身体強化が使えないから、狩りに行くときにも、町に売りに行くときもついて行けない。
いつもなら1泊野宿して帰ってくるラウラが2日経っても帰ってこず、心配でたまらなくなったことがあった。途中で風精からギルドの要請で迷子の捜索を行っているから帰宅が遅くなると伝言があり、いったんは安心したのだけれど・・・。
帰宅したラウラから誰々の子どもでとか、ほかにも依頼の手伝いをして・・・などの話を聞いて胸が塞いだ。
町の人と仲良くするよう言ったのは私だし、私のことなど忘れて町で暮らせば良いと思うのに。
氣の練習をしたりして、私はどうしたいんだろう。
領民の助けになるようにとおじい様はおっしゃった。
助けになるよう知識、戦闘力を高めたけれど、結局ははぐれ者の異分子。
出て行け、と放逐された。
今朝ラウは町に獲物や薬草を売りに行った。
帰ってくるのは明日。
夏でも夜は冷えるけれど、暖炉で火を焚くほどじゃない。
私はマットに横になって毛布をかぶった。
いつ風精がラウに告げ口するとも限らないから、下手な弱音は吐けないし、見せられない。
暗い中、ぐるぐると考える。考えたくないのに、つぎつぎに浮かんでくる。
誰かのそばにいるのに、知識と強さは必要だと思うのだけれど、違うのかしら・・・?
弱くても生きていて良いの?
役に立たないのに?
しかも呪い子だ。
好きと言ってくれたけど、私はラウに何もしてあげられてない。
呪い子だから。
だから最初から好意的で。
もしほかの呪い子に会ったら?
その子にも優しくするんだろうなと思ったら、もうぐちゃぐちゃで。
枕が冷たくなってうまく今日も眠れない。
枕が冷たすぎるから・・・。
「ラウラリーエさん、こちら依頼達成金になります…どうかされましたか? 浮かない顔ですね」
カウンターで話をしてくれるのは、最初に登録対応をしてくれた黒髪ロングのミルシアさんだ。
何度も足を運んでいるうちに専属みたいになった。
「あー、わかります?」
「そうですね。毎回いらっしゃる毎に暗くなってるなと。私でよければこの後ご飯でもどうですか? もうすぐ終業時間なので」
『おー! ラッキーじゃん! 話聞いてもらえよ。人族の感性は人族に聞いてみないとわかんねーしな』
風精のプティがぎゃいぎゃい騒ぐ。
「ではありがたくお受けさせてもらいます。外で待ってますね」
暮れどきは皆忙しそうだけど、冒険者ギルドの出入り口から出てきた冒険者はそうでもない。
今日の稼ぎが良かったのか、ほくほく顔の顔見知りがでてきた。
何度かギルドで会って話したことがある程度で友人ではない。
わたしに気がつくと、3人組の彼らはこちらに近寄ってきた。
10代後半の男だけのチームだ。
「ラウラリーエさん、こんばんは! こんなところでどうしたんですか? 珍しいですね」
いつもは依頼達成金をもらうとすぐに帰宅していたので、珍しいは合ってる。
「今日はこの後用事があるから」
「誰かと待ち合わせですか?」
「ええ」
「男? 男ですか?」
それぞれ聞いてくる。
「いえ。女性ですけど? なにか?」
彼らは一様に安堵した様子で
「いいえ!なんでもありません!次は僕たちとも飲んでくださいね」
と片手をあげて挨拶しながら立ち去っていった。
なんの用だったのかな、と思っていると、今度は女性2人組に話しかけられた。
ギルドに入ったばかりの頃、討伐部位の上手な取り方を教えてくれた先輩冒険者たちだ。剣士のケイナさんと弓士のサニクレアさん。聞いたことないけど、20代前半くらいかな?
「あら、ラウラリーエ。こんなところでどうした?」
剣士のケイナさんだ。
「この後用事があって」
「用事って?」
サニクレアさんは身長が低めでわたしより少し低く、髪がふわふわで犬っぽい。
「ご飯の約束をしてるんです」
「えー? だれと?」
なんでかサニクレアさんの機嫌が急降下した。
「受付のミルシアさんですけど?」
名前をだしたところで、制服姿から落ち着いた紫のノースリーブに着替えた本人が現れた。
郊外と違って町は風の通りが悪くて蒸すから、涼しくて良さそう。それに可愛い。
「ケイナさんやサニクレアさん、こんばんは。ラウラリーエさんがどうかしたんですか?」
ケイナさんとサニクレアさんが顔を見合わせて同時に笑った。
「どうもしない。ミルシアなら安心ね。私たちでよければ声かけてね。ムシムシ亭で飲んでるから」
ミルシアさんは胸をたたいた。
「任されました!」
任されたミルシアさんに店選びも任せた。
「落ち着いたところよりは、少し騒がしいところが良いかもしれないですね」
連れて行ってもらった食堂はそこそこ混んでいて、羊肉を焼くときの味付けが絶品とのこと。手慣れた様子で、焼き肉と付け合わせとお酒を頼まれた。
「ラウラリーエさんはお酒いけます?」
「お酒ですか? 飲んだことないです」
「そうでしたか! もし駄目だったらシードル頼みますね」
さっそく届いたエールを乾杯して一口飲んでみたが、体中の細胞が叫んでいる。
「駄目です、これ。体が嫌がってます・・・」
不純物が混ざって体が濁る気がする。とっさに解毒魔法のキュアが発動して気分の悪さは治ったけれど、二口目をいく気にはなれない。
「駄目でしたか~。では私が飲んじゃいますね。すいませーーん、シードルくださーい。弱いので~」
ミルシアさんが通る声で店員さんに注文してくれた。
シードルが届くと改めて乾杯した。こっちはリンゴの香りがしてほぼただの水。飲めそう。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「では、どうされましたか? お話まとまってなくても、言えるところか言ってもらって大丈夫ですよ?」
『相談しなれてるなぁ。ギルドの受付嬢ってこういうのも仕事なんかなぁ?』
その辺を飛び回っていたプティが戻ってきた。ふよふよとミルシアさんの周りを回る。
ミルシアさんは確かに私たちよりは年上に見える。20歳くらい?
顔もきりっとしていて頼れそうなお姉さんぽそう。
「えーと。妹とうまくいかなくて? どうしたら仲良くできるのかなーと」
「十分仲よさそうでしたけどね? ええと、春先に会ったときはですけど。ケンカでもされたんですか?」
突き出しが届いてもぐもぐしながらも思案顔のミルシアさん。
わたしもたべよーっと。
ジャガイモを焼いて甘辛いソースで絡めた食べものだ。美味しい。
「ケンカ? けんか・・・?」
ケンカってなんだろう?
『喧嘩になんないもんなー。フェリ様、思ってること言ってくれてなさそうな感じするくね?』
ふよふよしていたプティが戻ってきて肩に乗った。
風精なので重さはない。
「けんか? はしてないです。ただ、フェリの思ってることが分からなくて。もっと近づきたいのに」
「例えばどんなことですか? あ、すいませーーん、エールおかわりください」
え? もうわたしのエールも飲み干してる。
こんな毒みたいな飲み物、大丈夫なのかな?
「例えば、ですか? うーん。この前話してた可愛い服フェリに買って帰ったんです。喜んでくれるかなと思いましたけど、無駄遣いするなって怒られました。美味しいもの町に食べに行こうって誘っても来てくれないし。売りに来るときは毎回フェリを誘ってはいるんです。でも行きたくないって」
新しいエールをぐいぐい飲みながら、顔色一つ変えずにミルシアさんはうんうん、と頷きながら聞いてくれる。
「フェリさんは町が嫌い、というか人嫌いですか?」
『そうだな!大っ嫌いだと思うぜ?』
勝手にフェリさまのお心を量らないでほしい。
「あんまり好きじゃないようなことは、言ってたと思います」
「左手不自由そうでしたものね。誰かにからかわれたりしたんですか?」
誰にも話したことないのに。
びっくりしているとミルシアさんが微笑んだ。
「職業柄、人のことはよく見ますからね。初日いらっしゃったときにフェリさんが登録用紙に記入してくださったでしょう? 普通は指先で押さえるんですよ、紙がずれないように。でもフェリさんは手の平の付け根で押さえてました。不自由なんだろうなと思ってましたよ」
「そうですか・・・」
分かる人には分かっちゃうんだな。
「左手が不自由だから人が苦手ってわけでもないとは思うんですが」
手が不自由になる前から人とは距離を置いていたように思うので、フォローする。
そうですねえ、とテーブルに届いた羊肉の焼肉を食べながら、ミルシアさんは考え込んだ。
「ラウラリーエさんは、フェリさんとどうなりたいのですか? さきほど仲良くしたいとは仰ってましたけど具体的には?」
「フェリにもっと美味しいもの食べてほしいです。やっぱり森の食べものだけじゃ体重も増えないし、元気でいてほしいから。あとはもっと可愛い格好をしてほしいな。いつも山で薬草やハーブを取ってきてくれるけど、山歩きには不便だからってパンツが多いし。もちろんそういうフェリも可愛いけど、ふりっふりの格好もしてもらいたいんですよね! 町で見かける姉妹コーデもやってみたいし」
「なるほど」
思案気に相づちを打ってくれるミルシアさんに、普段の様子も少し話しておこう。
「町には来てくれないですけど、ご飯は作ってくれますし、夜は一緒に寝てますし、お風呂も一緒に入ってますよ! ただ、町に売りにくる時はついてきてくれないから、独り寝することになるんです!一日で行き来できればいいんですけどね。往復で二日かかっちゃうので」
「・・・なるほどですね」
いままで親身に聞いてくれていたミルシアさんの気配が一歩引いた気がした。
「結構なシスコンですね」
「シスコン?」
「妹さん大好き、ということです」
「それは間違いないです!わたしシスコンです」
納得して受け入れたのに、どうしてかミルシアさんは「あーー」と天井を眺めてしまった。
「こういうところなんですよね! 妹さん、フェリさんの気持ちも分かります。お姉さんなのに放っておけないていう」
「フェリの気持ちが分かるんですか!?」
身を乗り出しちゃった。
ミルシアさんは卓に届いた肉を口に入れると、エールをぐいーと半分ほどあけた。
「これは私の勝手な憶測なので、外れてるかも知れないですけれど、こういう場合もあるということで、参考の一つとして聞いてくださいね」
『予防線めっちゃ張るじゃん』
プティが腹を抱えてにやにやしている。
「おそらくですが、フェリさんはお姉さん離れをしようとしているのではないかと思います」
「え? お姉さん離れ? なんですかそれは?」
離れる?
「フェリが離れたがっているということですか?」
意味が分からなくて2回聞いちゃった。
「そうです」
だ・・・断言された。
「現在生活費はラウラリーエさんが稼いでますね? 今までもラウラリーエさんが妹さんの面倒を見てきたのでは?」
詳しいことは言えないが、今年に入ってからならその通り。
「はい。そうです」
「今年15歳ですね?」
本当は去年生まれた穴狐だけど、フェリがそう申請していた。
「はい」
「お付き合いされている方はいらっしゃいますか?」
「お付き合い?」
プティが補足してくれた。
『ほら、番のことだよ。動物たちも番で子ども作ってただろ?』
なるほど。それなら知っている。
精霊は番で生まれるわけではないから、森に来ていた動物しか知らない。人として正しい付き合いがどういうものかはわからないが。
「ええと? 付き合っている人がいるかどうかが、フェリの気持ちに関わってくるんですか?」
いまいち話が見えないけど?
「大ありです。分からないところがフェリさんが心配される所以なんでしょうねえ」
付け合わせで頼んだキュウリをぽりぽりと食べながらミルシアさんの解説が始まった。
「障害を持った子は結婚相手が見つからずに兄弟姉妹に依存することが多いんです。ご両親がいる場合は面倒をみてくれるでしょうけれど、いない場合は子どもである兄弟姉妹が引き継ぎます。仲の悪い兄弟だったら、面倒なんかみないと突っぱねるところもあるでしょうけれど。
ラウラリーエさんのところは違うでしょう? 重度のシスコン。結婚したからといって妹のお世話止めますか? 止めないでしょう? でもそれがフェリさんには負担なんですよ。こぶ付の女性は普通は嫌厭されます。男性からの結婚相手としては不利になるんです。
きっと今まで妹さんを大事に大事にされてきたんじゃないですか? 妹さんもお姉さんのことが大好きなんですよ。負担になりたくないんです。だから町でいい人に出会えるように付いてこない。
重度の障碍というわけでもなさそうですから、お姉さんに頼らずに生活していきたいって思ってるんじゃないですか? まあ、フェリさんも可愛らしい子でしたから、手が動かなくてもお嫁さんにしたいって男性もいると思いますけどね」
一気に話し終えると、ミルシアさんはふーっと息をついて残りのエールをあおった。
「おかわりくださーーい」
まだ飲めるの、すごいな。
目の前の事象に圧倒されつつも、わたしはミルシアさんの言葉を反芻した。
・フェリはわたしから離れたがっている。
・フェリはわたしの負担になりたくない。
・フェリはわたしが結婚していなくなると思っている?
・フェリもお嫁さんになる???
お嫁さん? お嫁さんとは番の雌のこと。
番が番い合うのは見たことがある。雌が下で、雄が上で体を重ねていた。
フェリが下で? よくわかんない雄が上?
ぴったりくつっくの???
は? 何言ってるんだ? ふざけないで。
怒りがふつふつと沸き起こる。
『ちょーいちょーいちょーーい、ラウラー? 落ち着いて~』
プティが目の前に飛び出してきた。
『ミルシアさん言ってたでしょ。自分の憶測だって。フェリ様に聞いてみないとホントのところは分からないって』
それはそうだけど・・・。
『それにラウラが見てたのって動物の番だけでしょ? 人間の番が何やってるかは知らないじゃん。ちょうどいいから、人間の番がなにしてるか調査してから帰ろうぜ。案内してやるからさ』
どうしてかプティはノリノリだ。
ミルシアさんとはその後すぐに解散して、プティと調査に向かった。
上とか下どころじゃない。
大変だ!!!!