忌み子のわたし、精霊に愛されてました。知らなかったの!見えないんだもん! 作:さとう_2701
パイクと鯉とピロークラブ。
一人一体ずつ持って、川に放流かな。
「ラウ、もういいでしょ? 下ろして」
身体強化して蟹を持ちたいわ。
パイクって大きい魚を抱えてみるのもいい。
いいわよ、と言ってもらえると思ったのに。
「ちょっと待って。大勢こっちに向かってる」
「え?」
今日何度目か、ラウの視線を追うとカンラータの町から青や黒の点が幾つか見えた。
「青は国王軍、黒は領兵ですね。関所は国境なので国王軍の管轄なのです。空飛んでるのは黒の制服ですから、術士軍の者ですね。シェラロッテさんの養い親のイルヴァング様が副官を勤めてらっしゃっているところです。応援でこちらに向かってきていると思いますが、私が対応しますね」
「ラウ、下ろして」
見たところ30人はいる。
抱っこされたまま相対したくない。
レイハスさんがまずは矢面にやってくれてるから、直接いきなり対峙するわけではないけど・・。
「分かったわ。でも何かあればすぐにここを離れるから」
「ええ」
モートレルの町でのことを言っているのね。
あの時は町の人がラウの話に賛同してくれたけど、ハイエヴァーの時のように敵視し、糾弾される可能性もあるから。
一番乗りで駆け寄ってきた者は、あいつを彷彿とさせる背格好と体躯で、青い制服の上に銀のライトメイルを装備してる。
「魔獣は!!?」
開口一番大声を出されて、私は肩が跳ねた。肩を抱いていたラウの力がこもって、引き寄せられる。
レイハスさんが魚介たちを指した。
「浄化した結果、あれになりました」
「浄化!?」
会話している間にも何人も到着し始める。
中年男性の視線がレイハスさんからラウに移り、私に移った。
「おまえが愛し子か?」
低い怪訝な声。
こういう声音は覚えがある。
この後は「嘘を吐くな!」と言われたり、鼻で笑われたり、殴られたり。
やっぱり大柄な男の人は苦手。
「隊長、そんなすごんだら怯えますって」
「なんだと! 凄んでなどいない! 少し話を聞かせてもらおうと思っただけだ!」
「その大きい声が怖いんですって! 耳が痛みます。ちょっと下がっててください」
そう言って大柄な隊長を下げると、年若い男性と精霊術士の数人が前に出てきた。
年若い国王軍兵士の男性はレイハスさんに気軽に話しかけてる。
「久しぶりだな、レイハス!」
どうやら知り合いみたい。
一方こっちには術士の人たちが近づいてくる。
男の人もいたけど、騎士のような鍛え方はしてないみたいで威圧感は感じなかった。それに精霊術士たちは私たちの方に向かってくる途中で膝を折り、丁寧に接してくれてるのが分かったから怯えずに済んだ。
「申し訳ありませんが、さきほどの技、浄化と伺いましたがお間違いございませんか?」
術士男性の視線は私ともラウともとれて、どっちが回答する?て目を合わせたけど、ラウが答えた。
「ええ。間違いないわ」
「なんと素晴らしい! 閣下や陛下の仰るとおりなのですね。この目で見るのは初めてで、この機会を幸甚に思います!」
左右に同じく膝を突いている術士の方々も頷いている。
この目でみる、と言いました? 周囲には誰もいなかったのに?
「ええと・・・、大分距離があるようでしたが、見ていらしたのですか?」
「はい! 遠見の使える者は皆そうしておりました。遠見の使えぬ者も精霊たちの騒ぎように興奮しております。今もこのように精霊たちがはしゃいで・・・。素晴らしいお力です」
「あ、ありがとうございます」
今までは王太后さまのお屋敷の方などがほとんどだったから、こうして術士の人に面と向かって傅かれると身の置きどころがないわ。
「あ、あの! 魔獣とこの地は浄化しましたが、川はできてませんので念のため浄化してきますね。ですので聞きたいことがあればレイハスさんに聞いてもらえればと思いますが・・・」
レイハスさんに一任しよう!と思ったのに、術士のみなさんは同行すると言って聞かない。
そこにセリスと抱っこされたフォーレもやってきた。
「許してあげて欲しい。 術士にとって浄化を見る機会なんてそうそうないし。フェリの浄化はすごいから何回だって見たい」
「その通りです! ぜひお近くで拝見させていただきたい!」
術士の方が喜色を浮かべる。
「ハードルあげないでよ!」
こうしてレイハスさんとは別々に行動することになった。レイハスさんは国王軍兵士や領兵を伴って領主館へ、私はラウに抱っこされて川上へと向かった。
ちなみに川へ放流しようと思っていた、パイク・鮭・ピロークラブは術士軍預かりになったわ。瘴気や浄化の影響について調査したいのですって。
抱えてみたかったから少し残念だけれど、心機一転して浄化よ。
セイラース川は川幅が広くて500メートルはある。
川辺から瘴気をさぐると、瘴気が濃いところが1箇所、他は川縁沿いに薄らと瘴気を感じた。
「ここで魚たちに悪意を与えたみたいね」
「ええ」
近寄っても、グラハスの森のようには忌み子の気持ちが伝わってこない。
お魚相手とはいっても、地面に滴った血もあるだろうに。
「フェリ、まずはここを浄化するでしょ? 川はわたしの方で水を攪拌しておくね。水底とか向こう岸に届きやすいように」
「ありがとう」
数滴で良いとラウはいつも言うけど、今回は流石にそういう訳にはいかないでしょうね。
地面は平面だけど、水は立体だし体積が違いすぎる。
思いっきり手を切り裂いて大地、川へと血を振りまいた。
「この地の悪意が浄化され、この地に住まう者に祝福が与えられますように」
血を媒介に練り上げた血力を放出する。
ラウが右手を突き出して水を操ってる。水が逆巻いているのが見えて面白い。
それにしてもどうして今回はこんなに忌み子の気持ちが薄いの?
数日以内に血を与えたのなら、まだこの辺にいるはずだし、自分のしたことの結果を見届けたりするのではないかしら?
でもそれらしい気配もないし・・・。
たぶんだけど、イーダさんの血じゃないわ。女の人・・かしら?
考え込んでいると、フェリ、とラウに話しかけられた。
「この付近の精霊に話を聞いてみたんだけど、どうやら血を与えたのは忌み子本人じゃないみたいね」
「どういうこと?」
「黒いローブを纏った女が瓶から与えていたと言ってるわ。忌み子の血を瓶に詰めて与えたんでしょう。だから気配が薄いのね」
「なるほど?」
でもそれって・・・・。
「それが可能なら、私の血を入れれば浄化もできるって事よね?」
いちいち出向かなくて良いし、人手が足りてないなら持ってこいなんじゃない?
「良いことずくめね!」
「ふざけないで」
ラウに叱責された。
「どうして?」
理不尽すぎる。
「血術の発動条件は、血と言葉とイメージでしょ。言葉もない。イメージもない。血だけで上手くいくと思うの?」
「それはそうだけど、上手くいったらって思ったの」
「ただでさえ貴重な血を最近振りまいてばっかりなんだから、これ以上効果も見えないようなところに1滴だって与えるつもりはないわ。たぶんだけど、忌み子の血が上手く作用したのは、瘴気はそれだけで伝染性があるでしょ? 浄化しない限りずっと広がっていく。もちろん効果は少しずつ落ちるけれど。逆に言えば浄化には伝染性はない。その時、その場限り。
それに、もし血を瓶につめて浄化も上手くいくようになったとしたら、どれだけ血を抜かれるか分からないことになる。レイハスがいってたけど、フェリほど強力な浄化ができる者は限られているわ。どれだけ抜かれることになるか・・・許せないわ、そんなこと」
ラウが本当に忌々しいとばかりに眉根を寄せるから、そんな顔して欲しくなくて両手で包んだ。
「ごめんなさい。よく考えないで言葉にして。そんなに怒らないで」
「そうね。わたしも仮定の話に不機嫌になってごめん。たぶんうまく浄化はできないと思うけれど、どんな時もフェリはわたしのものだって忘れないでね? もし身を削るようなことを言われたら、絶対に断ってね? 許せないから」
「・・ええ。ちゃんと覚えておくから」
ラウが私の額にキスしてくれたところで、後ろで悲鳴が上がった。
「お、お、おまえ! 愛し子様に向かって失礼だぞ!」
ついてきた術士の方が怒ってるけれど、精霊人なのだと説明するのは憚られるし、ここはいつものヤツでいきましょう。
「私の姉です。問題ないでしょう?」
家族でだってキスはする。別に大したことじゃない。
私が甘えるように擦り寄ると、ラウは嬉しそうに抱きしめてくれた。
顔の造作も似てるし、疑われる要素もないはず。
「そうでしたか・・・。失礼しました」
「いえ、それでは私たちは町に戻りますね。ここで失礼いたします」
「お待ちください! この後はどうされるおつもりですか? 町ではあなた方の活躍を目にした人も多く騒ぎになりかねません。町に滞在中は護衛を付けさせていただければと思いますが」
そうなの? でも護衛がいる方が目立つのでは?
困っているとセリスが飛翔術を解いて降りてきてくれた。
「護衛は不要です。レイハスさんと合流したら、任務でテラニード王国に行くから。旅程が遅れてるから出国手続きを早くしてくれると助かる・・ります」
知らない人としゃべるの緊張するよね。わかる!
「承知しました。愛し子様パーティがすぐに出国できるよう伝達を。あとは領主館へも一報入れましょう」
術士たちが手を回してくれたお陰で、出国もスムーズで特別待遇で手続きしてくれたわ。ありがとう。
ようやくテラニード王国へ入れるわ。